~初任務~ 探索
小型輸送船〔シーカー〕が逆噴射を駆けて、漆黒の宇宙で停止する。燦然と輝く、巨大な月が今にも降ってきそうなほど、近くに見える。星々の輝きはまるで道しるべのように、ちりばめられていた。
しかし、ここは人が生身でいられる環境ではない。宇宙服を隔てた先は、人を死に至らしめる空間。
樹たちは船外に出て、係留ワイヤーを伝って、〔アル+1〕に向かっていた。もともと、〔アル+1〕のような超巨大〔AW〕を輸送することなど想定していない設計だ。係留ワイヤーで無理やり、船底に固定している。
「ちょ、こ、怖い……」
宇宙の黒に恐怖心を煽られた彩子が情けなく、腰砕けになってワイヤーにしがみ付く。宇宙に出て間もない彼女には、それに関する知識も乏しい。漠然と、人が生きていけないのを知っているくらいだ。が、宇宙服越しから伝わるひんやりとした嫌な感触。絶対的に危険なものであると本能が叫んでいた。理屈抜きの恐怖がここにはあった。前の戦闘の時は、必死になりすぎて考えている余裕などなかったのに。
「何してるの? ワイヤーを伝って〔アル〕だけを見てればいいの」
「彩子、手繋ぐ?」
先行していた音は彩子のもとに引き返す。
樹はすでに〔アル+1〕の頭部にたどり着き、二人が来るのを待った。
「さすがにまだ、宇宙遊泳は怖いかも」
彩子は隣に来た音の手を取って、ゆっくりと〔アル+1〕へ移動していく。
「音っ。彩子をお願いできる?」
「あい。まかせてっ」
音がはつらつとした声が、ヘルメットに内蔵された無線機に走った。
樹は音と彩子に一度、大きく手を上げて頭頂部のハッチへ体を滑り込ませた。
「起動、準備…………、よし」
樹はハッチを閉じて、シートベルトを締める。メインコンピューターの起動。メインモニタにOSのロゴが表示され、数秒ののち真っ暗な宇宙が投影された。これで、他の操縦席も連動して、立ち上げる時間が短縮できるはずだ。
彼女が機体のステータスを確認している間に、彩子、音がそれぞれの操縦席について、ハッチを閉じていた。それから、シートベルトをして、モニタを起動させる。
「ごめん。手間取らせて」
「いいよ。係留ワイヤー、外して」
映像つきの内線通信が繋がり、彩子の申し訳なさそうな声がヘルメットのスピーカーから聞こえる。
樹はバイザーを上げながら、〔シーカー〕の操縦室に頼んだ。
すぐに、係留ワイヤーが〔アル+1〕から解かれる。それから、〔アル+1〕の肩部のバリアブル・バーニアを展開、機体を下に押し付けるように軽く噴射した。
ゆっくりと機体は〔シーカー〕から離れ、残り四基のバリアブル・バーニアを花開くように広げる。
「ちょっと、偏りすぎたかな……」
樹はウィンドー表示した肩部のバリアブル・バーニアとラダーペダルの連動を確認する。遊びは彼女好みに調整されているが、少し重い感触があった。
修復したバリアブル・バーニアの調子を見てから、ゆっくりと〔アル+1〕を前進させる。
彩子と音も一通り機体の状態を確かめるとバイザーを上げる。少しでも、密閉された感じから抜け出したいのだ。
〔アル+1〕が発進したのを見計らって、〔シーカー〕上部で待機していたリーンの〔バーカム〕、アリスの〔ファークス〕実験型が船体から離れた。
「何も待つ必要はなかったんじゃねぇか?」
「少しは後輩に気を遣いなさい、リーン軍曹。船体が揺れたら、ますますあの子が怯える」
リーンとアリスは無線の固定チャンネルで短い問答して、機体を〔アル+1〕の横まで加速させる。二人ともヘルメットのバイザーを上げており、気持ちに余裕があった。それから、併走しオープンチャンネルに切り替える。
「三人とも、船の残骸は捉えているわね?」
「あい。月、照らしてる」
音はメインモニタに映っている散乱している〔リンカー〕の残骸を見据える。月を背にして、その影を浮き彫りにしている。
アリスは半目をさらに細めて状況を推察。それから、コンソールパネルを操作して、パルス信号の受信領域を上げる。もう、ブラックボックスから発せられる救難信号も弱まっているらしく、反応が微弱だ。
「頼りにならない……。彩子、そっちで信号キャッチできる?」
アリスは実験兵装の信頼性のなさに、愚痴る。
一方でアリスの英語での指示に、一瞬彩子は首を捻って意味を考える。先ほどまで英会話を聞いていたが、彼女の英語にはどこかイントネーションのクセが違っていた。
「信号をキャッチしてる、だって」
樹は彩子の困った顔を察して伝えた。だが、毎度こうして通訳するのは骨が折れるなと思った。
「ああ、了解。やってやるわよーっ」
彩子は口の端を吊り上げて、不敵にほほ笑んだ。コンソールパネルを指先で叩き、U字の出力装置を展開させ、電子戦用モニタを呼び出す。
「樹、推進装置切って。プラズマが邪魔みたい」
「もう慣性で動いてる」
それを聞いた彩子はすぐにスロットルレバーを握り、捜索に入る。
通常モニタと連動させて、救難信号の発信源を探す。受信領域最大。レーダー解析。考えられる手段で、捜索範囲を広める。太陽風の影響は微弱、そこまで困窮する場面ではない。
「えぇっと…………」
電子戦用モニタの波形グラフに反応は微弱。さざ波程度の揺れしか観測できない。やはり、元の発信が弱いか、何かに阻まれていると考えるのが妥当だ。
アリスも自機の波形を見て、その考えに至った。
「各機、散開して捜索開始」
そう宣言すると、アリス機がスラスターを噴かして、一気加速していった。一瞬、機体がつんのめるが何とかバランスを立て直す。
「ああんっ、もう。わかんなくなった。樹、接近して」
「わかってる。いくよっ」
「あい――――」
瞬間、〔アル+1〕のバリアブル・バーニア六基が咆哮を上げるようにプラズマ光を放って、アリス機を追った。
出遅れたリーンも二機に続こうと、〔バーカム〕のスラスターの出力を一気に上げた。
すると、〔バーカム〕のスラスターが爆発したように閃光を放ち、機体が宙返りする。
「う、おお――――っ」
リーンは遠心力で投げ出されそうな感覚に苛まれながら、操縦桿とラダーペダルを小刻みに調整する。
だが、体中にあるいくつものサブ・スラスターが姿勢制御システムと連動して、脚部や肩部、下腹部、腰部と噴射する。が、その出力が強すぎて、さらに宇宙空間でもがく形となった。
「っ! 鋭すぎなんだよっ!」
リーンは呻いて繊細に、まるで針に糸を通すかのような操縦を心がける。
「赤毛さん、お困り?」
「放っておけばいいのよ」
「わたしたちをバカにした罰が当たったのね」
樹たちは後方のカメラがとらえた、リーンの〔バーカム〕の映像を見て言った。もがく姿は、とても滑稽だ。偉そうに批難していたくせに、無様な操縦を見せてくれる。
「クソォ。言うことききやがれって」
リーンの機体をしり目に、〔ファークス〕実験型、〔アル+1〕は撃墜された輸送船〔リンカー〕の残骸を避けるように左右に展開した。〔ファークス〕実験型が右へ、〔アル+1〕が左へ宇宙に散らばった残骸をぐるりと回る。
残骸は大きめの鉄塊や、鉄板に変わり果てている。〔リンカー〕の原型などありはしなかった。いや、よく観察すれば、船首と船尾が申し訳ない程度に形を残している。時折、人の形をしたものが残骸に引っ掛かっているか、突き刺さっている。一週間もたつというのに、その光景はついさっき起きたかのような悲哀をまとっていた。
「反応はまだ微弱ね……。なにかが遮ってる?」
アリスは〔ファークス〕実験型のバランスに気を付けながら、減速し最低限の推進装置で機体を移動させる。しかし、機体の重心がごてごてとつけられた実験装備のせいで、おかしくなっている。再設定しても小刻みな揺れはまだ収まらない。
一方で樹たちは一週間前、『サテライト』から逃げ出してきた時と状況を重ねて、胸が苦しくなった。あの時のまま、ここだけ時間から取り残されたように漂っている。鉄骨に串刺しになった宇宙服を見つけて、三人は戦慄してすぐに機体を回頭したい衝動が襲い掛かる。
しかし、それでも、彼女たちはこの惨状の中にあるブラックボックスの捜索を断念しない。注意深く、神経をとがらせて、残骸の中を観察する。
「どう? 反応ある?」
樹は喉の奥がひりひりするのを感じながら言う。
「ダメ。一旦機体を止めてくれる」
顔面蒼白の彩子の要求に、樹は〔アル+1〕を止める。
急に機体の駆動音が静かになって、操縦席に静寂が降り立る。先ほど、宇宙遊泳したときほどではないが、音がモニタに映る残骸の景色に吸い込まれていく感じがした。死者が生者を引き込むかのように。
そのせいか、音は急に悪寒を感じて身震いした。
息遣いが耳に残る。深い記憶の息吹を思わせる。思い出したくない体験が、音の頭の中に浮上してきそうだった。
「あれ? これって…………。樹、前進して」
「了解」
彩子と樹のやり取りと機体の振動音が、音の緊張をほぐす。
「どうしたの? 音」
「あうっ。だ、だいじょぶ」
樹の心配そうな顔に、音はひきつった笑みを浮かべるので精一杯だった。今は任務に集中しなければならない時だ。昔のことは、思い出す必要はない。
残骸をかき分けるようにして進む〔アル+1〕。その巨体ゆえに、どうしても障害物があるところでは小回りが利かない。
それとは逆に、アリスの〔ファークス〕実験機は残骸を縫うようにして残骸の密集空域を進んでいた。身を隠せるほどの鉄塊を横切り、〔AW〕がサーフィンできそうな鉄板を下にして通過。レーダー図を一瞥すると、そこここに残骸の影を捉えていた。
「動力部を直撃したんじゃないの……?」
アリスは周りを見て、違和感を覚える。核融合エンジンに直撃があったらな、跡形もなくなくなっているし、そもそもブラックボックスなど存在しない。報告書にも目を通してきたが、明確なことは記載されていなかったと思う。
「これは、ちょっと変ね」
アリスは〔ファークス〕実験機の受信波形を確かめながら、ゆっくりと船首部のほうへ機体を流した。ふと右上のほうから、逆さまになってくる〔アル+1〕の影が同じ方向に進んでいるのを捉えた。どうやら、あたりらしい。
「先生さんの機体が来るってことは、当たりじゃない?」
彩子が受信波形を見ながら、樹と音に言った。
すると、アリスからの通信が入った。
「どうやら、このあたりのようね。ところで、リーン軍曹は?」
樹たちは口をそろえて「あれ?」と素っ頓狂な声を上げる。
言われてみれば、先ほどから〔バーカム〕の姿がない。まだ宙返りを続けているのだろうか。三人がそう思った瞬間、リーンの声がこだました。
「あれ? じゃねぇっ! ようやっと追いついた」
隊の女性陣は顔を顰める。いきなり大声を出すものだから、彼女たちの耳に甲高い異音が残った。
「君は、もう少しスマートな対応ができないの?」
「っるせぇ。隊長が階級は抜きにしろって言ったんだろうが」
リーンは〔バーカム〕を慎重に船首部に近づける。少しはコツをつかみ、機体を満足とまではいかないが、移動くらいはできるようになっていた。
アリスはその順応性だけは認めるが、リーンの口の悪さに称賛を送れなかった。
「女々しいこと言っちゃって」
樹は一人ぼやいて、改めて〔リンカー〕の船首部を見た。ラインが歪んで見えるがそれ以外は、大した損傷はなさそうだ。
「先生。これからどうするの?」
「発信源はどうもこの中かららしい。仕方ない、あたしが中を調べる。樹たちは周囲の警戒を」
アリスは通信にそう答えて、〔ファークス〕実験型を船首部の先端、操縦室のあるところに回り込ませる。そのあとを〔アル+1〕と〔バーカム〕が追った。
爛々と光る月に背を向ける〔ファークス〕実験型。操縦室の割れたフロントガラスに、腹部を近づける。追随する二機が〔ファークス〕を挟み込むようにして、背中を向い合せる。だが、〔アル+1〕は二機よりも大きく、まるで親が小さい子供たちと背を向けあっている感じだ。
「いい? 何かあったら無線で連絡。不用意に動かないで」
アリスの命令に、樹たちの「了解っ」という声が無線を通じて各機に伝わる。
それから、アリスはバイザーを下げて、シートベルトを外す。船外活動の準備に取り掛かった。
「彩子、聞いてる?」
「え? あ、うん」
彩子はアリスの日本語に驚いて、返答がつっかえる。先ほどまで英語で統一していたので、新鮮に聞こえた。
「そっちのセンサで船首を――――、いや操縦室をスキャンできる?」
「やってみるけど、うまくいくかしら?」
「やりなさい。うまくいかなくても」
アリスはシートの下にある、工具を引っ張り出して、パイロットスーツの腰についているプラグワイヤーを操縦席のプラグに差し込む。
プラグワイヤーはパイロットスーツ、ヘルメットと〔AW〕の通信ケーブルであり、命綱だ。これで、ヘルメットに内蔵されている無線よりはっきりと交信ができる。
「了解。顔だけ舳先に向けて」
彩子がそういうと、樹が〔アル+1〕の頭部を左に向ける。操縦席のフロントガラスを捉えた。
「それじゃ、よろしく」
アリスは操縦席の空気が抜けたことを確認して、前のハッチを開いた。まだ残っていた空気が吐き出される。体が引っ張られた感触を覚えて、それからゆっくりと彼女は工具箱を持って〔ファークス〕実験機から降りた。
樹たちが見守る中、アリスの手が割れているフロントガラスを触れた。鋭利にとがったガラスに気を付けている様子だ。
そうしている間にも、〔アル+1〕のスキャン作業が終わっていた。
彩子は電子戦用モニタに映し出された画像を見据える。さすがに内部構造までは把握できず、外観の枠線だけだった。だが、舳先の少し下のほうに、電波の波紋がされている。
「先生。下の方に発信源らしいものがあるわ」
「わかった。画像を送ってちょうだい。やっぱり、操縦室の床下かな……」
アリスは慎重に割れたフロントガラスに細い体躯を滑り込ませる。人ひとりが通れるほどの幅。おそらく、操縦士が爆発の衝撃で投げ出されたのだろう。胸やお尻の出っ張りに注意しながら、何とか操縦室に潜入することに成功した。
「大変そう。大丈夫かな……」
「おらっ。電子戦以外は周囲に目を向けろ」
「わかってるよ、それくらい」
「口悪いぃ」
樹と音はリーンの口の悪さに辟易しながら、〔アル+1〕の頭部を元に戻した。もうスキャンする必要もないだろうし、視界は多く取りたい。
「画像、送るよー」
彩子が圧縮加工したスキャン結果を〔ファークス〕実験機に送った。すぐに〔ファークス〕実験機のメインコンピューターが自動解凍。
アリスはその報告を耳に入れていたが、視線の先にあるものに気を取られていた。
シートに座ったままの人の死体だ。機長か副操縦士だったろうその人は、宇宙服ではなく白衣姿だった。が、その白衣は赤黒く染まり、手足が無重力で力なく浮かんでいる。真空状態にさらされた人間の末路。目も落ち窪み、見える肌はミイラのように枯れ果てていた。
「先生? どうしたの?」
「…………っはぁ。大丈夫よ。画像ありがとう」
アリスは肺にたまった苦い息を吐き出し、通信してきた彩子に毅然として答えた。それから、目を伏せて、胸の前で小さく十字を刻んだ。気休め程度だが、冥福を祈る。
そして、戻ってきてしまったと実感した。場所は違えど、ここは戦場。人の命がいともたやすく消えていく場所なのだ。また、眠れない日々を思い出すことになるだろう。なにより、樹たちの目に触れなくてよかったとも思った。
アリスは軽く頭を振って、邪念を追い払う。今は任務が先だ。ヘルメットの側頭部についているボタンを操作して、バイザーのHUDに送られてきた画像を出力する。彼女の思った通り、画像を見る限り操縦席の床下にあるようだ。加えて、そこまで深くない。すぐに取り出せるだろう。もう一度ヘルメットの側面のボタンを操作して、画像を視界の端っこに寄せる。
「よし。これから、回収作業に入る」
一言告げて、アリスはもう一席のパイロットシートに足をからめて、体を床に押し付ける。画像と位置を推移して、ポイントを見定める。この読みを外したら、回収作業は大きく時間を食う。
持ってきた工具箱を開けて、プラズマ切断機を手にした。あとは、一緒に切断しないよう用心深く、そして天に運を任せるしかない。防眩加工がされているとはいえ、ヘルメットのほうも心配だ。
それでも工具箱のジェネレーターにスイッチを入れ、プラズマ切断機の噴射口を床に接触しないぎりぎりの位置にして手元のトリガーを引いた。瞬間、まばゆい閃光が操縦室を包み込んだ。
「先生さん、工場で働いてた経験でもあるのかな?」
彩子はフロントガラスから放たれる閃光に気を取られていた。通常モニタの防眩処理でいくらか見やすかったが、点滅する光りに目が痛くなる。その中で、作業をしているアリスはそうとうきついはずだ。
「知らない」
樹は周囲に視線を走らせながら、淡々と言った。
その無線から流れてくる会話が日本語でも、リーンには任務と関係ないことだということはわかった。だが、咎める気も起きず自分だけでもと周囲を見渡す。
「音はどう思う?」
「…………」
「……、音?」
彩子の呼びかけに、音は答えない。
ただ、月の一点をじっと睨みつけていた。彼女だけが、違和感を抱いている。まだ明確な形を持たず、だがすぐにも体現されるだろう予感。
「樹、頭、月向ける」
「……?」
いつになく緊張した音の声に、首をかしげながら樹は〔アル+1〕の頭部を今度は右に向けた。ちょうど、通常モニタが巨大な月を正面に捉える位置だ。
音は〔アル+1〕の側頭部についている回折式カメラを最大望遠。月のある一点を拡大表示した。
そして、ウィンドー表示された粗い画像を見て、悪寒が走った。
「彩子っ! これっ」
「ん? 何よ。また解析作業か……」
「早く! 早くっ!」
彩子は音の興奮具合を見て、すぐにも送られてきた画像を解析する。
音の緊迫した声に、小隊全員に緊張が走った。
アリスは回収作業の手を休めて、報告を待った。人ひとり分くらい円を描くように切断しており、大体三分の一が終わている。下の耐圧クッションだろうか、煙がもうもうと上がってくる。
数十秒の解析時間が、おそろしく精神をすり減らす。
そして、〔アル+1〕の操縦者たちがいち早く解析結果を目にした。
「嘘……」
「冗談よね?」
樹と彩子が目を見開いて、驚いた。音は忌々しげに奥歯をかみしめる。
樹と彩子の声の雰囲気が怪しくなったのを察して、リーンが叫んだ。
「どうした? 何があった!?」
「すぐに画像を送りなさい。リーン軍曹にも」
アリスの指示で我に返った彩子が急いで圧縮加工して、〔バーカム〕と〔ファークス〕実験機に送信した。
そして、アリスとリーンも樹たちが驚愕した理由を知った。
「こいつは――――っ」
「タイミングが悪い」
そこに映し出されていたのは、小さな影。だが、その形状はよく見知った四角く、上下に凹凸のあるシルエットだ。おそらく、小型輸送船〔シーカー〕と〔AW〕だろう。そして、月から見方が来るはずがない。間違いなく『新人類軍』だ。
アリスは一度息を吸って、焦る気持ちを整える。まず冷静ならなければ。
「各員へ。回線状況は?」
凛とした英語が、樹たちに届いた。
「今のところは良好だけど……」
「となると、まだ向こうは気付いていない。このまま作業を続行する。敵に動きがあり次第報告するように。それから、むやみに動くかないこと。いい?」
アリスの指示に、小隊員たちは威勢よく返答した。正直、彩子は怪しいところだが、樹が通訳してくれるだろう。
アリスはHUDを切って、回収作業に戻る。閃光の中に見える自分の手が、ブラックボックスを掴み取るまでは諦めるわけにはいかない。




