~狼煙~ 小隊員が見たもの
『サテライト』を出発した〔リンカー〕と〔イリアーデ〕との接触のために、〔AW〕の一小隊が『ガーデン1』から派遣された。
派遣された小隊は〔ギリガ〕二機と〔ファークス〕二機の四機編成。それを輸送するのは〔シーカー〕と呼ばれる小型宇宙船だ。〔シーカー〕は〔AW〕専用輸送船で、機体や武装、弾薬を運搬しており、バッテリーと弾薬の補給も行う。通称、箱。
それを印象付けるように、船体は全体的に四角く角ばっている。〔AW〕は船体の上部にへばりつく形で係留されている。〔AW〕自体は船外だが、搭乗は〔シーカー〕と操縦席にボーディング・ブリッジが接続されて行うことができる。
〔AW〕パイロットたち三人は中央部の休憩室で待機していた。小隊長は〔シーカー〕の操縦席に出向いており、隊員たちの緊張が緩んでいた。
その中で、リーン・セルムットは仏頂面で同僚たちを睨みつけていた。碧眼、赤毛のショートヘア、いかにも優等生そうな雰囲気がある。軍人としても志高い人格者だ。
「にしても、まだ捕まらないのかねぇ」
無重力に身を任せている隊員、ムッサ・ムーデックがぼやいた。色黒の巨漢で、その巨大が浮いているのはちょっとしたユーモアを感じるだろう。
その逆にリーンと女性隊員、コフィン・コフィンは無重力の船内に浮かないようしっかりとベルトをして、シートに体を固定している。
彼女は綺麗な金髪の髪を三つ編みにして、パイロットスーツが少し窮屈なのか、胸とお尻の形がはっきりといている。
「やっぱ、無重力状態はすげぇや」
そういって、リーンの頭すれすれをムッサが流れて行った。
広くもない船内で動き回られるのは、迷惑千万。
「おいっ! 気をつけろ!」
「んだよ、いいじゃねぇか」
リーンが怒鳴ったところで、船内を浮いているムッサはふてくされて、後部に流れて行った。
この小隊は地球から上がってきた新兵ばかりで構成されており、実地任務はこれが初となる。
リーンは宇宙空間での初任務で気負っており、その反動からか神経過敏になっているようだった。
そこに、船首の操縦席から無精ひげを生やした中年男、ガイア・キキリアが入ってきた。小隊長である。
瞬間、ぴたりと隊員たちが生真面目そうな表情を見せて、その動きを止めた。
リーンにはムッサのそれが猫かぶりだとバレバレだったが、ガイアは気にした風もない。
「よーし、野郎ども。出撃するぞ」
「ハッ」
リーンを含めた隊員たちは敬礼して、それぞれヘルメットをかぶって移動を開始。
手すりや船内の出っ張りを利用して、隊員たちは各自の機体に搭乗する。
リーンは〔ギリガ〕の通常兵装型に乗り込み、ハッチを閉める。操縦席は狭く、シートの左右と正面の通常モニタが嫌に近く、圧迫感があった。しかし、シートの肘掛のコンソールを操作して、左右のスイッチを手順通り入れていくと、そうした圧迫感は映し出された映像によって払拭された。
正面に〔シーカー〕の外装を捉え、左右にはいくつもの星が輝く真っ暗な空間が広がっている。
「問題は、ないか……」
両サイドのデジタル計器の様子を見て、リーンは確信した。
次いで両方の肘掛の先端にあるジョイスティック方式の操縦桿を握り、ラダーペダルの踏みしろを確かめる。
機体の状態を知らないでは宇宙はおろか、地上でだって〔AW〕の操縦は不合格だ。
オープンチャンネルの回線を開き、ガイアからの指示を待つ。
しばらくして、指示が飛んできた。
「各機、状態を知らせ」
「ムッサ・ムーデック曹長、〔ファークス〕電子戦装備、良好」
「コフィン・コフィン准尉、〔ギリガ〕電子戦装備、良好」
「リーン・セルムット軍曹、〔ギリガ〕通常戦装備、良好」
各隊員の報告を受けて、ガイアが頷いていった。
『よし。ガイア・キキリア中尉、〔ファークス〕通常戦装備、良好。バディは俺とコフィン准尉とムッサ曹長とリーン軍曹で編成する』
〔AW〕は小隊編成とは別に、最低限度のバディ、電子戦装備と通常戦による編成がおこなわれる。フォアードとバックアップの関係だ。
これは、かつてあったテロ戦争から導入された電子戦を伴った戦闘が生んだ戦術結果だ。誘導兵器がことごとく、電子戦機によって妨害されるようになり、陸戦は中世の戦闘術を巨大な機械が代行するようになった。射撃戦はもちろん、白兵戦もそうだ。〔AW〕の出現は、旧来の戦車での戦術以上に効率的だった。
それは、現在の戦術理念の基礎となり、宇宙でも採用された。
リーンはムッサと組むのはあまり気が進まなかったが、命令ならと自分に言い聞かせる。
「リーン機、了解」
「コフィン機、了解」
「へいへい……。ムッサ機、りょーかい」
ムッサは不満を隠すことなく、怠惰な応答をした。
さすがに、リーンもカチンときた。
だが、リーンが怒鳴る寸前で、ガイアの怒号が各機に響き渡った。
「ムッサ・ムーデック!!」
その一言だけだった。しかし、とばっちり聞かされたリーンは心臓が止まるかと思った。
コフィンも驚くのを隠すように、息を飲んだ。
「はいっ。以後気を付けます、中尉殿」
しかし、ムッサには利かず、適当に返されてしまった。
そんな反応を見せられてしまったら、誰だって注意する気もなくなる。
リーンは本気で、ムッサに災難が降りかかれと思った。
「はぁ…………。各機、出るぞ」
ガイアの嘆息が重々しい。
瞬間、各機に接続されていたボーディング・ブリッジが切り離され、〔シーカー〕に収納されていく。
ガイアの〔ファークス〕がいち早く〔シーカー〕から離脱して、加速をかけて前に出て行った。
リーン、コフィン、ムッサもそれに続いて、機体を離脱させていく。
「セルムット軍曹、遅れるな」
ガイアの叱責が、リーンに届く。
正面に、〔AW〕のノズルの光を三つつ確認する。ガイア機とコフィン機、ムッサ機だ。
こうして、〔ファークス〕と〔ギリガ〕が並んで飛んでいると、全然規格が違うのだな、と思う。
〔ファークス〕は細っこく、中世騎士を彷彿とさせる外見をしている。主武装は長方盾とヒートソード、ライフル型レールガンだ。ヒートソードは刀身を加熱して、溶断するもので、本体からの電力供給によって使用可能となる。白兵戦を強く考えた機体だ。
かたや〔ギリガ〕は鈍重なシルエットで、本当に戦車の延長にある機体だ。主武装は九〇ミリマシンガンと長距離榴弾砲、ヒートナイフがある。〔ファークス〕に比べると射撃主体の機体で、防具は重装甲が補う形をとっている。
どちらもミサイルなどの榴弾対策として機関砲を内蔵しているが、そのあたりは電子戦装備が請け負う形となっている。この装備は背面にオプションとして発信翼が装着され、敵味方問わず妨害できる。一見、非効率だが通信の傍受がなくなり、誘導兵器をほぼ無効化できているし、増幅されたEMPの瞬間作動によって、敵に幻覚を見せることもできる。
が、この装備によって武装と弾倉の数が制限されてしまう一面もある。
「各機へ。〔リンカー〕と〔イリアーデ〕を捕捉できるか?」
ガイアの通信を受けて、リーンたちは望遠してモニタに二隻の宇宙船を捉える。
「捉えました」
リーンは自機を編隊に追い付かせ、返答した。
ガイア小隊の任務は、〔リンカー〕、〔イリアーデ〕両船の機内確認だ。そもそも、一隻で避難してくる予定だったものが、二隻に増えていることに『ガーデン1』でも疑義を抱いていた。
ほとんどの軍人たちは単に研究者たちの欲が出たんだろう程度の認識だ。
それでも、『ガーデン1』を取り仕切るレミントン・バーグはこの事態を深刻に考えている。
「よし。セルムット軍曹、ムーデック軍曹は〔リンカー〕へ行ってくれ。俺とコフィン准尉で〔イリアーデ〕を調べる」
各機は返答して、すぐにバディを組んで加速する。
ガイア小隊はすぐに宇宙船二隻と接触し、担当の船を旋回した。両船とも外傷はない。避難であれば当然だ。
「しっかし、本当にビーム砲座があるぜ、アレ」
ムッサは〔リンカー〕のロール航行を流し目に見て、ちゃっかり〔イリアーデ〕の方も確認していた。
〔イリアーデ〕は軍艦にふさわしいビーム砲座が上下に二門あり、機銃砲座もある。巨大なクジラな外観は、確かに地球ではお目にかかれない荘厳さがあった。
リーンも一瞬目を奪われたが、〔リンカー〕からの通信を受けてすぐに視線を逸らした。
『こちら、宇宙航行第03番輸送船〔リンカー〕。『サテライト』職員、341人を収容しています』
「了解、確認する」
リーンは返答して、〔ギリガ〕が持つ九〇ミリマシンガンを肩部のハードポイントに収める。
リーン機が〔リンカー〕に取り付こうとすると、ムッサの〔ファークス〕が割って入ってくる。
「なんだよ!」
「俺がやるよ。ちったぁ仕事しねぇとな」
言うや否や、ムッサ機が武装を収めて、回転する〔リンカー〕に取り付いた。
少々強引だったのか、素早い回転をする〔リンカー〕に振り落とされそうになっていた。
リーンは一息ついて、〔リンカー〕と距離を置いて自分の〔ギリガ〕を飛ばす。
ガイアとコフィンの方も確認をしようと〔イリアーデ〕に取り付こうとしていた。
「ブリッジ、艦内状況を知らせ」
ガイアの要請に、〔イリアーデ〕のブリッジは答えない。
「〔イリアーデ〕、答えてください」
コフィンも通信するが、やはり答えはない。
コフィンが脱力仕掛けたとき、ガイアが叫んだ。
「准尉、離れろっ!」
その指示の意味するところが、コフィンにもすぐにわかった。
〔イリアーデ〕の機銃砲座が、ガイアの〔ファークス〕とコフィンの〔ギリガ〕に狙いを定めたのだ。二人の機体はすぐに後退をかけて、臨戦態勢に入る。
その一部始終を見たリーンはムッサ機に通信を繋げる。
「ムッサ、様子がおかしい。すぐに戻れっ!」
だが、すでにムッサは〔リンカー〕に移ったらしく返事がない。
次いで〔リンカー〕のブリッジに接続した。
「ブリッジ、〔イリアーデ〕と距離を取れ――――」
そこでようやく、リーンは機体の異変に気付いた。
レーダーも通信もノイズが走り、まったく機能していない。機体の不調ではない。妨害がしかれている。
リーンは背筋が凍って、計器類のコンソールを操作した。機体に異常があるのは、やはり通信と索敵。
すぐに機体を〔リンカー〕に接近させようとした。至近距離なら、通信が通じるからだ。
だが、リーンの反応よりも〔ギリガ〕の警報のほうが早かった。
その警報が、野獣の咆哮に聞こえ、リーンは本能的にフルスロットルで機体を上昇させた。
その下で、光が走った。今まで見たこともない凶暴な閃光。レールガンのプラズマ光など、幼稚に思えた。
「光? まさか、あの光――――っ!」
リーン機は逆噴射をかけて停止。すぐに、〔イリアーデ〕の方に正面を向けた。
嫌な予感が的中する。〔イリアーデ〕のビーム砲口からビームの残光が漏れているのだ。
つまり、砲撃。
すぐに、サブモニタで〔リンカー〕の状況を確認した。
「――――っ」
〔リンカー〕は船体を横一文字に溶かされていた。まだ外側だが、機体の構造上外側が一般座席。しかも、ムッサ機も一緒に消し飛んでいる……。
「こいつっ! 何のつもりだ!?」
リーンは激昂して、〔ギリガ〕に腰部のリア・ラックにある長距離榴弾砲を持たせた。
その反応を待ってましたとばかりに、〔イリアーデ〕の機銃砲座が一斉にガイア小隊を強襲した。
「各機散開して、〔シーカー〕に戻れっ!」
ガイアは悲鳴にも似た声を上げて、撤退命令を出す。
それが聞こえたのはコフィンだけだが、リーン機は懸命にも〔リンカー〕の船首に姿を消した。
コフィンはなんて逃げ足と苛立った。だが、回避運動をするコフィン機も〔シーカー〕へと針路を取り出す。
ガイアの〔ファークス〕は長方盾を使って、機銃砲を受け流しながら後退していた。
リーンはそのころ、機体を〔リンカー〕の船首に取り付いて、ブリッジと交信していた。
「早く船を出せっ! 死んじまうぞ!」
『駄目だ! 言うことを聞かないっ!』
動かない〔リンカー〕に、ブリッジはパニック状態だった。
リーンはムッサの身を案じたが、その余裕はもはやない。何とかして、〔リンカー〕を動かさなければ、乗員全員があのビーム光に飲まれてしまう。
〔イリアーデ〕がビーム砲座を動かし、〔リンカー〕のノズルを完全に捉える。今度はエンジンを爆発させるつもりだ。
ガイアとコフィンはその動きを察して、一気に〔リンカー〕を追い越していく。
追い越して、コフィンはリーンの〔ギリガ〕が〔リンカー〕に取り付いていることを知った。
「何やってるんです!?」
コフィンは反射的に機体をリーン機に接近させた。
すぐに、リーン機に取り付いて〔リンカー〕から引き離す。
「何すんだよ!」
「次が来るんです!」
その言葉を耳にしたリーンはコフィンたちの撤退行動を疑った。
一目散に逃げるのが、軍人のするのことなのか。
『待ってくれっ! た、助けてくれぇえええ!』
二人のヘルメットに、〔リンカー〕からの悲鳴が聞こえた。
コフィンは目にいっぱいの涙をためて、自分の〔ギリガ〕にアフターバーナーをかけた。
リーンはそのGを体感して、同じくアフターバーナーをかけた。
コフィンがやろうとしていることがわかったのは彼女の息遣いが苦しげだったからだ。だから、彼も同じ動作ができた。
自分が情けなくなる。何もできないまま、自分の命を守るためにしか動けないことに。
すぐだった。
その後ろで、巨大な火の玉が襲いかかってきたのは――――。
それを背にして、二機の〔ギリガ〕は抱き合って小隊長の〔ファークス〕の後を追った。




