~揺蕩い~ 発電施設奪還作戦
樹たちは、復帰初の任務に就いていた。統率者が変わり、上官も変わりもしたが、リーンとコフィンの同じ部隊に配属ともあって、少しばかりの安心感があった。
しかし、それはあくまで、人間関係の面であって、今目の前で起きている戦闘行為に対しては身も心も縮み上がる緊張感でいっぱいだった。
「左に一機。上下に、一機ずつ来るわよ!」
「三方向からの、包囲陣ね。分離するっ」
太陽電池を備えた静止軌道上の巨大発電施設。それを奪還するのが、復帰初の任務だ。
発電施設は、『ローグ1』つまり『新人類軍』の拠点の一つであるスペースコロニーの供給を担っており、二か月前の早い段階で制圧されている。円形状のソーラーパネルが立体的な配置を取り、様々な角度から太陽光を受けられるように配置して、超伝導体ケーブルを伝ってマイクロ波送信施設へ集約、『ローグ1』へと送電する仕組みとなっている。
宇宙に浮かぶ幾何学的な神殿、あるいはピラミッドに見えることだろう。
その神殿より何百キロも離れた宙域で、〔アル∑〕は、敵機〔ミリシュミット〕三機に囲まれながら、追加装甲を脱ぎ捨てていた。
瞬間、三方向からの一斉射が襲い掛かった。高速で飛来する弾丸。
迸る激情に、三人の心臓が跳ね上がる。この胸を抉るような息苦しさ、背後にまとわりつく悪寒は、二か月前に感じていたそれと同じだ。
〔アル∑〕は素潜りするように機体を反転させて、回避運動を取った。一方で、有線操作された追加装甲は上へと飛んだ。神速の勢いで、ワイヤーが伸びていく。
「音、上はお願い」
「あい。彩子、よろしく」
「わーってるわよっ」
敵の射線を回避して、〔アル∑〕は腕部に取り付けているカタナを爪のように展開させると、下方でミサイルポットの照準を合わせる〔ミリシュミット〕通常装備に狙いをつけた。
その動きは、〔アル∑〕の頭上を抑える一機と側面を見張っていた一機に背を向ける形だ。もちろん、敵も主力火器を構えて、飛んでくる追加装甲の軌道から外れつつ、本体の大きな背中に狙いを定める。
狙いは十分。いつでも、撃墜できるという気構えが動きから窺えた。
だが、彩子が操る追加装甲は、テール・バインダーを展開。二丁のビーム・ライフルを現すと、ちょうど射線に入り込んだ〔ミリシュミット〕電子戦装備を照準に捉えた。
「――――っ」
音は通常モニタにウィンドー表示されている射撃画面を見て、トリガーを引いた。
まばゆい閃光がビーム・ライフルから弾ける。高熱の重金属粒子が、まっすぐに光の槍となって、〔ミリシュミット〕電子戦装備の胴体を貫く。
巨大な爆発が宇宙に咲く。
〔アル∑〕の背中を追っていたもう一機の〔ミリシュミット〕電子戦装備は標的を追加装甲に変えて、攻撃を加える。
味方機が落とされるのを目の当たりにしたせいか、〔アル∑〕が迫る〔ミリシュミット〕通常装備は早い段階で、マイクロミサイルを発射した。
いくつものマイクロミサイルが、通常モニタに映り、センサーがそれを追跡、カーソル表示した。
「彩子、EMP作動」
「ちょっと、待ちなさいよっ!」
彩子は迫りくるマイクロミサイルよりも、追加装甲に攻撃を加える〔ミリシュミット〕電子戦装備のガトリング砲の弾幕に危機感を募らせていた。
追加装甲はビーム・ライフルで応戦しながらも、回避運動に全力を注いでいた。
それは、電子戦担当の彩子の集中がそちらに傾いているからだ。
カーソルの色が危険色の赤に切り替わった。早く対処しなければ、今の〔アル∑〕の機動力では対処しきれない。
その短い時間は、樹、彩子、音に死の恐怖を思い出させる。感覚が研ぎ澄まされて、思考が早くなる。次に何をどうしたら、と自問自答が常に繰り返される。
「―――—っ! 彩子、ミサイルの対処を優先。追加装甲は手繰り寄せる」
「了解よっ」
「音は牽制。壁を作って」
「あい。わかた」
樹の早口な指示を彩子と音は聞き逃さなかった。
瞬間、警報が三人の耳を打ち、行動に移る。
追加装甲は彩子の操作を失い、バリアブル・バーニアを停止。無数の弾丸が襲い掛かってくる。
一方で敵に向かっていく〔アル∑〕は肩部のマルチ・ハープーンの射出装置から延びているワイヤーをマニピュレーターでつかむと、ぐんと引っ張った。
下に引っ張られる追加装甲。それはグルンと回転して、威力を弱めたビーム・ライフルが粒子の膜を張った。散りばめられた金粉のように、ビームが拡散。弾丸そのものを相殺することはできなかったが、敵機の目くらましにはなった。数発の弾丸が、追加装甲を傷つける。
同時に、〔アル∑〕本体もEMPを発動。向かってくるマイクロミサイル群の軌道を乱して、自爆させた。
敵機の〔ミリシュミット〕通常装備、電子戦装備は完全に〔アル∑〕の姿を見失った。爆炎とビーム光のカーテンが邪魔をして、様子がわからない。
「どこだ……」
「どこにいる……」
敵操縦者は静かに、余念なく自機の主力火器の照準を探りつつ、爆発から遠ざかる。
瞬間、霧散しだした爆炎の向こうに、バッと六方向に飛び散る光を見た。
二機の〔ミリシュミット〕は、すぐさまそこへ弾丸を叩き込む。しかし、距離を開けていたために届くまでの時間がコンマ数秒伸びていた。
それが狙いであったかのように、追加装甲を身にまとった〔アル∑〕がローリングして回避しつつ、〔ミリシュミット〕通常装備に襲い掛かる。
これには〔ミリシュミット〕電子戦装備も、一歩出遅れてしまう。
「ぐ、うぅ……っ!」
樹たちは依然よりもはるかにパワーアップした推進力に、肺が潰されそうだった。無呼吸状態が数秒続いた。
だが、神速の〔アル∑〕は彼女たちの意識が吹き飛ぶ前には、敵機の懐に飛び込んでいた。
「…………」
〔ミリシュミット〕通常装備は時間が停止したような感覚を味わって、自機の銃口が見当違いの砲口に向いていることに気付く。いや、〔アル∑〕が僅かに射線からズレて、寄ってきたに過ぎない。
「――――っ!!」
樹はスロットルレバーを上げて、〔アル∑〕にカタナを振るわせる。
熱せられた刃が、鋭い爪となって〔ミリシュミット〕通常装備を切り裂いた。豆腐でも切ったかのような、滑らかな切れ味。
そして、〔アル∑〕は猛スピードで横切ると、後方で切り裂かれた〔ミリシュミット〕通常装備が爆発した。そして、逆噴射をかけて、機体が減速。
「――――か、はっ」
緩やかになる負荷に伴って、音たちは朦朧とする意識を覚醒させるように、即座に呼吸をした。肺に空気を送るだけで、目眩がする。過呼吸状態だ。
その隙をついて、〔ミリシュミット〕電子戦装備が接近。『幻覚』の射程内に入り込もうとする。
「こ、このぉ……」
樹は〔アル∑を振り返らせると、肩部、前部のバリアブル・バーニアを使って後退していく。電子戦装備が突っ込んでくるときは、大抵『幻覚』による必殺だ。今の状態で対抗手段に打って出るのは、危険だと判断できた。
息遣いを互いに確認し合う。短いリズムが続く中で、ゆっくりと呼吸を整える息があった。
「音、お願いっ」
樹はそれが、音のものだと推測していった。
すると、音の弾ける声が聞こえた。
「あい。任せるっ」
音は軽く頭を振ると、〔アル∑〕にカタナを仕舞わせ、代わりにビーム・ライフルを構えさせた。
「さ、サポート、するから……」
「だいじょぶ。音に任せるっ」
彩子の苦しそうな声に、音はきっぱりと言った。
構えたビーム・ライフルは以前の供給パイプをオミット、エネルギーパック方式を採用して、より可動範囲を広めた。というより、供給パイプの煩わしさを解消したかったのが開発の本音だが、音のセンスを生かすにはこの方式は有効だった。
弾丸の雨が引っ切り無しに飛来し、〔アル∑〕を横切っていく。ガトリングの反動についていけないのか、単純に距離が開きつつあるのか、敵機の照準は定まらない。
音は慎重にターゲットサイトを定め、射撃管制システムの補助と自身の目を信じる。
「…………っ」
ターゲットサイトが捉えないうちに、まず一射。
〔アル∑〕のビーン・ライフルから閃光が走った。一瞬、操縦席の通常モニタがパッと白亜の残光を残した。
〔ミリシュミット〕電子戦装備はそれよりも早く、〔アル∑〕の銃口が沈んだの見計らってすぐさま回避行動をとっていた。攻撃の手も休め、ビームの光が足下を通過するのを見送った。
「そこっ!」
続いて、本命の二射目。
ビームの光が、単調な動きをする〔ミリシュミット〕電子戦装備の腰部を消し飛ばす。そして、推進剤に引火。
また一つ、光芒が膨らんだ。
音は短く息を吐いて、目を瞬かせる。
「ありがとう。発電施設に向かうよ」
「わかた。彩子、だいじょぶ?」
「や、やれるわよ……」
彩子はいまだに目眩が続き、気分は晴れない。喉の奥が引くつき、肺が重たい。
それでも、樹の操縦の元、〔アル∑〕は針路を発電施設に向けて、六基のバリアブル・バーニアを広げた。
敵影は少なく、正面に捉える発電施設にも、攻撃らしい光はまばらになっていた。ソーラーパネルが太陽光を受けて、輝いる方が目立つ。
「そいば、たいちょ、どこいた?」
「その辺でしょう。放っておこう」
音のいう『たいちょ』なる人物は、先ほど倒した敵部隊の一機と交戦して、離れ離れになってしまった。一機倒すのにも、手こずっているような人物が樹たちの上官なのだから、先は思いやられる。
ピピッと電子音が鳴った。
「何? 暗号文?」
彩子は電子戦用モニタに飛び込んできた暗号文を解析、それに目を走らせる。。それが、どこからのもので、どういう通信手段なのか確かめると樹たちに呼びかける。
「止めて。〔リヴァイン〕から発光信号。即時停止されたし、だって」
「母艦近くまで流されてたんだ。了解。彩子、音、周囲の警戒をお願いね」
「あい。警戒する」
〔アル∑〕はビーム・ライフルを保持したまま停止。
彩子は電子戦用モニタで文章を打つと、〔アル∑〕のリア・ライトで発光信号を返す。
その先には、巨大な真新しい戦艦が直掩部隊を引き連れて、ゆっくりと接近していた。
〔リンカー〕武装改造船、〔リヴァイン〕だ。全長は五〇〇メートルはある巨体で、ロール航行ではなく〔イリアーデ〕と同じ巡航方法を取っている。傘状の船体を守るように両舷には巨大なボード型〔AW〕射出甲板兼防御盾を実装し、防御面と攻撃面を備えている。もちろん、本体にも機関銃座が設けられるなど、迎撃システムの向上がなされている。
「戦闘の光は弱まってはきているけど、まだ抵抗してる?」
樹がカメラの望遠画像を見ながら言った。
「みたいよ。だけど、変じゃないかしら?」
「変?」
音はビーム・ライフルのエネルギー弾倉を気にしながら言った。
「なんていうか……、そう。機械的というか、無茶な戦いをしてるって思うの」
「いつものことでしょう?」
「そうじゃないわ。最後の一人になっても戦う。そんな、狂信的な動きをしてるって」
彩子はうまく言葉にできず、もやもやとする。
樹は彼女の言わんとする感触がわからず、唸るばかりだ。久しぶりの戦闘で疲れが出て、そういう印象を持ってしまったのか、と思う。
「そだね。けど、この前、敵、逃げた」
音の発言には、彩子もぐうの音も出なかった。
宇宙に上がってきてすぐの戦闘では、即時撤退をする敵機の姿があった。廃棄処分された人工衛星を回収し終えたから、というコフィンの話を聞けば納得のいくものだ。
しかし、今回のケースはなんとしても発電施設を守る姿勢を崩そうとはしない。そこまで重要な施設なのか。
「なんにしても、抵抗が続いている現状は厳しい。まだ、この〔アル〕に慣れてないし、制圧に向かったコフィンさんが……」
「そもそも、なんであたしらは後方支援なわけ? 前は最前線送りだったのにさ」
「それは――――」
樹が言葉を紡ごうとした瞬間、ノイズ交じりの無線が割り込んできた。
「よかった、樹。無事だったんだな!」
「これのせい」
割り込んできた無線の主、樹たちの所属する部隊の隊長にして、樹の許婚、ヤッシュ・カルマゾフだ。
その樹のあきれ返った声に、彩子と音は納得の声を上げた。
「僕が一機を倒している間に、よく頑張ったね。敵を退けるなんて、さすがだ。ああ、もうここに敵が攻め込んでこなさそうだし、一度帰還しよう? 疲れただろう?」
ヤッシュのウザったい声に、樹だけでなく、彩子と音にも嫌悪感が沸き立ち、背中を虫が這いまわっているような感覚に襲われた。
〔アル∑〕に寄ってきたヤッシュの〔バーミリア〕通常装備は、小うるさいハエのように機体の周りを旋回してる。
「今回の作戦はほとんど終了。僕が出るまでもなかったよ。あとは、前に出た連中がなんとかするさ」
そこで、樹は無線を封鎖し、喧しい声を遮断する。腹の底のムカムカから解放されたかった。
「こんな時に何言ってるの、馬鹿じゃないの?」
「その意見には同意。とはいえ、ここで先行しても、足を引っ張りそうね」
樹は彩子の素直な言葉に強く共感しつつ、望遠画像を見る。
「だいじょぶ、だよ。ぐんそ――――、じゃなくて、そーちょー、いる」
「それが、コフィンさんにとって、どうなのかってことよ」
音の楽観的な言い方に、彩子は心配の声音で答える。
リーンとコフィンは、戦闘でこそ仲のいいコンビではあるが、プライベートの関係はそれこそ壊滅的。リーンの方はビジネスパートナーとして、コフィンという女性を見ている節があり、どこか自制的であるようにも思える。
しかし、コフィンは最近異性としてリーンを意識し始め、何かと彼の前でミスを連発しだしている。その予兆に気付いているのか否か、彼の反応は常にシビアで、距離感のあるものだ。
そんな二人を見ている三人にしてみれば、早く恋仲に発展してほしいと願うばかりだ。
「このままだと、どちらか決定的なポカをして大ごとになるかも」
嫌な予感が膨らむ中、〔アル∑〕は〔リヴァイン〕を先導するように、先駆としての位置を取った。
今は下手に出ず、母艦の護衛に回るのが賢明だろうと樹たちは判断する。
それは、制圧部隊に対する信頼の表れだ。
煌めくソーラーパネルを横にして、リーンの操る〔バーカム〕とコフィンの操る〔ギリガ〕電子戦装備が疾駆する。
敵は二機。ソーラーパネルに浮き彫りになったリーンたちに照準を合わせてくる。宇宙の暗がりにまぎれているよりも鮮明に、〔ミリシュミット〕の光学センサーは〔バーカム〕と〔ギリガ〕電子戦装備の動きを捉えている。
敵機からの砲撃が雨霰の如く降り注ぐ。
「――っつ。敵はもうほとんどいないってのに、こいつらッ」
リーンは〔バーカム〕にソーラーパネルを這わせるようにして飛ばし、北へと上昇する。
「ま、待ってください」
コフィンも〔ギリガ〕電子戦装備を操り、〔バーカム〕の後を追った。
弾丸がソーラーパネルを破壊し、破片が飛び散る。蛇行するように着弾地点が、〔バーカム〕の軌道を追う。気を抜けば、すぐにもハチの巣にするような執拗な攻撃。
〔バーカム〕はソーラーパネルを背にして飛行すると、手にしているサブマシンガンを敵のマズルフラッシュのする方へ乱射する。メイン・モニタにソーラーパネルの破片が移り込み、リーンからも敵側からも、視界を悪くする要因となった。
こういう時こそ、コフィンの精密射撃が必要なのだが、彼女はずっと機体を〔バーカム〕の隣につけるばかりで、背中を敵に向けたままだった。
「どうしました!? 反撃してくださいよっ!」
「え、あ、そ、そうでした」
「そうでしたって……」
コフィンの上擦った声に極度の緊張状態だと思って、リーンは咎めたりしなかった。
だが、彼女の操縦にムラが目立ち始め、〔ギリガ〕電子戦装備が身を翻して、軽機関砲を構えたときには、敵の〔ミリシュミット〕バディは攻撃の手を休め、旋回。ソーラーパネルの裏側に回る軌道を取り出した。
それに向けて軽機関砲を撃つが、すぐにも見失ってしまう。
「何してるんですか!? 下から回り込まれますよ」
「ご、ごめんさない。考え事が……」
「そんなの、後回しにしてくれっ!」
リーンは〔バーカム〕にサブマシガンのリロードをさせると、針路を北から西へと急転換した。このまま北上すれば、まずいい的になるだろう。
コフィンは彼の苛立った声に胸が押しつぶされそうな苦しさを覚えながら、〔ギリガ〕電子戦装備を〔バーカム〕の隣につけた。
力になりたい。そばにいたい。
彼女の私情が無意識に、近接したランデブー飛行をさせる。
「もうすぐだ……」
リーンはメイン・モニタに映る光りの水たまりが途切れた場所を睨み付けて、操縦桿を握る手を強めた。できることなら、側面から〔バーカム〕と〔ギリガ〕電子戦装備の一斉射撃で決着をつけたいところ。
思考に迷いが生じる。この施設を傷つけてよいものだろうか、と。
ソーラーパネルの淵がもう目の前にある。真っ暗な宇宙に飛び出す刹那の葛藤が、リーンの体を駆け巡って、決断を下す。
「――――、クソッ。准尉、援護お願いします」
「あ、ま、待って……」
〔バーカム〕と〔ギリガ〕電子戦装備が、淵の向こうへ出た。
瞬時に、〔バーカム〕は前転するようにして軌道変更。裏側へととんぼ返りする。
「いたっ。気付かれる前に――――」
リーンは操縦桿を一気に押し出し、〔バーカム〕にアフターバーナーをかけた。
体を押しつぶす凶器の負荷が襲い掛かった。だが、彼の意識は鮮明に〔ミリシュミット〕二機を確認し、自機にヒートナイフを握らせていた。
〔ミリシュミット〕バディが〔バーカム〕の突進に気付き、迅速に主力火器の照準を合わせる。
リーンは敵の対応の速さに歯噛みしたが、コフィンの援護射撃があれば、と結論付けている。彼女の射撃の腕はリーン以上。信頼のおける、最高のバディだと思っている。
だが、背後からの援護射撃はない。
「どうした、准尉?」
リーンは声を絞り出して、無線に問うが距離が出たのか、応答はない。
敵の一斉射が〔バーカム〕に襲い掛かる。
「――――っ」
リーンは即座に軌道を変更し、機体をソーラーパネルから離した。それでも、襲い掛かる弾丸の射線は〔バーカム〕を捉えて、脚部を吹き飛ばした。
ドオンッと右脚部が爆発し、腰部から緊急パージされた。
リーンは呻きながら、機体を持ち直すと、切り離された右脚部が爆発した。推進剤が暴発したのだ。アフターバーナーを駆けていた〔バーカム〕があのまま脚部をつけていたら、高速で循環する推進剤が駆け上がって、本体を吹き飛ばしていたことだろう。
「ああっ、そんな、わたし――――こんなつもりは……」
コフィンは懺悔するように言って、思わず操縦桿から手を離してしまった。
一瞬にして飛び去って行った〔バーカム〕に置いて行かれた、と勝手にショックを受けてしまっていた。どうしても追いつけない。自分の想いが、気持ちが荒いおろし金ですりつぶされるような不安が胸を苦しめる。
「何をしているっ、コフィンっ!!」
リーンはサブ・モニタで〔ギリガ〕電子戦装備が動きを止めているのを目の当たりにして、叫んだ。
そんな声が届くはずはないとわかっていながら、しかし、叫ばなければ今の不安な気持ちに手元が狂いそうだった。
〔ミリシュミット〕バディは、その動きを機敏に察知。抜け目なく、そして、息の合ったコンビネーションを見せる。
通常装備のマイクロミサイルが〔バーカム〕に襲い掛かり、電子戦装備のマシンガンが〔ギリガ〕電子戦装備に向けられる。
「ふざけんなよっ、馬鹿野郎っ!!」
リーンの雄叫びにこたえるように、〔バーカム〕が再度アフターバーナーの突進を仕掛ける。
目の前にはマイクロミサイルの雨。それを、頭部機関砲で相殺し、機体は爆炎の中へ突っ込んだ。
一方でコフィンは唇を戦慄かせながら、自身に狙いが向けられていることに気付く。
「――――っ!」
時間が凍てつく。
だが、狙いを定めていた〔ミリシュミット〕電子戦装備は、接近する機影を捉えてその狙いを変える。
その先には、ぼろぼろになった〔バーカム〕が〔ミリシュミット〕通常装備の操縦席にヒートナイフを突き立てたところだった。
〔バーカム〕は機体を埋めるようにして、〔ミリシュミット〕通常装備を一突き。一瞬にして、その動きを止めて見せた。
「くっ。さすがに――」
爆発の中を切り抜けた〔バーカム〕ではあったが、ソーラーパネルをも巻き込んだ爆発だったため、破片のいくつもが突き刺さっていた。操縦席もその被害を受けて、メイン・モニタに破片が突き出ていた。
リーンは足に刺さった破片に痛みを感じるよりも早く、自機に〔ミリシュミット〕通常装備をかなぐり捨てさせ、突進。
瞬間、劣化した画像に、〔ミリシュミット〕電子戦装備の砲口に捉えられていることに気付く。距離にして、数十メートル。『幻覚』を放つよりも、射撃を加えた方が効率的な距離。
対峙する両者は互いに息を飲む声を聞いて、刹那の攻防に打って出る。
〔バーカム〕がノズルを全開にして、刺突を繰り出す。
〔ミリシュミット〕電子戦装備がマシンガンを発砲。
リーンは弾丸の雨に恐怖心以上の激昂で、立ち向かった。機体に弾丸が命中する。肩部の装甲が吹き飛ぶ。腰部の予備弾倉が弾き飛ばされた。
だが、神速の刺突は的確に敵の操縦席を貫く。
〔ミリシュミット〕電子戦装備は瞬間、糸の切れた操り人形のように動きを止めた。
「――――、はぁ、はぁっ」
リーンは止まっていた呼吸を再開し、重苦しい肺に新しい酸素を送り込んだ。
なんとか、ソーラーパネルへの被害は最小限に済んだが、〔バーカム〕はぼろぼろ。また整備部にどやされるな、と自嘲する。
「こんな戦い方は、二度としたくねぇな。うっつぅ」
リーンは〔バーカム〕に〔ミリシュミット〕電子戦装備を捨てさせたところで、足に鋭い痛みが駆け上がってくるのを感じた。
呼吸を整えながら、鼓動とともに押し寄せてくる痛みに耐える。
「そういや、破片があったんだったな。ここの空気漏れは、そこまでじゃねぇか……」
「リーンさん、ごめんなさい。ごめんなさい……」
すると、〔バーカム〕の元に〔ギリガ〕電子戦装備が寄ってきた。
コフィンの今にも泣きそうな声に、リーンは顔を顰めた。
「どういうつもりか知りませんけど、気を付けてください。俺だって、カバーできる範囲はあるんですから」
「ごめんなさい。でも、生きててよかったです……」
「は? 何言ってんです?」
そこには、確かな憤りの低い声があって、コフィンは身を縮めた。
「生きててよかったって、准尉が対応できてれば、そういう言葉はでなかったでしょう? 俺を危険にしたのを、自覚してるんですか?」
「それは、わかってます。わかってますから、だから、よかったって……」
コフィンは彼の起こる理由が、自身の不甲斐なさ、身勝手さが招いた結果だと言っている。
なのに、それを他人事のように言う安堵の言葉に苛立ちを覚えているのだ。
リーンは短く息を吐いて、周囲に目を配った。話を続けていては、彼女の陰気さに引き込まれてしまう。
「敵機はもういないようですね。一度、〔リヴァイン〕に戻って指示を仰ぎましょう」
「は、はい……」
ぼろぼろの〔バーカム〕を〔ギリガ〕電子戦装備が支えようとするが、〔バーカム〕はその手を払って飛んでいく。
その後ろを、〔ギリガ〕電子戦装備はようやく軽機関砲を構えて、追随する。
リーンはバイザーを上げて、顔についた汗を拭いながら、サブ・モニタに映るコフィンの機体に目を向ける。
「最近の准尉は何か変だ。陰気くさいっていうか、しつこいというか……、纏わりついてくる?」
彼女の操縦から、そんなねちっこさを感じて、リーンはさらに迷惑そうに顔を顰めた。




