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マシン・レコード  作者: 平田公義
第二章
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~狼煙~ 戦闘空域 〈前編〉

「陣形を崩すな! コロニーに近づけさせるなよ!」


『ガーデン1』の管制室から、総指揮を執るレミントン・バーグの声が〔AW〕直掩部隊に響いた。妨害(ジャミング)で割れた指示は、コロニー近くの部隊で何とか聞き取れるレベルだ。


 ゆえに、敵艦に攻撃を仕掛ける迎撃部隊に聞こえるはずものない。


 最前線空域は敵味方が飛び交い、妨害(ジャミング)の嵐の中で自身の技量を信じて、戦っている。戦況は『地球平和軍』が劣性で、見慣れない敵の〔AW〕に翻弄されていた。

 

 ガイア小隊もコロニーまで引き上げてきたが、そのまま前線で三機編隊で敵〔AW〕部隊に挑んでいた。輸送船〔シーカー〕はすでに、コロニーへと帰還している。


「早い! 新型のアーム・ウェアか」


 ガイアは〔ファークス〕のレールガンを敵〔AW〕に向けて発射する。青白い光を帯びて、弾丸は電光石火のごとく飛んでいく。


 しかし、敵の〔AW〕、〔ミリシュミット〕はその機動力にものを言わせて回避して見せた。脚部の代わりにある高機動ノズルが、〔ファークス〕、〔ギリガ〕以上の速さを実現させているのだ。


 リーンの〔ギリガ〕は敵の大口径レールカノンを避けて、九〇ミリマシンガンを乱射した。しかし、〔ミリシュミット〕の速さを前にして、薬莢のないケースレス弾はその軌道をなぞるばかりで、一発も当らない。


「――――クソッ」


 リーンが愚痴ったそばから、機体の真下からレールガンの閃光が伸びあがってきた。しかし、狙いが甘かったらしく、機体にかすりもしない。


「やられました……」


 コフィンは電子戦(EW)装備を駆使して、周囲の状況を分析した。完璧に敵の術中に嵌っている。二機の敵が自分たちを中心とした円軌道で、囲み、十字砲火を浴びせるつもりだ。


 動きが止まっているコフィン機に、〔ミリシュミット〕のガトリング砲が狙いを定める。電子戦(EW)装備だ。


「――――もらった」


〔ミリシュミット〕の操縦者はトリガーを絞りながら言った。


 それよりも早くリーン機がコフィン機を押しのけて火線から外す。しかし、飛び込んだリーン機が逆に被弾する。〔ギリガ〕の重装甲に鉛玉の応酬。一気に装甲がひしゃげる。


 ワンテンポ遅れて、反応装甲(リアクティブアーマー)が作動。それを囮に、リーンは機体を火線から脱出させる。


「今ので、足をやられたか」


 リーンはサブモニタに映る損傷報告を見てうめいた。脚部はまだ姿勢制御スラスターだから、大した損害ではない。しかし、もっと神経を使って機体を扱わなければならない。


「すみません。大丈夫ですか?」


 コフィン機とガイア機が慌ててそばに寄って、リーンを支援する。二人は別のバディが介入してくるのを心配しながら、敵を牽制する。


「馬鹿っ! 固まるな! いい的じゃないか!」

「強がるな! すぐに態勢を立て直せ!」


 ガイアが怒鳴りながら、〔ファークス〕にレールガンの弾倉を交換させる。

 だが、リーンはその考えなしの行動に腹が立った。部隊を固まらせて、集中砲火ではシャレにならない。平和ボケした兵士でも、もっと今の状況を深刻に考えるだろう。


「かっこつけたって、意味ないだろうに……」


 リーンは愚痴って、九〇ミリマシンガンの残弾を確認。まだいける。

 すぐに〔ギリガ〕の態勢を立て直して、九〇ミリマシンガンを構える。

 

 敵の二機もリーンたちの攻撃パターンを読んできて、上下左右から十字砲火を浴びせる。狙われたのはコフィン機だ。〔AW〕の戦闘において、電子戦(EW)装備ほど厄介なものはない。

 それに、ミサイルポッドを装備している通常装備の〔ミリシュミット〕がいるとなるとなおさら、優先的に撃破しにかかるだろう。


「うぅ。早いです」


 コフィン機が僚機と距離を取り出し、回避運動に専念し始めた。確実に陣形を崩されている。

 コフィンは気持ちがどんどん巨大なものに吸い寄せられるのを感じた。それが、死の意識かと疑った。


「埒が明かない……っ」


 リーンはそう言って、装甲の薄くなった〔ギリガ〕を電子戦(EW)装備の敵に狙いを絞って、追いかける。一気に砲火がリーン機に集中。しかし、機体をジグザグに飛行させ、致命傷だけは避ける。


「セルムット軍曹っ。本気なんですか?」


 コフィンは無線に呼びかけたがノイズが聞こえるだけで、リーンの声は来ない。

 しかし、彼の戦い方に勝機を感じた。

 

 リーン機が最大加速をかけて、何とか敵とのドッグファイトにもつれ込む。

 コフィンはそれを一瞥して、もう一機の大口径レールカノンを装備した敵がコフィンたちを牽制しつつも、リーン機の追撃態勢に入ったのを確認した。

 

「よし。追うぞ」


 ガイアは身の危険が少なったのをいいことに、隊長らしいことを言った。機動力で劣っても、総合的な性能差はそうないはずだと判断してのことだ。

 

「了解」

 

 コフィンは傍らの隊長機に言って、すぐに牽制する敵に追う。


 


 敵の総本山である〔イリアーデ〕の直掩部隊は少なく、各機銃砲座によって向かってくる『地球平和軍』を寄せ付けないようにしていた。


「主砲はまだ使うな。味方にあたる。各アーム・ウェア部隊の動きは?」


〔イリアーデ〕のブリッジで、艦長であるゲイル・マークスがクルーに問いかける。彼は三十代半ばらしい中肉中背の男だ。一見さえないが、よく全体を見ていた。

 ブリッジは二段に分かれおり、中央には立体モニタがいくつも展開して、戦況を見ることができる。


「予想以上の抵抗に、各部隊が手こずっています」


 下段からそんな報告を宇宙服のスピーカーからゲイルは聞き取る。

 

 瞬間、ドゴゥと艦内に鈍い音と振動が響き渡った。

 

「第五ブロックで火災発生!」

「すぐに消火作業っ! ここで役目を果たせなければ、意味がないぞ!」


 ゲイルは艦長席に体を固定して、戦況を吟味した。状況は優勢だが『地球平和軍』の展開、特に直掩部隊の動きには目を見張るものがあった。

 

 侵攻部隊で押し切れるかどうか。だが、いざとなったらビーム砲で援護に入ればいい。それだって最終手段だが。

 


 

「こいつ、追ってくる」


 敵の操縦者は〔ミリシュミット〕の優位性を熟知していたから、焦りを見せることなく冷静に後退をかけて、リーンの〔ギリガ〕にガトリング砲を斉射する。


 しかし、リーンは〔ギリガ〕を巧みに操って、ガトリング砲を回避して見せ、九〇ミリマシンガンで反撃する。

 

 すぐ近くで爆発が起きる。〔AW〕が落とされたのだ。それが自身の撃墜を暗示させるようで、リーンは一瞬竦んでしまった。


「狙いが甘いようだなっ」


 敵の操縦者はリーンの未熟な精神をついて、軽々とマシンガンの反撃を避ける。


「こいつ――――っ」


 リーンがうめいた瞬間、機体に衝撃が走った。リーン機の左肩部が大破して、左腕部がだらりと下がる。バランスを失って、暴力的に回転する〔ギリガ〕。


「おおおおおおおおおおおお!!!!」


 高速で回る視界が意識を濁らせ、敵機を見失った。


「よし、これなら……」


 大口径レールカノンを当てて、気分を良くした敵パイロットがカートリッジを交換して、リーン機にとどめを刺そうとする。

 

 すぐそばまで、ガイア機、コフィン機が追いすがる。


「隊長。『幻覚(ゴースト)』使いますっ!」

「何っ!?」


 ガイアが上擦った声を上げる。味方近くで使うEMP兵器ではないからだ。


 コフィンは驚く上官を無視して、側面の起動スイッチを弾いた。瞬間、強力な電磁パルスが周囲に炸裂。


「――――喰らえっ!」


 敵操縦者がトリガーを引く。しかし、レールカノンの砲弾が発射されない。通常モニタがフリーズしている。

 

「なんだ!? 何が起こって――――」


「落ちてください!」


 コフィンは〔ギリガ〕の九〇ミリマシンガンを動きを止めた〔ミリシュミット〕に向けて発射した。

 

 鉛玉の連撃が〔ミリシュミット〕を強襲する。装甲を削り、頭部を大破させ、機体をハチの巣にする。

 

幻覚(ゴースト)』は読んで字の通り、〔AW〕の電子機器を麻痺させて瞬間的に機能を停止させる。〔AW〕の通常モニタはコンピューターグラフィックによって構成されており、これを受けると映像が停止してしまうのだ。復旧に時間はかからないが、その刹那の時間に勝敗を分かつ。

 しかし、妨害(ジャミング)と同じく敵味方関係なく作動してしまうし、使った直後は機体全体の出力が落ちてしまう。ゆえに、電子戦(EW)装備はできるだけ、レールガンのような電力供給兵器を持たないようになっている。


「誰だ! 『幻覚(ゴースト)』を使ったのは!?」


 ガトリング砲を構えていたもう一機の操縦者は静止した通常モニタを見て怒鳴る。だが、すぐにシステムが復旧して、すぐ機体に回避運動を取らせる。


 彼は周囲を見て、追ってくる『地球平和軍』の二機とぼろぼろになった味方機を確認した。

 不思議と味方を落とされたことに激情せず、冷静に場を読むことができる。これも、頭に埋め込まれた制御チップのおかげか、と操縦者は思った。


「コフィン准尉! 『幻覚(ゴースト)』を許可なく使うな!」

「すみません。でも、セルムット軍曹を助けるにはこれが――――」


 言い切る前に、コフィンは飛ばされてしまったリーン機のことを思い出す。

 そう遠くには飛ばされていないはずだが。


「ここで、落としておくか……」 


 コフィン機の動きがおかしいのを見た敵操縦者は言って、〔ミリシュミット〕の軌道を変える。

 ガトリング砲の照準を合わせようとする。だが、隣のガイア機が黙っているはずがない。


電子戦(EW)装備では、ミサイルは使えんがっ」


 ガイアは忌々しげに愚痴って、〔ミリシュミット〕に向けてトリガーを引く。断続的に吐き出される弾丸に、敵は怯むことなく、ガイアから見ても鮮やかな回避運動をする。


「僚機を失っては、さすがに分が悪いか……」


 敵操縦者はガトリング砲の残弾を気にして、そう結論した。ガトリング砲のドラムマガジンに替えはない。電子戦(EW)装備では火力差で、いつかは落とされてしまう。


 敵操縦者はひとしきり〔ミリシュミット〕のガトリング砲を撃って、一気に反転して母艦である〔イリアーデ〕に撤退をかけた。


 〔ファークス〕がその弾丸を盾で防いで、ガイアは敵の撤退を確認した。だが、これで安心はできない。まだ敵はすぐ近くで交戦している。このままとどまっていては、いい標的だ。


「潔い……。コフィン准尉、こちらも後退する」

「でもまだ、セルムット軍曹が――――」


 コフィンは出力の上がらない〔ギリガ〕の索敵性能で、リーンの〔ギリガ〕を探していた。

 その女々しさに、これだから女は、とガイアは怒りをあらわにする。


「命令だ! 第二防衛ラインまで後退する!」


 ガイア機がコフィン機の発信翼を掴んで、後退をかける。


「待ってください! 隊長!」


 これではムッサ・ムーデック軍曹の二の舞ではないか。同じ部隊の人を見捨てるこの、心臓を握りつぶされそうな苦しみは、罪悪そのものだ。コフィンはリーンの機体が致命傷を受けていないことが分かっていたから、なおさら気持ちが悪かった。




『ガーデン1』の管制室は、指令室として各部隊の指示に追われていた。


「損傷した機体が収容を求めてます。何番埠頭で受け入れを実施しますか?」

「そんなの、テキトーに決めろっ! 防衛ラインもっと前で展開しろって」

「第二中隊の信号が途絶えました……」

「何!? 防衛ラインを突破した部隊がいるのか!?」


 管制官の悲鳴とも怒号とも、嘆きとも取れる報告が充満していた。

 レミントンは劣勢の戦況を見て、優先順位の高い指示を出すしかなかった。すでに第三防衛ラインが破られ、〔イリアーデ〕が大きく『ガーデン1』に迫ってきている。

 

 避難船撃沈を皮切りに事態は急変調し、謎の部隊が侵攻してきているのだ。驚きと戦場の興奮が次々と伝播しているのは、目に見えている。


「補給には〔シーカー〕を出せ。各部隊でやらせろ」


 レミントンはヘッドセットに向かって言う。港の作業員たちがすぐにも、行動に入ると返答が入る。次いで、別のチャンネルン変える。


「第五中隊を直掩にあたらせろ。敵がビーム砲を使わないのを見ると、ここを無傷で手に入れたいらしいからな」

「バーグ少佐! 迎撃ミサイル、ビーム砲座準備整いました!」

「よぉし! 敵アーム・ウェアが来たら蹴散らしてやれっ!」


 コロニーのミサイルやビーム砲座は、巨大なデブリを落とすためにある。おそらく、敵はまずこの厄介な迎撃システムを潰しに来るだろう。

 

 管制官からの肉声を聞いて、管制室にいるのだな、とレミントンは思った。

 戦火が近くなり、コロニーの監視カメラ近くで閃光が弾ける。

 その獰猛な光が宇宙で戦う兵士の最後だと思うと、悔しくてやりきれない。


「こちらの出方を窺っている今しかないのだ……」


 そう。〔イリアーデ〕が主砲であるビーム砲を撃たない以上、早く母艦を叩く必要がある。それだって、迎撃部隊の一部が取り付いたところで、致命傷を与えられるわけがない。もっと、攻め込む必要があるのだ。


 しかし現実、敵の部隊の強さは尋常ではなく、少ない数で効率的に攻略している感じだ。


 絶望がレミントンに襲いかかろうとしたその時、一人の管制官が叫んだ。


「なんだ? 敵艦の向こうから、何か来ますっ!」

「何!? 詳しい情報は!?」

「それがノイズがひどくて、詳細がわかりません。ただ、高速でこの空域に接近します!」


 レミントンはその報告を受けて、口籠ってしまう。最悪の状況になる、と直感的に思った。 

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