~護衛~ 戦艦防衛戦 〈前編〉
『新人類軍』の〔AW〕部隊は固まって飛び、一気に『地球平和軍』の〔イリアーデ〕に接近していた。機種は〔ミリシュミット〕、十六機。半分が電子戦装備、もう半分が通常装備の基本的な配備と最小限バディによる独自判断に任せた戦術。
「いいか? ここからは各自の判断で動け。作戦に変更はない。いくぞっ!」
鈴嚥下の号令のもと、部隊がバディごとに散開。そして、各通常装備に換装されているマイクロミサイルポッドから、第一波攻撃が開始された。
まだ妨害が敷かれていない空域に、ミサイルの列が〔イリアーデ〕にまっすぐ飛んでいく。
それを確認した〔イリアーデ〕所属の〔AW〕部隊、〔ファークス〕、〔ギリガ〕の混合編隊は電子戦装備を〔イリアーデ〕後方に展開させる。すぐにも〔イリアーデ〕本艦と、前に出た電子戦装備の発信翼かも妨害が発せられた。何十キロにも及ぶ戦闘空域が出来上がる。
「瞬間EMPを使える距離まで、あと――――」
前に出た兵士の一人が自身の乗る〔ファークス〕に願うようにつぶやく。電子戦装備の機体は大きく展開し、そのすぐ後ろで通常装備は射撃武器を構えて、正確な位置をつかめない敵機の迎撃態勢に入っている。
すぐにも、ミサイル群は電子戦装備のEMPの効果範囲に飛び込んできた。各機はそれぞれのタイミングでEMPを発動
妨害に入っても問題なかったミサイル群は、それ以上に強力なEMPに当てられて、一気に軌道を狂わせ、同士討ち、自爆をしていった。爆発は大きく、宇宙空間に大きな光を咲かせた。それは見たものを飲み込まんとするほど、強大なものだった。
「こいつ――――、核でも使っているのか!?」
『地球平和軍』の誰かがそんなことを言った。
その実、ミサイルは核など使っていない。劣化ウラン弾頭による焼夷効果で光が飛散しているのだ。その火だってすぐに絶対零度の宇宙では長くは持たない。
光明が晴れると、第二波ミサイル群が攻めてきた。
先の第一波で怯んだ『地球平和軍』の〔AW〕部隊は後退し、同じ要領でミサイルを自爆させる。しかし、今度の閃光は弱い。代わりに、細かい粉塵が舞った。
粉塵のカーテンが視界を遮る。
「――――フフ」
ひび割れた、それでいて楽しげな女性の声が、『地球平和軍』の通信回線に割り込んできた。
瞬間、前線の電子戦装備は〔ファークス〕は盾を、〔ギリガ〕ならその重装甲を生かして、最小限の回避運動と応戦をする。
その後方の通常装備もその戦列に加わらろうとする。だが、『新人類軍』の集中砲火は前に出せまいとした意図をもっていた。前列の電子戦装備は、大した攻撃が加えられていない。
こうして、二分された部隊に燕華を含めた数機が電子戦装備の〔AW〕に飛び込んでいく。ほかの数機が『地球平和軍』通常装備を押さえてくれている。
「さぁ、いかさてもらうよ」
燕華の〔ミリシュミット〕が編隊を離れて、単機で敵の群れに突っ込む。彼女の機体は普通とは違い、右腕部に〔ファークス〕の細いシルエットのマニピュレーターが移植されている。急造のために、機体にまだ慣れていないが十分使える。そうまでしたのは、その手が握る反りのほとんどないブレードを使うためだ。ブレードの幅は広め、片腕でも十分振るえる長さをしている。
燕華機の動きを『地球平和軍』はすぐにも捉える。見るからに電子戦装備の発信翼がないことを確認。単機で突撃してくるのを、おろかに思った。
「単機で来るとは、馬鹿か?」
電子戦装備の機体たちが、嘲るように燕華機に攻撃を集中させる。そして、取り囲むように展開していく。確実に落とす算段だ。
しかし、燕華は物怖じすることなく、すぐ近くの〔ギリガ〕一機に狙いを定めて接近する。
その距離を危険と判断したほかの機体が、一斉に迫ってくる部隊に狙いを変える。
「こいつ――――っ」
接近してくる燕華機の異様なシルエットに驚きながらも、そのパイロットは機体を後退させようとする。そこに、『新人類軍』の部隊が牽制攻撃。展開していた『地球平和軍』電子戦装備の機体が、すぐにも散り散りに散開した。
「残念。お仲間さんに見捨てられて」
燕華は口元をゆるめて、敵の射撃をこともなく避ける。銃口が一定位置から動いていないのが、何よりも回避を安易にさせた。他の味方機も二対一の構図を取って、狩り出している。
燕華機は〔ギリガ〕を斬撃の間合いに捉える。
「こうなったら――」
九〇ミリマシンガンを乱射していた〔ギリガ〕はそのままの状態で『幻覚』を発動させた。刹那、燕華の〔ミリシュミット〕が慣性で宇宙に流れ、打ち出される〔ギリガ〕の弾丸が二、三発当たった。
「おっと……。やってくれちゃう」
機体の機能が停止しているというのに、|燕華《イェンファ〕に焦りはなかった。これくらいは予想できていた。そもそも、囮になるために単機特攻をかけたのだから。
「これなら、これならっ!」
焦りの声。
しかし、九〇ミリマシンガンを連射する〔ギリガ〕にレールガンの一撃が的確に操縦席を貫いた。死を意識するまもなくパイロットは死んでいった。惰性で数発撃ちだされたが、反動で操縦席を貫かれた機体は後ろへ体制を崩して、虚しく回転する。
そして、敵機を落とした〔ミリシュミット〕はロングバレル・レースガンを構えたまま、燕華機によって行く。
燕華は機体が回復したのを見て、すぐに態勢を立て直した。機体には大した被害はなく、敵の腕の悪さがよくわかった。周りを見れば、多くの同士が『地球平和軍』の電子戦装備を落としている。
「あーあ。いっちゃてまぁ」
「鈴隊長――」
「隊長はいらないよ」
そばで警戒する〔ミリシュミット〕のパイロットに言って、燕華はすぐにも機体を動かす。向かう先は『地球平和軍』の通常装備牽制が苦戦し始めた部隊の応援だ。
ロングバレル・レールガンを構えた〔ミリシュミット〕も同行する。
「いい腕だ。次も頼みたいが、あたしの分も残しておいてくれよ?」
「はい。尽力します」
「それじゃ、あたしを満足させて」
そして、燕華のバディはまたも距離を取り、遠くから援護態勢に入る。
燕華機はブレードを担いで、『地球平和軍』の部隊へ切り込んでいく。
「アームウェア部隊がこちらに押し返されてます」
〔イリアーデ〕ブリッジでは、戦況が防戦一方であることを確認した。〔AW〕部隊、特に電子戦装備が一気に落とされ、敵船隊に攻撃を仕掛けるのは難しくなっている。
ヤッシュは奥歯をかみしめて、少数部隊の侵攻を止められない自軍を情けなく思った。敵は丁寧にも通常装備の〔AW〕の数を減らし、最後この〔イリアーデ〕に火力を集中させるつもりなのだ。
「――っく。増援はまだか!?」
「こちらに向かっているはずです」
「もっと詳しい情報は――」
ヤッシュの言葉を遮って、〔イリアーデ〕が多い揺れた。
「主砲大破!? 被害状況、知らせろ!」
「敵アームウェア、本艦を囲み始めてます!」
入ってきた報告は絶望的だった。後退して、戦線を下げた〔AW〕部隊がによって〔イリアーデ〕も射程に入り始めている。おまけに、主砲をつぶして火力を下げている。
あざとい戦術を繰り出す敵に、ヤッシュはいてもたってもいられず、艦長席を立つ。
「ヤッシュ少佐! どこに――――」
「わたしも〔バーカム〕で、応戦する」
「あれはまだ試作段階で、使えませんって。調整だって」
「うるさいっ。ここで死にたいのか!?」
ブリッジクルーの呼び止めも利かず、ヤッシュはブリッジを出て行った。振動の続く〔イリアーデ〕。かなりの損傷が出ており、宇宙服を着た艦内クルーたちが消火作業のために移動している。
「ここまでとは……」
ヤッシュは言って、軍服のままで〔AW〕デッキへと向かう。
一方でブリッジのクルーたちはあきれ返っていた。
一番呆れていたのは副館長である、クロッグ・ジョーリンという男である。大尉階級で、無精ひげを生やした壮年だ。着ている軍服も着古してしわが入っている。つばのかけた制帽の位置を立ちかめて、彼は仕方なしに艦長席に腰を下ろした。
「すまんが、わしが臨時で指揮を取らせてもらうぞ……」
その疲れた声に、ブリッジクルーは静かにうなずいた。
〔イリアーデ〕の船首が撃たれ、船体が大きくよろける。
「左船首に被弾! サブ・スラスター五番から七番使用不可能です」
クルーの一人が叫んだ。
すぐに、クロッグは言った。
「取り舵いっぱい。『ガーデン1』への最短コースに移行」
「了解! コース変更。すぐに計算します」
「うむ。アームウェア部隊に本艦と距離を取るように伝えろ。こちらの迎撃ができん」
「了解です」
「それと――――」
クロッグの指示を待つクルーたち。
クロッグは一度大きくため息をついてから面倒そうに言う。
「ヤッシュ少佐に前に出過ぎるな、と伝えておけ」
展開していた『地球平和軍』の〔AW〕部隊は、ひび割れた攻勢命令に怒りを覚えた。そうしたいのはやまやまだが、〔イリアーデ〕の妨害がなければ、まともに張り合えない。
『新人類軍』が一気に電子戦装備機を撃墜し、健在している機体は四機。それも手負いの機体ばかりだ。
「くそっ」
愚痴るパイロットの前には、燕華の〔ミリシュミット〕がいた。右腕部の太刀と、左腕部の十徳ナイフという二刀で接近戦を仕掛けてくる。
「これで――――」
燕華は目の前の〔ファークス〕が盾を構えるのを見て、思わず目を細めた。その弱腰の姿勢は彼女の趣味ではなかった。
「五機ね」
燕華機は正面に捉え、右腕部の太刀を突き出す。
〔ファークス〕のパイロットは機体に盾を構えながら、レールガンで応戦させる。だが、圧倒的に近い距離だというのに、燕華機は軽やかに、それも最小限の動きで回避して見せた。
「うっあああああああああああああ!!」
棒立ちになり、回避することを忘れ、〔ファークス〕がレールガンを乱射する。
だが、燕華機の太刀が盾を突き破り、そのまま操縦席をも貫いた。〔ファークス〕は爆発することなく、レールガンを構えたまま沈黙した。
燕華はすぐに貫いた〔ファークス〕を捨て、次の獲物に取り掛かる。敵である『地球平和軍』の人間の叫びは、爽快感があった。
「下剋上っていうの、この感覚」
周りを見れば、〔イリアーデ〕への攻撃が開始され、敵の布陣も崩せている。楽勝ムードだが、燕華は慢心しない。むしろ、乾いた欲望のはけ口がいなくなるのをもったいないと思った。
「さて――――?」
かなり下方にいた燕華は〔イリアーデ〕の底部、小型輸送船〔シーカー〕が接続されており、そこに一機張り付いているのを発見した。
見たこともない機体だ。全体的には〔ファークス〕に近い。だが、黒塗りのシルエットが地球の青でくっきりと見え、細部が違うのが見て取れた。
「ふぅん……」
燕華は〔イリアーデ〕の底に回り込むよう、大きく回っていく。途中、機銃座の狙い撃ちにあったが、すぐにほかの味方がそこをつぶした。
〔シーカー〕から離れた謎の機体は、一度〔イリアーデ〕船首の方へスラスターを噴射して、上部に移動した。かなりの初速だが、バランスが悪いように見える。
「ま、いいさ」
燕華は見たことのない機体に目もくれない。機体をそのまま〔シーカー〕のほうへ直進させる。
底部の弾幕は薄く、避けるのに問題はなかった。もともと〔AW〕の射出デッキだ。周りに機銃座が少ないのはわかっていた。
燕華機は頭部のバルカンを使って、〔シーカー〕を狙い撃ちにする。〔シーカー〕はなすすべなく装甲を貫かれ、爆発。メインジェネレーターに火が入っていなかったとはいえ、〔イリアーデ〕の〔AW〕デッキが消し飛ぶほどの威力があった。
そこで作業をしていたクルーはその光に飲まれ、跡形もなく悲鳴を上げる暇もなく消えて行った。
燕華はその爆発を背にして、一気に〔イリアーデ〕から離れる。
今までにない大きな突き上げるような揺れに、艦内中で悲鳴が上がった。
ブリッジクルーも混乱し、すぐには立ち直れなかった。
「損害状況、早くせんか!!」
クロッグの声がブリッジに響き渡った。
「ふ、船底で爆発。〔シーカー〕が――――!?」
クルーも言いながら、驚きを隠せなかった。被害状況が立体モニタに出され、誰もが絶句した。〔AW〕デッキ壊滅、メインジェネレーター出力低下。それにともなった炉心融解。
「もはや、これまでだ…………」
クロッグは言って、いまだ必死に敵勢力に対抗するクルーたちを見下ろす。ここに踏みとどまっても、〔イリアーデ〕は航行不可能になって、敵の餌食になるだけだ。かといって、脱出船でこの船を捨てても戦闘状態では危険すぎる。
「…………。おい、艦内線すべて開け」
すぐそばのクルーに言う。クルーは真剣な表情で、了解し回線を開いた。
「どうぞ」
促されて、艦長席のマイクを取るクロッグ。
「全乗組員に告ぐ。撤退命令を下す! 本艦はこれ以上もたない。各自、脱出船に移動し、合図あるまで待機! 急げっ!!」
クロッグは乱暴にマイクを戻して、上段ブリッジを見渡した。
誰もが黙って、彼を見つめ固まっていた。
「何をしている。命令したはずだ。早く移動しろ」
その顔はやはり疲れていて、とても潔い雰囲気があった。
クルーたちはヘッドセットを置いて、ブリッジから出ていく。肩の重荷の外れた彼らから、不安な表情は消えなかった。しかし、互いに声を変えてすぐにも脱出船の割り当てをしていた。
「艦長代理……」
ひとりのクルーがクロッグに近づく。
クロッグはその若き軍人に、厳しい眼光を向ける。
「もう一度言う。脱出しろ」
その言葉に、そのクルーは何も言えなかった。クロッグのやろうとしていること。それの意図はきっと、先の艦内放送で誰もが理解できたはずだ。彼は一度、敬礼してブリッジを後にした。
クロッグは揺れる船内に目を配らせて、下段のほうを見た。そこにはもう誰もいなかった。
「ねぇ! 今の光!?」
「わかってる」
樹たち応援部隊はずっと遠くの空域を飛んでいた。もう〔イリアーデ〕は目と鼻の先だが、モニタで見る以上に距離がある。
樹たちは〔イリアーデ〕の底が光ったのを見て、胸が締め付けられる思いだった。
「敵勢力はいまだ健在です。〔イリアーデ〕に大きな損害が出ているようです」
コフィンが戦闘空域の状況を部隊に伝える。まだ妨害が利いていない空域での無線ははっきりとしていた。
この部隊の総指揮を執る隊長が指示する。
「各機、準備はいいな? 最悪〔イリアーデ〕が撃墜されても、敵追撃部隊は討ち取れ」
その指示に樹はピクリと眉を上げた。
「軍人はそういうの?」
味方を助けるために来たのに、その味方を見捨てる。まだ撃墜されたと確認されたわけではない。今は一刻も早く、戦闘空域に到着することが先決だ。
リーンもその隊長の指示に怒りを覚えて、ぐっと歯噛みした。
「樹。軍人がなに言ったかわからないけど、すぐにでも行きましょう」
「あい。彩子、賛成」
音も賛同する。見殺しなんてできるはずがない。
樹もうなずいて、〔アル+1〕のバリアブル・バーニア六基の出力を上げて、頭一つ前に出る。
「おい! 勝手な行動はするな!」
隊長から叱責される。
だが、樹たちはそんなことなど無視して、目の前に見える戦場を見据えていた。
「行くよっ! 二人とも」
瞬間、バリアブル・バーニアから青白い光が吹き出し、一気に加速していった。ぐんとシートに体が押し付けられる。
大きく見える地球を綺麗感じる余裕もなく、宇宙を駆ける。
「あいつら…………。ガイア隊長、俺たちも――」
「馬鹿っ。あれと違って、こっちはすぐにでも行ける機体じゃない。ここで気を張ってもしかたないぞ! それに、けが人を前線に立たせられるか」
「――――チッ」
リーンは舌打ちして、スロットルレバーを全開にする。リーンの乗る〔ギリガ〕通常装備が編隊を抜けて、〔アル+1〕を追うように先行する。
「貴様! 命令違反を」
「わたしもっ」
部隊長の制止を振り切るように、コフィンの〔ギリガ〕電子戦装備も前に出て行った。
「コフィン准尉!?」
追いかけてくるコフィン機に、リーン機が速度を合わせる。
「どうして――」
「詮索は後にしましょう。敵は少数でも強敵です。単機でなんて、できませんよ?」
「……了解。子供に先こされてる場合じゃありませんね」
「はい。バディの指令はお任せします」
「了解っ!!」
リーン、コフィンは機体にアフターバーナーをかけて、一気に加速していく。
「音。あの光の中にビーム・ライフルを撃って」
「え、どして?」
「かき乱すの」
〔アル+1〕は編隊とリーンたちを大きく離して先行。
樹は迫る戦火を見据えて、機体の角度を調節する。
「あい。わかた」
音も了解して、〔アル+1〕にビーム・ライフル二丁を持たせる。
「角度、良好。戦闘空域にはまだ入ってないわ」
「あい。味方、避けてくれる?」
「そんなの、信じるしかないでしょうに」
彩子は電子戦用モニタを睨みつけて言う。敵も味方も入り混じっている状態では、もはや信じるしかない。距離もあるし、回避は容易だろうがそれでも不安というものはある。
音は彩子の言葉を信じて、狙いを定める。戦闘空域、光の交わる場所。
的も定かではない場所に、ビーム・ライフルが放たれる。ビームの光がまっすぐに進んで、やがて戦闘空域の光に混ざった。




