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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【湊】
11/89

  相楽 秀一(父・母)

 ・両親『相楽診療所』。

 ・相楽医師は厳しい顔付きで飛を睨むように見、そして瑛己に目を向けた。

  「……」

  ああ、似てる。確かに秀一の父親だ。鼻から口元への筋が似てる。ただしいつもニコニコしている印象の秀とは違い、今は苦悶の表情であるが。

  「あの子が君と共に空軍へ行くと言い出した時、」相楽医師はそんな飛の様を見ながら、抑揚少なく言い始めた。「私は反対した。妻もだ。知ってるはずだ」

  「……はい」

  「秀子には、私たちの意志を継いで医療の道を志して欲しかった。そのつもりでいた。だから突然そんな事言い出した時は驚いたよ」

  「……」

  「空軍へ行った君を追いかける。……そんな事のために、女の身分で軍隊なんて……そこまで体の強い子じゃないのに……」

   すいません、すいません……小さく呟く飛の声が切なかった。

  「長かった髪をバッサリ切って……持つはずがない、あいつに軍隊なんて勤まるはずがない……そう思い続けてきた」

  「……」

  「飛君」

  「……すいません……」

   そして。

   相楽医師はそれきり、黙りこくった。

   瑛己は相楽医師を見た。そして言葉を失った。

   険しい顔のまま、医師は……秀一の父親は。涙を流していた。

  「私は、」詰まった声に、飛の肩が揺れた。だけど彼はそのまま顔を上げなかった。

  「それでも……君に、……感謝を、していた」

  「……」

   声を震わせながら言う相楽医師に。

   初めて飛は顔を上げた。「親父さん……」

  「君はあの子に、希望をくれた」

  「……」

  「あの子は強くなった……小さい頃あれだけひ弱で、すぐ泣く子だったのに……いつも私たちの後ろに隠れているような子だったのに」

  「……親父さん」

  「君のおかげであの子は変わった」

 ・『飛君』

  不意に、脳裏に秀一の父親の姿が浮かんだ。

  『秀子を、よろしく頼みます』

  飛の中で秀一の父親の像は、いつも揺るがない人だった。

  どんな患者がきても真摯に、まっすぐ受け止めて。

  どんな状況にも逃げる事なく対処する。

  いつも堂々としていた。

  その姿は一種、飛ですら憧れる物があった。

  祖父と祖母に育てられた飛にとって、秀一の父親は彼にとっての父親の姿でもあったから。

  ひそかに尊敬していたその男が……涙を流し、

  『よろしく頼む……頼む……』

  自分の手を握り締め頭を下げたのである。

  託されたのである。彼の願いと―――その命よりも大事な宝を。

  飛は握った拳を見た。睨みつけた。



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