~宿敵~ 死線の先にあるもの〈後編〉
コフィンは機体の加速力に息を飲んで、意地でも〔アル∑〕の加勢を阻む敵機を睨んだ。
「AMR、セット」
音声入力によって、簡略化された〔グスタフ・ドーラ〕のシークエンス。それでも、肺を押しつぶさんとする負荷とキリキリと痛む喉で発声するのは、苦しい。
〔グスタフ・ドーラ〕は分隊支援火器から、対物狙撃銃を構える。長い砲身が展開し、距離を取って射撃をする〔ミリシュミット〕電子戦装備に狙いを定める。
暗闇の宇宙を走る閃光を追って、照準線が動く。縦横無尽に動く敵機は、その機動力と射撃を生かしてコフィンを翻弄する。
「…………っ」
コフィンは機体を振って、敵から吐き出される青白い閃光を回避する。横間を過ぎ、時に分厚い装甲を掠った。もともと、前線に出て戦うような機体ではない。
最大の持ち味である長距離砲撃も、これでは生かせない。
それでも、コフィン・コフィンの狙撃スタンスは崩れない。狙いを定め、まず一射。
まばゆいマズルフラッシュとともに、ロングレンジ・レールガンの比ではない初速を持って、弾丸が宇宙を駆ける。
「————っ!」
〔ミリィフロップ〕電子戦装備の操縦者は、粘り強い〔グスタフ・ドーラ〕の一射に油断したつもりはなかった。
だが、現実は機体の肩部にある発信翼を撃ち抜いていた。
操縦者は歯を食いしばって、強引に引っ張られる〔ミリィフロップ〕電子戦装備を立て直して、プラズマによる障害を復旧させる。
〔グスタフ・ドーラ〕の二弾目が、間隔を置いて放たれる。
何とかして、〔ミリィフロップ〕電子戦装備はメイン・スラスターを噴射して射線から外れた。それだけでも、彼の反応は素晴らしいものだ。運があったとしても、対処する心持はまねできるものではない。
普通の兵なら、まず諦めていただろう。
だから、コフィンも敵のしぶとさ、力量を改めて肌に感じる。
〔グスタフ・ドーラ〕も宇宙を駆けて、とにかく〔アル∑〕の戦闘状況を見失わないようにする。
剣戟は互いの力量がはっきりと出る。
たとえ体格差や得物のリーチの差があっても、心得ひとつ、技一つの洗練さが違えば、おのずと操縦者の力が顕著に出てくる。
〔アル∑〕は両腕部のカタナ二対を展開して、迫りくる赤い〔ミリシュミット〕のヒートソードの連撃をいなすので手一杯だった。
「フンッ。どうしたんだい? 動きが遅いよ」
燕華は〔アル∑〕のひきつった腕部の動きを見て、機体を宙返りさせる。そして、メイン・スラスターを噴射して目くらましをかける。
それには、樹たちも目を細めて、〔アル∑〕に防御を態勢を取らせるしかなかった。腕部を正面に構えて、壁を作る。ボクシングのピーカブースタイルに近い。
視界が悪いというのは三人に緊張を呼び込んで、縮こまった戦いになってしまう。攻勢に出れず、次に来る敵の一撃を回避することにしか思考が働かない。
態勢を立て直す赤い〔ミリシュミット〕が右腕部に握ったヒートソードで突きの応酬。太刀とは違う手数の多さで、肩を腰を、腕を切り裂いた。
「んっ――」
音は背中を揺する振動に顔を顰めて、ラダーペダルを踏み込んだ。
〔アル∑〕が右脚部を上げる。次の瞬間には、閃光とともにレールガンが迸った。
それにも、赤い〔ミリシュミット〕は左腕部で受け流して、そのまま後退して見せる。
「大したものだよ。あの時以上に……」
燕華は激震の中、眩む視界に映る〔アル∑〕の動きを認識して、思わず口元が緩んだ。頭痛がした。感情的になるな、と頭の中の機械が咎める。
初めて会った日を思い起こすと、その機動にムラがなくなって見えた。しかし、がむしゃらな感触はあって、彼女の琴線に触れる。
赤い〔ミリシュミット〕は機体を持ち直すと、逃げるように後退する〔アル∑〕を追った。
「追ってきたわ」
「————ッ! 音、準備して」
樹は左の二の腕に来る痛覚に顔を顰めながら、スロットルレバーを一気に上げる。
『幻覚』を使用して低下した〔アル∑〕のスラスター推進は、〔ミリシュミット〕のそれより劣っている。だが、彼女の加熱する頭が捉えているのは、もっと別のもの。
音も、彩子も、そして、追撃する燕華にもわかった。
「あくまで、銃にこだわる」
赤い〔ミリシュミット〕は先を行く〔アル∑〕が先ほど切られたワイヤーの先端、一丁のビーム・ライフルを手にしているのを捉える。右腕部のカタナの展開が解ける。
だが、相手が振り向くよりも早く燕華の得意な間合いにまで詰まる。
「ちぅっ」
音は接近警報の中で、唇をすぼめてラダーペダル、スロットルレバーを操作する。強引に、無理やりに動かして、〔アル∑〕を操った。
左脚部を背中へ持っていき、パイルを展開。
そして、赤い〔ミリシュミット〕の振るうヒートソードと対峙する。衝突。打ち出した杭に流し込んだ電流とヒートソードのプラズマが反発した。
「足癖の悪いのは、さすがだよ!」
「うれしくないっ」
傍受した敵のひび割れた声に、音は言って〔アル∑〕の左脚部を動かした。
蹴り上げる要領で脚部を動くも、赤い〔ミリシュミット〕は巧みにマニピュレーターの回転を利用してパイルをからめた。いや、出力低下の杭など、ヒートソードの加熱に耐えられず溶けてしまう。
一瞬であれば、そうはならなかっただろう。
〔アル∑〕の左脚部がぐんっ弧を描いた。その反動で機体そのものも回転。
赤い〔ミリシュミット〕は溶断したパイルを横目に見送って、機体を後退させる。
刹那、ビームの閃光が赤い〔ミリシュミット〕を掠めた。
「おっと、狙いが甘い」
燕華は飄々として、操縦桿を握り締める。
「さすがに、キツイ」
彩子は電子戦用モニタの向こうで瞬く敵機のノズル光に目を細めて、呻いた。無理やりな狙撃と機動に体が今にも砕けてしまいそうだった。
特に樹は腕の傷み耐えて、機体の姿勢を安定させて、向かってくる赤い〔ミリシュミット〕を睨み付ける。
敵から目を離すな。
そうした意志は音の中にもあって、彼女の表情から幼さが消える。
「————っ」
〔アル∑〕は音の呼吸でビーム・ライフルを発射する。
そこで、エネルギーパックの残量がほとんどないことを知らせるアラームが鳴った。
「あと、ひとつ、ふたつ?」
音はウィンドー表示を見てつぶやくと、軽く頭を振った。もう無駄な攻撃はできない。
ビームの閃光は宇宙のかなたで霧散して、赤い〔ミリシュミット〕の影を浮き彫りにした程度。同時に、敵の小型輸送船〔シーカー〕二隻が大きく行軍しているのが目に入った。
「あの船、異様だよ。特攻する気なんじゃないの!?」
「赤いの来たっ!」
「応戦するっ」
彩子の絶叫も、音の上擦った声も、樹には警報と似たり寄ったりな感じがした。
体中を蒸すような汗と体温、痛みが彼女を蝕む。下手に破片を抜き取ることもできず、今はとにかく敵をスロットルレバーを握るだけで、力が抜けてしまいそうだ。
赤い〔ミリシュミット〕がビーム・ライフルの射撃を避けて、下から回り込んでくる。ヒートソードの加熱した刃が残像を残す。
〔アル∑〕は左腕部のカタナで迎え撃つ。
ヒートソードの突きが迫り、カタナがそれを薙ぎ払う。大きく振った〔アル∑〕の左腕部とカタナが青白い軌跡を描いた。
赤い〔ミリシュミット〕のヒートソードが弾かれる。まるで蹴られたサッカーボールのように、機体が弾けた。
「————っんく」
燕華はぐっと息を飲んで、負荷に耐える。背中に伸し掛かる負荷は頭の中を一気に空っぽにしてしまいそうだ。
「今っ!」
音は最後の一発にすべてのエネルギーをつぎ込んで、ビーム・ライフルの照準を合わせる。
だが、燕華は自分に銃口が向けられているのを察知して、操縦桿を乱暴に倒し、ラダーペダルを左右交互に踏み込んだ。
〔アル∑〕の照準があと少しで赤い〔ミリシュミット〕を捉えようとした。
次の瞬間、赤い〔ミリシュミット〕が右腕部が握るヒートソードが投擲された。射撃管制装置などない。燕華の目と腕で放った一刀だ。
「へ——?」
素っ頓狂な声を上げる音だったが、その指にかけたトリガーはしっかりと捉えた時を逃さない。
〔アル∑〕が最後の一射をしようとした。しかし、投擲されたヒートソードの方が速い。
「まさかっ」
そのことを彩子は電子戦用モニタの暫定速度を見て直感する。強制的に射撃操縦に干渉し、ビーム・ライフルを捨てさせる。
「なんでっ!?」
音が悲鳴にも似た声を上げる。
続いてビーム・ライフルの銃身にヒートソードが食い込んだ。そして、制御を失ったビーム・ライフルのビームが暴走する。
樹も〔アル∑〕の左腕部で胸部を守るようにして後退させる。
カッと閃光が瞬き、暴走した光が膨らんだ。その勢いは〔アル∑〕の巨体をも、弄んだ。
「うぅ——」
強引に回転する操縦席の中で樹たちは肺の中にある曇った息を吐き出す。
「敵は出力が落ちているとはいえ、これはな」
燕華は先行で眩んだ目を瞬かせて、〔アル∑〕の行方を探す。その間にも、空になった外部タンクは切り離し、少しでも赤い〔ミリシュミット〕の軽量化を計る。
少し離れた場所、ちょうど赤い〔ミリシュミット〕の後方で僚機の〔ミリィフロップ〕と〔グスタフ・ドーラ〕が戦っている。蛍の光を見るように動く二機だが、圧倒的に〔グスタフ・ドーラ〕の動きの方が勝っていた。
限界。そんな言葉が、燕華の痛む頭が知らせる。
「まだ、あたしは十分に戦っちゃいない!」
燕華は心の奥の言葉を叫んで、メイン・モニタの端で揺らめくスラスターの光を見つける。〔アル∑〕だ。姿勢を立て直して、こちらを探している。
武器はもうほとんどない。だからなんだ。燕華の戦う意思はまだ挫けていない。
赤い〔ミリシュミット〕はぼろぼろになった機体を動かして、〔アル∑〕へと左腕部の兵装槍ラックからヒートナイフを展開して斬りこむ。
彩子が気づく。
「赤いのが来るよ。もう武器はないはずなのにっ」
「それでも向かってくるから、敵なんだ。あの人はだから、先生を殺せたんだ」
樹は興奮するがままに叫んで、〔アル∑〕のカタナをすべて展開して迎え撃つ。
互いの刃のリーチはまるで違う。カタナとナイフ、まして、体格の大きな〔アル∑〕が持つカタナは一振りで〔AW〕を軽々と両断できる大きさだ。
その違いを赤い〔ミリシュミット〕は感じさせない。むしろ、その体格、機動力を持って翻弄し、隙あらば必殺の一突きをお見舞いしようと動く。出鱈目な機動は樹たち三人の力でどうにか追うことはできたが、攻撃に転じることはできない。
「どうした? あたしを倒せないのかい?」
体を引き裂かんとする負荷の中、燕華が笑い転げる。
「倒す。あなたを倒さなきゃ、わたしは納得できないっ」
樹の声とともに〔アル∑〕が両腕部を振るって、敵機を払いのける。
「納得も何も、これは戦争よ? 初めからそんなものがあったかい?」
「あんたが言うことじゃ、ないんじゃないのっ?」
彩子は機体の出力が回復するのを見ながら、どこにエネルギーを優先的に伝達するか操作する。
「あなたたち『新人類軍』が戦争なんて起こさなきゃ、誰も死ぬことなんてなかった。ここ立つことも、なかったんだ」
樹は心の中に溜まっている不安を吐き捨てて、赤い〔ミリシュミット〕の軌道を目で追った。
燕華はその涙ぐんだ声に、胸がむかつく。
「理屈云々でここにいる必要がどこにある? これは本能だよ。捨てることのできない力だ」
「そなの。違うっ」
音はカタナのプラズマ伝導率を上げて、〔アル∑〕に敵のヒートナイフを軽々を弾かせる。
勢いよく赤い〔ミリシュミット〕は月の方角へ吹き飛ばされる。
「そうしないための『新人類』だったんだよ」
「暴力は痛いから、誰かを屈服させてしまうし、止めることだってできる。わたしたちは誰かを跪かせたいんじゃない」
樹は腕の痛みも忘れて、〔アル∑〕のカタナ一本を外し、投擲した。下手に近づけば赤い〔ミリシュミット〕の間合いになってしまう。
カタナの投擲は彼女の弱さと臆病さそのものだった。
「そんな真似事っ」
燕華は向かってくる巨大なカタナに物怖じ一つしない。
赤い〔ミリシュミット〕は飛来するカタナに左腕部を突きだして、殴りつける。ヒートナイフで反発、勢いを多少なり殺すと、今度は腕全体で減速を計る。
バキバキッと耳障りな音が燕華の耳元を掠める。
赤い〔ミリシュミット〕の右腕部がすかさず、カタナの柄を握った。減速させているとはいえ、彼女の反応と機体の特異性がなければできない芸当だ。
「ぐっくぅ————」
燕華は機体にカタナを掴ませたはいいいものの、投擲の勢いに押し負けて引っ張られる。
「あの人、なんてことを……」
「…………」
彩子がその執念ともいうべき闘争心とセンスに戦慄する。音も無言で、下唇を噛んで震える体を沈めようとする。
「正気じゃない」
樹は冷えていく自分の体を錯覚だと思いたかった。血が失われているせいだとわかっていながら、目の前でカタナを奪い取り抜刀の構えをする隻腕の〔AW〕に恐れを抱く。
あの時から変わっていない。初めて、燕華と対峙したあの時から自分たちは彼女に勝てないのだろうか。
「どうしたっ。あたしはまだお嬢ちゃんたちに屈したわけじゃない」
「そんなにまでして、あなたは……」
「フンッ。殺生だけで世直しできないからこそ、こうしてお嬢ちゃんたちを斬りに来たんだ」
「どんな理屈よ」
「どして戦う?」
三人の声を聴いて、燕華はここに至って本当の覚悟ができた。
「おしまいにするためだよん」
辛うじて聞こえる燕華の声に、三人は胸が熱くなる。
言っている意味を理解するよりも、彼女の持つ覇気は違うものに感じられた。『新人類』になれたはずの人が、結局はその呼称に酔いしれたいだけの人の集まりだと知ったのだろう。
だから、彼女はその手に剣を獲って、もしかしたら、他の人たちも、新しい人類の本質を見つけたいのかもしれない。
樹たちはただ、屍を重ねるだけのこの戦いを憎んだ。
だから、〔アル∑〕は赤い〔ミリシュミット〕の向こうで弾けていく光を見て、静かに身構える。
右腕部に残りのカタナを握らせ、左腕部の一対は魚のヒレのように展開。
残り一閃で決着をつける、と互いの〔AW〕は睨みあった。
一方でリーンは次々と動きの鈍くなる敵機を見て、虚しさがこみ上げてくる。
「こいつら、まだ戦うのか?」
「輸送船を〔マーダー〕にぶつける気なんだぞ? 奴らはそれだけ必死なんだ」
フォースはまだ目の前を動く〔ミリィフロップ〕にアサルトライフルを撃って、〔シーカー〕への道を開けさせる。その機体は導入された別働隊の圧倒的な弾幕の前に撃ち落とされていく。
少し前ならそんなものも容易く避けていたのに、それすれもかわせない。
〔バーカム〕と〔バーミリア〕電子戦装備は敵の乱雑な射線を掻い潜って、〔シーカー〕二隻の弾幕に思わず切り返す。
だが、フォースの目はすでに一隻の〔シーカー〕を捉えていた。
「悪いが、落とさせてもらう」
〔バーミリア〕電子戦装備のアサルトライフルに装着されているグレネードランチャーが発射される。
狙いは完璧。〔シーカー〕の機銃の死角を突いた射撃だ。
だが、味方の弾幕の中に飛び込んで、その吐き出されたグレネードを受け止めた〔ミリィフロップ〕が出てきた。
「あくまで、船を優先するのか……」
リーンは自機に周囲に集まりだした〔ミリィフロップ〕にサブマシンガンを撃って牽制させると、一度〔バーミリア〕電子戦装備と引いた。
「まいったな。奴ら……」
フォースも呆れて、機体の爆発を見送って次の手立てを考える。
〔マーダー〕までの距離は近い。このまま手をこまねいていれば、戦艦撃沈は阻止できても〔AW〕部隊にさらなる被害が出る。
瞬間、一筋の青い閃光が〔シーカー〕一隻を下から貫いた。力強い残光とともに撃沈。
リーンはそれが誰の手によるものか、すぐにわかった。
「コフィン准尉っ」
「状況はどうなってます?」
コフィンはぎりぎり聞こえたリーンの声にそういって、〔グスタフ・ドーラ〕に対物狙撃銃を背部に仕舞わせていた。
「もう一射できないのか?」
フォースが合流した〔グスタフ・ドーラ〕をメイン・モニタで確認していった。
「すみません。さっきので、全弾使ってしまいました」
「分隊支援火器は?」
「それも、ほとんど……」
コフィンはリーンの質問にも弱々しく答えて、機体の損傷率を確認する。先ほどまで相手をしていた〔ミリィフロップ〕電子戦装備が〔シーカー〕へ引いていったのを見て、合流を果たしがその間までにほとんどの弾を打ち尽くしていた。
フォースも唸って、機体を後退させつつ思案する。
「もう一度、仕掛けるか。〔ミリィフロップ〕は五機。やれない数じゃない」
「他の連中は、尻込みしてますけど?」
リーンはメイン・モニタに入る『地球平和軍』の機体の臆病な動きを見ては忌々しげにつぶやく。
と、コフィンがセンサーに巨大なものを感知して、それを確認する。驚くべき代物に彼女の目が点になる。
「ロック隊長、リーンさん。足元の使いましょう」
「ん? これは————っ」
「ガキどもに機体がつけてた追加装甲じゃねぇか。まさか、あいつら……」
「大丈夫です。サナハラさんたちは戦ってます。大丈夫です」
コフィンは一度見失ってしまった樹たちのことを思って、繰り返した。自分が不安で仕方がないのを、抑え込みたいのだ。
その点で、フォースは冷静に機体を追加装甲へと下げる。
「ビーム・ライフルが残っている。一か八か、やるぞ。准尉は照準、曹長は俺と反動を抑える」
「了解っ」
「わ、わかりました」
フォースたちは打ち捨てられた〔アル∑〕の追加装甲を支えて、電子戦装備でデータリンクを試みる。
その動きを敵が見逃すはずがない。
残り五機の〔ミリィフロップ〕が殺到する。
緊張の一瞬は樹たちの感覚を研ぎ澄ます。
構える〔アル∑〕は右腕部に持ったカタナを展開している一対のカタナの間に滑り込ませて、不格好な抜刀態勢を取る。
方や燕華はふっと舞い降りた静寂に体が軽かった。
赤い〔ミリシュミット〕は巨大なカタナを腰だめに構えて、間合いを測る。周りの閃光が徐々に減っていく。
「さぁ、終わりにしよう」
燕華は機体の安全装置を外して、最大出力で突進する用意を整える。おそらく、この一太刀で絶命するだろう。それだけの負荷を受けることになる。
「準備はいい?」
「ぶっつけ本番なんて、いつもでしょう」
「終わり、する。こなこと」
三人は静かに、心を張り詰めて〔アル∑〕の即席抜刀術の準備をする。レールガンと同じ要領で、右腕部が握るカタナを二本の加熱したカタナの間で加速させる。プラズマの反発を利用したものだ。
そして、互いの息が止まった。取り込んだ酸素が切れる前に、〔アル∑〕が、赤い〔ミリシュミット〕が飛び出した。
赤い〔ミリシュミット〕が爆発的な初速で一気に間合いを詰める。加熱できない分、一瞬にして一気にカタナに燕華のすべてを注がなければならない。
〔アル∑〕はしかし、それに反応した。遅ればせのタイミング。カタナにプラズマが迸り、蒼穹の一閃を放つ。
暗い宇宙で刹那の鋼刃が煌めいた。
同時に一筋の閃光が瞬き、巨大な爆発の連鎖を生んだ。
ガァンッと操縦席に響く震動。
互いの〔AW〕が横間を過ぎて、爆発を頭上に捉える。静かで、盛大な爆発はやがてすぐに消えて、また冷たい空間となる。
赤い〔ミリシュミット〕と〔アル∑〕がカタナを振り切った状態で流れる。
すると、〔アル∑〕のカタナに亀裂が走る。
「…………はっ」
息を吐き捨てた瞬間、亀裂の走ったカタナは脆くも崩れる。
同時に、赤い〔ミリシュミット〕のカタナが綺麗に、鏡面のような断面をして二つに分かれた。
赤い〔ミリシュミット〕もまた胴体がずれて、遅れて内側から血しぶきをまき散らすように爆発する。怨念も、失望もない。ただ、すべてをつぎ込んだ結果がこれだと受け入れるように。
〔アル∑〕は振り向いて、折れたカタナの柄を離した。マニピュレーターもぎりぎりでもう掴む力がなかった。
「…………」
樹、彩子、音は自分たちが最後の最後、今生の際までたたされてつかんだ勝利に目頭が熱くなる。
生きている。勝利した。だけど、悲しかった。今しがた切ったのは『新人類』ではなく、自分たちと変わらない人間で、そのこと必死にしがみついた人なのだ。感情のままに、欲望のままに、いつかの未来のために、懸命に生きた人。
そんな宿敵の最後は呆気なく、だけど、それだけに清々しい命の散り様だった。
〔アル∑〕の壊れたセンサーアイから冷却材の結晶が、涙のように浮かんだ。




