元義 新(motoyosi_arata)<3部>
・他の者が皆どこかしこに怪我を負っていた中、たった1人無傷だった彼は、あっちこっちの作業場にハシゴして回らされていた。
タンクトップ1枚のその腕は、2ヶ月前より明らかに筋肉がついているように見える。
・「どうしちゃったのん? 飛ー?」
「別に。何でもないですよ新さん」
「……何お前、この前の戦闘で頭でも打った? 墜落のショックで頭のネジが一本飛んだとか」
「それを言うなら新、飛んでたネジが衝撃でうまくはまったんじゃないのか?」
「あーナルホド。じゃあ飛、頭出せ。1本抜くから」
「そんなんやないですから!!」
追いかけっこしている飛と新の姿に、瑛己は「やれやれ」とため息を吐いたのだった。
・「大体『飛天』って、ネーミングセンス雑すぎじゃないっすか? ひねりなし。王道すぎっしょ」
「じゃあ新、お前だったら隊名に何てつけるんだ?」
「俺? 俺は……『ラブリーボンバー』とか?」
「……何だそれ」
「『湊』空軍基地第327飛空隊・通称『ラブリーボンバー』。うわっ、何かすごカッコよくないっすか?」
「……お前だけだ、新……」
「じゃあ小暮だったら何? あん、きっと……『一発逆転』とか『起死回生』とか『半死半生』とかそういう四字熟語使いそうじゃね?」
「……何でどれもこれも、首の皮一枚な状況なんだ……」
「飛だったら『空戦マニア』とかだろ。ジンさんだったら……『一匹狼』とか『我狼』とか『群狼』とか。『狼』入ってそうやないっすか?」
「……悪かったな」
「じゃあ僕は? 僕は??」
「秀一は……あれだな、『ぷにぷに』とか『むにむに』とか」
「えーっ!? イヤですよ僕、そんな隊名!!」
「じゃあ何てつけるよ? お前だったら」
「……うーん……『天空の鳥』とか?」
「くさっ!! 勘弁してくれって。何だそりゃ!!」
「えー!? 『ラブリーキャンキャン』よりはいいですよ!!」
「……いや、『ラブリーボンバー』な。犬じゃないんだから」
手前にあったそば飯を小皿に取り分けながら瑛己は、初めて、隊長が磐木でよかったと思った。
「瑛己はあれやろ。あれ。隊名『ローレライ』」
「……何でだ」
「そら、運命の女神様に好かれとるお前だもん、空の女神の名前に決まっとるやないか」
「……」
ローレライ……それは確か……艇を沈没させる妖の女神じゃなかったか?
・「どーする? どーする? いつも大体同じメンバーで固まるじゃん? 俺、小暮ちゃんの事嫌いじゃないのよ? 大好きなのよむしろ。でもたまには変える? せっかくだし」
・「そうそう。飛ってあれだろ、イビキでかいだろ。俺はジェントルマンだから。イビキかかないし。一緒の部屋だったら、お茶も珈琲も俺が入れてあげるし、洗濯もやったげる。面白い話もいっぱいしたげるよん。こいつどーせ一緒にいても、空戦の話しかしないんだろ」
「そうそう。飛ったら頭の中空戦の事ばっかりで」
・「新さん」
「んあ?」
「昨日は、すんませんでした」
「……」
「俺……」
「……なーにが?」
「え?」
「ごめん、飛。俺、昨日久しぶりにハメ外してしこたま飲んじゃったから。正直、あんまよく覚えてない」
「……」
「俺こそ、何かやらかしてたらごめん。ホント、悪い」
「……いえ、そんな、俺が……」
「えへへ、何か、らしくねー」
照れ臭そうに新は頭を掻いた。「あ、風呂入ってくんの忘れた」
「新さん……俺にとって新さんは、アニキ同然ですから」
「あ?」
「……すんません」
「バーカ」
気にすんな、と言って、新は飛の頬の部分を軽く叩いた。
そこは今朝秀一に手当てされて、白いガーゼがついている場所だった。
「おそろいにしやがって」
・「あ!! そうだそうだ!! 隊長、『葛』に乗るなら星描かないと!! 『七ツ』のトレードマークの!! ペンキもらってきます」
「新さん、だったら俺が乗るヤツにちょっと余分に星を付け足してもらえないっスか? 秀一の分って事で」
「OK。ついでに機体に秀一の似顔絵も描いてやるよ」
「待て。その機体は元は俺のだからな。今だけ限定で貸してやるんだから、余計なラクガキはするな」
・「明日までは自由行動でいいっすか?」
「ハメ外すなよ、新」
「わきまえてますって、ジンさん。メシ行きましょう。メシ。もうペコペコっすよ。動けません」
「面倒だから、食堂までは自力で動け」
・「夜更かしするからだ」
「だって。祭りだぜ? ホテルにくすぶってられるかよ」
「何だ、新お前、昨日あの後何時まで飲んでた」
「いつもよりは短いですって。なぁ、小暮」
「付き合わされるこっちの身になれ」
・「新は……普段のあいつなら先日の飛との一件も、あそこまでハメ外して飲みませんよ」
「最近の酒量確かにな……。やはり影響は出ているか。小暮は?」
「あいつは何かあっても表面に見せません」
・「新は雪乃ちゃんの所だろ、どうせ」
「へへ、よくご存知で」
「雪乃さんって、『湊』の町の画材道具屋さんの人でしたよね?」
「そうそう。よく知ってるな秀一」
「2週間もあるならたまには旅行でも連れてってあげれば?」
「んー、店がねー……まぁちょっと臨時休業すりゃいいか?」
「こいつ雪乃ちゃんにベタ惚れで、休みの日には店番手伝ってるんだぞ」
「へぇー。純愛ー」
「うるせーよ。小暮ー、余計な事言うなよな」