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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【湊】
12/89

元義 新(motoyosi_arata)<1、2部>

 ・短髪の男、

 ・そして上からグルリと全体を見渡す役を、3番艇・元義 新―――が勤めた。

 ・新の勤める〝上〟は、ある意味一番重要な役目を担っていた。中央に輸送艇を抱えている以上、どうしても各人に死角が生まれる。これを補い、いざと言う時のラグをどれだけ小さく済ます事ができるか。それが、彼にかかっていた。

 ・だが、新はそれを気負った様子もなく、「見晴らしがいい。ラッキー」と気楽そうに笑っていた。

 ・「馬鹿始めたら、俺が撃つから」



 ・「新は、雪乃ちゃんか?」

 ・「あー、最近行ってないからなぁ……かなり怒ってんだろうなぁ。小暮は?」

 ・「俺らはただ飛ぶ。そんだけじゃないの? 相手が『ナノ』だろうが『流天』だろうが。どういう時代がこようと、さ」



 ・「あー、俺はもう、隊長の鉄拳を嫌ってほど食ってるから、腹いっぱい」

  そう言って、新は自分の左頬を指した。

  そこには、黄色い星のマークのペインティングがされていた。

  それは、輸送艇護衛の任務を終えた次の日、町に出た時何となく入れた物だった。だがそれを見た磐木は、途端「何だその顔はッッ!!」問答無用に彼をぶっ飛ばした。



 ・磐木が身じろぎをした。今にも立ち上がって、秀一を蹴り飛ばしそうな様子に、新がギョッと飛び上がった。

 「俺、立候補! 絶対行きたい」

  それを見て、小暮も彼に続けた。

 「新はここに来る前、海軍だったもんな。やっぱり心配か?」

  だが彼は苦笑して、フルフルと首を横に振った。「まさか」

 「見つけたら、おめーら変なもん追いかけないで、もっと夢を追いかけろよと言ってやる」

 「夢? 確かお前、搭乗の船にラクガキばっかりしてクビになったんじゃ……?」

 「ちげーよ! 俺は、自分の力で飛びたかったの! 大人数でヘロヘロ船を動かすんじゃなくて、一人でバーッと空を翔け回ってみたかった。だから、こっちにトラバーユしたのだ」

 「ほぉ……絵描き志望だったけど親に大反対されて、仕方なく入った海軍で、デッキに絵ばかり描いていたからお払い箱になり。空軍なら、自分の機体にペイントしているのも見かけるし、多少は許されるだろう、そう思って入ったという噂は、デマだったんだな?」

 「……小暮ちゃん、文章長いし……大体、どこでそんな、信憑性のある真実にほど近い噂を聞いたのん?」



 ・「いつ何時、何が起こるともわからないし」

  実際、新の飛空艇には携帯食料と水・飲物が馬鹿のように積み込まれていた。

 ・「まっ、よろしく頼ま。俺、そっち系はからっきしだし。俺にできる事と言ったら、この無人島に記念の絵でも描いて残すくらいだよ」



  ・だが、頬に星のペイントをしたこの年上の飛空艇乗りは、らしくなく真剣な面持ちでテーブルの傷を睨んでいた。

 ・「わざわざこっちの基地まで出向いて、〝変な事〟一つ言わず大人しく帰って行くようなタマじゃぁ、『黒』の軍の重責なんぞ担ってられんのじゃないのん?」

 ・「まぁ、相手の出方、お楽しみってトコかな」

 ・そこにいたすべての者が。

  瑛己と空(ku_u)との、不思議なえにしを。

 ・そして瑛己が〝彼〟に持っているだろう、特別の感情も。……知っているからこそ。

  「……むなクソ悪いなぁ、そりゃ」

  苦笑混じりに笑ったのは、新だった。

  「俺達に、空(ku_u)を墜とせなんて」

 ・「俺ら全員が束になって、それで、足りるんですかね」新がハハハと笑いながら言った。

 ・「おい、飛ぃー、瑛己こいつ、空(ku_u)ちゃんに惚れたぞー! 完全に」

 ・「まったく、心配かけやがって」

   新の、怒ったような笑顔。



<第2部>



 ・「あん?? 誰が逃げ専だって?? ぁぁああ??? もっかい言ってみ? にーさん方」

 ・「くれぐれも、慎重に走れ」

  それは、軽めに最後の谷練習を終えた後の事であった。

  基地に戻ると小暮が、誰にともなく呟いた。

  「……小暮?」

  それを聞いた新が、不思議そうに彼を振り返ったが。小暮はまるでそれに気付いていないように、明後日の空を見上げた。



 ・「足と脇腹持ってかれてるっつーのに、何考えてんだあの人は……! 普段、人の事を『軽はずみだ』とか、『もっと行動を慎め』だとか言うわりに、自分はどうなんだよ? さすがの新さんも、ちょっぴり腹が立っちゃうなぁ、今回ばっかりは」

 ・「怪我人は、すっこんでろっての」

  いつも飄々《ひょうひょう》としているこの男のこんな顔を、瑛己は初めて見た。

  「お前はたかきと秀一を連れて、地下のシェルターに行け。―――言っとくが」

  刃物のような目だった。

  冷たい炎、そんなものが、彼の瞳に宿っていた。

  「うえにきたら、ただじゃおかないからな?」

  「……」

  「早く行け。そこのお嬢も一緒に連れてけ! 女子供にウロウロされると気が散って仕方がねぇんだよ! 急げ!!」


 ・《悪ぃけど、その辺にしといてもらえますー?》

  軽い口調で言ったのは。

  《いくら頭にきているっつっても、これ以上、うちの隊長さん苛めてもらっちゃ、さすがの新さんも、ブチ切れますよん?》

  「新……!」

  磐木は目を見開いた。そしてそれを振り返った。

 ・《元義 新か》

  《おっ? フルネームで覚えていただいてるとは、俺、ちょっぴり嬉しいんスけど》

  《死ね》

  《ははは、んな簡単に死んでたまるかっつの》

 ・ヤダヤダ、これだから血の気の多い連中は嫌だっつーの……と、目の前にいたそれに銃弾を叩き込む。

 ・特に新は、その〝教科書飛行〟が大の苦手だったりする。

  海軍に2年いた。その後、駆け込むようにして学校へ入った。

  成績としては、下の下。特に学科は最悪だったが。

  柔軟性のある飛行。それだけが唯一、新を空へと押し上げた。

  自分がそうじゃないからか、新にとって型どおりに向かってくる飛空艇乗りは、空賊類とり合うよりもよっぽど面倒だった。

 ・「おっさん、さっさと逃げろっつの!!」

  《誰がおっさんだ!!》

  「あ。無線入れっぱだった


 ・てっきりまた、新の小言でも聞かされるのではないか……そう思った瑛己は、彼も、ゲンナリ顔で整備士を見つめた。

  謎の襲撃から3日、あれから瑛己達は新に、何をどれだけ言われたか知れない。

  総括すれば、「怪我人がウロウロすんな」。

  それに関して、磐木ですら新に何も言えない様子だった。

 「どいつもこいつも、これ以上手を焼かせないでよね!! もぅっ、新さん、あったまきちゃう!!」

  冗談のように言っているが、新の目はまったく笑っていない。

  そのギャップがむしろ怖くて、誰も何も言えなかった。

  また定例の「新さん、あったまきちゃう!」召集か……? 瑛己はとても嫌そうな顔をした。


 ・「あれ? 確か新さんが前にいた海軍って……『音羽おとわ』やなかったかな? 空軍にリクルートしたいって言った時、ボコボコに殴られて、『てめぇのつらなんざ、二度と見たかねぇ!! どこいでも行きやがれっ!!』って言ったっていう総監って……」

 ・「元義、お前は相変わらず元気そうだな」

  高藤は苦笑した。それに新はペロっと舌を出した。

  「それだけが取り得っすから」

 ・「こ、小暮ちゃん、ちゃれんじゃぁ……」

 ・「それに、隊長の下で飛ぶのは結構面白いっすよ」



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