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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【空賊・渡り鳥】
48/89

ハヤセ(hayase)

 ・長髪

 ・なめられたもんだなと、男は舌を打つ。

 「うちの賊長トップは、テギです」

  言うなり、押し寄せる男たちより早く。

  男は隠し持っていた銃を撃ち放った。

 ・「あなたには恩があります故」(上島へ)

 ・長くなった黒髪を斜めに垂らし、彼は小さく笑った。

 ・「……何が? お前らだって、国に帰りたいんだろ?」

  「……ッ」

  「今のままじゃ、『蒼』には戻れない。戻っても【天賦】がいる……俺たちはあいつらに滅ぼされる」

  「しかし」

  「『黒』の援護がなくば、『蒼』には帰れんのだ」

  「……」

  「テギを救ってくれたあの技法、そして『黒』の技術があれば……俺たちは、生まれ変わる事ができるんだ」

  「……」

  「【天賦】なんぞに遅れを取る事はない。部隊だって増える」

  「しかし……あの男、信じていいのか!? 本当に!?」

  「上島殿の事か」

  「お前は、テギを救ってもらった事で、盲目になってるだけじゃないのか!?」

  「……」

   ハヤセは口を尖らせた。ほのかにその手が動いたと思った刹那。

   腰から引き抜かれた銃が、彼を掴んでいたその男の胸を撃ち抜いた。

  「抜けたい奴は抜けてくれ」驚愕を顔に貼り付けたまま力を失うその男を手で押しのけて。

  「その代わり、これが今生の別れだ」

 ・少女の体温に喜びを覚えずにはおれないハヤセであった。

  生きてここに心臓を打って、立っている。

  奇跡の御技だ。

 (手に入れたい)

  不治の病と言われた妹の回復への喜びと、同時に彼が抱いていたのは。

  もう少し、黒い色をした感情であった。


 ・(まずは前哨戦)

  ここで戦力を縮めては意味がない。必要なのは、増兵。

  それゆえに今成さねばならないのは、空軍を蹴散らす事よりももっと、世界を煽り立てなければならない。

  眠っている空賊連中を叩き起こし、自分に従わせなければならない。

 ・かつては世界に【天賦】、【憂イ候】と並び数えられた3強の1つ。

 (国を追われたわけではない)

  ハヤセは自分に言い聞かす。

  それでも、脳裏に浮かぶあの巨大な男。

  ――【天賦】総統・無凱。

 (あれから、【白虎】の勢力は戻りつつある)

  胸にあるのは屈辱。

 (いつか殺す)

  【天賦】もろとも。だがそのためには。

  『黒』という力が要る。どうしても。

 ・(利用してやる)

  復讐と、再起を胸にこの地にやってきて5年。

  だからこそ、突然の『黒』からの申し出は天恵としか思えなかった。

  【白虎】含め、『ビスタチオ』全部の空賊を『黒』へ。亡命への誘い。

 (何の腹があるのか知らんが)

  亡命後の身分も保証されている。誰にもまだ明かしていないが、一個騎士団の隊長だ。

  その後は【白虎】含めすべての空賊の指揮を任すと言われた。

 (態のいい奴隷頭ではあるが)

  それでも。

 (『黒』へ行けば)

  あの国へ行けば必ず何かが変わる。

  そう、それは願っていた展開。

  この国で〝成しえる事ができなかった事〟。

  そして、

 (テギを救ったあの技法)

  それこそが、この地へ逃れた最大の理由。

 ・――先代が育てた精鋭部隊は。

  あの折……【天賦】によって多く失った。

  銀の獅子によって。

 (食いつぶされた)

  あれから数年。

  ハヤセの手により数だけなら全盛期に迫る事ができた。だが。

 「……」

  遠い空を見る。爆音が聞こえる。

  ――果たして今、この虎の群れの中にいるのだろうか?

  〝絶対〟を前にしても揺らぐ事なくそれに向かって銃を、翼を、撃ちこむ事ができる者が。

  〝絶対〟の――〝死〟を前にしても。

  恐れる事なく、牙を光らせ。

  飛び掛る事ができる虎が。

  神獣の1つ、【白虎】。

  その名にふさわしいほどの、乗り手がここに。

 ・見据えていた空の彼方が、キラリと光った。

  太陽は出ていない。しかし光を放ったそれは。

  遠目にもはっきりと彼の目に映った白い翼。

  天高く舞い上がるその動きはまるで、鳥。

  だが違う、それは人の手によって生み出された、機械仕掛けの翼。自分が今乗っているこれと、形は違えど、大差はないはず。

  そしてそれを動かしているのは自分と同じ人間。神ではない。

  ――なのに。

  ハヤセはその瞬間固まった。

  天高く上っていくその白い翼を見て、彼は言葉を失った。

  魅入られたかのように。

  あまりにもすべらかに、そしてあまりにもその姿は。まるで。

 「神が、」

  ――この世に、

  存在は、

  しない。

  ――しないのだ。

 ・まさか、たった1人で。

  【白虎】を滅ぼすために?

 「……面白い」

  ハヤセはクッと笑った。

  やれるもんならやってみろ。

 「俺は、〝絶対〟なぞに惑わんぞ」

 ・だがそれを【虎】は寸前でギリギリかわした。

  エルロンの一端は砕いたが。

 「早い」

  彼女は呟きギアを2、3度前後させる。

  そこから風を巻き込むように空中、羽根を右と左で上下させる。

  ドドドド

  【虎】の背中を捕らえた、その2.5秒前に撃ちかける。

  普通ならばそれで終わりだが、ここもまた、その【虎】は逃げた。

 ・その弾丸は、白い翼を捉える。咄嗟に左へ切った事により、弾はその真横をすり抜けて行った。

  が、避け切れなかった1つが、白い塗装を弾いて行った。

  今日初めての、被弾。(空(ku_u)に傷を負わせる))

 ・――総崩れです!! ハヤセ副長!!

  ――ご決断をッ!!!

  脳裏に響くのは、あの日の声。

  【天賦】と雌雄を決した、あの日。

  配下の者達の叫び声。

  あの日とかぶる。蘇る。

  悪夢。

  そして今あるのは現実。

 《ハヤセ副長、離脱して体制をッ》

 「……おめでたい連中だ」

  思わず笑った。

  そんな事、どの道無理。

  こいつは。俺たちを全員ここで始末するつもりだ。

  一人として逃がさない。

 「悪魔め」

  だから。やるしかないんだ。

  生き残るためには、未来を刻むためには、願いを勝ち得るためには。

 「やるしかないんだッッ!!!!」

 ・(あの青は)

  ここに来る前、報告にもあった。空賊連合の先行部隊を撃破した、『蒼国』空軍。

  確かその名は……と、胴体に描かれた星の模様マークを見、ハヤセは眉をしかめた。

 「『七ツ』」



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