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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【蒼国】
36/89

上島 昌平(uesima_syouhei)<1~3部>

 ・首都『蒼光』で、『日嵩』空軍基地総監・上島君に会ってな。……磐木は知っているだろう? あの上島君だ」

 ・「昔、この基地にいた事もあってな。私がまだ現役の頃だ。上島君は同じ編隊に属していてな、それは腕のいい飛空艇乗りだったよ。

 ・上島君は、橋爪総司令の信頼も厚い男なのだが……今回、私が少々難儀をしていた時、総司令に2、3進言をしてくれたらしい。何ともまぁ、ありがたい事ではあるのだが」

  そう言って白河は苦々しそうに笑みを浮べた。

 ・「昔から、人一倍闘争心と野心の強い男でな……特に、当時隊長を務めていた私には、随分いい感情を持たれていたようだった。私と上島君は、正反対の性格と言っていい。だから、私のこういうはっきりしない物言いと態度が、彼は気に入らなかったらしい。事ある事に反発されたよ。私もあの頃はまだ若かったが、それでも、少し骨の折れる相手だった」

 ・「上島総監は、『湊』を目の仇にしているという話だ」(小暮)

 ・「それが、白河総監に対するものなのか……それとも、彼が『湊』にいた当時に抱いた基地への憎しみなのか。それは誰にもわからない。だがあの人は、『湊』に対して果てしなく暗い負の感情を抱いている……知ってるか? 以前上島総監が、『湊』基地の撤廃を総司令に訴えたって話」

 ・「ああ、それ聞いた事ある。何や、議会で退けられたけど、かなりトチ狂ったように言ってたやつやないスか?」(飛)

 ・皮肉ったように笑うこの男が、瑛己は好きになれそうにないと思った。

  態度もそうだが、何よりその目。

  明らかに、見下している。

 ・「……ククッ……」

  上島は空を眺め、とても楽しそうに笑っていた。



 ・「月の初め頃、妹に仕事の依頼がありました。それは……今回の一件、あなた方と共に飛び、その足を砕く事」

 ・「狙いはあなた方と昴、両方だったと考えられます」

 ・「そうかな。俺からすればよっぽど、上島君の方が橋爪君の眼中にはないと思うがね」

  「……」

  「そして上島君はそれに気付いている」

  「……」

  「上島君が君を、そして『湊』を憎む理由は、そんな所にもあるのかもな」



 ・隊長・聖 晴高。口数は少ないが、いつも凛としていて。どれだけ情に厚いか知っている。そんな彼を支えるように、いつも笑い話や馬鹿な話をして、隊を盛り立てていた副長・原田 兵庫。

  磐木にとって、晴高と兵庫は憧れであり、目標であった。

  眩しかった。

  そして、その2人をいつも静かな視線で……どこか、淋しげに見つめていたのが。当時、第304飛空隊、隊長・白河 元康。

  そしてそんな白河にいつも苛々しながら厳しい視線を送っていたのが、副長・上島 昌兵だった。


 ・なぜそれほどまでに、上島は白河を憎むのだろうか?

 (あの日も……)

 『すまん。すぐに行く』

  困ったように言う白河と。

  その後ろで、何とも言いがたい目で晴高を見た上島。

  あの時の顔が、磐木は忘れられない。

 『心配するな』

  そう言って白河の肩を叩いた晴高は。数時間後〝空の果て〟へと飲み込まれた。

 ・そして上島もまた、第2首都『浪漫ろうまん』に仕官として移った。

 ・上島はあの時―――笑っていたのだろうか?

  あの笑顔は一体、何だったんだろうか?

 ・白河と上島の間に、あの後、何があったのだろうか?

  なぜなら。後で聞いた話では。

  あの後、上島は事故に遭い。

  そして白河の右腕はあの日以来、ニ度と、動かなくなってしまったのだから。


 ・《サササ……磐木ィ……》

 ・《あんたはもう、飛べないはずだ》

 ・《俺は、生まれ変わったんだよ》

  《何を》

  《あの日》

   隊長―――ッッッ!! 瑛己は空に向かって叫んだ。

  《白河さんに胸を撃たれたあの日》

  《―――》

  《俺は、神になったんだよ》(327全員が聞いている)

 ・磐木の知る限り、上島は二度と、飛空艇に乗る事はできないはずだった。

  事故に遭ったのだと、彼は聞いた。


 ・上島もまた、二度と、空に上がる事のできない体となった。

  意識不明の重態。最初に聞いたのは、その言葉。

  回復したのは、奇跡だった。

  それでも、後遺症は残った。もう、上島は空には上がれなくなった。体がスピードに耐えられなくなった。頭が激しい高低差に耐え切れなくなった。気圧、速度、そして体内の組織が。

  空のすべてに、上島の体は拒絶された。

  それに彼がどう思ったかは知らない。だが、葛藤がなかったとは思えない。

  磐木から見ても上島 昌兵という男は、とてもいい腕と、高いプライドを持った飛空艇乗りだった。


 ・(白河総監が)

  さっき、上島は何と言った?

  胸を、撃った……?

  事故じゃなかったのか? 事故だと聞いた、離陸しかけた飛空艇との接触による……なのに。

 ・《〝果て〟からの帰還者の言葉とは思えないな》

 ・《磐木、〝空の果て〟はどうだった?》

 ・《聖はどんな思いでその中に入っていったんだろうなぁ》

  「黙れ」

  《お前は、怖くて逃げ出したのか? 聖達を見捨てて逃げたのか?》

  「黙れッ!!」

 ・「大馬鹿者ばかりだ……うちの隊の連中は」

  ふっとあの頃の、晴高の苦労が忍ばれた。

  「隊長」

  今日まで、自分はこの空を、飛び続けてきました。

  あの時の、あなたとの約束のために。

  そして――自分の意志と信念で。

  「この先も」

  この命の許す限り。

  《磐木》

  「上島総監」

  磐木は、上島の背中を捕らえた。

  《俺を撃っても、何も止まらんぞ》

  「……」

  《万物はすでに、動き始めている。12年前のあの日から、世界は》

  「黙れ」

  磐木は射撃ボタンを押し込んだ。



 ・白河と上島がもめている姿はよく見た。心底困ったように返す白河に、挑むように畳み掛ける上島の姿……「白河も大変だな」と晴高は苦笑していた

 ・上島がどうして白河に食って掛かるのか、そして自分達に敵対心を抱いているのか、兵庫にはそれが……何となくわかっていたから。

 ・上島にしてみれば、そんな〝下賎なやから〟と一緒の扱いを受ける事に、果てしなく抵抗があったのだろう。

 ・白河と上島は、兵庫に言わせれば〝いいトコのお坊ちゃん〟だった。それなりに地位も名誉もある家に生まれ育ってきた。上島はどこぞの大臣の補佐をやった奴の息子だし、白河も、国鉄の役員関係者の家だったはずだ。


 ・奴の口癖は今でも覚えている。「俺は上に行く者だ」


 ・「うちの連中が、総出で海を洗ってる。ほとんどの奴は見つかったよ。だが……如何いかんせん、総大将の首が見つからない」

 ・「上島 昌兵という人物には2つの顔があります。『日嵩』空軍基地総監・上島 昌兵、そして、元【サミダレ】幹部、富樫とがし 猟」

  「……!! 富樫!? 国鉄・渡会わたらい会長襲撃事件の後に行われた一斉捜査で、唯一捕らえられなかったという―――あの男が!?」

 ・「【サミダレ】壊滅の発端となった本上 昴……上島君の目的は、彼女に対する復讐も込められていたか」



 ・「……あの日」

  「〝ゼロ〟の海で不審な艇団がいる……直ちに調査に向かうようにと、私達は命令を受けた」

  「第301から311、315、318、326、327、329……それだけが当時基地にあって、その命令を受けた。当時は今よりもっと空賊が猛威を振るっていて、あの頃大きな組織が幾つもあったから。その2つ3つが合同で何か事をなそうとしているという噂もあったため、作戦は思ったより大掛かりなものとなるはずだった」

  「私達304番隊は、あの時任務から帰ってきたばかりで。若干飛空艇の調子に乱れがある者がいた事もあり、少し遅れて出撃する事になった」

  『すまん。すぐに行く』

   磐木の脳裏に、あの時のあの、白河の困ったような顔が浮かんだ。

   そして、

  『心配するな』

   凛然と笑う、晴高の笑顔が。

  「だが……出撃の時間がきても、誰も、そこに、現れなかった」

   いや、現れたのはただ1人。

  『待ってても、無駄ですよ』

  「上島君が、笑いながら」

  『他の奴らには、304は基地で待機になったと伝令しておきました』

  「私に、銃口を向けた」


  『……何のつもりだ』

   ハハハ、上島は笑って、トリガーに指をかけた。

  『やめましょう、白河さん』

   足がすくむとは、こういう事か?

  『304番隊は、飛空艇故障者・体調不良の者多数のため、出撃不可能。総監の所にそう言って頭下げてきてくださいよ』

  『何を』

  『頭下げるのは、得意でしょう?』

   その言葉に、金縛りが少しとけた。

  『何のつもりだ、どうして、上島君』

  『あんたも俺も、上に行ける人間だ』

   上島は口の端を釣り上げた。『こんなトコで舞台の袖に消える人間じゃない。俺達は選ばれてんですよ』

  『何の話だ』

  『駄馬が死ぬのは、昔から当然の事』

   らちがあかない。

  『俺は行く』

  『たった1人で?』

  『当然だ』

   約束した。

   すぐに行くと。

   待っててくれと。

   必ず行くから。

   絶対に。

  『それ以上動いたら、撃ちますよ』

  『勝手にしろ』

  『強情な人だ』

   飛空艇に向かおうとした。

   その背中から、ガンッッ! と心臓が跳ね上がるような音がして。

  『―――ッッ!?』

   横手にあった飛空艇のプロペラの一片が、凄い音を立てて砕け散った。

  『次はあなたに当てます』

  『……上島ッ』

   なぜこんな事を。

  『あんな奴らに構う事はない』

  『上島』

  『あんたも俺も、選ばれた人間だ。あんな奴らと……どうしてあんたはそうも、奴らと親しくしようとするんですか? 捨てておけばいい。あんたも俺も』

  『―――それ以上』

  『あんたは、あいつらの事を親友とでも思っているかもしれないが、あいつらにとってあんたなんか、所詮』

  『やめろッ』

  『ハハ、白河さんでもそんな顔、するんですね』

  『上島』

  『撃ちます。銃の腕は保障します。しばらく病院で大人しくしていてください』

  『貴様』

  『一緒に上に行きましょう。俺とあんたは、あいつらとは違う』


  「……上島君は、俺を撃った」

   白河は、瞼を伏せて、そう言った。

  「弾は、右腕で砕けた。そこから先の事は……残念ながら、よく覚えている」

   いっそ、記憶が曖昧であったら。

   あの時の事を、忘れてしまえたら。どれほどよかったか。

   あの痛みも、そしてあの感触も。

   哀しみも。

  「俺は……奴に殴りかかった。滅茶苦茶になって。変な話だが、俺のこの右腕が最後にした事は、上島君を殴る事だった。もみくちゃになって、泥だらけになって、気付いた時、俺は奴の銃を奪い取っていた」

  『ハハハ、撃てよ』

   上島の声が蘇る。

  『俺を撃って、聖達を追いかければいい。だがな、もう遅いよ。今更行っても手遅れさ。聖達は今頃』

   白河は唇をかみしめた。

  『あの世と地獄の境目で、苦しみと怒りと絶望を胸に、最期の時間を味わっているよ? ハハハハハ……駄馬に相応しいと思わないか? 白河さん? この俺達と肩を並べようとしたいけ好かない連中の最期に、これ以上相応しい舞台は』

   引き金は、指の中で、スルリと動いた。

   耳が潰れるような音がした。

  「俺は上島君を、撃った」



 ・結局、『日嵩』の総監である上島 昌平の消息が不明というのも、その要員の1つ。

  あの時海に堕ちて亡くなったのか、それとも生き延びているのか――。

 ・「上島君は何を思い、あのような事を……『日嵩』の兵士たちに罪はない。何を思って、『湊』に兵を率いたのか……」

  「……恨み、でしょうか? 白河総監への……」

  「恨み? そんな事ではありませんよ。上島君は白河君を慕っていた。少なくとも私の目にはそう映っていました」

   雨峰は風に遊ばれる髪を手で押さえた。

  「恨みなどと……そんな程度のものであんな惨事を引き起こすとは思えない。考えてもごらんなさい? あの出兵は前も後ろもない戦いですよ? たとえ『湊』を墜としたとしても何が残ります? 何が生まれましょう? 栄誉もなく、残るのは罪のみ。彼らにはもう帰る場所はなくなる。ただ一人の私怨でそのような?」

  「上島総監はかつて、『湊』基地の撤廃を訴えていたと聞きますが」

  「……撤廃でありません。移設です。『湊』は今の位置では少し南過ぎる。もう少し上に、『獅子の海』の辺りに居を構えたらという案です。あの湾は『蒼光』へのルートへつながる。今の既存の基地では少し警護がゆるい。『湊』をあちらに移設して、『獅子の海』と『蒼光』までの西の鉄壁にしてはどうかという案だったのです』

  「……」

  「しかしそれをいつしか誰かの手によって捻じ曲げられて……彼の言葉は『湊』の撤廃として世に知れた。同時に彼の名は屈折した形で知れ渡る事となった」

  「……」

  「私は今でも……上島君を信じてる。おかしいですか?」

 ・ここにいる7人は見ている。上島 昌平という人物と、戦場で叫ぶ彼の声を―――。

  聖母のように微笑む雨峰 かんろの描く上島の像と。

  彼らが見てきた上島の姿。

  (なぜ……?)

  これほどの差があるのかと……瑛己は眉間にしわを寄せた。


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