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マシン・レコード  作者: 平田公義
第十九章
143/152

~決戦~ 自壊の決意

 ヤッシュにとって、この戦場は都合のいい狩場だった。


〔フェイク・アル〕のスピードについていけない『新人類軍』の〔AW〕部隊は、標的を『地球平和軍』艦隊に絞っていた。歴然たる性能差を前に首級を上げる気もなくなったのだろう、と彼は思った。


 彼我の艦隊は拮抗し、被弾数、撃沈数を徐々に増加させていく。もちろん、どちらも死力を尽くして、一方が滅ぶまでその攻撃の手を休めることはないだろう。


「この機体には、誰もついてこないか……」


 ヤッシュは全身を駆け巡る血の流れに興奮して、機体を一気に敵艦隊へと向ける。眼下を過ぎる艦砲射撃の流れを見下ろして、〔フェイク・アル〕はスラスターを噴射する。


 宇宙に迸る光に押されるようにして、機体が彗星のごとく『新人類軍』の旗艦〔リジェネート〕に狙いを定める。


〔フェイク・アル〕の持ち味である火力と加速度はその手数が少ない。燃費が悪い以上、最小限の攻撃で最大限の功績を上げる必要がある。


 並みの操縦者ならまず乗る前から願い下げのコンセプトだ。製作するスタッフも、早熟の操縦者でなければ扱えない機体だと酷評を述べた。熟練の操縦者ならば、難しくない戦術なのだろうが、如何せん体にかかる負荷は投薬なしでは耐えきれない。まして、練度を上げた操縦者の年齢はお世辞にも若い部類ではない。


 フォース・ロックのような経験と勘に優れたベテラン操縦者であっても、体はもう通常の機体についていくのでやっとなのだ。


 だからこそ、ヤッシュ・カルマゾフはその若い肉体と過信する技術を持って〔フェイク・アル〕に乗った。すべては、オリジナル、〔アル(シグマ)〕と操縦者である佐奈原(さなはら)(いつき)を超えるためだ。


「機種不明機、来ます」

「ビーム砲座狙いを機種不明機へ。ミサイルで弾幕を張れっ」


〔リジェネート〕を指揮するグレッグは早口に指示を飛ばす。


 艦隊の攻撃が備わるまで、直掩部隊が支える。妨害(ジャミング)が張っている宙域であっても、彼らは自らの任務を心得ている。


〔ミリィフロップ〕隊の通常(ノーマル)装備がマイクロミサイルを放出する。幾多ものミサイルが壁となって、〔フェイク・アル〕へ突進していく。


「ぐぅ————」


 ヤッシュは内臓が喉元に上がってくるような気持ち悪さに耐えて、機体を急転回。スラスターを偏向して、緩やかにそのミサイル群を潜ろうとする。


 しかし、射程に入ったミサイルが無慈悲な爆裂を起こす。いくつもの爆発が頭上で瞬くと、〔フェイク・アル〕を飲み込もうとする。


 機体が爆発を受けて、大きくよろめいた。〔フェイク・アル〕にとってはささやかな傾きだが、ヤッシュはシートのショックアブソーバーの調子を疑うような激震に歯噛みする。


 リニアシートで操縦席の角度は調整されているにもかかわらず、頭を斧でかち割ってくるような負荷が襲い掛かる。


 立て続けに戦艦からのミサイル攻撃。


「ちぃっ」


 ヤッシュはそれらをビーム・ライフルで消し去り、一度離脱する。艦隊の懐に入っても、袋叩き似合うだけだ。


 眩むような閃光を利用して、〔フェイク・アル〕は大きく旋回。敵艦隊の横隊を舐めるように、引き返していく。その際も、数発のビーム・ライフルと〔シーカー〕の砲撃が交錯し、痛み分けとなる。


「損傷報告っ」

『七番船、損傷軽微』

『十二番船、砲座をやられました』

「九番船の撃沈を確認。右翼の船隊の損傷率、四〇パーセントを超えてます」


〔リジェネート〕の発令所では、右翼に展開する〔シーカー〕船隊がまともに戦える状態ではないことを知らせる。それでも、この一戦を超えさせるわけにはいかない。


 グレッグが表情を硬くする。


 瞬間、メイン・モニタに映し出された『地球平和軍』の戦艦〔イリアーデ〕からドッと血しぶきをまき散らすように爆発が起きた。


「観測班より入電。敵艦〔イリアーデ〕に甚大な損傷あり、です」

「誰がやった?」

「わかりません。しかし、こちらのアームウェア部隊が押しているのは間違いありません」


 グレッグは敵艦隊へ挑む〔AW〕部隊の働きに喜んで、〔フェイク・アル〕の攻撃などかすり傷程度に思えた。


「第二波ミサイル、準備しろ。この機会を逃すなっ」


 その命令はノイズ交じりの無線によって、全船艇に通達される。


 一方で被弾した〔イリアーデ〕艦内では、慌ただしいダメージコントロールと敵〔AW〕への迎撃が続いていた。


「F通路からJ通路、封鎖。閉鎖弁、ロック」

「対応班、消火作業————、諦めるなっ」

「弾薬庫に直撃だったんでしょ!? 無用な弾薬は捨てろっ」


 オペレーターたちは苦い経験を思い出しつつ、その記憶をばねにした対応をする。彼らとて、幾多の作戦に参加した熟練だ。〔イリアーデ〕の扱いは、心得ていたし、敵の動きにも敏感だった。


 艦長であるクロッグ・ジョーリンはまとわりつく〔ミリィフロップ〕の動きよりも、敵艦の動きを警戒して大声を上げる。


「敵艦の動きに注意しろっ」

「敵より砲撃っ!」


 オペレーターの切羽詰まった声とともに、〔リジェネート〕から閃光が瞬く。


 ビームの光が横間をすり抜ける。その軌道をなぞる様に、月を背景にミサイル群が押し寄せる。海の中を泳ぐ魚群のように、圧倒的で圧巻の光景。


「アンチ・ミサイル、撃てっ! 直掩部隊は下がれっ」


〔リジェネート〕の指揮を任されているレミントンは声を荒げて、指示を飛ばした。


 多弾頭ミサイルとビーム砲座が一斉に迎撃を開始。それは敵〔AW〕部隊を無視した防御策だった。機銃座が懸命に〔ミリィフロップ〕、〔ミリシュミット〕の機動力を前に牽制するも、やはり歴然たる差が出てしまう。射撃の性能差ではない。〔AW〕の機動力、火力は鈍重強固な戦艦にとって、厄介な平気なのだ。


 彼我の間の宇宙で相殺する爆発の光。何度も何度も爆発を繰り返し、視界を焼いた。


 その間にも、『地球平和軍』はまとわりつく〔ミリィフロップ〕、〔ミリシュミット〕さらには爆発を潜りン抜けてきたビームやミサイルの攻撃に悪戦苦闘する。


「時間差……」


 レミントンは敵の攻撃の濃さにそう推測したが、オペレーターの報告に真実を知る。


「艦長。〔イリアーデ〕被弾多数。敵アームウェアの集中攻撃を受けています」

「直掩部隊は?」

「現在、各〔シーカー〕の護衛に回っています。〔イリアーデ〕に回せる数がありません」


 広く展開した代償とでもいうべきか。


『地球平和軍』は正面から殴り込む以上、広く展開する敵の防衛陣を崩す必要があった。広範囲から徐々にその輪を小さくするつもちだったが、『新人類軍』の計略は予想をはるかに超える損害を与える。


 先行した〔AW〕部隊の無効化。機雷原による軌道制限。『新人類軍』の〔AW〕部隊が行う手堅い戦法。


 守りに徹底したそれは、非の打ちどころがないものだ。いや、作戦参謀だけの働きではない。敵全体の底力、ともいうべきか。


 伊達に『新人類』を語る組織ではないというかことか。


 レミントンの表情が硬くなる。打開策を練り、頭が熱くなる。


 すると、血相を変えたオペレーターがひっくり返った大声を上げる。


「艦長! 〔イリアーデ〕がっ!」

「なんだ!?」

「メイン・モニタに回します」


 その声にレミントンもメイン・モニタに視線を投げかける。


 横についていた〔イリアーデ〕が陣形を離れて、前に躍り出ようとする。まとわりつく敵機をマイクロミサイルや機銃座、残りの直掩部隊で抵抗しつつ、その重たい機体を前に、前にと進める。


 レミントンは目を疑った。その傷ついた鯨のような艦体が前に出たところで、格好の的になるだけだ。


「通信、入りました。〔イリアーデ〕、艦長からです」


 通信士がレミントンに応対を求める。


「繋げっ」


〔リヴァイン〕の右舷で〔ミリィフロップ〕が撃破される。その爆発の余波は甲板を焼き、破片が機体を切り裂いた。そして、運悪く破片を喰らった甲板員も少なくない。


 レミントンは犠牲者が増えているのを一度無視して、クロッグからの通信に専念する。


『中佐。このままでは、艦隊は殲滅させられる』

「わかっている。ならば、〔イリアーデ〕を引かせろっ。第三波を仕掛ける」

『いいや、こっちにはもうそんな余裕はありません』


 ひび割れたクロッグの声には、悲嘆にくれるものがあった。


 すでに〔イリアーデ〕はまともに撃ち合える状態ではない。かつて、地球近くで起きた交戦時と同じように。


 だからこそ、クロッグは既視感からくる覚悟があった。悲嘆くれる前に、できることが。


『クルーをそちらに移動させます。あと、〔イリアーデ〕の護衛をお願いします』

「どうするつもりだ?」


 レミントンは彼の言葉の意図をわかっていた。だが、理性では汲み取り切れないものが、疑問となって口からこぼれた。


 しかし、『地球平和軍』の艦隊より前に出た〔イリアーデ〕は係留索を放出して、後方に控える〔リヴァイン〕の艦体に装着させる。半場、強行的なセッティングに〔リヴァイン〕内では警報が鳴り響いた。白兵戦に持ち込まれると。


『本艦を敵旗艦にぶつけます』

「いまさらっ」

『死に場所が来たんだよ。やっとな……』


 クロッグは三か月前には、自らの命を賭してクルーを守る選択をした。これはその続きなのだと承知している。


 あの時の選択はただ逃げるだけのものだった。だが今は、後ろに控える艦隊、ひいてはさらに後ろで輝く地球を守るためだ。


〔イリアーデ〕に集中しだす敵艦砲射撃に対して、残りのビーム砲座で対抗する。その間にも、直掩部隊が係留索を伝う救命ポッドを護衛する。〔AW〕同士の火線が激しさを増す中、粛々とポッドが〔リヴァイン〕に取り付き、〔イリアーデ〕から来たクルーたちが外壁のエア・ロックから乗り移る。


〔リヴァイン〕の艦橋で警報が鳴った。だが、それらはオペレーターが消して、各個に指示を出す。


「移乗してきたクルーは、第八ブロックにて待機」

「アームウェア操縦者がいるなら、格納庫へ急げっ」

「機銃座が空いている。援護に回ってくれ」


 レミントンはそれらの言葉を耳にして、引き返せる状況ではないことを悟った。


 だから、無線に応えた。


「了解した。貴殿の働きに感謝する」


 それを聞いたクロッグは通信を切った。もはや、語ることなどない。


 しかし、まだ艦橋に残っているオペレーター、機銃座で抵抗する兵士たちがいる。彼らを移乗させなければならない。


「何をしている。早く、移動しろ」

「申し訳ありません。今は手一杯で、それどころではありません」


 オペレーターの一人が言った。震えた声で、懸命に。


「出力機関、サブ回線に変更。メイン・スラスターに回します」


 機関士が言った。


「照準を敵艦隊に固定。アームウェアは気にするなっ」

「無線封鎖。警報装置、すべて解除。推進につかってください」

「針路、このまま〇時方向に固定する」


 火器管制士、通信士、操舵士も逃げるそぶりを見せず、激震する艦橋内で言った。


 クロッグはそのまっすぐな心意気が嬉しくも、悔しかった。今ここで逃げろ、と言っても一人で戦艦を動かせるものではない。ぶつけるにはそこに至る道のりを切り抜けなければならない。


 そして、一人のオペレーターが言った。


「艦内のクルー、計三六七名の避難を確認。いつでも、出港できます」

「各機銃座の援護もそう長くはもちませんよ」


 下段から火器管制士の声が響いて、クロッグは制帽のつばを下ろした。


「すまない……」


 ぼそりとつぶやくと、今度は大声を張った。


「これより本艦は単独行動に入る! 総員の命、確かに受け取った!」


 瞬間、〔イリアーデ〕は係留索を解除して、一気にメイン・スラスターを噴射する。


 加速していく戦艦を敵〔AW〕が追いすがる。だが、〔シーカー〕や〔ファークス〕、〔ギリガ〕、〔バーミリア〕の援護がその追随を許さない。

  

「敵戦艦、〔イリアーデ〕が突っ込んできます」

「特攻する気だぞ」

「時代錯誤もいいところだ」


『新人類軍』の艦隊は単機で突っ込んでくる満身創痍の〔イリアーデ〕を目の当たりにして、非合理だと感じた。


 なぜ、態勢を立て直すための撤退をしない。まだまだ、戦える機会はあるはずだ。ここでむざむざ標的に鳴る必要などないはずだ。


 グレッグも〔イリアーデ〕の動きに驚きはなかったものの、その行動に(リン)燕華(イェンファ)を重ねた。


 彼女もまた仲間を引き連れて、死んでいった。結果を残した。命を落としてまで。


 だから、言い知れない恐怖が戦艦から怒涛の波のように襲い掛かる。


「各船艇へ、〔イリアーデ〕を集中砲火」


 グレッグの指示など聞かずとも、誰もがそのつもりだ。


『地球平和軍』の艦砲射撃に押されるようにして出てくる猛スピードで接近する〔イリアーデ〕の影から、〔フェイク・アル〕が飛び出した。それは敵の防衛網の破れ目を見つけたように、素早い動きだった。


「囮となってくれる」


 ヤッシュには〔イリアーデ〕が自機のために陽動を行ってくれているものと感じた。


 だから、〔フェイク・アル〕は薄い弾幕の中を一気に駆け抜けて、敵艦隊の懐に跳び込んだ。


「機種不明機っ!」


 誰かがそれを叫んだ瞬間、〔リジェネート〕の艦体がビーム・ライフルによって蒸発させられた。大きく揺れる艦内。運悪く艦橋に撃ち抜かれる形となった。しかし、昨日は損なわれず、全機能の統括権限が発令所に回ってきた。


 その一瞬が攻撃の緩みとなる。脅威となるビームがなくなると、〔イリアーデ〕の船速はさらに増した。


 そして、〔フェイク・アル〕はその圧倒的な速度で艦隊を抜けて、そのまま月の本拠地へと単機で乗り込んでいく。


「機種不明機に抜かれましたっ」

「月にだって防衛策はある。それより、まだ落とせないのか」


 グレッグは焦りがこみ上げてきた。


 ビーム砲を受けても、今なお前進を続ける〔イリアーデ〕はもはや迎撃できる装備などほとんどなかった。装甲は焼けただれ、正面からの一撃を喰らわないよう動いていた。


 いや、彼らはバリアーを張っていた。


「敵ビーム、拡散。『ホーネット』は今ので最後か?」

「もうありません」


〔イリアーデ〕はありったけのビーム散布兵器『ホーネット』でバリアーを張り、敵ビーム砲を拡散している。


 彼我の距離はもう数百メートルというところにある。


 眼前に迫った敵を前に、グレッグの理性の指針が振り切れる。


「撃墜しろっ!」


 それが彼個人の感情であったならば、問題ではなかっただろう。しかし、クルーたちもその焦燥感が伝播して引き金を軽くした。


 逆に、クロッグは勝利を確信した。例え、立体モニタが敵旗艦〔リヴァイン〕のビーム砲座が瞬こうとも。


 クルーの様々な思いがその閃光ともに弾ける。悲しみ、苦しみ、後悔、恐れ、そして、喜び。自分たちの人生がこの宇宙で果てるのを虚しく思うことはない。


〔イリアーデ〕の船首から数条のビームが突撃する。


 グレッグはその迂闊な攻撃に目を見開いたが、遅かった。


 爆発する〔イリアーデ〕はすでにエンジンを臨界にまで稼働させていたのだ。それがビームによって、解放させられて、艦隊を飲み込む巨大なエネルギーとなって轟いた。


 太陽を思わせる広大な光球が膨れ上がり、〔リジェネート〕を飲み込み、そのエネルギーを吸収するようにしてさらに展開する〔シーカー〕を巻き込んでいった。


 レミントンはその光景をメイン・モニタで確認して、目を瞬く。周囲の〔AW〕の動きも鈍くなり、特に攻撃を仕掛けていた〔ミリィフロップ〕以下の部隊の鈍重さは顕著だった。


 そして、晴れていく光の向こうにはそのほとんどが残骸となった艦隊の姿が飛び込んできた。


「敵旗艦、撃沈……」


 観測班からの報告にオペレーターが喉に来るものを堪えて告げる。


 レミントンも腕に力を込めて、その勇士を目に焼き付けた。


「まだ終わっていない。全艦艇、前進。一気に突破するっ!」


 その悲痛にも雄々しい命令は『地球平和軍』の艦隊に伝達され、〔AW〕部隊を鼓舞した。

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