~選択~ 死の捉え方
人事部の職務怠慢を、リーンは少なからず感じていた。
今、彼がいるのは人事部のオフィスの受付だ。メガネをかけた妙齢の女性が横を向いて穏やかに、手元のキィを叩く。そのよどみのないキィタッチに、現実感がどこか遠くに感じる。
つい先日戦死者を悼む式典が行われたというのに、実際の死者数を把握しきれていないのが現実だった。〔リンカー〕の犠牲者は回収したブラックボックスで割り出すことができた。だが、戦闘で死んでいった〔AW〕操縦者の数は疑わしいものだ。
確認となる物証もなく、頼れるのは目撃者の証言くらいだった。
だから、リーンは死の証人とて呼び出しを受けたのだ。
「では、こちら方でお間違えでありませんか?」
受付の女性はリーンの方へ体を向けて、カウンターにあるディスプレイにデータを出力した。
「……はい」
リーンは渋い表情を浮かべて、ディスプレイに視線を落とした。
アリス・ジェフナムの個人情報。写真は軍に入ったばかりのもので、すっきりとした顔をしていた。そのほか、家族構成や生年月日、血液型と彼女の身元を証明する事項が並んでいる。しかし、斜線のひかれた出身国の欄を見た彼には、それがうさん臭くて仕方なかった。そこには、亡国の名が刻まれており、彼もまたその国の人間だったからだ。そして、リーンとアリスが敵対していたことを知らしめる軍歴も掲示されていた。
やりきれない思いがふつふつと沸き立って、リーンはぐっと握り拳を作る。他人のプライベートを見ている気分は、どうにも居心地が悪い。
受付の女性はデスクに向き直ると小さな引き出しから一枚の紙片を取り、ペン立てからボールペンを一本引き抜いた。
「では、こちらに署名を」
女性はカウンターに紙片を置いて、署名欄を指差した。
リーンは置かれたペンを取って、注意深く紙片に書かれている内容を読んだ。簡素な証明書だ。ここに書かれている人物の死亡を証明しますというひどい内容だ。
それでも、彼は読み終えて一息つくと署名した。リーンの中で、アリスに対する一区切りでもあった。
はっきりさせよう。こうすることでしか、きっと彼を含めた小隊員たちは納得できない。
宇宙での行方不明扱いなど、ほとんど死んだも同然。そうした処置をとったとしても発見は望み薄で、自力で帰還することもまたしかり。
ならば、死亡扱いにして、虚しい希望を殺したほうがいい。もともと、アリスが生きているとはリーンには思えなかったが。
「はい、結構です。最後にいくつか質問をしてよろしいでしょうか?」
女性は業務的に、サインされた証明書とペンをリーンから受け取ってしまう。彼女はまっすぐに、誠実なまなざしを目の前の若き軍人に向ける。
リーンは気持ちを切り替えて、はい、とはっきりと返答した。
「あなたは、アリス・ジェフナムさんの死を認めますか?」
「はい」
「彼女の死後、それに付随する諸問題の証人としての義務を全うしますか?」
「はい」
不毛にも思われる問答に、リーンは真摯に受け応えした。
そういう義務があるものだ、と自負しなければならない。誰かの死を背負うことは、簡単なことではない。
問答は淡々と進められ、受付の女性が最後の質問を終えるとデスクに向き直った。
「証人としての確認は以上になります。お疲れ様でした」
「どうも……」
リーンは気の抜けた声を出して、肩を竦めた。
すると、受付の女性はキィタッチを行いながら言う。
「それから、故人様の借りている部屋に関してなんですけど……」
リーンはまだ何かあるのかと不満顔になった。それでも、証人としての義務ならばと顔を引き締める。
女性の顔にも苦々しいものが見て取れたが、メガネのブリッジを上げてこちらも固い顔つきに戻る。
「もうすぐ増援が来ますので、部屋を空けなければならないんですよ。遺品整理を、業者に任せることもできますが?」
女性はリーンに向き直り、そう告げた。
遺品は遺族の元に送るのがセオリーなのだが、あいにくとアリスの親族はこの世にいなかった。ただ身元引受人として、イギリス系の名前が記されていた。その人の元に送られるらしい。
リーンは業者に任せようと思った。
アリスの生活圏に踏み入れるのは正直躊躇いがあった。故人とはいえ、他人の家をかき回すようなことができるほど親しいわけでもなかったし、その上女性の部屋だ。男の立場から言って、気持ちが落ち着かないのだ。
「あー……」
リーンはしかし、歯切れの悪い声を出して回答を渋る。
それでいいのだろうか。
ふと湧き出た猜疑心に、彼は心を突き動かされた。虫の知らせと言ってもいい。
回答を待つ受付の女性からも、不審そうな視線が付きか刺さる。
「やります。小隊員たちで……」
リーンはたっぷり間をおいてから告げて、ばつが悪そうに女性を見た。
その言い回しに、女性は眉根を寄せて一度肩を上下させるとデスクの方へ向き直った。むっつりスケベだわ、と彼女は思った。
リーンには彼女の心情を読み解くことができず、指示を待った。すぐに向き直った受付の女性は、カウンターのディスプレイを切り替えて、段取りを説明しだした。
「…………?」
リーンは急に棘の付いた彼女の口調を不思議に思いながら、説明に耳を傾ける。
「彩子、ごはん……」
「ああん、ちょっと待ってなさい」
彩子は洗面所の洗濯機に、洗濯物を放り込んで蓋をするなりスイッチを押した。重低音の作動音とちゃぷちゃぷとなる水の音を耳にして、彼女は部屋の方へ出る。
音は布団をベランダ干して終えるなり、部屋戻ると大の字に寝そべった。Tシャツに半ズボンの寝間着で、彩子も同様だった。
「ほら、ごはんが食べたかったら手伝うっ」
彩子はだらしなくお腹を見せている音を叱って、部屋の隅っこにある調理台に移動する。他人の家だが、好きにしていいと家主から言われている。料理のひとつくらいしても、文句ないだろう。
こうして、家事をしている分には暗い思考を追いやることができた。身近に感じていた人の死を、深く重く考えまいとする自衛手段だ。自身の生活リズムを取り戻すことが最良である、と言うのが彩子の持論なのだ。
「あ~い」
音は鈴を転がしたような声で答えると、起き上がって彩子の横に立った。甘える態度が顕著になり、やはりアリスのことを意識しないようにしている。
「どうしようかしら? ご飯が余ってるし、適当に炒飯でいいかな」
彩子はてきぱきと冷蔵庫や炊飯器を除いて、何を作るか決めると食材を出していく。
「何、作る?」
「炒飯ぃ」
「いためし?」
音は初めて聞く言葉に、首をかしげる。
「ご飯にいろいろ混ぜて、炒めるの」
そういって、取り出した食材を包丁で切っていく。その慣れた手つきは軽快で、安心感があった。
「上手、上手」
「ふん。こんなの、当たり前よ」
彩子は得意になって、食材を切りまくる。もう食べる分以上になっていた。
音がその横で好奇心旺盛な瞳を輝かせている。
「さぁっ。炒めるわよー」
下ごしらえを終えて、上機嫌になった彩子はフライパンを取り出して、電気コンロに乗せる。そこに油を垂らして、フライパンを温める。
「音、さくっとやってみなさい」
「あい」
音は出番が来たばかりに、フライパンを両手でつかむ。
「両手でつかんでどうするのよ。ほら、フライ返し持って」
彩子はフライ返しを音に持たせると、下ごしらえした食材をフライパンに放り込む。食材が加熱され、弾ける音が響いた。
「おう、おお」
音は慌てて、フライ返しを使って食材を炒めていく。
「慌てないの。ちょっと待ってて、ご飯と卵を――――」
そこに、呼び鈴の音が二人の耳に届いて、思わず作業の手を止める。
「樹?」
「まさか。あの子は、機械いじりに逃げれる最中でしょう」
彩子は刺々しい言い方をして、電気コンロのスイッチを切る。それから、玄関の方へ歩いて行った。
「そなの?」
「この頃おかしいんだから、そーゆーことでしょ」
背後から聞こえる音の声にそう言って、彩子は玄関ののぞき穴を見た。
「あれ? コフィンさんだ」
確かめるなり、彩子は玄関を開ける。
来訪者であるコフィン・コフィンは驚いたように小さく跳ねた。綺麗に編まれた三つ編みの髪が弾んだ。
彩子は一度咳払いをしてから口を開いた。
「こんにちは、コフィンさん」
「あ、ミナモリさん。英語、上手になりましたね」
「ここ二日、猛勉強しましたから」
コフィンが彩子の上達ぶりを褒めて、優しい微笑みを見せてくれた。
彩子は照れ笑いを浮かべて、空いている手で軽く頬を掻く。
彼女は樹たち三人が心配で、こうして様子を見に来るようになっていた。その甲斐もあって、彩子と音は彼女と交流を深められたし、寂しい気持ちを薄めることができた。
彼女にしても、アリスの死はとてもつらいはずなのだが、彩子たちの前では決して悲しい表情をしなかった。しっかりしなければと気持ちが自然と引き締められるからだ。もう甘える年頃でもないし、彼女の意地らしいところでもある。
「それより、今お昼作ってるんですけど、一緒にどうです?」
「いいんですか?」
「粗末なもので良ければ、ですけど」
そういう彩子は体を開けて、コフィンを招き入れる。
コフィンも少し躊躇いがちに視線を泳がせた後、お言葉に甘えてとつぶやいて入室した。
「音。コフィンさん、来たよー」
「ほんとっ!」
そう言って、音が通路に顔出して、笑顔を振りまく。特に音はコフィンに対して、まるで姉のように慕っている。
どこまでが幼さの演技なのか、境界を曖昧にしていた。
彩子はコフィンを先導して先に部屋に足を踏み入れと、そのまま調理台の方へ進んだ。
「音はテーブルの準備して」
「あい」
「あ、私も手伝いますよ」
「いいですって。ゆっくりしてくださいな」
彩子は冷蔵庫から卵を取り出し、出しておいたボールに割って入れる。菜箸でカラザを器用に取り除いてから、軽くかき混ぜる。
その背後では、音が部屋の端っこにかけてある丸テーブルを開いて、中央においていた。それから、座布団代わりのクッションを丁寧に叩いて、佇んでいるコフィンに示した。
「慣れてますね」
「勝手知ったる他人の家で、格好つかないですけど」
彩子は炊飯器に残っていたご飯をボールの卵と混ぜながら苦笑気味に言った。ご飯を解すようにしながら、そこに醤油を加えて、さらにかき混ぜる。樹が日本人らしい味覚でいて、大助かりだ。
「お料理の方ですよ」
コフィンは微笑みながら、示されたクッションに座った。足を崩して、居心地悪そうに何度かお尻の位置を変える。
音はそれを確認すると、彩子の横についた。
「そうでもないですよ。色々と混ぜて、炒めてるだけですから」
「次、何?」
「そうね。じゃ、これを炒めて頂戴」
彩子はコンロに乗っているフライパンに卵を和えたご飯を投入して、コンロのスイッチを押した。加熱されるフライパンが、徐々に音を立て始める。
音はフライパンとフライ返しを手にして、ご飯と食材を混ぜ合わせる。ぼろぼろと中身が零れ落ちてもお構いなしの豪快な手つきだった。長い髪も、それに合わせて揺らめく。
「ああん。もうちょっと、丁寧にやりなさいよ」
「あうぅ」
彩子が調味料を加えながら注意する。
音はなるべくこぼれないよう、慎重にフライ返しを使う。
「それだと、焦げるわよ。もっと、素早く」
「うぅ。うるさい」
とやかく言うものだから、音はついに役割を放り出して、コフィンの元にすり寄った。
「コフィンさん、彩子、いじめた」
「違うと思いますけど……」
コフィンも苦笑いを浮かべて、音の頭を撫でる。
「もうっ。中途半端なんだから」
彩子は愚痴って、フライパンとフライ返しを持つと底に焦げた部分を気にしながら、勢いよくかき混ぜていく。フライパンの上で、食材たちが躍り、宙を舞う。
その様子をコフィンと音は遠目から見つめていた。どうすれば、あんなにフライパンを奮うことができるのかと、興味のある瞳だ。実際二人は、料理らしいことはいたことなかった。
音はいつも『サテライト』の食堂で配給されていたし、コフィンはお抱えの料理人が大概作ってくれた。だから、庶民的な空間で、有り合わせのもので料理する彩子の姿は神秘的に見映る。
「ま、こんなところでしょうね」
彩子はほのかに香る醤油の匂いに、空腹感を覚えながらコンロのスイッチを切った。出来栄えこそ粗雑で、具材多めだが、味見をしてみればそこそこ。随分と懐かしい味がした。
それから、食器棚から大皿を三つ出して、それぞれによそう。次いでスプーンと一緒に炒飯の乗ったお皿を丸テーブルに運んだ。
「はい、お待ちどうさま」
「ありがとうございます。ピラフですか?」
「そこまで、オシャレな料理じゃありませんよ」
コフィンの質問に、彩子は苦笑いして、今一度調理台に引き返す。
コフィンは音を隣に座らせると、漂ってくる香ばしい匂いに食欲がそそられる。食堂でもご飯を使った料理を見てきたが、やはり文化圏が違うと故郷の味に偏ってしまう。
「それじゃ、いただきますか」
彩子がお冷を出して、丸テーブルにつくと合掌した。
それにならって音も手を合わせる。あいにくと、コフィンにはそういう習慣が分からず、手を組んで祈るようにした。いわゆる礼拝的なものかと彼女は思ったからだ。
「いただきます」
彩子が先だっていうと、音もまた続いた。
「い、イタダ、キマス?」
コフィンもぎこちなく舌を動かして、言葉にした。
まるでホームステイしにきた気分だ。この部屋は彼女の暮らしていた文化圏と違って、宗教的な概念も通じない。根底は同じものが流れているのだろうが、表現にしてみれば違ってくるものだ。
彩子たちはそれから炒飯を口に運んで、食事にありついた。
「うん。おいしいです」
「お粗末様」
コフィンも初めて食べる炒飯の味に舌鼓を打って、微笑んだ。歯ごたえのある野菜やウィンナーの味、それらをご飯と卵がまとめあげていた。少し苦いところもあったが、独特の香ばしさが彼女は気に入った。
コフィンの食べっぷりに彩子は満足して、音の方を見る。
「こらっ! はしたない」
彩子は犬食い状態の音を叱りつける。ここ最近は、それが口癖のようになっていた。
音はむくれながら、上体を起こして一口一口面倒そうに炒飯を食べていく。いつも、行儀作法は樹が叱っていたので、妙に強気になっていた。
「そういえば、サナハラさんはどうしてます?」
コフィンは思い出したように言う。最近、姿を見かけていない。コフィンが様子を見に来るときはたいてい、彩子と音しかいない。
彩子はお冷を一口飲むと、無愛想な顔になった。
「〔アル〕の整備。もう二日も帰ってこないんですよ」
「それはまた、どうして……?」
コフィンが不思議そうに尋ねると、彩子はさらに眉を吊り上げて言う。
「うまく気持ちの整理つけたいんでしょう、どうせ。最初の一日は、あたしたちだって手伝いましたよ。けど、ちょっとミスしたり、プログラム解析が遅れると、嫌な顔しちゃって見下すんです。それであたしも腹立って注意をしたら、帰ってって言うんですよ! そういう八つ当たりするなんて、信じられませんよね! だから、音連れて留守番してるんです」
「そ、そうですか」
彩子の剣幕に押されて、コフィンは愛想笑いを浮かべて答える。
「奥さんみたいです……」
「何か、言いました?」
「い、いえ。ただ、サナハラさんも辛いんだと思いまして」
取り繕うコフィンの言葉に、彩子は虚を突かれたように一瞬、目を見開く。そして、静かに暗い表情を浮かべる。
音も最後の一口を食べ終わると、心配そうに視線を配る。
「それは、わかってますよ。でも、そういう辛いさは、あたしだってあります。コフィンさんや音だって、そうでしょう?」
「…………」
「彩子……」
彩子は残りの炒飯を口に流し込んで、口いっぱいに咀嚼する。
いっぱい噛んで、味わって、それから嚥下する。
「樹はもっと行動的なのよ。そうじゃなきゃ、あたしはここにいないんだから」
かつての自分が、樹と重なる。
すべてが敵に回った場所で、逃げて逃げて逃げて……逃げ続けて。最後は、あっけなく捕まってここにいる。その惨めさと言ったらなかった。何を内に秘めて、逃げていたのかも忘れてしまうほどに。
コフィンは彩子の過去こそわからなかったが、地に足をつけて立っている姿が思い浮かんだ。長らく宇宙にいるコフィンにしてみれば、そうした感触も曖昧なものになっていた。
「ミナモリさんがそう思うなら、ちゃんと伝えるべきですよ」
コフィンの精一杯の助言が、これだ。
「彩子、樹のとこ、いこ」
音は控えめに彩子のシャツを引っ張る。彩子の抱くものに、どんな要素が含まれているかはわからない。怒りか、悲しみか、迷いか、優しさか、そのすべてか。
そのせいで、音が見る皆守彩子はそうとう無理をしているようにも思えるのだ。
「いつも、いしょ、だた。でしょ?」
彩子はそのぼやけた英語に苦労しながら、ふっと肩の力を抜いた。
いつも、一緒だった。だから、困難に直面しても、立ち向かえた。
その事実は、覆ることはない。
「まぁ、いいように意地張ってても、面白くないわよね?」
彩子はニヤリと八重歯を見せるように笑って見せる。
コフィンと音が賛同の意を込めて、強く頷いた。
きっと、樹の感じ方は間違っていないと思う。彩子たちにしても、親しい人の死は辛いことで、すべてを投げ出したくなることだ。胸が張り裂けそうで、暗闇の中でその人の面影だけを見ている。
はたして、その先に未来があるだろうか。
人は痛みを知っても、そこから止まることはなかった。立ち直って、もう一度歩きだし、歴史を刻んできた。生きることを通して、それらを学んで蓄積する生き物だから、未来を選択することで発展をしてきたのではないか。
巨視的な見解、若人の見識の狭さが窺えるものだが、彩子たちには現実から未来に向かっていく活力があった。
その力はもちろん、樹の中にもある。
彩子と音は出会った時に彼女の力に引っ張られていたから、わかるのだ。
「それじゃ、さくっと――――」
彩子が腰を浮かせて瞬間、部屋の電話が鳴り響いた。
そのタイミングの悪さに、彩子は顔を顰める。
「何よぉ。お昼時の電話だなんて、馬鹿じゃないの?」
彩子は無意識に日本語でつぶやいて席を立つ。
コフィンはその隙に、炒飯の残りを食べきろうとペースを速める。彩子の様子から、すぐにでも出立するのがわかったからだ。
音は逆に、物欲しそうにコフィンの炒飯を見つめていた。
「はい。もしもし――――、リーン軍曹?」
彩子は電話の相手、リーン・セルムットの刺々しい口調にこめかみが痛くなったが、内容はしっかりと記憶する。
「了解。とりあえず、樹はあたしたちが連れてきます」
そう告げて、受話器を戻した。
「リーン軍曹はなんて言ってました?」
コフィンはお冷で口の中のものを流し込んで切り出した。
「別に、先生さんの部屋掃除しましょうって」
彩子は腰に手を当てて、コフィンたちを見下ろした。
アリスの部屋掃除。遺品の整理は、いい機会だと彩子は思った。別に他人の秘密を知りたいわけではなく、気持ちの面でも整理がつくと感じられたからだ。
樹に今一番必要なことだろう。




