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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【空賊・渡り鳥】
44/89

山岡 篤(yamaoka_atusi)

 ・【竜狩り士】、

 ・「セピアの飛空艇、真ん中に、―――ド・でかい、キスマーク」

 ・瑛己もよく知っている。フリーの〝渡り鳥〟で、その飛行技術は並の者じゃないという。

 ・そして彼が【竜狩り士】と呼ばれる所以ゆえんは。彼は様々な仕事を請負う……だが、専門にしているのだ―――空軍を、墜とす事を。空軍の戦闘機『翼竜』。それを撃墜する事を、彼は仕事……いや、〝趣味〟にしているのだ。

 ・それがゆえに人は彼を【竜狩り士】と呼ぶ。



 ・のんびりともう片方の腕で操縦桿を操作しながら、器用にピースを吹かす。

  その機体には、ノリのいい音楽が流れ、男は微かにハミングしていた。

  その目の表情は、漆黒のサングラスによって定かではないが、先ほどから一点に向けられていた。

  並ぶ計器の中の一つ、レーダーに映る、赤の点滅に。

  そのうちの一つがまた、忽然と消えると、

 「流石さすがだなぁ」

  ニヤと笑いながら、男は呟いた。

 「まぁ、せいぜい頑張って」

  男はジッポーを片手で遊ぶと、ピンともう一度開けた。この音が、彼は好きだった。

  そこには、銀色のキスマークが描かれていた。

  そしてその下にはこう書かれていた。

  ――― I can fly to the end of the world.



 ・瑛己と飛、二人は共に、雲間から飛び出すセピア色の機体を目にした。

  飛は目を見開いた―――まるで、風のように猛然と落下する機体。それ自体が弾丸のように、空を縦に切り裂くその切っ先にあるのは、

 「―――空(ku_u)!!!」

  白き翼を持つ、一羽の鳥。

  飛は、息を飲んだ。

  ―――避けられない。

  このタイミングは……!! 飛は言葉を失い、ただそれを見つめた。

  もらった―――ッ! 山岡の声が聞こえたような気がした。



 ・「間一髪、阿呆は脱出したみたいやな。けどもそれを見た山岡は心中穏やかじゃなかったみたいや。あいつ、まともに阿呆を狙い始めた。俺も慌てて向かおうとしたが、【蛇】が絡んできて動けぇへん。どないしようかと焦った時や」



 ・「フリーライターの田中と言います。よろしく」

 ・背丈は瑛己よりも頭一つ分くらい高いだろうか。黒いカッターシャツに赤のネクタイ。スラリとした足は、随分長く見える。そのポケットに手を突っ込み、人の良さそうな笑顔を浮べる男。歳は……20代後半くらいだろうか。

 ・胸のポケットからは、サングラスが半分顔を出している。

 ・田中と名乗る男は懐から名刺を取り出すと、瑛己に渡した。瑛己はそれをチラと眺める。『フリーライター・田中 義一』。瑛己は男をもう一度見た。そして「聖 瑛己です」と軽く頭を下げた

いい店だね。海月さんは可愛いし、気に入ったよ。俺も毎日通っちゃおうかなぁ」

 ・「俺はただ、真実が知りたいだけだよ。この空に溢れるすべての、光と闇と、真実をね」

 ・「あの日、空(ku_u)の正体を―――見たんじゃないのか?」

 ・2人の背中を見送りながら、田中は懐からジッポーを取り出した。

  それをピンと開ける。と、彼の顔に緩く笑みが広がった。

  そこには銀で、大きなキスマークが描かれていた。



 ・黒いカッターに、真っ赤のネクタイを揺らして。胸のポケットからはサングラスが覗いている。テーブルの上には煙草の包みが無造作に置かれ、その1本を咥えると、男はニヒルに笑みを浮べた。

  「さっきから、ちょこっと話は聞かせてもらったよ。何? 君ら、空(ku_u)の撃墜を命じられたのか? それで瑛己君は? 俺と彼はマブダチなんだ。詳しい話を聞かせてよ」

 ・「君は、空戦マニアと名乗っているそうじゃないかい?」

  田中が唇の端を釣り上げてそう言った。

  「それがどうした」

  「いや? ―――そして、この空に数多く存在する空賊・渡り鳥の中で、君が最も敵対心を抱き、倒したいと思っている飛空艇乗りは、【竜狩り士】・山岡 篤だと聞いたけど」

  「それがどうしたッ」

   しかし田中は、笑みを浮べるだけでそれ以上何も言わなかった。

   それに痺れを切らしたのは飛だった。

  「行くぞ」秀一に向かって吐き捨てるように言うと、ダンと床を踏み鳴らして、田中の横をすり抜けようとした。

  「飛」

   秀一が慌てて、その背中を追いかけようとした刹那。

   それより早く、田中の腕が飛の肩を掴んでいた。

  「何やッ……」

   田中はニッコリと微笑んだ。その手を荒っぽく振り払おうとした途端、その口元が小さく動いた。

  「―――」

   次の瞬間放るように投げ出された飛の顔は、驚愕で固まっていた。

   それを見て、田中は一層微笑んだ。

 ・―――倒してみろよ



 ・後で礼をしなきゃな。男はニヤリと笑い、そしてザッと店内に目を走らせた。

 ・「マティーニね」

 ・「ライ。正しい生き方って、どんなだ?」 

 ・「俺はお前ほど頭がよくないから。生き方に、正しいとか間違ってるとか考えた事もねぇよ」

 ・「俺にとって大事なのは、俺のてんを翔ける事ができるかどうか、それだけだ」

 ・「……お前は。羨ましいな」

  「そうか? 俺は、来、お前の空も結構好きだがな」

 ・「お前にとって、空は、何だ?」

   その問いに、山岡は一瞬目を見開いたが。

   独特な笑みを浮べ、「〝I can fly to the end of the world〟」

  「果てへと導く、悠久の墓標ゆりかご、かな」


 ・「古い知り合いがまた1人、俺に許可なく死のうとしてやがるんで、頭にきただけだ」

  「山岡……」

  「これで、お前への貸し借りはなしだな」

  「……悪い」

 ・煙草を口の端にくわえると、火を点ける。

  銀色のジッポーで。

  その表面にあるのは、飛空艇の胴体に描かれた物と同じ。

  キスマーク。

 ・「聖 瑛己君」

  ゆっくりと、サングラスを半分だけ外し、

  「相変わらず、運命の女神は、君を愛しているのかい?」



 ・もしも過去に戻れるのなら。

  俺は、あの日に戻る事を望むのだろうか……?

  戻れる事などできない。だが、ここに来るたびに思ってしまう。

  もしももう一度、あの場所にたどり着けたならば。

  何かが、変わるのだろうか?

  (俺は、)

  今ならば、何かを、変える事ができるのだろうか……?

  「……」

  そう思い、彼は苦笑した。

  (愚問か)

 ・(あの事故から14年か……)

  〝地図から消された〟あの日から――。

  「姉さん」

  ポツリと、山岡は呟いた。

  そしてその言葉を消し去るように、ゆっくりと歯を噛み締めた。

  あの日には、どうあがいても戻れはしない。

  だが。問うてしまう。

  (どこで、何の歯車を変えたら)

  こんな事にならずに済んだのか――。


 ・『ここで待つ。義一』

 ・瑛己はとりあえず頭を下げた。

 「この前は」

 「? 何?」

 「……助けてもらって」

  ありがとうございます。

  何となく苦虫を噛み潰すような気持ちで呟いた。

 「……ああ、あの時か」

  山岡はハハハと笑った。「忘れてた」

 「確かに、あの時は凄かったな……無凱むがいも、あの局面でまさか逃げられるとは思ってなかっただろうに」

 「……」

 「フン、俺の方が一枚上って事で」

 「……」

 「そこ、笑うトコだろ。そんな苦い顔しなくても」

 「……」

 「何にせよ、あれはライへの借りを返しただけだから。気にする事はない」

 ・「君にはもっと早くに会いに行きたかったんだけどね……こっちもバタバタしてて」

 「……俺じゃなくて、海月さんじゃ」

 「わかる? 当たり」

 「……」

 「だから睨むなって。ほんと、そういう時だけ顔に出るよな」

 ・「ジャーナリストよ? それくらいの情報は楽だって」

 「……」

  この男、〝竜狩り〟とフリーライター、どっちが本職なんだろうか?

 「『園原』空軍は強いよー。特に『飛天』は面倒くさい」

 「……った事が?」

 「まだないけどさ」

 ・「それと、彼女には最近会った?」

  「?」

  「空(ku_u)だよ」

  「いや……」

  と、答えてから。

  次の瞬間、瑛己は自分が犯した失敗に気がついた。

  慌てて山岡を見たが、もう遅かった。

  「やっぱりな」

  山岡から笑みが消えていた。「空(ku_u)は女か……」



 ・「2ヶ月前に起きた『ビスタチオ』での事件は知ってるか?」

  「……?」

  「産業の中枢都市『ム・ル』が一晩で壊滅した事件だ」

  「……」

   記憶の海をひっくり返す。だがその事件の事は、おぼろげにも浮かんでこなかった。

  「知らなくても無理はない……国内ではそれほど大きく取り上げられていなかった。それに2ヶ月前だ。君たちが丁度『日嵩』に襲撃された時分の事だ」

  「……それが、一体……」

  「単刀直入に言おう。やったのは、空(ku_u)だ」

  「―――!?」

  「俺も現地で調べてきた。間違いない。生き残った連中の話を聞いたら皆一様に言ってたよ。夜中に突然爆弾が降ってきた。驚いて空を仰いだら、白い鳥がいた。あれは神の化身だ。我々の業をいさめるために現れたんだと」

  「……」

  「だから仕方がない。罰が当たったんだと。元々宗教色の濃い国でもある。皆がそう言ってたよ。面白いくらい口を揃えてな」

  「……バカな……」

  「本当にそうだ」



  ・「2ヶ月前に起きた『ビスタチオ』での事件は知ってるか?」

  「……?」

  「産業の中枢都市『ム・ル』が一晩で壊滅した事件だ」

  「……」

   記憶の海をひっくり返す。だがその事件の事は、おぼろげにも浮かんでこなかった。

  「知らなくても無理はない……国内ではそれほど大きく取り上げられていなかった。それに2ヶ月前だ。君たちが丁度『日嵩』に襲撃された時分の事だ」

  「……それが、一体……」

  「単刀直入に言おう。やったのは、空(ku_u)だ」

  「―――!?」

  「俺も現地で調べてきた。間違いない。生き残った連中の話を聞いたら皆一様に言ってたよ。夜中に突然爆弾が降ってきた。驚いて空を仰いだら、白い鳥がいた。あれは神の化身だ。我々の業をいさめるために現れたんだと」

  「……」

  「だから仕方がない。罰が当たったんだと。元々宗教色の濃い国でもある。皆がそう言ってたよ。面白いくらい口を揃えてな」

  「……バカな……」

  「本当にそうだ」

   瑛己は顔を上げた。「空(ku_u)は……彼女は、そんな事しない」

  「どうして言い切れる? 何を根拠に?」

  「……白い鳥って言ったって……空(ku_u)とは限らない……」

   実際に鳥だったのかもしれない。それが飛空艇だったという確証もないはずだ。

   夜ならなお更の事。

  「確かにそうだな」

   でもな。と言葉を切り、山岡はマティーニを頼んだ。

  「……俺もあの日、たまたまその付近にいてな」

  「……」

  「……見たよ。あれは空(ku_u)だ」

  「……」

   深いため息をつきながら、山岡は話す。

  「嫌な予感がした。だから、飛んできた方向へ慌てて行ったら案の定だ。街は壊滅。人が逃げ惑ってる。どうしようもできない状況さ」

  「……」

   バカな……。

   彼女が、街を、消した……?

   何の罪もない人たちを……??

  (……)

   いや、罪のあるなしは別としよう。何もわからないんだから。

   だがなぜ、あの子が……?

   先ほどの後悔よりももっともっと深い闇が、瑛己の心にズシリとし掛かった。

  「聖君。君は考えた事があるか?」

  「……?」

  「彼女が、誰の命令を受けて飛んでいるのかを」

  「……??」

   命令?

   彼女が??

  「誰かの……???」

   考えてみれば。

   おかしい。

   瑛己が見た空(ku_u)の正体は、自分とそう歳の変わらない少女だった。

   だが世間で言われている空(ku_u)は違う。

   伝説的なパイロット。

   その姿に、誰もが魅入られれる。

   誰もかなわない。

   瑛己は見た。あの無凱でさえ貫くほどの実力を。【海蛇】何十機に絡まれても平然と渡り合っていた姿を。

   まして自分たち7人が総がかりでもかなわなかった。

   圧巻のパイロット。

   倒した者は歴史に名を残すとまで言われるほどに―――。

  (けれど)

   彼女が名を知らしめる――ほどに。

   彼女の名前が知れる――ワケは。

   その腕を、空で、振るっているから。

   圧倒的なその腕前を。

   何かに立ち向かい。

   何かを倒している、だから。

   語られる、彼女の伝説。

  (何のために?)

   彼女は飛んでいる?

   彼女は立ち向かっている?

   何を倒して。

   何を置き去りにして。

  (それは)



   ―――たった一人、彼女自身の意志で?



  「……」

   少女がたった1人で、たった1人の意志で、飛んでいるとは……思えない。

   大して話した事があるわけじゃない。瑛己と空は、すれ違った程度の仲だ。

   けれども。

  「……気づいたか」

   誰かに命じられて。

   それならば、合点が行く。

   誰かの意志を背負って、飛んでいるというのなら―――。

   けれどもそうなれば。

  「一体、誰に……」

  「俺はそれを調べている」

  「……」

   運ばれてきたマティーニには目もくれず、山岡は胸元からタバコを取り出した。

   そしてピンとジッポーを跳ねて。火を点した。

  「……大体の推測はついてるがね」

  「一体誰が」

   瑛己にしては珍しく、掴みかからんばかりの勢いで聞いた。

   山岡はここで初めて苦笑を浮かべた。

  「推測だから。まだ言えないよ」

  「……」

  「ただな、瑛己君」

   これだけは言っておこう。

  「変わらなきゃならないんだよ」

  「……?」

  「何か大事なものができたなら。それをどうしてもどうしても守りたいと思った時」

   人は。

  「変わらなきゃならないんだ」

  「……」

  「君は変われるか?」

  「……」

  「彼女を守るために」

   変われるか?


 ・「次は」

  そして指を押し込もうとした瞬間。

  人が、橋爪の前に躍り出た。

  『園原』空軍基地、総監・雨峰 かんろ。

  彼女は橋爪をかばうように、その両手を広げた。

  山岡はそれでも撃とうとした。やろうと思えば、雨峰の体を貫いて、橋爪に当てる事もできる。

  けれども。その瞬間。

  脳裏に浮かんだ、1つの映像。


  1人の女性の姿。



 ・山岡はどうしたんだろうか? その行方も知れない。

  なぜ彼はあんな事をしたんだろう? やはり【竜狩り士】ゆえの所業だったのか。

  彼に直接会った後だっただけに、気になった。

 ・「この前、お客さんにプロポーズされてたよ」(瑛己)

  「あ?」(兵庫)

  「海月さん人気あるから。海月さん目当ての常連さんもいるし……ああそう、遠くから海月さんに会うためにわざわざきているフリーライターもいるくらいで」

  「フリーライター? どこのどいつだ」



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