~賭けるもの~ 電子の中の賭博戦〈前編〉
鳴動する電子音。低いうなり声のように、深海の中を探索するソナーのように、静かに樹たちの耳に流れる。
シュミレーションのため、参加する面々はパイロットスーツではなく、軍服や作業着と機外活動を考えない格好をしている。さらに、それぞれインカムをつけて通信している。
〔アル+1〕の機嫌はまずまずといったところだった。『コロニー』のメイン・コンピューターに接続された〔アル+1〕のハードウェアが次第にシュミレーション・プログラムに従って、自動でソフトウェアを起動させていく。
〈起動準備、完了。接続開始〉
シュミレーションプログラムが起動した瞬間、通常モニタに真っ暗な宇宙空間が広がった。星の瞬き、地球の青は遠く、闇の中で輝いている。CGで投影された疑似世界は、現実のそれよりも鮮明に映し出され、きめ細やかな極彩色で彩られている。実際、戦闘時に見ていた映像もこれと同じ処理を施されて挑んでいるので、操縦者は目の前に広がる宇宙を『現実』としている。
「遅れてごめん。準備完了」
樹はインカムに向けて報告し、スロットルレバーを握り締め、ラダーペダルの踏みしろを確かめる。パイロットスーツを着ていないため、スロットルレバーが少し大きく感じられた。それは彩子も音も同じで、ぎりぎり各種ボタンに指が届いた。
すでに仮想宇宙には、リーンの〔バーカム〕とコフィンの〔ギリガ〕電子戦装備が主力武装を構えて、〔アル+1〕の前に展開していた。
リーンもコフィンも、操縦桿や各制御ユニットの最終調整をしている。
「わかった。では、そろそろはじめようか?」
樹たちにも相手側にも、アリスは無線で言った。彼女は控室で味方部隊の見ている映像と、全体を把握する観測図が映し出されている複数のディスプレイに目をやっていた。アリスは味方に指示を飛ばす立場だ。もちろん、相手であるヤッシュと小隊長も別室で同じ役割を担っている。
実戦同様、互いに妨害を張れるが、例外に味方の隊長との通信は通じる設定になっている。勝負とはいえ、訓練も兼ねているので操縦者の育成も忘れない。
「少佐、大尉、よろしいか?」
「いいだろう」
「こちらも、了解だ」
隊長たちは部下の準備を見届けて、了解しあった。あとは開始合図と同時に隊長同士の通信も遮断される。
緊張の瞬間。樹、彩子、音、リーン、コフィンは、数キロ先に展開している相手部隊を捉えて、開始合図を待つ。
敵勢力は〔ファークス〕通常装備一機と電子戦装備が二機、残り一機は〔ギリガ〕通常装備だ。向こうも汚名挽回ともあって張り切ることだろう。無罪放免にもなれば、罪の意識など感じることもないだろう。
アリスは控室の固定椅子に腰かけ、インカムのマイクを口元に寄せる。静かに、囁くように。
「では、開始だ」
瞬間、両陣営の電子戦装備が、妨害を発動。
次の瞬間には、相手の四機が一気に突撃を仕掛けてきた。遮蔽物も何もないこの宇宙で、迂回するなどありえない。これは、確実に個々人の実力が問われる。
「まずは、電子戦装備を潰す。いいなっ!」
リーンの作戦に樹たちは雄々しく「了解っ!」と返す。
それを聞いたアリスがすぐさま助言を入れる。
「リーン軍曹、コフィン准尉は〔アル+1〕に機体を追随させ、その陰に隠れて行動。敵の視界を欺く」
「了解。いくよっ」
樹は〔アル+1〕のバリアブル・バーニア六基すべてを展開させると、姿勢を修正し、敵の正面へ進行した。そのあとを〔ギリガ〕電子戦装備が追随し、〔アル+1〕の巨体を盾にする。
リーンの〔バーカム〕はワンテンポ遅れて、後に続いた。
操縦席の振動が不愉快なだけで、加速による負荷はない。どこか生温い感覚を覚える。
「へっ! 言っても所詮はぁ、ガキとバカとお嬢さん。突っ込んできやがらぁ」
「無罪放免になるなら、この際どうだっていい」
二機の〔ファークス〕電子戦装備に搭乗する操縦者たちは、機体をそれぞれのバディにつけて言った。
「遊びも知らない女だもんな。おしいよなぁ、ここで手放すのは」
〔ギリガ〕通常装備の操縦者は淫靡な笑みを浮かべる。彼はヤッシュ部隊の隊員だ。勝てば、コフィン・コフィンが舞い戻ってくる。煩悩丸出しで、しかし妙な闘気を纏っていた。
気迫で言えば、〔ファークス〕通常装備の操縦者、リーンに顔面膝蹴りを喰らった男のほうが何倍も上で、どす黒い。鼻を折られ、顔面は赤く腫れあがっている。だが、無理を押しても彼はリーン・セルムットという偽善者に復讐をしたかった。
「あの野郎ぉ。テメェは俺が…………」
四機はバディで上下に別れ、迫りくる〔アル+1〕の進路上から退避。下方に〔ギリガ〕タイプを視認する。
「どうすんのよ?」
「上に流れた連中を狙え。かき乱すだけでもいい。俺が一気に接近戦に持ち込む」
「でしたら、下の方はわたしが牽制します」
ノイズ交じりの短い通信。
コフィンはすぐにも、機体を〔アル+1〕の影から出し、下方へ移動しようとする。彼女は焦っている。賭け試合になったのは、コフィンが弱かったからだ。誰かの助けなしでは生きられないままではいけない、と逸る気持ちが単機での行動をさせた。
「コフィン准尉。単独行動は慎め」
「しかし――――」
瞬間、警報が鳴り響く。敵のマイクロミサイルだ。妨害の嵐の中を実直な直線弾道で、連なる〔アル+1〕の部隊に突撃してくる。
リーンはいち早く、それが部隊を分散させる牽制だと判断した。上下から迫るマイクロミサイルに、バルカン砲でもお見舞いしてやろうかと、〔バーカム〕を少し上昇させ、まず上方に狙いを定めた。三機編隊を崩すのは、正直つらい状況だ。
「迷ってるだけ、時間の無駄。二人とも行くよ」
〔アル+1〕が、コフィンの〔ギリガ〕電子戦装備を押しのけるようにして、下方からくるミサイル群に進行する。
「三人とも……」
「あのバカども、戻れっ」
「いいや、軍曹と准尉は上方を片付けなさい。あの子たちが心配なら、さっさと決着をつけることね」
アリスの挑発めいた指令に、リーンはぐっと奥歯をかみしめると機体のバルカン砲を放った。上方のミサイル群が爆発、紅蓮の光がいくつも咲いた。
時を同じくして、〔アル+1〕もテール・バインダーから取り出したビーム・ライフル二丁でミサイル群を粉砕し、一気にその中を突き抜ける。
樹は〔アル+1〕の性能が、通常装備と電子戦装備のバディにかなわないはずがないと確信している。単機強攻を目的にしてる機体。出なければ、この三〇メートルという破格の大きさは伊達でしかない。
お尻を撫でるかのような振動に妙な不愉快さを覚えながら、樹は爆発を抜けたモニタの映像を見て、〔ギリガ〕通常装備と〔ファークス〕通常装備が主力武器である九〇ミリマシンガンとレールガンの銃口を向けているのに気が付く。
「――――っ」
息を飲む。シュミレーションとはいえ、銃口を向けられる感覚が喉元を突き刺す。
音は二つの円と十字を合わせた照準に、敵機を入れてためらうことなく二つのトリガーを同時に引いた。
「――早いっ」
彩子がまだ敵との距離を見て、射撃タイミングが不適正だと唸った。
案の定、相手の〔ギリガ〕も〔ファークス〕も散開して、〔アルプラス1〕を中心とした立体円軌道に入る。
「粗末なやつらだ。相手をしてやるよ」
「子供が生意気なんだよっ」
接近してくる敵機の操縦者の声を、〔アル+1〕がフィルターをかけて拾う。
樹たちが怒りを覚えるよりも先に、〔ギリガ〕と〔ファークス〕の十字砲火が殺到。常套手段、マニュアル通りの綺麗な攻撃だ。素人の樹たちから見ても、それがわかった。それを理性で判断したというよりも、これまでの短い経験で得た恐怖が察知したのだ。
「少しでも、軍曹たちから引き離す」
樹は敵の陣形を抜け出すよりも、まずリーンたちから引き離すことを選んだ。〔アル+1〕は花弁のように開いたバリアブル・バーニアの角度をせわしなく変えながら、回避運動に入る。一見すれば、宇宙できりもみしていうよう。
加速し過ぎないよう樹はスロットルレバーの調整に神経をとがらせ、ラダーペダルを繊細に扱う。実戦らな、全身にかかる負荷で頭が吹き飛ばされそうな苦痛があっただろう。だが、シュミレーションプログラムは、ただシートに接している背中やお尻を突き上げたり、這いずり回るような振動しかない。
それでも、高速で流れる風景には吐き気がする。視覚だけで捉えようとするあまり、肉体の機能に不快感が伝染する。
対峙する相手は〔アル+1〕の性能をもちろん知っている。だから、一定距離から付かず離れずの射撃しかしない。それは操縦者が疲弊するのを待つ、粘りのある戦術だ。
「弾薬は無駄にできないが、こうも的がデカイと当たるだろっ」
〔ギリガ〕通常装備の操縦者は、余裕の笑みを浮かべる。操縦しているのは所詮、素人。いくら腐りきっているとはいえ、本職の軍人との技量差は歴然に思える。それ以上に、十六、七歳の女の子に負けるなど男としてのプライドが許せない。
彼は機体のマイクロミサイルポッドの照準を合わせて、残り全弾を叩き込んだ。
それを見ていた僚機の〔ファークス〕電子戦装備は〔アル+1〕の進路上に躍り出て、レールガンで牽制。
けたたましい警報が、樹たちを急き立てる。
「――――前っ」
音は吐き気を紛らわすように言って、照準を合わせる。
ビーム・ライフル一丁から、一筋の閃光が迸った。流星を思わせる荷電粒子が、まっすぐに前方の敵へ走る。
「ミサイルなんかで――――」
彩子はスロットルレバーについているデコイのスイッチを押す。
前方に展開していた〔ファークス〕電子戦装備が回避運動に入る中、〔アル+1〕はビーム・ライフルの軌道を追うように進む。さらに、その道のりにバリアブル・バーニアから吐き出されたデコイが尾を引いた。
〔AW〕のデコイはミサイルや射撃武器に対する物理的妨害手段で、熱を含んだ金属片だ。バルカン砲を実装していない〔アル+1〕に施された急場しのぎの機能で、ミサイルのかく乱、射撃の目をくらませる効果がある。正直、後者で使われることはほとんどなかったようだが。
「小細工を……」
〔ギリガ〕通常装備のマイクロミサイルポッドを解除して、操縦者はあっけなく軌道を乱して爆発していくミサイル群を横目に〔アル+1〕を追った。本来なら、相手に電子兵装を使わせて、バッテリーを消耗させるつもりだった。
失敗が彼のいら立ちを加速させる。駄々っ子を目の前にしているような心境だ。
「ったく、何やってるんだ。あいつぁよぉっ!」
ビーム・ライフルの連射を避けながら、〔ファークス〕電子戦装備の操縦者は愚痴った。相方の策に乗じたのは、ミスだった。完全に標的にされている。
〔アル+1〕の戦況は、おおむね互角だ。それでも、樹たちは大きな不安と不快感を抱え挑み続ける。
リーンとコフィンの戦闘は、うまく連携を取り合い二機の〔ファークス〕を追い立てていた。同じ部隊に所属していたこともあって、コンビネーションはまずまずだ。
しかし――――、
「――――くそっ」
〔バーカム〕は孤立した〔ファークス〕電子戦装備に肉薄しようとした瞬間、メイン・スラスターと補助スラスターの加減を間違え、態勢を崩した。
リーンはぐるんと回ったモニタに舌打ちする。ここぞという時の加減が、まだつかめない。
「威勢だけかよ、ええっ!」
〔ファークス〕通常装備が、一気に〔バーカム〕に迫る。抜き放たれたヒートブレイドの刃が赤く熱せられ、振りかざされる。
「危ないですっ」
コフィンの〔ギリガ〕電子戦装備が、九〇ミリマシンガンを〔バーカム〕に迫る〔ファークス〕通常装備に向けて発砲。
「――――っちぃ」
相手操縦者は無念ながら、機体を後退。僚機と合流する。
「あの女。こっちが同じ部隊の奴だって知ってんのか」
「わかってるはずだ。指揮官なら、誰が乗ってるかくらい把握できている。告げ口くらいされてるだろ」
「クソが。腹ん中じゃ、俺たちを見下してたんだよ、やっぱ」
瞬間、態勢を立て直した〔バーカム〕がサブマシンガンを発射し、二機の〔ファークス〕を追い立てる。〔ファークス〕は散開せず、確実に通信ができる距離を保って回避運動をしている。
「セルムット軍曹。闇雲に撃っても、当たりませんよ」
コフィンは〔ギリガ〕電子戦装備を〔バーカム〕に並ばせて、二機の動きを観察する。アリスから相手が現在の同僚であることは聞かされている。だからと言って、癖を熟知しているわけでもない。打開策など思いつくはずもない。
「仕切り直しだろうが。わかってんだよ、そんくらい」
ノイズ交じりの通信に、リーンは怒りを抑えた声で返す。チャンスをものにできないでいる煩わしさ、足を引っ張っていることの悔しさ。賭け勝負は、コフィン・コフィンのために行っているのだ。なのに、彼女に助けられっぱなしなのが、どうにも気持ち悪かった。
コフィンはその苛立った声に、悲しい響きがある気がした。ニュアンスの問題かもしれない。だが、胸をつつく、些細な痛みを無視できなかった。
「落ち着いてください。もう一度、作戦を立て直して、――っ!」
警報。
〔ファークス〕通常装備のマイクロミサイルが迫ってくる。
すぐさま、〔ギリガ〕電子戦装備は〔バーカム〕を庇うように前に出て、EMPを発信した。見えない光速の波が、ミサイルの軌道を乱す。まるで、津波にのまれる船のように。
爆発。その光芒を潜るように、〔バーカム〕と〔ギリガ〕電子戦装備は回避した。
「どこだ? くそっ。見失った」
爆発を潜り抜けた先に、敵影は確認されなかった。完全に目を奪われ、逃してしまった。〔バーカム〕と〔ギリガ〕電子戦装備は停止して、周囲を警戒した。
「そんな……。ジェフナム少尉っ」
コフィンは点を仰ぎ見るように、控室でモニタリングしているアリス・ジェフナムに言った。彼女なら、敵の書斎を知っているはずだ。
リーンとコフィンのインカムにハスキーボイスが聞こえた。
「悪いけど、自分たちで考えなさい。敵も自力で見つけられないでは困る」
冷淡な一言。
実戦になれば、全体を眺める存在など母艦や輸送船、コロニーくらい。そこからデータリンクして所在を割ることはできるのだし、手助けしてくれてもいい状況だ。
だが、アリスはそんな限定条件下で戦えるなどと想定していない。前線に向かう〔AW〕は母艦から離れるために、データリンクなどほとんど受けられない。自力で探し出す能力がなければ、試験小隊に編入するどころか、勝つこともできないだろう。
コフィンはそんな、と口を動かして、周囲の警戒がおろそかになる。
その隣で、〔バーカム〕を操るリーンは円形に展開する戦闘軌道を発見する。おそらくは、樹たちのものだろう。囲まれて、ビーム・ライフルらしい閃光がいくつも乱射されている。苦戦を強いられている様子だ。
すると、戦闘とは違う光が一つ、いや二つ膨らんだ。
「あれは、まさかっ!」
リーンは背筋が凍るのを感じて、〔バーカム〕をその戦闘空域に飛ばした。
「あっ。セルムット軍曹」
コフィンも慌てて、〔ギリガ〕電子戦装備に後を追わせた。
「どうしたんですか?」
「相手は、ガキどものところに向かってる」
リーンは忌々しげに言う。そのせいか、操縦桿に力が入り、〔バーカム〕のバランスを崩してしまう。
「シュミレーターだからって、ここまでやんのかよっ」
姿勢制御をする〔バーカム〕の横を〔ギリガ〕電子戦装備が通りすぎていく。アフターバーナーをかけ、一気に加速していく。
リーンは止める言葉も見つからず、とにかくこの憎らしい機体の制御を優先した。
「…………」
コフィンは振動が激しくなった操縦席で、暗鬱な表情を浮かべる。
戦闘でうまくいかないのは、誰のせいでもない。ただ、相手の戦術が上手だった。それだけのことで、咎などありはしない。あるのは、死という現実だけ。
実戦ならば、戦死してしまう。だが、今回は違う。これはシュミレーションで、死ぬようなことはない。
だが、負けてしまえば、リーンやアリスにも被害が出る。彼女は自身の安全を考えるよりも、優しい周りの人が傷ついてしまうのが怖かった。他でもない、コフィン・コフィンという愚か者のせいで。
〔ギリガ〕電子戦装備はぐんぐん速度を上げていく。本来なら、操縦者の体を潰してしまいかねない負荷がかかっていただろう。
「戦況は……、苦しいところね」
アリスは控室の固定椅子に座って、適当に飲み物を吸いながらディスプレイを眺めていた。
リーンとコフィンが相手をしていた二機は、樹たちのところに向かっている。彼らもそれを察して、移動を開始している。一方で樹たちはまだ、一機も撃墜できずまごついていた。このまま合流を許せば、まず〔アル+1〕は撃墜される。明確な数の差だ。
「腐っても軍人。マニュアル通りの戦法ができてる」
陣形の組み方、戦術、判断力。申し分ない仕上がりだ。彼らとて、実戦経験より以前から何度もこうしたシュミレーション訓練を積み重ねてきたはずだ。
「もう少しまともな上官がいたら、彼らも報われるでしょうに」
性格云々は、アリスは認めるつもりはない。だが、それを抑制できる上官でもいたら、少しはまともだったかもしれない。リーンが殴った件も、十分管理がなっていない部類だが。
すると、控室のドアが開いた。
アリスは飲料パックのストローを咥えつつ、その方を見た。入ってきた人物を目を合わせるなり、彼女は慌ててストローを口から離して、椅子の正面をその人物に向ける。
「これは、バーグ中佐殿。何用で?」
アリスは入ってきた人物、レミントン・バーグに敬礼した。正直、敬意などないが、一応の礼節と驚きでついとってしまった行動だ。
「ああ。シュミレーション訓練をしていると聞いてな。ん? 相手がいるのか?」
レミントンは軽く手をかざしながらも、あざとくディスプレイに映る戦況図を見て、言った。
アリスは敬礼を解いて、ディスプレイに向き直る。ここで食堂の騒ぎについて暴露しようか、と考えたが却下した。一応、勝負は勝負。自分でした約束くらいは守りたい。
「ちょっとしたレクリエーションですよ」
嫌味のようなアリスの敬語を、レミントンは気にすることなく、ディスプレイに集中した。
「押されているようだな、君の部隊は? 一名違うが」
「ま、慣れない機体に慣れてもらうものですから」
「…………そうか。〔バーカム〕のデータは次期量産機の基礎になる。早く成果を上げろ」
「了解」
レミントンはそれだけ言って、出て行ってしまった。観戦していくかと思ったが、あれでも『ガーデン1』の最高指揮官だ。最後の〔イリアーデ〕を手に入れるためにも、打ち合わせでもあるのだろう。
アリスはそんな彼の背中を見送ってから、改めて飲料パックのストローを吸った。
「まったく、何しに来たんだか」
愚痴って、あくびを一つする。
戦況を眺める濁った瞳は、虚しそうに機体のマーカーを追っていた。戦況がひっくり返る瞬間を見逃さないように。




