~機械の記録~ 戦慄の〔アッシュ・バスター〕
ひた走る先に何があるのかなど、考えたくなかった。
ただこの灰色の地面と真っ暗闇の空の下から逃げ出したい気持ちが溢れてくる。それは、一番初めに感じた感情。三か月前、この場を飛び出していったときの気持ちだった。
〔アル∑〕は傷ついた機体で、雄々しく月面を蹴り上げる。
操縦者である三人の少女をあやすように、時に叱咤するように機体は揺れる。
樹はこの操縦席の感覚が心強くて、逃げ出したい気持ちを振り落としていく。研究員として働いていた時とは違う。何かから逃げ出すのではなく、立ち向かうために戻ってきた。
彩子も一度は連行された地へと進む足に、勇気づけられて、周囲の索敵に映る。妨害の嵐は和らいでいたが、味方がどうなっているのか、敵がどういう動きをしているのかはレーダー観測できない。
音はぐっとスロットルレバーを握る手に力を込めて、後ろへ流れていく懐かしい風景を慈しむ。ここで生まれ、育ち、失った。幸せが元通りになるわけはない。母を殺されたことに、決着をつけたかった。守られた命の意味を彼女は強さに変えていく。
そして、〔アル∑〕の正面。数キロ離れた地点へ向かって、何かが飛来してくる。
「敵接近。どうやら、大物みたい……」
彩子が電子戦用モニタで解析した結果を見て、唸る様に報告する。更新されたライブラリにも記載されていない敵〔AW〕だ。
〔アル∑〕は走るのをやめて、ビーム・ライフルの銃口を降下してくる機体に向ける。
禍々しいフォルム。〔アル∑〕に似た巨躯は、新品同様に見える。太陽の光が生えて、互いの影が月面に濃く残る。
「撃つ、しない?」
音は強張った声で尋ねる。トリガーの掛ける指は震えて、今にも発射してしまいそうになる。
「いいえ。今はそういう気分じゃないみたい、向こうは」
樹は数着メートル離れた場所に着陸する敵機を睨み付けて、慎重に様子を窺う。
なぜそう判断したかというと——、
「樹、あいつが持ってモノ、判明したわ。偽物よ」
「…………っ」
彩子の声に、樹は息を飲んだ。
機種不明機がその禍々しい手に掴んでいるモノ。それは、『ガーデン1』で開発されたという〔アル∑〕のコピー、〔フェイク・アル〕の頭部だった。
首部からケーブルが垂れ下がり、脊髄や血管、ちぎれた筋肉を連想させる。生々しさが、三人の鼻をツンとさせる。臭いはせずとも、その経験が湧き上がったのだ。
「やはり来たか。かつての、英雄……」
ノイズ交じりに、オープン回線の通信が樹たちの耳を打つ。
擦れた息遣いは今にも事切れそうで、首筋をぞっとさせる。しわがれた声とヒューヒューいう息は、操縦者が歳を取った人物だと知らせる。
「彩子、音、警戒しつつ待機して」
「了解……」
「あい……」
彩子と音の緊張した声を聞いて、樹も通信回線をオープンにする。
「わざわざ首領自ら出撃するなんて、どういうこと?」
「なぜ、わしのことがわかる?」
狼狽する様子もなく、淡々と質問する敵。
それだけで、樹は敵の正体が、『新人類軍』首領、モーガン・ジェムだと確信を持てた。幼いころの記憶に交じって、自分を苛めたあの声だと彼女が知っていたからこそわかることだ。
「その声には聴き覚えがあってね。浅からぬ因縁よ。ここで降伏するなら、今のうちだけど」
樹は緊張で浮ついた顎を動かし、敵機から目を逸らさない。その背後には『サテライト』のマスドライバーのレールが見えている。あと一歩で本拠地だというのに、と悔しさが沸き立つ。
できることなら、ここで敵が降伏してくれることを願いたい。
彩子と音もそう願いながら、しかし、粛々と戦闘の準備を進める。先の戦いで負担のかかったメイン・コンピューターの処理速度を少しでも回復させる。
すると、通信の相手、モーガン・ジェムは樹の声を聴いて口元を歪める。もっとも、今の彼に肉体的感覚はない。そういう動作をしただろうという脳内錯覚にすぎない。
地球を背にして立つ〔アル∑〕を見据えて、彼は言った。
「降伏はせぬ。わしにも、なさねばならないことがある」
そういうと、機種不明機は手にしていた〔フェイク・アル〕の頭部を〔アル∑〕の方へ投げた。ごみでも捨てるように軽々しく、侮蔑するように。
月面に音もなく落ちる機械の髑髏を樹たちは一瞥する。確認したい衝動が押し寄せるも、敵機から目を離さず、〔アル∑〕はビーム・ライフルを構え続ける。
心臓の音が大きくなり、圧迫感が湧いてくる。味方が殺されて、その死体を目の前に放り込まれて、冷静にすることの苦痛が頭の中をかき乱す。
「この若造のように、英雄を語るならば、わしを殺すことじゃな」
「————っ!」
彩子はモーガンの逆なでする声に、青筋を立てる。
樹が慌てて、機内通信で言う。
「落ち着いて、彩子。可能な限り、敵のデータ収集をお願い」
「了解っ」
彩子が獣のような声で応答する。樹の心境もわかるし、〔アル∑〕だって正面切って戦えるほど、回復していない。
ここで攻撃すべきだろうか。
音の考えはそんな葛藤を帯びて、下唇を強く噛む。
「あなたの妄想はここで終わり。ここで、決着するの」
「違うのぉ。わしらも多くの犠牲を払い、理想を掲げてきた。人間風情には理解できんじゃろうがな」
「あなたも、所詮は同じ人間でしょうに」
樹が声を強めて言い放った。
音はびくっとして、肩をゆらした。自分たちが相手にしてるのは、怪物でも『新人類』なんてものでもない人間なのだ。その意識が浮上すると、攻撃意識は萎えて行った。
これでは目の前の敵と同じだ。ただ邪魔者を力で排除するやり方。そのせいで、戦争になったことを痛烈に感じ入る。
モーガンにとってそれこそが、人類が手に入れなければならない粛清の『性』だと自負していた。
「同族嫌悪したところとて、他者を排斥できる力などない。『新人類』は、わしらはその『性』を持って、人類を統べようというのだ」
「性? そんなもの、誰も望んでない」
樹はモーガンの考えを否定する。
かつての彼女も自分の才能に磨きをかけるあまり、他人など不要だと考えていた。自身の精練を性格づけて、誰よりも高い位置に立とうと奮起していたころだ。
誰かをねじ伏せるには、それだけの権力が必要で力が必要だった。それが本能であると錯覚していた。
「たった一人の力でのし上がって、誰よりも偉くなれる。人間の社会はそんな簡単にできてない」
「実際はできているのだ。じゃから、『地球平和軍』が生まれ、統合政府がのさばった時からな!」
瞬間、敵機が動いた。
樹たちの体は、その躍動を敏感に察知する。頭で考えるよりも早く、その手足が動く。
〔アル∑〕はまっすぐに向かってくる敵機にビーム・ライフルを発砲する。
ビームの閃光がモーガン・ジェムの視界一杯に広がった。
敵機であり、かつての英雄とまでに湛えられた機体〔アル∑〕を前にして、〔アッシュ・バスター〕は打ち震える。
「————っ」
構えていた盾にビームが着弾すると、四方八方に拡散した。
白濁の視界が灰色の世界と、棒立ちになる〔アル∑〕を捉える。
「何が、どうしてっ!?」
「ビームを弾かれた!?」
「危ないっ!」
無線から聞こえる少女たちの絶叫。
モーガンは自機の調子がいいのを確信して、手にしている銃を構える。武骨なショットガン。ポンプアクションをして、一度空になった薬きょうを排出する。
その動きは樹たちにも、十分な危険性を教えていた。
接近する〔アッシュ・バスター〕がショットガンを構える。
〔アル∑〕は互いの距離を見計らって、一気に跳躍。その速度には〔アッシュ・バスター〕と言えど、反応しきれなかった。
ショットガンが咆哮を上げた。
散弾式のビーム粒子が、月面を抉る。近距離から放てば、頑強な装甲であろうと貫通させることができる。
宙を舞う〔アル∑〕の中で、樹は固唾をのんで、得体のしれない敵に恐怖する。腹の底がムカムカして、頭が痛くなる。
「————んっ」
音が〔アッシュ・バスター〕の頭上を捉えると、容赦なくビーム・ライフルを撃った。
互いの距離は詰まっている。変に誘爆でもされれば、〔アル∑〕とてただでは済まない。しかし、音の判断を樹も彩子も正しいと思えた。
早期決着をしなければ、危ないと本能が叫んでいた。
惰性で走り抜ける〔アッシュ・バスター〕にビームが襲来する。今度は盾で防げる角度ではない。うなじを撃ち抜く、光の矢は確実に捉えて————。
また飛び散った。
「あの機体、バリアーでもあるの?」
ビームが月面を焼いて、〔アル∑〕が着陸する。
「もう古い英雄は必要ないっ」
モーガンは〔アッシュ・バスター〕を翻して、ショットガンを放った。
後退をかける〔アル∑〕の手前でビームが弾ける。もうもうと上がる煙の向こうで、さらにビーム・ライフルの光が貫かれた。
バァアンッ。
モーガンは機体とビームの衝突を聴覚で感じ取って、徐々に〔アッシュ・バスター〕に馴染んでいるのを感じた。
彼は今、〔アッシュ・バスター〕そのものであり、モーガン・ジェムという老人の体はもはや部品でしかない。操縦席に満たされた溶液に年老いた体が浸され、あちこちに電極を繋いでいる。
モーガンの目は〔アッシュ・バスター〕の四つのセンサーアイ。四肢は〔アッシュ・バスター〕の強靭な四肢。脳みそは〔アッシュ・バスター〕を動かすインターフェースであり、メイン・コンピュータだ。
彼の長年にわたる経験が機械によって再現される。枯れ枝のような腕では決してできないショットガンの扱いも、ビームの障壁も、自らの意志によってなしえる。
モーガン・ジェムという老人が求めた、『新人類』的なものがそこにある。
〔アル∑〕はバックステップで追随する〔アッシュ・バスター〕と距離を取る。
「なんて機体なのっ」
「あの機体の周囲で重粒子の反応が検出されてる。戦艦に搭載されてる『ホーネット』に近いわ」
彩子は二度の攻撃によって得られた情報をもとに推察する。
〔アル∑〕がビーム・ライフルを発射し、またしても〔アッシュ・バスター〕に防がれる。
追加された情報で、彩子は忙しなくスロットルレバーを操作して、索敵を急ぐ。
「音、右足のレールガンを使ってっ」
「あ、あい」
樹は二人のやり取りを聞いて、〔アル∑〕のメイン・スラスターを噴射させる。
機体が一気に後方へ跳躍。
「小賢しいことを」
〔アッシュ・バスター〕もまた背部のメイン・スラスターを噴射して、宙へと舞った。その出力は現状の〔アル∑〕を凌駕していた。
互いの距離が一気に縮まる。
「樹っ!」
「————っ」
〔アル∑〕はサブ・スラスターで急降下をかけつつ、右脚部レールガンを覆いかぶさるようにして出てきた〔アッシュ・バスター〕に放つ。
が、敵機は盾で構えることなく横回転して、樹たちの右手に回り込んだ。
互いに月の引力に引かれて落ちる〔AW〕が、銃器を向けあった。
発射のタイミングはほぼ同時。
散弾のビームが瞬く。それに対して、ビーム・ライフルからもビーム粒子をばら撒くようにして互いを相殺させる。あくまで相殺を狙ったものであり、〔アル∑〕は一方的な損傷をこうむる。
装甲が焼けただれ、相殺の衝撃で吹き飛ばされる。
「くぅうっ!」
月面が急激に近づく。
樹たちは胃の中のものをぶちまけたい嫌悪感にさいなまれながら、操縦桿を握り締め、動かす。
〔アル∑〕の全スラスターが噴射される。クッションと同時に、月面を低空で滑っていく。仰向けのまま、難なく着地する〔アッシュ・バスター〕を足元のモニタで確認する。
これで距離は稼げた、と樹たちに時間が与えられる。敵を倒す策を練る時間だ。
一方で、〔アッシュ・バスター〕は自身の狙いの甘さに苛立ちながらも、脳が覚えている抑制痛覚がそうした感情の起伏を抑え込む。
「少しはやるようじゃな」
自己暗示のように敵に対して称賛し、モーガンの意志を消していく。感情的なものはいらない。いかにして倒すかを考え、敵を賛美することで自らの欠点を模索する。
先ほどたたかった〔フェイク・アル〕よりも、かの機体は強い。〔フェイク・アル〕は加速力とビームによる火力を武器にしていたが、ビームがダメだとわかるや否や攻撃のリズムは単調になった。
操縦者が弱かったのだ。だからこそ、〔アッシュ・バスター〕は冷静沈着にガス欠寸前になった〔フェイク・アル〕を討ち取ることができた。そこに情けも慈愛の精神もなく、ただ邪魔者を排除したという事実だけが確立した。
前方を行く〔アル∑〕は仰向けの飛行から立ち上がると、ビーム・ライフルの銃口を向けてきた。停止し、しっかりとビーム・ライフルを構える。
〔アッシュ・バスター〕はスラスターでホバー移動を開始し、〔アル∑〕へと真っ向から挑む。盾を構えて、ショットガンのスライドを動かす。空になったエネルギーパックが吐き出された。
パッとビームの閃光が輝く。
「————っ」
モーガンの意志を飲み込もうとする強烈な光は、防げるとわかっていても驚いてしまうものだ。
それでも、〔アッシュ・バスター〕の障壁によって、ビームは虚しく拡散されるばかり。段取りが悪く、ワンパターンな戦術に見える。
モーガンの意志はしかし、そんなものではない、と決断する。敵の狙いは正確。こちらから突っ込んできて、効果がないと知っていてなお、ビーム・ライフルの射撃にこだわる理由。
「エネルギー切れを狙ってるのじゃな?」
ショットガンの距離に入った。
同時に、彼の声は樹たちのもとに傍受される。
「————くっ」
彩子は喉を鳴らして、敵にこちらの攻撃が予測されていることに苛立つ。
どんな機体であれ、『ガンメタル』によるバッテリーが底を尽きれば、動かなくなる。まして、ビーム兵器を防ぐような装置だ。その消費量は図りしえないだろう、と樹たちは憶測していた。
〔アッシュ・バスター〕のショットガンの銃口が輝く。
〔アル∑〕も急いでホバー移動で後方に下がりながら、ビーム・ライフルで防護幕を張った。
バチバチッと目の前で閃光が走る。樹たちは目を細めながら、その光の中で浮かび上がる悪魔のような影を逃さなかった。
その左腕が構える盾から、ぬっと何かが飛び出した。
「はっ!」
樹は肺に空気を送り込んで、急いで応戦に入る。
互いの距離がさらに縮んだ。白兵戦の距離だ。
〔アル∑〕は左腕部が握るカタナを振り上げる。対して〔アッシュ・バスター〕の盾から延びたそれ、強靭な刃が横薙ぎに繰り出された。
ガギャンッ。
互いのプラズマによって加熱された刃が跳ねた。
「ああっ」
「力が弱まっているようじゃぞ?」
モーガンの声に、樹たちは戦慄する。
楽しんでいる声音ではない。もっと冷淡な現実を突きつける声だ。もっと感情的なものであれば、彼女たちの気持ちも反発できただろう。
だが、目の前で相手をしている敵は機械的で得体のしれないものに感じられた。
〔アル∑〕の気の抜けたカタナの構えに、〔アッシュ・バスター〕が盾の剣を容赦なく振るう。
〔アル∑〕が力に押されて、横倒しにされる。
「あうッ————、あ!!」
音は体を打ち付ける痛みに耐えて、体が一気に冷え込むのを感じた。
通常モニタで刃を奮い翳す〔アッシュ・バスター〕の姿。
殺される。この操縦席に向かって、巨大な刃が体を押しつぶし、引き裂こうとしている。反芻する思考が回転して、目の前が霞んでいく。
「あぁ、ああああああああああああああっ!!」
耐えかねた恐怖が爆発して、音が照準もままならないビーム・ライフルを発射した。
「ぬんっ!?」
〔アッシュ・バスター〕は至近距離からのビーム・ライフルに驚いて、大きく後退する。
ビームは宇宙へと飛翔し、やがて消えて行った。
「今のうちに————っ!」
樹も半べそになりながら、一気に〔アル∑〕を起き上がらせると距離を取らせた。メイン・スラスターを全開にして、一ミリでも遠く敵から離れたかった。
「あんなの、どうやって倒せってのよ!?」
彩子は怒鳴って、追撃を開始した〔アッシュ・バスター〕を弱々しい瞳で見つめる。
ビームも利かない。接近戦にもつれ込んでも、傷ついた〔アル∑〕では長くは持たない。『幻覚』も使用できないうえに、使えたとして効果があるともわからない。
しかし、モーガンの中では彼女たちの恐怖心を読む以上に、頭の中に響く悲鳴が集中力を害していた。
「ええいっ。子供の泣き声など」
モーガンの意志は頭にこびりつく金切り声に、ざらざらした感覚を覚える。それがダイレクトに〔アッシュ・バスター〕の四肢の動きと連動して、ぎこちなさを持たせる。
迷いなどではない。命の底からくる叫びほど、恐ろしいものはない。
彼の人生の中で、最も嫌悪するものであり、排除しなければならないことである。
「負けられないの、二人とも。お願い。今は、泣かないでっ!」
樹は懇願して、〔アル∑〕にまとわりつく気持ち悪い感触を全身に受ける。
〔アル∑〕が月面に一度足をついて、跳躍したときの衝撃からではない。脳髄から腹の底から湧き上がる気持ちの悪い感覚が、心をへし折ろうとする。
と、彩子が短い息を繰り返しながら、電子戦モニタに表示された情報を目にする。
「こ、これって、まさか————」
絶望の窮地に立たせれ、彩子は自分の頭がおかしくなったのかと初めは疑った。
しかし、〔アル∑〕が大きく後ろへ後退するたびに確信へと変わっていく。情報を比較し、敵の動きを解析し、そして熟考する。
応戦するビームが〔アッシュ・バスター〕に衝突しては拡散されていく。無慈悲な光の燐光を眺めて、ハッと息を飲む。
「からぽ、なた!」
音が叫んで、ビーム・ライフルのエネルギーパックを交換する。残りは装填したのを入れて二つ。
その逆境に音は腹のムカムカ以上に、敵に対する苛立ちが湧いてくる。怖い。逃げたい。だが、このまま放置すればあの機体はもっと多くの人を殺してしまう。
ここで倒さなければならない。
樹はスロットルレバーとラダーペダルを踏んで、〔アル∑〕の着地に備える。月面に脚部がつくと、膝の関節が緩んでバランスを崩しそうになる。
それでも無理やりに立て直して、後方へ跳躍する。追い縋る〔アッシュ・バスター〕は無理に追いかけることはなく、操縦者の体力消耗を狙っているように見えた。
「負けられない。負けられないの……」
自分を奮い立たせる呪文を唱えて、樹は敵機を睨み付ける。




