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マシン・レコード  作者: 平田公義
第十九章
142/152

~決戦~ 戦術展開

『第一艦隊、攻撃を開始。これより本艦は、敵防衛網に突入する。各機、準備しろ』


 そのアナウンスは〔マーダー〕の船員、〔AW〕操縦者の気を引き締めると同時に緊張感を走らせる。


「一足遅かったか」


 フォース・ロックは発艦準備を進めながら、自機の〔バーミリア〕電子戦(EW)装備の状態を確認する。問題はなし。弾薬、駆動部モーター、ショックアブソーバーなどなど、身を守り敵を討つ装備が充実していることに、不安が和らいだ。


 しかし、彼が懸念するのは『ガーデン1』部隊の早足な攻撃である。挟撃を仕掛けるにあたって、同時攻撃を仕掛ける予定であった。それを先んじる一手は、〔マーダー〕の艦隊に無用な圧力をかける。


 味方には精神的な側面を、敵には動きをより慎重にさせるのだ。


 フォースがシートの据わり心地に違和感を覚えるのは、そうした違和感からだ。


 瞬間、艦体に激震が走る。艦砲射撃が始まった。


「全員、用意はいいな?」


 フォースは自分の預かる部下たちに確認を取る。


「リーン・セルムット、〔バーカム〕、いつでもどうぞ」

「コフィン・コフィン、〔グスタフ・ドーラ〕、大丈夫です」


 フォースの〔バーミリア〕電子戦(EW)装備の後ろに控える二人から返答が来る。気合十分の声に、信頼できるものだ。気負うっているわけではなく、自らのやるべきことがわかっている覇気を感じられた。


 彼、彼女のバディで大丈夫だと判断する。


 遅れて、〔マーダー〕の底部カタパルトで、発艦姿勢の〔アル(シグマ)〕から通信が来る。


「イツキ・サナハラ、問題なし」

「アヤコ・ミナモリ、いつでもいいわよ」

「オト・ウタノ、だじょぶ」


 少し上擦った声が聞こえて、フォースはふっと短く息を吐く。


「緊張するな。いつも通りやればいい」


 緊張を少しでも解そうといったのだが、(いつき)たちからは上擦った返答。やはり敵の本拠地を制圧、加えて先陣を切ることが心の負担となっているのだろう。さらに彼女たちはいち早く、開戦の光を目の当たりにしているはずだ。


 フォースはそれでも、(いつき)たちの実力が低いとは思わない。当然の反応だ。そうした恐怖を持てるのは、戦いの火に魅入られていない証拠だ。


「やるぞ……っ」


 フォースが低く、唸る様に告げる。


 全員の顔に緊張と覚悟、闘志が宿る。負けられない。これで終わりにするために。


 (いつき)たちの操る〔アル(シグマ)〕は密やかに、その四つ目のセンサーアイを輝かせる。周りに浮かぶ甲板要員が誘導灯を振り、発艦を急がせる。


〔アル(シグマ)〕は追加装甲のない滑らかな姿態をかがめて、左腕部の武骨な盾を構え、右腕部のビーム・ライフルを下げる。右腕部のカタナ一対とリア・ラックに装備されたエネルギーパック四つ、右脚部レールガン、左肩部マルチ・ハープーンが武装のすべてだ。


 これまでにない激戦区では心もとない。


 だが、問題ではない。ここまで来て、引き返すなどあり得ないからだ。


 カタパルトの信号機がカウントを始める。その数秒に、(いつき)彩子(あやこ)(おと)は想いのすべてを整理する。


 絶対に、生きて、帰る。そして、戦争に幕を下ろして見せる。


 そして、信号機がスタートサインの青色に変わった。


「————〔アル(シグマ)〕、お願いしますっ!!」


 (いつき)の号令とともに、甲板要員たちの操作で特設カタパルトが作動する。


 激しい耳鳴りが操縦席に響き、勢いが体を砕こうとする。幾度となく受けたその感触に彼女たちは屈しない。


〔アル(シグマ)〕が猛スピードでカタパルトごと投射された。そして、カタパルトを解除すると、機体は自らの推進力で戦場の光へと舞っていく。




『ガーデン1』からの艦隊は大きく躍進していた。


 敵機雷原を焼き尽くし、迎撃を仕掛ける人工衛星群には各〔AW〕小隊、艦の防衛がうまく働いてくれた。周囲に破裂する光芒を突き進む〔リヴァイン〕と〔イリアーデ〕、〔シーカー〕の一団は快調。


「おかしい。なぜ、アームウェアが出てこない」


〔リヴァイン〕を指揮する壮年の軍人、レミントン・バーグはこの進行具合に不信感を抱いた。


「敵機の索敵を急げ」


〔イリアーデ〕艦橋でも艦長であるクロッグ・ジョーリンがクルーたちに言い放って、周囲の警戒に当たらせる。


「破壊した人工衛星や機雷でセンサーが……」

「観測班も爆発の影響で視界が効きません」


 二段組の艦橋に木霊するオペレーターたちの報告は、クロッグの不安を的中させるものだった。


 それは、〔リヴァイン〕でも起きている事態であり、レミントンも渋い顔をする。


「敵艦よりミサイルっ! ビーム砲撃!」

「アームウェア部隊、何してる!?」


〔リヴァイン〕のクルーたちが焦り、大声を上げて呼びかける。


 またたき、飛来してくる敵艦隊の攻撃。


 先行する〔AW〕部隊の動きはしかし、鈍く、回避がままならない。


「あ、頭が……」


『地球平和軍』の〔AW〕操縦者たちは唐突に起きた頭痛、吐き気に集中力が途切れる。『新人類軍』が発信するマイクロウェーブに引っ掛かったのだ。


 ビームの閃光が棒立ちになった〔AW〕を溶かす。ミサイルは弾頭が分裂、多弾の雨となって広範囲に戦火をとどろかせる。


 爆散する命と明かりが真っ暗な宇宙を彩った。


「よし。アームウェア部隊、発進しろ。一気に敵を叩く」


 グレッグは数百キロ離れた場所で起こる惨劇に手ごたえを覚えて、指示を飛ばす。


 マイクロウェーブが止むと『新人類軍』の〔シーカー〕、〔リジェネート〕より次々と〔AW〕が飛び出す。その動きは迅速に、的確に標的を駆る獣の群れ。


 残存している『地球平和軍』の〔AW〕、〔バーミリア〕隊に一気に肉薄する〔ミリィフロップ〕部隊が圧倒的な機動力を持って、これを鎮圧する。〔バーミリア〕はただ逃げ惑い、回避するので手一杯で、攻撃に転じることができなかった。マイクロウェーブの影響で、操縦者の士気が低下しているのだ。


「敵船艇に妙なアンテナ……。艦長、敵は何らかの電波攻撃、おそらくマイクロウェーブを使用している模様」


 オペレーターが観測班からの報告を受けて、これまでの戦闘パターンから有力な推測を口にした。


「厄介なものを————。艦体ならまだしも、アームウェアでは」


 レミントンは口の中で忌々しく言って、敵の防衛戦術に感心する。


 次々と後退する『地球平和軍』の〔AW〕部隊を守る様に、〔リヴァイン〕、〔イリアーデ〕のビーム砲が月に向かって放たれる。


 何条もの光が残光を残して伸びるも、敵艦艇一つ落とすことはできなかった。だが、怒涛の〔ミリィフロップ〕の動きを一時的に止めて、迎撃態勢を整える。


 その一瞬で、レミントンは決断するしかなかった。


「アームウェア部隊を援護しつつ、〔フェイク・アル〕を出撃させろ」


〔リヴァイン〕に牽引されている機体のペットネームがレミントンの口から飛び出すと、艦橋の終えpレーターたちは目を丸くして艦長である彼に視線を送る。


「だって、あれは——」

「調整不十分です。操縦者だって、ろくな奴じゃ——」

「今使わないで、いつ使うんだ」


 レミントンは敵の策略にはめられたことに憤りを感じながら、オペレーターたちの忠告をねじ伏せる。できることなら、面倒な代物を前線に出したくはないのだが、戦況は急転直下に味方を蝕んでいる。


 信頼はできない。だが、その性能を信じるしかない。


「操縦者は搭乗しているのだろ?」

「はい。通信、繋げます」


 レミントンの口調を察してか、通信士の反応は速かった。


〔リヴァイン〕に敵機の榴弾砲が撃ち込まれる。艦に激震が走り、左舷に風穴があく。そのさなかに、〔ファイク・アル〕との通信が直結する。牽引索からの有線通信で、クリアな男の声がこだました。


「やっと出番らしいね。すぐに出るぞ」


 それは、ヤッシュ・カルマゾフの爛々とした声だった。


 あまりに場違いなトーンに、オペレーターたちに不安の色が立ち込める。こいつに任せていいものなのだろうかと。


 幸い、踏みとどまる〔AW〕部隊が敵機を抑え、艦隊の後ろを取らせない。そうでなくとも、ビーム砲で敵艦隊へ砲撃を加えているのだ。そう簡単に取られはしない。


 レミントンは周囲の状況を見ながら、早口に言う。


「そうしてくれ。敵の第一線、できることなら、マイクロウェーブの発信機を壊してくれ」

「任せておけよ。英雄の眷属なら、問題ない」


 無駄な自信を見せつけて、ヤッシュからの通信は切断される。


 その言い回しには、レミントンも精神を逆なでされたが、今は取り囲むように展開しだす敵を打破することに集中する。




 各種出力が上昇し、心地いい駆動音を上げる巨大な機体〔フェイク・アル〕。


 機体は〔アル(シグマ)〕のコピー機ながら、大きさはそれよりも一回り大きい。〔シーカー〕一隻分の大きさで、小さな戦艦といっても差し支えない。人型のシルエットに、いくつものスラスターが装着され、特攻機もいいところだ。


 その両腕部にはビーム・ライフルが二丁。これだけだ。


「よしっ。牽引索、解除。行くぞっ」


 ヤッシュは音声入力で、機体を引っ張っていた牽引索を解除すると、機体は大きく後ろへ流される。激しい揺れと難しい姿勢制御で彼は内心冷や汗をかくも、そこは〔アル(シグマ)〕の戦闘データから作られたメイン・コンピューターがうまく対処する。


〔フェイク・アル〕は主人の操縦技能をサポートして、月を正面に捉えるとスラスターの角度を調整する。全長四〇メートルには届く機体で推力偏向をするのは、推進装置に大きな負荷を与えることになる。だが、戦争時に収穫した各種データからそうした機構をも可能にしたと言える。


〔アル(シグマ)〕のバリアブル・バーニアもそうした機構と言えるが、この機体の場合、それほど安定感のある軌道を考えてはいない。


 ヤッシュは次々とスイッチを上げて、エネルギーをスラスターへ送る。震動が身をゆらして、操縦かんを握る。


〔フェイク・アル〕がビーム・ライフルを構えて、ゆっくりと前進を始める。


「新型機、捕捉。注意しろっ」


 一機の〔ミリィフロップ〕が前線に出てくる巨大な〔フェイク・アル〕を見つけて、身近な、通信の届く範囲での味方に忠告を投げかける。


 瞬間、ドンッと〔フェイク・アル〕のスラスターが爆発するように光を放つと、目にもとまらぬ速さで〔ミリィフロップ〕隊の真下を通過していった。広く展開して、突貫を許しただけではない。


 とにかく、速いのだ。


「————っ」


 ヤッシュはパイロットスーツを着てもじかに肉を引っ張るような負荷に呼吸する危うくなる。しかし、パイロットスーツに突き刺した投薬装置で自身の血の流れを活性化。真っ赤になる視界で、操縦桿を倒した。


 すると、一度は敵部隊を抜けた〔フェイク・アル〕はスラスターの向きを大幅偏向。大きな旋回ながらも、流星のごとき速度で引き返してくる。


〔ミリィフロップ〕の軍勢も、その高速で飛行する物体に危機感を覚える。


 とにかく危ない。その感覚にとらわれたかのように、数機の〔ミリィフロップ〕が対処にあった。


「すぅっ」


 ヤッシュはやっと明るくなってきた視界の中に浮かぶ、敵の群れを見て、ふっと口を緩ませる。今この機体を操っているのは誰だと思う。かつての英雄の子孫、末裔が、その眷属とともに戦場に戻ってきたのだ。


〔フェイク・アル〕は二丁のビーム・ライフルを構えると、エネルギーチューブから供給される熱量を一気に解き放った。


 また巨大な閃光が宇宙を走った。〔アル(シグマ)〕の持つビーム・ライフルの二倍、三倍以上の高出力で向かってきた〔ミリィフロップ〕数機を一瞬にして消し灰にした。


「うおっ。何だっ!?」


 クロッグは呻いて、メイン・モニタの閃光に目を瞬かせる。〔AW〕の撃破ではない。敵のビーム砲撃がすぐ真横を掠ったわけでもない。


 巨大な光の残光が艦隊の前に横倒しになり、艦隊の目が潰れる。


「敵勢力、三〇パーセント破壊。コードは、〔フェイク・アル〕です」

「あの機体、こんな近くでビームなどを使いおってからに……」


 クロッグが愚痴っているそばから、〔ミリィフロップ〕隊の攻撃が次々と襲い掛かる。機銃座のクルーたちもビームの光に目がくらんで、照準が定まらない。


 そんなことなど知らず、ヤッシュは味方を助けたと感じて、〔フェイク・アル〕を敵艦隊へと向ける。後方から追随してくる〔ミリィフロップ〕、〔ミリシュミット〕があるもそれらの機動力を遥かに凌ぐスピードで振り切る。


 強力な火力と圧倒的なスピード。その両極端を備えた〔フェイク・アル〕はオリジナルのようなトリッキーさや器用さを削りながらも、十二分に効力があると確信する。


「いい機体だ。これで、僕は——」


 本物の英雄になれる。


 ヤッシュの中に沸き起こる高揚感。今までにない期待感をこの〔フェイク・アル〕は実現してくれた。


 これまでに〔アル(シグマ)〕が地道な成果を上げていることが、どうにもむず痒くて仕方なかった。なぜ、かつての英雄はそれほどまでに地味なのか、と。


 もっと、壮大に、派手に、勇猛なる結果を上げるからこそ、英雄なのだ。


〔フェイク・アル〕は敵の艦砲射撃を大きく回避しながら、大出力のビーム・ライフルをまずマイクロウェーブ発信機を備える〔シーカー〕に放った。


 一瞬にして、一隻が沈んだ。


「なんだ、あの機体は?」


 これには、グレッグも予想だにしていない事態で、強力な敵の出現に困惑する。


 敵の大回りな動きは角度を突かなければ、艦隊を沈められるものでないにしろ、脅威ではある。


「機種不明機です。マイクロウェーブ、やられました」

「残りのダミーを出せ。牽制に使える。各船艇へ、迎撃を優先、散開させろ」


 グレッグは指示を飛ばして、一度離れていく〔フェイク・アル〕を睨んだ。不用意に近づかず、ヒットアンドアウェイで着実に艦隊戦力を削っていくつもりらしい。


「直掩部隊に敵を機雷原に誘導させろ」

「了解」

「敵艦、一斉射撃、来ますっ!」


〔フェイク・アル〕に気を取られているうちに、『地球平和軍』からの第二波攻撃が殺到する。


「アンチ・ミサイル、撃て。各員は衝撃に備えろっ」


 グレッグは叫んで、シートに深く腰を据える。


 機雷に阻まれるビーム、ミサイル群もあれば突き進むものもある。その数は第一波よりも多い。それだけ、自動防衛線が機能しなくなっている証拠だ。


 多弾頭のミサイルが〔リジェネート〕から放たれ、ミサイル群を相殺していく。〔シーカー〕隊も通常弾頭でビームを可能な限り減衰させる。


 飛び散る重金属粒子が艦隊の装甲を焼いた。大した損傷にないしても、『地球平和軍』が距離を詰めているのは明白だ。


 揺れる艦橋でグレッグはメイン・モニタに映る〔リヴァイン〕と〔イリアーデ〕を見て、歯噛みする。隙を突く攻撃の仕方、判断力、準備の良さにある人物の影を見た気がした。


「そこにいるのか、レミントン・バーグ?」


 グレッグには『地球平和軍』でこれだけの艦隊指揮が執れる人物を知らない。


 この前に出会った時から、彼を超えたいという気持ちが一層の強さを持つようになっていた。それは『新人類軍』の未来を切り開くために必要な礎であり、試練だと自負している。


〔リヴァイン〕、〔イリアーデ〕は『新人類軍』の艦隊攻撃と〔AW〕部隊の攻撃に悪戦苦闘している。〔フェイク・アル〕の存在には驚かされたものの、やはりグレッグの策がまだ尾を引いている。


 勝てる。


 そう意識したとき、オペレーターが報告する。


「敵アームウェア部隊、接近」

「各艦艇は迎撃態勢。アームウェア部隊は全力で対処しろ」

「機種不明機、再度接近」

「大きなへ動きはできないんだ。火器管制、ビーム砲を集中させろ」


 グレッグは向かってくる敵に対して恐怖を抱くどころか、対処可能だと感じている。驕りではない。『新人類軍』と『地球平和軍』の彼我の戦力差を思えば、『新人類軍』に軍配がある。純粋な火力、人員の熟練度が決定打になる。


 光りが膨れ上がった。


 互いの距離がつまり、ビーム砲撃が強力な一撃となり、〔AW〕の機動力が互いの戦力を削っていく。熱量が上がっていく戦況に誰もが己がすべてをぶつける。

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