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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【湊】
15/89

小暮 崇之(kogure_takayuki)<1、2部>

 ・眼鏡をかけた、落ち着いた印象の男だった

 ・本

 ・「KY1―1。通称、ナノ装甲。あれだけ撃たれたにも関らず、ビクともしていなかった……恐らくは」

 ・「流天るてん弾」小暮が少し自信なさげに言った。

 ・「……そういう物があると聞いた事があります……『黒』が全力で開発しているという、対『ナノ装甲』専用弾です」

 ・「『ナノ』を貫く、『流天』の光、か」

 ・「『流天』の製造法は、一時、市場に出たという噂が流れた。その時、どこかの組織がそれを買って独自に開発した……ありえる話だ」



 ・「悪いが俺は、隊長の鉄拳を食らいたくない」

 ・「けどお前、それでも消さないんだな」

  「あん? だって、気に入ってるもん」

   小暮は苦笑いした。同期のこの男の、こういうあっけらかんとした所が、彼は嫌いじゃなかった。



 ・小暮の眼鏡が、照明にキラリと輝いた。

 ・「不審な船……それも、気になるのは〝零地区〟」

 ・「〝零〟は、国際規約上の規定海里の穴とも呼べる場所だ。たくさんの国に囲まれながら、その海と空はどこの国にも属さない。いやむしろ……人という身分では、御さえきれない場所なのかもしれない」

ブラックを選んでくれた事が、少し嬉しい。

 ・「ただ言えるのは……飛空艇が突然操縦不能になったという事だ。3機同時に、それも〝零〟に入った途端な」

 ・だが……小暮の胸には、昨日からずっと晴れない物がある。

  あの時、確かに舵はなかった。計器はユラユラと意味不明にふらつく、操縦桿はいう事をきかない。機体は、こちらのどんな操作も受け付けず、何かに引かれるように地上を目指した。

  しかし、エンジンは生きていた《・・・・・・・・・・》。

 ・黒い塊となってこちらに向かってくるその一団に、3人は嫌な予感を覚え、急ぎ背をひるがえしたのである。

 ・「小暮……あの時レーダーに、あったか?」

  小暮は軽く首を横に振った。「いや」

  「だがあの時点でもう、機体は正常ではなかった。……一概には言えない」

  そう言いながら、小暮の背中には寒気が走る。

  ―――レーダーに映らない、艇団せんだん

  一体……? 何がどうなっているというのだろうか。

 ・(見つかれば、命はない)

  直感だ。

  秀一のような能力はない。だが、小暮は自分の勘を信じていた。



 ・「最後に出てきたあの飛空艇は、確かに、『黒』の『月之蝶つきのちょう』に似ていた……まぁ、紋章は消したったけどな。小暮さんが言うとったわ。『黒』は極秘で動く時、必ず出所を残さんてな」

 ・「そして仲間やろうと、何やろうと、口封じは躊躇たまらわへん」

 ・そこにいたすべての者が。

  瑛己と空(ku_u)との、不思議なえにしを。

  そして瑛己が〝彼〟に持っているだろう、特別の感情も。……知っているからこそ。

 ・「昨日きた『黒』の使者と。何か関係あるのですか?」

  2人とは一転、落ち着いた口調で小暮が言った。

  「国際上の取引カードに、俺達と空(ku_u)を担ぎ出されたとしたら」


 ・「脈は正常だな……痛む所は?」

  冷静な医者みたいな、小暮の真剣な瞳。


<第2部>



  ・隊随一の頭脳派・小暮

 ・小暮は足を組替え、麦酒に目もくれず、置いてあったジンのヴァージニアスリムの箱から一本取り出し口にくわえた。

  「珍しいな」

  先に吹かしているジンが、トントンと灰皿の角で灰を落とした。

 「後で倍にして返します」

 「出世払いで結構だ」

 「ハハ、それじゃぁ、あの世までお借りしておきますよ」

 ・小暮は慣れた様子で煙草の灰を落とすと、煙を切るように一瞬ヒュッと手首を動かし、口元に持って行った。

 ・「それだけ『湊』を憎んでいる人間が、今回の一件、何の他意もなく『湊』に応援を求めるとは思えない。そこにどんな意図があるのか……単に、【無双】撃墜という大イベントを前にしたにも関らず、『湊』ご自慢の『七ツ』が蚊帳かやの外、まったく役に立たなかったというレッテルを貼りたいだけなのか……それとも」

  「それ以上の、何か罠があるのか、か?」

  ジンの言葉に小暮は大きく頷き磐木に目を向けた。

 ・「楽観できないぞ、新」

  楽しそうに笑う新に、間髪入れず小暮は言った。

 ・「4番目のルート、通るだけでも厄介な、そんな所で襲われたら」

  小暮の顔が、苦渋で歪んだ。

  瑛己は、小暮のそんな顔を初めて見た。

  いつも冷静に客観的に物事を捉え、余裕とも取れる顔しか浮べないようなこの男が。こんな表情をするとは……瑛己は小さく目を見開いた。

 ・「くれぐれも、慎重に走れ」

  それは、軽めに最後の谷練習を終えた後の事であった。

  基地に戻ると小暮が、誰にともなく呟いた。

  「……小暮?」

  それを聞いた新が、不思議そうに彼を振り返ったが。小暮はまるでそれに気付いていないように、明後日の空を見上げた。

 ・仲間が消えて行くのを見ながら、小暮は、無線のボタンを押すまいかと躊躇ためらった。

 ・《飛ッッ!!》

  無線から飛び出したのは、小暮の声だった。


 ・「小暮はどうだ。耳の方は治ったか?」

  カカカと笑う新の横で、小暮は2、3度瞬きをして頷いた。

  「はい。谷間の襲撃の直後はかなり酷かったですが、今はほとんど。自然に治るだろうと医務の佐脇先生も」

 ・「私はあれから少し気になる事がありまして、独自調査をしていたため、合流が遅れました」

   飛の〝地元発言〟をさえぎるように、りんとした声で小暮が言った。

  「ほう? 調査と?」

  「はい」小暮は眼鏡の縁を正し、ゆっくりと口を開いた。

  「あの作戦には当初から、何か引っかかるものがありました。私自身は襲撃の序盤に、昴によって撃墜されましたが、運よくその場を離れる事ができました。その後、【無双】アジトに向かいました」

  「ゲロっ! ひ、一人でかよ!?」

   目を丸くした新に、小暮は事なさげに「ああ」と頷いた。

  「どちらにしても、飛空艇は大破してしまったし、海の上の孤島だ。あっちに行くしかありませんでした。そこで『日嵩』と合流できれば幸いと思っていましたが」

  「が?」

  「たどり着いた所は、もぬけの殻となっていました」

   高藤は2本目を取り出した。ジンが、重そうに目を開けて小暮を見た。

  「警備の数名がいる以外、【天賦】の者はほとんどいませんでした。私はそこから1機拝借し、内地に向かいました」

 ・密かに『日嵩』に戻った私は、そこで、今回の襲撃が元々存在しなかったのだという事を知りました」

  「存在しなかった?」

  「そうです。すべてが虚構、彼らの本当の目的は、我々を【天賦】に引き渡す事、そして『湊』への襲撃でした」

   ここで言葉を区切り、小暮は息を吐いた。

  「そこで私は独自のルートを使って調査をしました。上島総監と【天賦】の繋がり……今回の一件、それが立証できなければ闇雲になってしまう怖れがありました。ですがその調査の途中、思いがけない事実に突き当たりました」

   誰かがゴクリと息を飲んだ。

  「上島 昌兵という人物には2つの顔があります。『日嵩』空軍基地総監・上島 昌兵、そして、元【サミダレ】幹部、富樫とがし 猟」

 ・「……馬鹿な事を」

   苦笑交じりに呟いたのは小暮だった。

  「もう、あなただけの意志じゃありません」

  「……小暮」

  「この先、何か大きな力によって俺達は翻弄されて。巻き込まれて。散ったとしても」

  「……」

  「〝七ツ〟という誇りを持って死ねるなら、俺は上々だと。そう思います」



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