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マシン・レコード  作者: 平田公義
第四章
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~戦う心~ 会議

 地球では、統合政府による〔イリアーデ〕大気圏突入、それに付随した問題の数々についての説明会見を開れ、注目を浴びることとなった。


 ――――『新人類軍』を名乗る武力組織が、月とコロニーの一つを占拠。組織は月の建設基地『サテライト』所属の研究員と囚人たちが、モーガン・ジェムを首領として地球帰還を求め、蜂起した。先日の宇宙間重巡洋艦〔イリアーデ〕は、その武力組織によって地球に落とされたもので、これは核攻撃を示唆するものではなく、あくまで地球への帰還を訴えるデモンストレーションであると推察される。国際統合政府はこの武力組織に、軍事制裁を加えることを表明。現在、『地球平和軍』所属宇宙軍が対処している。今後のために、『地球平和軍』は人員を拠点であるコロニー『ガーデン1』に送ることを決定した。


 会見の内容といえばこんな感じだった。


 この説明で納得するはずもなく、世論でも核融合エンジンの爆発によって汚染されたかもしれない空についての報告を追求した。その質問に対して、統合政府は専門家の意見を合わせ調査中と述べ、会見を打ち切った。


『地球平和軍』を批判する声はますます高まったが、実情、PKOでは手におえない問題として支持する声が大半だ。地球に住む人々は宇宙という辺境に、ロマンを感じながらも、やはり素人目では難しいことが起きているのだと考えた。


 そして、この戦争は地上で起きている反政府運動に似ていると多くのひとが思う。そして、自分たちにずっと遠い争い事なのだと心の奥底で安心していた。




『ガーデン1』では、先の〔イリアーデ〕落下事件を受けて、その責任を全面的に取らされることが『地球平和軍』の本部から入電された。とはいっても、具体的な罰が下ることはない。戦争時に無意味に、特に宇宙にいる人材を簡単に切ることはできないのだ。


 だから、レミントン・バーグ中佐(,,)は緊急対策を開いていた。将官はいない。佐官階級と尉官階級がだだっ広い会議室に集められ、明かりを消して、巨大な球体の立体スクリーンを中心に、出席者は円陣の席にそれぞれついている。そこには、ガイア・キキリア中尉、クロッグ・ジョーリン大尉、ヤッシュ・カルマゾフ少佐の姿もあった。そして、会議室の端っこで准尉階級のコフィン・コフィンが肩身狭そうに休めの態勢で待機していた。ほかにも数名、同じ准尉階級の軍人が野暮ったい表情を浮かべて立たされている。


 コフィンは今にも倒れそうなほど顔がやつれており、時折体がぐらついている。充血した瞳に輝きはなく、それでも起きていようと必死に目を開いている。


「本日付で中佐階級となった私、レミントン・バーグがこの『第一次宇宙間抗争』の臨時指揮を執ることになった。よろしく頼む」


 レミントンが中央の舞台にあって、ぼうと光る立体スクリーンと並ぶ。慇懃なあいさつに、参加者は拍手を送り、彼をリーダーとして迎え入れた。


「おいおい……。マッケンガン大佐はどうしたよ?」

「地球に残ったんだろ。なんせ、家族旅行のために降りたって言うし」


 コフィンの隣で、若い尉官たちが言った。


 エリック・マッケンガンなる軍人は、もともと『ローグ1』の最高責任者であったが、『新人類軍』が月を占拠した前日には地球に降りていた、らしい。


 コフィンはその大佐が宇宙に上がってこないのを不思議に思いつつ、そんな人が総指揮を執ってもぐだぐだになる予感がしてならなかった。


 舞台上にいるレミントンが一瞬、コフィンたちを睨みつけたがすぐに会議室全体を見渡した。


「あくまで臨時のため、正式な指揮官はのちに地球から派遣される。それまでは私の指示に従ってもらう」


 確実に准尉階級が並ぶ列を意識ていっている。


「さて、三日前の〔イリアーデ〕地球落下を受けて、我々は大きく戦力を欠くことになった」


 レミントンは手元にある端末を立体スクリーンに向けて、操作する。すると、球体の中に地球を中心とした天体図が映し出された。さらに、地球によって〔イリアーデ〕が落下した軌道と戦闘があった空域を表示した。


「これによって、戦死者は『新人類軍』が現れてから数百人に上る。そして、〔イリアーデ〕の核爆発についてだが、オゾン層への汚染も放射線も検出されていない」


 その事実に、参加者たちがどよめく。核融合エンジンが爆発して、被害は甚大であることは誰もが予測していた。その環境被害がないのだから、驚くのも無理はない。


 レミントンが続ける。


「疑問を持つのは当然のことだが、事実だ。爆発に伴う放射線は人体にほぼ無害であることが判明している。この件については、軍内部の調査団がさらに追求する方針を取ったので、我々がどうにかするものではない」


『地球平和軍』はその肥大した組織力で、多くの問題を対処している。今、宇宙にいる部隊はこれら地球の環境問題を相手にできる立場ではない。


 それを参加軍人たちは理解して、口を慎んだ。


 しかし、コフィンはここにいる軍人のほとんどが保身に力を注いでいるように思えた。今回の〔イリアーデ〕落下で、さらに『地球平和軍』は信用を落とした。それは上位階級の者にとって最も忌避したいところだろう。関わり合いになりたくないのだ。責任逃れと言っていい。


「我々が早急にしなければならないのは、遠距離移動を可能にする戦艦を手に入れることだ」


 レミントンがまた手元の端末を操作して、モデルを切り替えた。今度は『ガーデン1』から建設途中のコロニー『ミューゲル1』への航路が引かれたものが現れた。しかし、よく見ると航路の線は『ミューゲル1』の少し手前、地球よりの方に逸れていた。


「現在、『ガーデン1』では〔リンカー〕を輸送戦艦にする改装を行っているが、長い時間が必要だ。だから、最後の〔イリアーデ〕を手に入れたい。『ミューゲル1』近くの静止軌道上には造船ドック『リバイアサン』がある。そこで、〔イリアーデ〕が就航に向けて最終点検をしている」


 レミントンの報告に、クロッグが静かに挙手をする。


 レミントンもそれを見て、彼の意見を聞くことにした。クロッグが立つ。


「その情報はいつのでありましょうか? 場合によっては、敵の手に落ちていると考えてよいのでは?」


 その質問に多くが賛同した。『新人類軍』が動き出して、もう一週間になる。彼らの用意周到ぶりをかんがえるなら、妥当な考えだ。


 レミントンは静かにうなずいて、さらに手元の端末を操作する。すると、造船ドックのモデルが球体いっぱいに映し出された。


 造船ドック『リバイアサン』は巨大な筒上のもので、その周囲には太陽電池や機材を係留する格納庫、居住スペースが設けられている。船は筒の中で造られる仕組みになっている。


「計画書類上では就航予定が、ちょうど四日後になっている。敵が進駐していたとしても、その予定を早めるのは難しいだろう」

「では、敵の動きはわからない、と?」

「ここの観測班、地上のレーダー観測の結果としては、敵が進駐している確率は低い。が、同時にこのドックと『ミューゲル1』との交信がつい先日途絶えた。敵が内部に潜んでいた可能性がある」


 クロッグはわかりましたと静かに腰を下ろした。


 敵である『新人類軍』は機材はあっても人員は多くないはずだ。しかし、『ミューゲル1』にも、『リバイアサン』にも多くの受刑者がいる。たとえ直接的な関係がなくても、彼らの運動を知って行動を起こしている可能でいもある。


 レミントンは全体を見渡して、意見する。


「わからない状況ではあるが、ここで手を打たなければ、我々の戦力はさらに防戦一方になる。後手に回る戦闘が続き、みな、そのことは理解していると思う」


 その一言に誰もが沈黙し、肯定を示した。


「ゆえに、すぐにでも派遣部隊を送ることをここに提案する。異論のあるものは?」


 すると、コフィンが周囲を気にしながら、おずおずと挙手する。この場の最低階級の彼女が意見するのは、場違いのものだった。それを承知で意見するのだ。


 コフィンが視線を泳がせていると、レミントンが彼女に気付いた。


「なんだ?」


 威圧感のある声に、コフィンは一瞬肩をはね上げたが、泳いでいた視線をレミントンに向ける。気が付けば、参加者からの視線が集まっていた。


「すぐに部隊を動かすのは困難かと思います……」

「どうしてだ?」


 コフィンの弱気な発言に、レミントンが強い口調で言った。


 コフィンはしかし、おっかなびっくりの表情を浮かべながら説明する。


「先の〔イリアーデ〕戦、そのまでの『ガーデン1』防衛と立て続けに戦闘をして、体力的にも精神的にもかなりの疲れが出ていると思います。そこに鞭打つようなことをしても、十分な結果は得られないとわたしは判断します」


 彼女自身、疲労がピークを迎え始め、膝ががくりと崩れそうになった。隣の軍人が支えようと手を伸ばすが、コフィンはすぐに立て直す。自分のために言っているようで、コフィンはそんな自分を恥ずかしく思う。


 だが、彼女に限らず多くの兵士は疲労を抱えているのも周知の事実だ。


「それに、ここから造船ドックまでの航続時間も含めると、やはり部隊員は万全のコンディションにしておく必要があります。機体の修理にも時間が必要だとも――――」

「君の意見はわかった。私も今日明日に部隊が動けるとは思っていない。だが、その気構えがなければ、作戦は遂行できない」

「…………」

「ほかには? なければ、一時間後に佐官たちはもう一度ここに集まり、作戦立案と部隊編成会議をする」


 レミントンは険しい表情を浮かべて、手元の端末を操作した。


 瞬間、会議室の明かりが復活し、皆が目元を抑えた。


「では、解散とする。各員、機体整備と休息をとっておけ」


 瞬間、参加軍人たちは立ち上がって、一斉に敬礼。一糸乱れぬその動きは、洗練されており、強固な連帯感を生んでいる。そして、一斉に敬礼をやめる。


 

 コフィンは会議室を出て、一人の軍人に呼び止められた。クロッグ・ジョーリンだ。


「失礼。コフィン・コフィン准尉か?」

「え? はい……」


 二人は軍人たちが去っていく廊下の端による。行き交う軍人たちは物珍しそうに眺めては、呆れたり、下べた笑みを浮かべていた。


 クロッグはそんな彼らを一瞥して、目の前の可憐な少女ともいえるコフィンを見た。


「あの……」


 コフィンは困惑して、首をかしげる。


「すまない。わしはクロッグ・ジョーリン大尉だ。確かきみは、三日前の戦闘でいち早く戦闘に合流した機体のパイロットだと聞いてな。一言、礼をな」

「あ、いえ。わたしはただついていっただけですから……」

「そうか。いや、しかし、本当に助かった。きみたちの介入が遅れていたら、わしはあの船と運命を共にしていたよ」


 クロッグが手を差し出したので、コフィンもおずおずと手を伸ばして握手した。そのグローブのような分厚い手の感触に、コフィンは懐かしいものを感じた。


「いえ、大尉が無事ならそれで……」

「それで、他の二機のパイロットはどこにいるか知っているかね?」


 クロッグは握手をやめて、改めてコフィンを見る。見れば見るほど、軍に不釣り合いなお嬢さんだ。そういう人間が、『地球平和軍』で増えていることに彼は戸惑っていた。


 コフィンはぼうっとする頭で、何とかクロッグの要望を聞いた。


「それでしたら、ご案内します。たぶん、セルムット軍曹でしたら、ドックのほうで機体整備をしていると思いますから……」

「しかし、きみ。ふらふらじゃないか」

「大丈夫ですよ。ちょうど、わたしも用事でそちらに向かう予定でしたし」


 そういって、コフィンは廊下を歩きだした。

 

 クロッグはそのおぼつかない足取りに注意して、あとについていった。 

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