~初任務~ 誤算が生んだ戦い〈前編〉
『新人類軍』側は、船首部を背後にしている樹たちの機体を頂点にしたピラミッドの陣形を取って、接近していた。敵にしてみれば、左右と頭と足元とを攻め込まれている状態だろう。
ハンスたちはブラックボックスの信号が急になくなったこと。そして、残骸とは違う三機の機影を発見し、攻勢に出た。音とアリスのやり取りもセンサが捉えていたが、あいにく距離やデブリに阻まれ、どちらがブラックボックスを持っているのか判断付かなかった。
「どうせ、デカブツかあの奇妙な〔AW〕が持ってる……」
ハンスは言って、まずガトリング砲の照準を〔アル+1〕に合わせる。大きさこそあれ、あの機体の加速力は馬鹿にならない。いま落としておくのが無難だろう。
電子戦装備の妨害の出力ゲージを一瞥して、火器管制システムが有効に働かない距離だと推し測る。敵の下方、ちょうど三機を下から見上げる位置にいるハンス機は、デブリに阻まれながらも、〔ミリシュミット〕の軽やかな軌道で接近していく。
ほかの三機も十分に距離を詰めて、集中砲火を浴びせようという算段だ。それくらいはこの陣形を取ってからわかっている。宇宙空間での作業をしてきたハンスたちには、味方の一挙手一投足の所作から言葉よりも早く意図を理解する。軍人のハンドサインみたいなものだ。それが『地球平和軍』に理解されるかと問われれば、ほとんどのものが首を横に振るだろう。
無線やレーダーの機能を失っても、意思疎通ができるのはいいアドバンテージだ。
「――――樹、いいわね?」
「はいっ」
「まだ、引き付けられる……」
アリスから全員に〔アル+1〕の離脱作戦が簡単に説明され、各々が緊張の面持ちで敵の動きを限界までひきつける。
リーンの役割はまずモニタに映る四機の敵の動きから、リーダー格を見定めることだ。彼は今までに戦ってきた敵の動きや連絡動作を記憶と照らし合わせる。地上の戦闘とは違う特異な陣形だが、根っこの部分、指揮系統は小隊長が何らかの合図を送っているはずだ。
「あの機体か……。各機、頭上の敵に注意しろ」
リーンは頭上から攻め込んでくる標準的なレールガンを構えた〔ミリシュミット〕通常装備だろうと目星をつけた。レールガンの銃口を目に見えて揺らし、空いているマニピュレーターがだらりと下げられ、末端部を回転、逆回転とせわしなく動いている。そんな細かい所作はただの故障にも見える。が、残り三機の位置関係を考察の式に加えると、見やすい位置にある。
「あとはタイミング」
「敵との相対距離、三〇を切ったわ」
「まだ、来ない」
樹たちは緊張で心臓が爆発しそうなほど高鳴る。すぐにも機体を発進させたい衝動に襲われた。迫りくる敵と向けられる銃口と殺意。通常モニタからでも、ひしひしと伝わってくる。
「…………」
アリスの操縦桿を握る手に、力がこもる。今下手に動いたら、確実に集中砲火を浴びせられる。誘いで動いてみても、やはりリスクが高い。敵の洞察力は宇宙空間での作業で培われ、並みの軍人なら先手を打たれるだろう。
だが、アリス試験小隊は腕だけを買われたやっかまれ者、アリスとリーンがいる。もちろん、樹たちの腕は新兵にしてはいい方だし、よく機転が利く。それでも、アリスとリーンの腕前は彼女たちの比ではない。
「誘っているのか? 『幻覚』で一網打尽にする気か?」
『新人類軍』の隊長は足元に映るアリス試験小隊が微動だにしないのを見て、予測を立てる。が、そのひと時の悩みは、すぐに捨て去る。ならば、敵を散り散りにして、各個撃破るまで。
隊長機のマニピュレーターがハンドサインを味方に見せる。
『ハンスたちは隊長機の牽制射撃と同時にデコイに隠れ、回復したところで敵に総攻撃を仕掛ける』といった内容だ。隊員たちもそれを了解して、軽く機体を上下に動かした。了解のサイン。
だが、その動きは迂闊だった。
「彩子、敵、動くっ」
「りょーかいっ。『幻覚』使うわよっ」
音はその見慣れた敵の挙動に、いち早く気づいて彩子に言った。彼女も元は宇宙での建設業に従事していた少女だ。〔AW〕のハンドサインや身振りは覚えている。音の存在は敵には脅威だろう。
瞬間、〔アル+1〕は頭部の三つの角、ブレードアンテナから高周波圧縮パルスたる『幻覚』を照射。周囲にいる〔AW〕のセンサがその信号が持つ許容以上の『重み』を受けて、一気にシステムダウンを起こす。
「何っ! このタイミングでだと」
牽制射撃をしようとしたところで〔アル+1〕の『幻覚』を受け、モニタがフリーズ。操縦桿を動かしても、射線を外したレールガンの銃口はピクリとも動かない。タイミングを外された。
「やったな!?」
ハンスたちが驚き、四機の〔ミリシュミット〕は慣性だけで前進する。完全にタイミングを外されたことと操縦不可能で、四機はデブリに衝突しピラミッド陣形を崩壊させてしまう。
樹はその様子を一瞬捉えて、すぐに〔アル+1〕を動かす。出力が低下しているが、〔バーカム〕と〔ファークス〕実験型の肩部を掴んで運ぶのには問題なかった。
〔アル+1〕は大きなマニピュレーターでしっかりと味方二機を掴んで、背部と肩部のバリアブル・バーニアを展開して一気に上昇をした。小さなデブリは体当たりで弾き飛ばし、可能な限り敵との距離を開ける。
ドガンッ、ガッ、バキッと樹たちの操縦席に振動と異音が響く。
「よしっ。回復したぞ。後は任せろっ」
「了解。離すよっ!」
〔バーカム〕のシステム復旧を確認したリーンは、樹たちに報告した。〔バーカム〕の足元で敵のノズルが光る。向こうも復活したようだ。
〔アル+1〕から解放された〔バーカム〕はすぐに機体正面を下に向ける。敵は二組に分かれ、デブリを目隠しに攻め込んでくる。
「遮蔽物があったって、動き回ってんじゃっ」
リーンは〔バーカム〕にサブマシンガンを構えさせ、デブリの中を走る閃光に照準を合わせる。広く展開しないところ見ると、一機を確実にしとめる気だ。
〔バーカム〕はタイミングを計って、サブマシンガンをセミオートで発射。射程外でもお構いなし。惜しくも〔ミリシュミット〕一機の横間をすり抜けて行った。やはり、火器管制システムと機体の相性が悪い。それでも、あと一歩で命中させられそうなのは一重に、リーンの感性の賜物だ。
すると、身を隠さない〔バーカム〕を不審に思ったのか。敵の〔ミリシュミット〕一組が動きを止め、デブリに隠れた。もう一組、ガトリング砲を構えたのと、二丁の大口径レールガンを携えた〔ミリシュミット〕は遮蔽物を使わない直進攻撃を仕掛けてくきた。
「その武器は短いんだよ!」
「――――っ」
二丁の大口径レールガンから光が迸った。銃口のマズルブレーキからプラズマの青い光が十字に散る。
それよりも早く、リーンは息を飲んで〔バーカム〕を横間のデブリに隠そうとした。が、鋭敏な反応を示す操縦桿がスラスターの出力を上げ過ぎ、〔バーカム〕のバランスを崩す。
レールガンからプラズマをまとった弾丸が、無様に横向きになった〔バーカム〕の足元を通過、もう一弾が近くのデブリを貫通する。
「クソッ。運のいい」
「焦るな。あの様子なら、大した実力じゃない」
態勢を整え、デブリに身を隠した〔バーカム〕を見て、ハンスはそう評した。見たところ発信翼はない。通常装備ならば、『幻覚』を警戒してくるだろう。
「見たことない機体だが、破壊しておこう」
ハンスは〔バーカム〕を知らなかったが、〔ファークス〕の発展系であることはなんとなしに感じ取っている。問題なのは、ずっと先に光る六つの閃光だ。コインほどの大きさしか見えない〔アル+1〕が高速でこの空域から逃げようとしているのは明白だ。
それを後方の隊長機たちがデブリの陰に隠れて、迂回して追っている。まだ間に合う距離にあるが、いそがなければ見失ってしまう。
「ったく、大丈夫だろうな。つか、作戦とちげぇし――――」
リーンが愚痴を吐き捨てる。心臓がバクバクと高鳴り、肺が苦しくなる。
と、〔バーカム〕の横をを大口径レールガンの閃光が走った。いそいで別のデブリに取り付く。この機体の瞬発力なら、『幻覚』の範囲内ぎりぎりからなら、影響は最小限に済む。敵だって、仕留めるために有効射程にまで来た〔バーカム〕の動きを封じたいはずだ。
当初の予定では、リーンとアリスで敵四機をここに足止めすることになっていた。だが、何の手違いか〔ファークス〕実験型は、〔アル+1〕に連れて行かれた。どんな事情があるにしろ、いきなりのプラン変更に頭が痛くなる。
それでも、一組が〔バーカム〕に狙いを定めてくれたのは僥倖だが、〔アル+1〕を追ったもう一組はアリス一人で対処しなければならない。そのあたりは隊長たる彼女の強さを信じるしかない。
「レーダーは当てになんねぇか……」
敵がすぐ近くにいるのは、わかっている。だが、向こう同様位置がつかめない。一人でこの分の悪い状況に立たされたことに、怒りよりも徐々に懐かしさが大きくなっていた。
「光りは一瞬、か。余程の瞬発力らしいが、間違いない。近くにいる」
「だったら、燻し出すまでだ」
瞬間、〔ミリシュミット〕二機は背中合わせになって、停止。周囲にあらん限りの弾丸をぶっ放した。弾丸の嵐が巻き起こる。近くにあるデブリは大小問わず、破壊され粉々になっていく。
「――――っく!」
リーンは慣れない〔バーカム〕を一気に下降させ、敵の下に回り込む。
〔バーカム〕はサブマシンガンの照準をハンス機の発信翼に狙いを定める。電子戦装備さえ使用不能にしてしまえば、勝機はある。
だが、そのハンス機がガトリング砲の斉射をいったん止めて、銃口を下に、〔バーカム〕に向けた。謀られた。
それでも、リーンは〔バーカム〕にサブマシンガンをフルオートで斉射。ハンス機とその僚機も回避運動を取りながらも、〔バーカム〕に応戦する。
両者は距離を詰めたかったが、リーンには敵の隙を突かない限り勝ち目はない。だから、デブリを盾にして距離を空けていく。それも、自分のサブマシンガンが届くぎりぎりの範囲を保ってだ。
このじれったい攻防に、ハンスは根気勝負と腹を据えて〔バーカム〕を追う。〔アル+1〕追撃は考えない。背を向ければ、〔バーカム〕に狙い撃ちされるのは目に見えている。だから、自分たちの隊長を信じるしかないのだ。
「賢い操縦者だが、いずれボロが出る……」
僚機を伴って、ハンスの〔ミリシュミット〕電子戦装備はデブリ群の間を駆ける。
〔リンカー〕の残骸空域を抜けてすぐ、アリスは樹たちと別れた。あたりに壁となるデブリは見当たらない。宇宙という広大で見晴らしのいい場所だ。しんと張り詰めた空気がパイロットスーツ越しからも伝わってくる。
「やられたわ。まさか、ここまで使えないなんて……」
アリスは〔ファークス〕実験型のいやらしい性能に愚痴りながら、追ってきた敵一組の応戦に入っていた。電子戦特化のセンサーマスクが『幻覚』の効力を倍近く受け止めてしまったのだ。OSもシステムへの過負荷に復旧が遅れてしまい、予定とは違う行動をとることになった。
一方で〔アル+1〕は全速力で〔シーカー〕との合流に向かっていた。そちらに後は任せるしかない。
「邪魔な機体だなっ」
追ってきた〔ミリシュミット〕隊長機のレールガンが、〔ファークス〕実験型に向けられる。青白い閃光とそれをまとった弾丸が吐き出される。
「隊長、あまり接近すると『幻覚』にやられます」
僚機の〔ミリシュミット〕電子戦装備は隊長機を庇うように前に出る。榴弾砲を構えて、容赦なく放った。
〔ファークス〕実験型は頭部バルカンで向かってくる榴弾を撃破。爆発が、三機の〔AW〕の視界を奪う。
アリスは重心のおぼつかない〔ファークス〕実験型の態勢を立て直して、敵の横間合いに移動。まだ、気付かれていない。すかさず、ロングバレル・レールガンの照準を電子戦装備の〔ミリシュミット〕に合わせて発射する。
「――――っ!?」
その反動をスラスターで相殺しきれず、射線が外れた。敵には当たらずあらぬ方向へ光が走っていく。
「どうなってるの。ちゃんと計算したんでしょうねっ」
アリスは悪態をついて、すぐに〔ファークス〕実験型の回避運動を始める。敵がレールガンを撃ちまくって、後方へ追いやられる。上下左右に機体を振り、回避運動。頭がぐらつく感覚に、彼女は必死に吐き気を我慢する。
「ろくな機体じゃないようだな。いい気に押し込むぞ」
「了解」
〔ファークス〕実験型の動きを見て、やはりハンス同様の評価をした。〔ミリシュミット〕二機は〔ファークス〕実験型を執拗に追い回す。本当のところは〔アル+1〕の追撃に出たかったが、すでに機体の影を見失っている。ならば、今意地らしく回避する敵の適当に戦力を奪って、操縦者に聞き出す方が合理的だと思った。
そして、〔ミリシュミット〕隊長機がレールガンを連射しながら、一気に肉薄する。〔ファークス〕実験型の『幻覚』が発動しても、僚機がカウンターで『幻覚』を放てば、復旧の時間差で撃墜できると思ったからだ。
「今度こそ、うまくいって」
アリスはレールガンの猛攻を回避しつつ、接近してくる〔ミリシュミット〕が開いているマニピュレーターから十徳ナイフを展開したのを目にした。大した自信だ。『幻覚』の時間差攻撃を狙っている。
しかし、アリスは『幻覚』を使おうとは思わない。
〔ファークス〕実験型は盾の裏側についている箱の一つを切り離し、宇宙へと放った。いや、置いたのだ。
「なんだ。弾倉を取りこぼしたか」
隊長は目の前に浮かぶ箱を弾倉と見て、機体をさらに加速させる。〔ミリシュミット〕が設置された箱に近づいた。僚機も隊長の意図をくみ取って『幻覚』の準備に入る。
瞬間、その箱が爆発。巨大な熱エネルギーが〔ミリシュミット〕隊長機を飲み込んだ。しかも、その規模は榴弾砲の威力とはけた違いの破壊力で、追随していた敵までも飲み込もうとしていた。再度、視界が奪われる。
「なんだ。これは――――」
〔ミリシュミット〕電子戦装備の操縦者は、驚きながらさらに大きな爆発が起きるのを見た。隊長機が爆発した。隊長があっけなく殺された。
彼の頭が客観的に状況を捉える。操縦者は〔ミリシュミット〕を後退させようと操縦桿を引いた。またどこからか狙撃される可能性があったからだ。
周囲に視線を巡らせても、敵影はない。動くものは何もない。そう、何も動いていない。
「――――っ! あぁっ」
そこでようやく、自機がシステムダウンしていることに気付いた。システムが復旧する。
そして、モニタに〔ファークス〕実験型がロングバレル・レールガンの銃口をちょうど〔ミリシュミット〕の腹部に押し当てているのがわかった。
「――――っん」
操縦者が聞いたのは女性の息を飲む声だった。女に殺されるのか。それが彼の最後の思考だ。
アリスは操縦桿のトリガーを引いて、無慈悲に〔ミリシュミット〕の腹部、操縦席を撃ち抜いた。
〔ミリシュミット〕は動きを完全に停止。ジェネレーターの爆発はなく、宇宙のデブリとなって流れていく。
「運が良かっただけね……」
アリスはサブ・モニタに表示される機体情報を見て、一息吐いた。
その中に指向性エネルギー兵器試作六号、CB6の残弾を告げるものもあった。これはミサイルの軌道を外す時に使う瞬間電磁パルスや『幻覚』などの強い電磁波に反応することによって起爆させる機雷。妨害の程度にもよるが、基本的に起爆波長のプロトコルは直前で設定できる。盾の裏にマウントされていた箱だ。
敵はこの存在を知らなかったから爆発に巻き込まれ、加えて『幻覚』の追撃を受ける結果となった。
「こんな危険なもの。持たせないでほしいわね」
アリスは〔ファークス〕実験型の盾を見てつぶやく。〔AW〕を軽々と飲み込む爆発物が残り三つもあると思うと、妙な圧迫感を感じずにはいられない。今回はうまく起爆させられたからよかったものの、起爆できなものだったら、それこそ特攻兵器だ。
それから、〔ファークス〕実験型は重心がブレながらも回頭して、残骸が浮かぶ空域に向かった。
一目散に〔シーカー〕に向かう〔アル+1〕。
その操縦席で樹たちは不安を抱えていた。〔ファークス〕実験型の不具合で作戦通りにいかず、リーンを一人にしてしまったことや、アリスが責任を感じてか二機を相手にする状況になってしまったこと。経験の低い彼女たちからすれば、物量で劣っている分負けてしまうのでは、と考えてしまう。
それが安易な数式であるのは、頭が理解している。アリスとリーンの腕が弱いとも思いたくない。だが、後ろで起きた大きな爆発に心が締め付けられた。
「せんせ、だいじょぶ、かな……」
「…………」
「…………」
音のつぶやきに、樹も彩子も閉口する。まだ妨害領域を抜けない限りは、味方の識別信号もわからない。
「今からでも戻って、加勢しましょう。じゃなきゃ、先生さんや軍曹が――――」
「ダメ。今はブラックボックスを届ける方が先」
「でも、これじゃぁ、あたしたち、何のためにここにいるのよ!?」
樹の淡々とした物言いに、彩子がヒステリック気味に叫んだ。
何のためにここにいるのか。彼女たちは戦争を終わらせたいと決心したはずだ。だが、実際に戦闘が起きてみると足手まといでしかない、と痛感させられる。前の二回の出撃は運が良かっただけで、本当のところ役立たずなのではないか。敵を二機撃墜したのも、まぐれだったのではないか。
そうした負い目が彼女たちに重く伸し掛かる。
しかし、樹はきっぱりとそれら負の感情を振り払うように言う。
「先生は言ってた。任務を全うしろって。一番速いのはこの機体だって。適材適所を言っているなら、妥当な判断だし、何よりブラックボックスを預けた。それって、信用されてるってことでしょ?」
「妄想よ、そんなの」
「信用できなかったら、何もできない。だから、早く面倒な任務を終わらせて、援護に行こうっ」
理想論だ、と樹自身思うところはあった。アリスやリーンにどう思われてるかなんて、本当のところわからない。それでも、アリスの言う任務だけは完遂しなければならない。
「いつまでも、わがまま振りかざしてる場合じゃないんだよ」
樹は言って、〔アル+1〕を加速させる。
暴力的な衝撃が三人の体をシートに押し込める。だが、一刻も早く辿り着かなければ、その分援護にかける時間も延びてしまう。
がたがたと揺れる操縦席。
その中で音は思った。
樹の考え方は、取り返しのつかない状況を作ってしまうのではないか、と。




