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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【湊】
17/89

   小暮 崇之(kogure_takayuki)<4部>

 ・「瑛己さん強い! 僕じゃとても敵わない! 小暮さん並!」



 ・「……でも、本音を言えば」

  新がポツリと口にした。

 「俺は、二度と、会いたくないっす」(上島に)

  はははと笑って新はそっぽを向いた。そんな友を小暮は見ず、ただ少し口の端を歪めた。

 ・「気味が悪いくらいの待遇」とは新が言った言葉である。

  「でも僕、空母なんて乗った事ないから、すっごい楽しみです!!」と言ったのはもちろん秀一。

  「何か裏があるかもな」と言ったのは小暮。

   それに秀一は戸惑いながらも、

  「僕はそんな事ないと思います」

  「なぜそう言える?」

  「……いちいち表裏考えてたら、動けなくなりますよ」

   それにジンが笑った。珍しく面白そうに。

  「小暮、お前の負けだ」

 ・普段している眼鏡は、胸元のポケットにしまってある。

  そもそも彼は目が悪くはない。視力は最低限の飛空艇乗りの条件である。

  なのになぜ彼は眼鏡をしているのか。

  それは、新にすら話していない。

 ・冷え性の同僚ほどではないが、小暮も寒さに強いわけではない。

  (ただ、少し)

  堪え性はあるかな。そう思った。

 ・声からは、その機嫌は読み取れない。

  ましてその表情からも、何も読めない。

  この男はそういう男である。滅多に感情を表に出さない。

  瑛己も似たようなものだが、小暮に比べればまだ瑛己の表情は豊かな方だ。

 ・「何で、あないな事ッ……! もし、秀一があの時、飛び出してこなかったら……」

  「……」

  「小暮さんは、あいつを、あいつを」

  「―――撃ったよ」

   その言葉は唐突で。

   そしてこれ以上なく涼しげで、淡々としていた。

  「俺があの機体、沈めてた」

  「―――ッ」

  「お前らに撃てないのは、わかってたから」

 ・「……国家のため、ですか」

   小暮はそれに答えなかった。だがあの時そう言っていた。

   今にも飛び掛らん勢いの飛を手で制して、瑛己は1歩前へ出た。

  「その選択は、間違いなかったと?」

  「……」

   小暮はじっと瑛己を見る。

  「俺に問うのか、聖」

  「……」

  「その前に、己の心に問え」

  「……それならば、小暮さんにはわかっているはず」

  「ならば言葉を返す。お前にも、俺の答えはわかっている」

   あれ以来、瑛己の中にわだかまった、小暮への感情。

 ・「小暮さん、俺はあんたを、許せん」

  「……」

   飛の炎のような目を受けてなお、小暮の表情は涼しいものだった。

  「それは自由だ」

  「……」

  「俺は軍人だ。お前らもだ。その背が背負っているのは何だ?」

  「……」

  「何を一番にしなきゃならないか、聖、わかるだろう」

  「―――けれど」

   瑛己は瞳の色を強めた。

  「秀一を撃つ事が正しい事だったのか、俺にはわかりません」

  「……青いよ」

 ・去って行く小暮の背中。小暮の言葉は瑛己も納得行かない。

  ―――けれども。

  殴れ、そう言っているように見えた。

 ・そう言えば、瑛己はこの2日間で白河と小暮が一緒に話している姿を何度か見た。

  理論家の小暮と、白河が何を話しているのかはわからなかったが。彼がとても楽しそうに笑っていたのが印象的だった。


  ・小暮はいつもと同じ平然とした顔である。


 ・「お前、」

   言葉を切った上でもう一度瞬きをし、最終的にそれから30秒ほど間を置いた上で、その続きを口にした。

  「何を知ってる?」

  「……何の話ですか」

  「『ム・ル』だ」

 ・「言い換えよう。どこでそのネタ、掴んだ?」

  「……」

  瑛己は小暮を見据える。目はそらさない。瞬きもしない。

  ――知ってる。

  『ム・ル』壊滅の原因。それが本当は何だったのか。小暮は知っている。


 ・「答えろ。お前……何を探ってる?」

   質問の上乗せはいいのかと、瑛己は眉を寄せた。

  「別に何も」

  「『湊』でも図書館に入り浸ってただろ。『園原』から帰った直後からだな」

 ・「……邪推しました。隊長、すいません」

 ・《この先を西に向かうと〝ルーの湖〟に出ます》

   空賊16機を撃破した327飛空隊の面々は、そのまま西へと向かった。

  《【白虎】のアジトは〝イリア湖〟の向こうにある〝レモネスク渓谷〟です。戦闘がどの辺りでされているのかは正確にはわかりませんが、『ア・ジャスティ』空軍が出る以上はその近隣でないかと》

  《さっすが小暮ちゃん、詳しー》



 ・終わりか。今撃たれたらとても現状、避ける事は不可能。

  最後の瞬間は、笑っていたいのに。

  体は正直に反応する。とても笑顔なんざ、浮かべられない。

  でもせめて目は、真っ向を見据えていたい。

  閉じる事なく。

  この目が見える限り、見える物すべてを見つめていたい。

  死ぬその瞬間まで。

 ・――ほら撃てよ。いいタイミングだぞ。

  今ならど真ん中入る。派手な花火が拝めるぞ。

  そう思った瞬間やっと、小暮の口元に感覚が戻った。薄く口の端を歪める事ができた。

 ・――死を笑え。

  誰の言葉だったか。ドライバーで側面の金具を手早く外しながら、小暮は思った。

  ――最期の瞬間まで目を閉じるな。易々とその腕に捕まるな。

  どれほどの甘く芳しい、甘美な悦びを感じようとも。

  死に挑め。

  そして迫り来るそれを。

  笑い飛ばせ。

  挑め。

  ――もがけ。

 「……一人しかいないか」

  そんな事を俺に言う人間は。

  小暮は苦笑した。

  そして眉に力を込めた。

 「わかってるさ」

  まだ死ぬわけにはいかない事など。充分に。


 ・「あいつがあんな、簡単にねぇ……」

  ポツリと漏らしたその言葉に、瑛己も思わず小暮を見た。

  確かに、瑛己も小暮の腕前は知っている。直近では秀一がさらわれた際。普段は、前へ前へと行く隊員の後ろからフォローし、サポートしているような印象である彼の操縦の、あれほど激しい乱舞を初めて目の当たりにした。

  小暮は上手い。隊内で一番、攻防のバランスに長けているのが彼である。つまりは洞察力。飛などのように攻撃に重きを置かない分、他に目が向いている。それが結果、一番空をよく見ているという事になる。

  瑛己にとって小暮は、あの一件以来距離ができた。飛はもっとなのだろう。だが。

 (あの飛行は)

  小暮の飛行技術。そこに瑛己は、学ばなければならない物があると思っている。いつも冷静に空を見るという事。


 ・――戦争になるかもしれない。

  キシワギの言外に含まれた言葉を、その場にいた全員が感じている。

  『黒国』と。

  亡命という言葉が出ている以上、上島一人の行動とは思えない。

  もっと大きな――それは国規模の。

  となれば、出る答えはたった1つ。


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