~決戦~ 突撃せよ
行く手を阻む〔ミリィフロップ〕通常装備を切り裂いて、〔アル∑〕はようやく敵艦隊へと飛びこめた。
飛び交うビームとレールカノンの嵐を回避し、旗艦〔リジェネート〕を捉える。
「後続はどうなってるの?」
「隊長たちは来てくれてる。援護してくれてるわ」
「樹、左っ」
音の声とともに、左方向からレールガンの青白い閃光が瞬く。
〔アル∑〕は辛うじて即席のシールドで受け流すと、その方へ翻り、右脚部レールガンを一射。
宙返りしつつ、機体はさらに接近する〔ミリシュミット〕のバディを捉えて、その方へビーム・ライフルを放った。出力を抑えた一撃は、レールガンよりも初速はないも十分に敵の注意を引いてくれた。
すると、〔アル∑〕を守る様に後続の〔グスタフ・ドーラ〕の分隊支援火器が火を噴く。
ビーム・ライフルの光につられて、羽虫のように湧いてくる敵の直掩部隊を牽制する。
「数が——」
「三人に近づけさせなければいい。曹長、右を叩け」
「了解」
フォースの命令が下り、リーンの〔バーカム〕がメイン・スラスターを最大にして、〔アル∑〕にちょっかいを出す〔ミリィフロップ〕バディへ突進する。
一方でフォースの〔バーミリア〕電子戦装備は〔アル∑〕の左へ飛んで、アサルトライフルを発砲。
「樹、ここで足を止められないでしょ。さっきの爆発だってさ————」
「わかってるっ」
樹は彩子の言葉を遮って、スロットルレバーを一気に上げる。
〔アル∑〕は強引に〔AW〕の防衛を突破しようとするも、どうしても阻まれてしまう。後続が来ないのもある。だが、敵の動きは艦砲射撃の中でも悠々として、一分の隙も見せない。
左右に散る〔ミリィフロップ〕の数は十数機。樹たちを取り囲んで、十字砲火の態勢をだ。
自然、飛び出していった〔バーカム〕も一機、二機を切り伏せるのがやっとで、後退を余儀なくされる。〔バーミリア〕電子戦装備も軽やかに敵の十字砲火を避けつつ反撃をするも、徐々に〔アル∑〕のもとへ追いやられる。
「囲まれました。隊長、『幻覚』で敵の動きを封じます」
「こんな敵艦近くでは逆効果だ」
フォースは叫びながら、囲い始めた〔ミリィフロップ〕一機をグレネードランチャーで撃墜する。〔バーミリア〕電子戦装備はグレネードを再装填しつつ、反撃の機会を探る。
冷静でありたいがために、相反するようにして焦燥感が湧き上がる。つい先ほど起きた巨大な光りが、彼をそうさせるのだ。夜明けを思わせる光芒は、敵も味方も関係ない。
多くの死者が出たことを意味しているから、誰もが恐れ、焦る。
だが、樹たちはその心の疼きにもがくように、〔アル∑〕を操縦する。
「隊長、曹長、准尉!」
樹の叫びは、集まりだしたリーン、コフィン、フォースの耳を打ち、彼らの機体を招集した。上下関係などない。この場の可能性に賭けるしかないのだ。
〔アル∑〕を中心に、援護態勢を取る〔バーカム〕、〔グスタフ・ドーラ〕、〔バーミリア〕電子戦装備。
「音、出し惜しみはなし。一気に決めるよっ」
「あい。拡散、する」
「数が多いわ。無茶よ」
「そんなの、やってみなきゃわからないでしょ」
樹は昂る気持ちに任せて通常モニタに映る〔ミリィフロップ〕、〔ミリシュミット〕の軍勢を目で追った。四方八方から降り注ぐ弾丸に目がくらみそうになる。
〔アル∑〕は三機の〔AW〕に守られるつつ、まずビーム・ライフルのエネルギーパックを捨て去った。続いて左肩部のマルチ・ハープーンを伸ばし、ビーム・ライフルの銃床にある接続プラグに差し込む。
彩子が即座に機体のメイン・バッテリーと直結させ、アンプによる転移増幅を極限に抑える。下手をすれば、バッテリー出力にビーム・ライフルが耐えられなくなる。エネルギーパックを捨てたのも、逆流を恐れたからだ。
樹の目論見は危険かつ盛大なもの。彼女が周囲の状況をその隻眼で見定めると、スロットルレバーとラダーペダルを操る手足に力を込める。
「みんな、下へっ!」
フォースたちが返答するよりも早く、それぞれの機体を〔アル∑〕の足元へ降下する。
その瞬間には、〔アル∑〕がメインとサブのスラスターを巧みに操り、ビーム・ライフルを右腕部でサイドスローの形で放った。一気に伸びるマルチ・ハープーンのワイヤーを手繰り、機体を回転させると、ビーム・ライフルも大きく弧を描いた。
「これでっ!!」
音がトリガーを引く。
瞬間、ビーム・ライフルから閃光が迸ると、そのまま光の波となって敵〔AW〕部隊へなだれ込んだ。燕華にした鎌鼬の応用だ。
凄まじい遠心力に苛まれる樹たち。
敵機はその広範囲攻撃に詰めていた距離を一度開いてしまう。それでも、襲い掛かるビームの波に期待を切断されるものもいる。
一重、二重、縦横無尽に渦巻くビームは敵を圧倒していた。
「この隙を逃すなっ!」
フォースは〔アル∑〕の攻撃を窺ってながら、〔バーミリア〕電子戦装備のアサルトライフルで惑う敵機に狙いを定め、撃墜する。
コフィンも〔グスタフ・ドーラ〕の分隊支援火器で〔アル∑〕を守り、マルチ・ハープーンの軌道から避けて援護に当たる。
「おいっ。もう十分だ」
リーンは樹たちに言って、〔バーカム〕を距離を取る敵部隊へ突っ込ませる。その圧倒的な瞬発力を使い、サブマシンガンで攪乱する。
彼が『新人類軍』の艦隊への道を切り開く。
「うぅ……。二人とも、行くよっ」
「ビーム・ライフルはまだ大丈夫。けど、出力は抑えて……」
「あい。任せる」
樹たちはぐるぐるとまわる視界の中で、〔バーミリア〕電子戦装備が艦隊へと進み、〔バーカム〕の援護に回るのを見た。
〔アル∑〕は惰性で宙を回転し、マルチ・ハープーンを収容。右腕部にビーム・ライフルを握らせる。周りの敵を蹴散らすことに成功したものの、やはり体に負担をかけ過ぎた。
だが、心の圧迫感は消えて次の目標に目を向ける余裕が生まれたのは僥倖だ。
「三人とも、大丈夫ですか?」
「コフィン准尉さん……?」
彩子は頭を振って、機体の姿勢制御機能をバックアップする。歪んだ対物光センサはまだ〔ミリィフロップ〕、〔ミリシュミット〕の影があると知らせる。それだけ、近い距離にいるのだ。
〔グスタフ・ドーラ〕は分隊支援火器の弾薬を小まめにばら撒いて、敵の攻撃リズムを崩すも、敵機のレールガンやマイクロミサイルの猛攻は捌くだけでも苦しい状況だ。
敵機通常装備のマイクロミサイルの一斉射が降り注ぐ。
コフィンはすぐにもEMPを発動させ、マイクロミサイルの軌道を錯乱させる。爆発の連鎖がモニタの光景を焼いて、目をくらませる。
「ああ——っ!」
〔グスタフ・ドーラ〕の近くで一発のマイクロミサイルが爆発し、機体が煽られる。
その時になって、樹と音が回復。〔アル∑〕のビーム・ライフルにリア・ラックのエネルギーパックを装填し、流される〔グスタフ・ドーラ〕を受け止める。
「すみません。遅れてしまい」
「コフィンさん、だいじょぶ!?」
「え、ええ、ありがとうございます」
〔アル∑〕はぬいぐるみをかかえた子供のように〔グスタフ・ドーラ〕を支えて、敵艦隊の方へ進んでいく。背中からくる敵機には右脚部レールガンを、前からくる敵機にはビーム・ライフルを放って撃墜していく。
「もう、大丈夫です。みなさん、援護します」
「了解」
「コフィンさん。敵艦隊をどうにかできない? これじゃ、後続が間に合わないわ」
「やってみます」
コフィンは機体を〔アル∑〕から離脱させると、大きく横たわる敵戦艦の横隊を一瞥する。突破するならどこでもいい。とにかく突破口が必要だ。
「AMR、セット————、照準」
〔グスタフ・ドーラ〕は分隊支援火器から対物狙撃銃へ換装すると、一隻の〔シーカー〕に狙いを定める。その船は隊列を乱そうとするリーンとフォースの機体に集中砲火を浴びせていた。
後方の敵機には〔アル∑〕と、遅ればせの後続部隊が対処しだしていた。
照準線がバイザーと同調し、拡大図と本来の視界との誤差を修正。射撃管制装置は通常作動をし、コフィンのわずかな震えを支える。
そして、目標を捕捉。
コフィンは一呼吸のうちに、トリガーを引いた。悩むよりも、考えるよりも早く、全神経をその一射に注ぎ込んだ。
〔グスタフ・ドーラ〕がすべてのスラスターを使い、対物狙撃銃の反動に耐える。ドゴッと鈍い振動と眩いマズルフラッシュがメイン・モニタを埋め尽くした。
彼女の機体が放った弾丸は、的確に〔シーカー〕を正面から射抜いた。青白い残光が残ると敵船艇は爆発する。
「よしっ。突破口が空いた」
リーンは沈んだ〔シーカー〕一隻を視界の端に捉えて言った。
しかし、〔バーカム〕は敵旗艦である〔リジェネート〕の機関銃とビーム砲を回避するので手一杯だ。それはフォースの〔バーミリア〕電子戦装備も同じだ。
「後続が来ない以上、ここで足止めか————」
フォースが歯がゆい言葉を漏らしながら、〔バーミリア〕電子戦装備のアサルトライフルを腰に回して、背後から近づいてきた〔ミリシュミット〕一機を損傷させる。
〔バーカム〕と連携を取りつつ、旗艦への攻撃を諦める。
そうせざるを得ない戦力差だ。後続が追い付けばまだ可能性はある。味方の艦隊攻撃に覇気がないのも、おそらくは敵〔AW〕部隊に抑え込まれているからだろう。
と、〔アル∑〕がビーム・ライフルで二、三発〔リジェネート〕へ発砲。ビーム砲座を的確に撃ち抜き、〔バーカム〕、〔バーミリア〕電子戦装備の動きを軽くする。
樹は集まってくる敵〔AW〕の動きに注意しながら、二人に言った。
「どうします?」
「ここで撃ち合いを続けても、埒が明かない。早く、月の本拠地を叩く必要がある」
フォースは即決して、〔バーミリア〕電子戦装備のグレネードランチャーで近くで砲撃してくる〔シーカー〕に撃った。だが、対空砲火にあっさりと撃ち落されて、爆発の光が膨らんだだけだ。
それを背にして、さらに〔グスタフ・ドーラ〕への合流。
コフィンは機体を回避させながら、次の攻撃を窺っていた。さすがに動きながらではろくな昇順もつけられない。射程距離が自慢の対物狙撃銃でも、安定した姿勢が取れなければ、ただの大筒だ。
フォース小隊が揃い、互いに周囲から迫る敵を撃墜、あるいは離脱させていく。
「月は目の前だっていうのにっ」
樹は通常モニタに大きく映る月を見て、枯れた声を上げる。
すべての始まり。そして、敵の本拠地が眼前に浮かんでいるというのに、艦隊の防衛網が越えられない。機雷原以上の強固な守りは、それこそ来る敵を弾き返す城壁だ。
「だったら、お前らだけでも先に行け」
「隊長!?」
「何を言ってるんですか?」
フォースの発言に、リーンもコフィンも驚きの声を上げる。
その一瞬のゆるみが、敵の接近を許可してしまう。向かってくる数機の〔ミリィフロップ〕通常装備がヒートブレードを構えた。
樹も〔アル∑〕にカタナ一対を爪のように展開させる。フォースの声は続いていた。
「これから、〔シーカー〕一隻分の突破口を開く。そしたら、一気に突き抜けろ」
「たった一機行かせても無茶だ————、クソッ」
リーンは〔バーカム〕を接近する敵機へ突っ込ませ、ビームトンファーとヒートナイフで応戦を始める。接近戦主体の機体だ。今は少しでも気を引いている方が無難だ。
コフィンはそんな彼の背中を支えるようにして、分隊支援火器と対物狙撃銃の二丁を〔グスタフ・ドーラ〕に無理やり構えさせ、援護する。その照準はお粗末で、敵を悪戯に拡散させるばかり。
〔アル∑〕も白兵戦を挑んできた〔ミリィフロップ〕通常装備をカタナで弾き飛ばし、ビーム・ライフルで撃墜する。隣りでは〔バーミリア〕電子戦装備が応戦している。
「隊長さんっ。いくらなんでも、あたしたちだけ行ってもしかたないでしょうっ!」
「いいや。これだけの数を防衛に当てているんだ。本拠地はおそらく手薄。それにさっきの爆発を見たろ?」
「あい。でかい、光、でしょ?」
「敵であれ、味方であれ、戦艦クラスが沈んだんだ。なら、早くに手を撃たないとこっちがヤバい」
〔バーミリア〕電子戦装備は伸縮式シールドを展開して、レールガンの弾丸を逸らすと、アサルトライフルの照準を手近な〔シーカー〕に定める。
その動きを樹は見た。隻眼の狭い視界の中で、頭一つ出るようにして〔バーカム〕が敵艦隊を狙いにつけているのを。
彼の理屈がただの焦りからだとしても、樹もいち早く月に突入したい衝動があった。作戦効率を考えても、本拠地を叩くことで敵艦隊の動きを止めることができるかもしれない。それを単機で行うのは至難の業。
しかし、それ以上に『新人類軍』の首領たるモーガン・ジェムという老人に会いたいという気持ちがあった。この戦争を引き起こした張本人にして、彼女の右目を機会に変えた人物。そして、後継者と勝手に決めた卑しい男。
「————わかりました。何とかします」
「ちょっと樹!?」
「危ないっ!!」
彩子と音の狼狽は正しい反応だ。ここで突撃するのは危険すぎる。
しかし、その通信を聞いたフォースと樹は行動を起こしていた。
〔バーミリア〕電子戦装備はありったけの弾丸を一隻の〔シーカー〕に叩きむ。距離があり、致命傷とまではいかないまでも、艦砲射撃の動きを一手に集中させる。
瞬間、〔アル∑〕がシールドを構えると、アフターバーナーを駆けてその一席に正面から突っ込んでいく。『幻覚』のような妨害手段などいらない。その速度とシールドの強度で乗り切って見せる。
「うっく————」
樹たちは必死に負荷に屈しないよう全身に力を込めて、弾丸の嵐を見つめる。シールドに次々と着弾する機銃砲。対ミサイル装備しかないのだ。フォースはそれを見越したうえで、ちょっかいをかけたのだ。
呼吸が止まる。
その時にはもう船の横隊は目の前にあった。ほとんどの艦砲射撃が〔アル∑〕の軌道をなぞる様に攻撃をしかける。
だが、そこに光の矢が何条と奔った。〔グスタフ・ドーラ〕の対物狙撃銃だ。撃墜こそできずとも、脅すには十分だった。
「まったく、本気かよっ」
「お願いします、みなさん」
リーンは〔バーカム〕で〔グスタフ・ドーラ〕を守りつつ、後続機の応援を待った。
コフィンもまた樹たちを送り出すことに全力を尽くす。
「あいつらなら、できる。あいつらだからこそ————」
フォースも〔バーミリア〕電子戦装備をリーンたちの加勢に加えて、信頼の声を漏らした。
〔アル∑〕はそして、高速で敵艦隊の防衛線を突破し、月へと向かって行く。
モーガン・ジェムは特別に作られたパイロットスーツを着込み、『サテライト』のある格納庫に姿を現していた。
彼が発注した機体、残存していた〔アル+1〕の情報とこれまでの戦闘記録から生み出した大型〔AW〕、〔アッシュ・バスター〕だ。
その禍々しい鎧をまとった機体は、しかし、荘厳な雰囲気と気品に満ち溢れていた。さしずめ、騎士のなれの果てというべきか。戦場で朽ち果てたそれが、地獄から蘇ってきようだ。
「…………」
モーガンは作業を急ピッチで進める整備員を見ながら、〔アッシュ・バスター〕を見上げた。
これは悪魔との契約だ。
この機体は月面最後の砦。地獄の門番、ケルベロス。そういった存在となるべくして、生み出された。
モーガン・ジェムのような老体ではまず制御するだけでその筋張った体を粉々にしてしまうだろう。だが、〔アッシュ・バスター〕はそんな脆い身体を欲しているのではない。
強靭な精神、熟した脳髄、魂だ。
と、アナウンスが流れた。
『敵、機種不明機が月へ降下。予想降下ポイント、南東、五〇キロ地点』
「ふむ。では、いくとするかの」
モーガンはすでに覚悟を決めて、自分のすべき役柄を心得ていた。
人の新しい未来、ひいては地球存亡のために彼は命を賭す。『新人類』という種が生き残り、世界を築くと信じて。
彼はしゃんとした足取りで、リフトに足を踏み込んだ。
それが契約のあかしだとでもいう世に、〔アッシュ・バスター〕の四つのセンサーアイが赤く煌めいた。




