ゼイ(勢)
・「まったく使えん。クズ以下だ」
「そうおっしゃいますな」
「本国に戻ったら、ここの責任者全員の首を落としてくれる」
「落ち着かれませ」
・ゼイと呼ばれた側近のこの男、元々長身なのが小柄なウツツメの隣に立つと一層高く見える。
切れ長の目は、一見閉じられているようにも見えた。目の下にほくろがある。
・その目はまるで、漣一つ起こらない湖畔のごとし。
・「いっそ、撃ちかけたら即座に自爆するとでも信号を送りますか? 有利はこちら。天が逆さになってもその事実は変わりません」
そう言い放ち、ゼイは操縦士たちに指示を出す。
ウツツメは剣を納め、艶やかな唇の端を吊り上げた。
ああ、これだ。だから私はこいつを傍に置いている。
「ワインを持て」
・ゼイの家は代々、ウツツメの家に仕えてきた。ゼイもこの娘が幼少の頃から知っている。
だからこそ、その背中が何を無言で語っているのかも、すぐにわかった。
・第三公家当主にして、この中(十二公家)で一番最年少の少女こそが彼女、ウツツメであった。
・あの連中のせいだと罪を擦り付けてぶちまけてやりたい所だが、彼女は言い訳が大嫌いなのである。
「全責任は私にございます」
欠片も思っていなかったが、ついついそう言ってしまった。こちらの言葉の方が彼女のプライドを傷つけなかった。
・ドトウが言う〝責任〟とは、死罰。
しかしウツツメは気が晴れなかった。あの時は「首をはねてくれる」と叫んでいたが、人の手によりやられると気に入らない。
ましてやこの男ではなお更である。
(老獪め……)
・「―――お待ちください!! 『鬼灯花』は私が育てました騎士団!! そのような男には任せられませんッ!!」
・今すぐこの腰の剣で。
目の前の男を、切り殺してしまいたかった。
・「笑い事ではないわ」
「……申し訳ありません。つい」
「『鬼灯花』を第ニに取られたぞ!!」
・「あの気持ち悪い男にッ」
「ウツツメ様。落ち着つかれませ」
「落ち着けぬわ馬鹿者ッ!!」
地団太を踏んで、ウツツメは頭をかきむしった。
「あやつの事などッ!! 思い出すだけでも虫唾が走るッ!!」
「……」
「あやつ、私に何と言うたと思う? 議会終了後だ。耳元で……ドトウに取り成しておくから心配しなくていいよ、だそうだ。耳元でッ!! 吐き気がする」
「……よかったではありませんか」
「あんな奴にどうこうされるつもりはないッ!! あの肉塊めが」
・童女のような外観から若く見られがちだが、ウツツメも今年で25歳。
年頃ではあるが。
「いつかこの剣の錆にしてくれる」
ロズリは完全に対象外だなと、ゼイは思った。
・「しかし、あの部隊を遊ばせておくには、いささか勿体無い話かと」
ゼイの言葉にウツツメは満足そうに笑った。「では、ある」
「何せ、私が育てあげた、国内最強の部隊だ」
・恐らくは、ドトウの恫喝の1つや2つは受けただろう。
並みの人間、心臓の小さい物ならば、その眼光と声にその場で卒倒する者もいるくらいである。
だが目の前の女性は、そちらにはそれほど気にしていない様子。そういうのを表情に出さず心にだけしまっておくタイプの人間ではない。
(……やはりこの方は)
只者ではないと、ゼイは内心思う。
(やはり血か……)
ウツツメの母は、先代・第三公家当主。今は家督を譲ったが、かつては〝毒姫〟とまで言われた軍師であった。
それが、5年前。ウツツメが20歳になった時、あっさりと表舞台から去った。
惜しむ声は未だ多い。だが。
(いずれ世間もわかる)
この人が、先代と同等―――否、それ以上の器である事。




