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マシン・レコード  作者: 平田公義
第十七章
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~揺り籠~ 偵察

「こちら、〔ファークス〕一番機。特に変わった様子はない」

「二番機、同じく」

「通信の調子も上々。本当に、敵は『ローグ1』を捨てたみたいですね」


 三機の〔ファークス〕が『ローグ1』の工業区画を見て回りながら、現状を外で待機している〔シーカー〕に報告する。


 ここ数日の間に、『ローグ1』での『新人類軍』の動きがなくなったのを見計らって偵察部隊が送り込まれたのだ。発端となったのは資源惑星襲撃時に確認された二隻の宇宙船。それからというもの、月と『ローグ1』での間を行きする船艇の影はぱたりと途絶えた。


 もしかしたら、誘い出しているのかもしれない。


 その疑念を晴らすためにも、一個小隊が派遣されたわけだ。


 太陽側の工場区画は上下左右に工場施設のラインが整備されており、鉄の冷たい空気が充満してる。太陽の光を取り込むミラーからの光は居住区の方から漏れている程度で、明かりらしいものはなかった。


 一番機の操縦者は機体をハイウェイに着陸させて、周囲を望遠する。ビルの窓。中途半端に伸びる鉄塔。小屋。人が隠れられそうな箇所を、ざっと眺めてため息をつく。


「このあたりは無人か? にしては、使った形跡もある」


 当たり前と言えば当たり前だ。


 工場のラインがすす汚れていたり、放置されたままのリサイクル機材が固定され、あまつさえ二隻の船が見えたのだ。新造艦の建造にしろ、〔リンカー〕の改良にしても、人の手が加わっていたのは間違いないのだ。


 と、〔ファークス〕二番機が慎重に無重力の空間をゆっくりと進みながら、熱探知で周囲をざっと探る。大気のある空間では、プラズマ推進はその効果が減衰し、〔AW〕の機動力を低下させている。


「うまく出力を調整できない……。大気があるってのは、こうも粘っこいのか」


 それが操縦者の実感だ。


 サーモグラフィー、アクティブソナーで遮蔽物などの位置を確認。電子戦(EW)装備ならではの手法で手掛かりを探る。


「熱反応もない…………。いやっ、何かあるぞ?」


 二番機の操縦者はふっと湧き出た高い熱量の反応に声を上げる。


 人間ではない。もっと大きい。作業用の機体だろうか、大きさは十メートル未満だ。辛うじてエンジンが起動しているとも考えられる。しかし、数日も持つ機体などありはしない。

 

 明らかな以上に、操縦者は固唾を飲む。


「司令部、怪しい熱量を感知。指示を求む」

「こちらでも確認した。一番機との合流を待て」

「了解」


〔シーカー〕は『ローグ1』を外周しつつ、そのシリンダー状のスペースコロニーの巨大さに驚かされる。遠目からだと遅く見える回転だが、近づけば高速回転しているのが引き込む力となって感知できる。


「本当に誰もいないんですかね?」

「コロニーの機能がひとりでに動いているのも気になるが、その線は難しいだろ」


〔シーカー〕の操縦をする主操縦士と副操縦士は強化複合ガラスから見える緑の陸地と浮かぶ雲を見てそう判断する。


 気象コンピューターが働いていなければ、安定した大気の維持はできない。密閉空間なら、なおさら空調管理を怠るような状況は絶対に避けなければならない。緑が豊かなところを見ると、その絶対的制約は機能している。


 疑問とするのは、コロニー管理局のコンピューターが機能してる点だ。いくら電力供給などが安定しても、人のチェックなしで維持できるほど万能ではない。


「こちら、三号機。発電施設の稼働を確認。太陽光ミラーからの受信をしている」


 飛び込んできた三号機操縦者からの報告に、〔シーカー〕の主操縦士が言う。


「了解。一番機と二番機の支援に回ってくれ」


 あいよ、と若干呆れた三番機の操縦者の声が返ってきた。


 無理もない。こんな空き巣みたいなことはさっさと終わらせたいという気持ちは、偵察部隊全員が持っているものだ。


 と、副操縦士が耳にしているインカムに妙なノイズが走ったのを聞いた。慌てて、手でインカムを押さえて、じっと耳を傾ける。


「どうした?」

「いや、何か聞こえなかったか?」

「いや…………。ん? 了解。合流したんだな」


 その無線は一番機の操縦者からだった。


 工場区画のビルの屋上に背を預けて隠れている二番機と接触する。すでに、居住区は目と鼻の先だ。漏れ出す光の向こうには、緑の生い茂る広い空間があった。


「ああ、こちらでも、熱量が動いているのを感知した。武装の許可を願いたい」

「いいだろう。ただし、白兵戦のみだ。施設の破壊は厳禁なんでな」

「お偉いの決めたことでしょう? 場合が場合なら臨機応変に対応させてもらう」

「了解。間もなく、三号機もそちらに到着する」


 一番機の操縦者は〔シーカー〕との無線を切って、二番機の操縦者にチャンネルを合わせる。


「状況は?」

「わかりません。ただ、居住区に誘い込もうとしているとしか……」

「そうなるか」


〔ファークス〕一番機はヒートブレードを腰のラックから外し、右腕部に持たせる。加熱はせず、とにかく二番機の索敵能力で敵の動きを慎重に見極めなければならない。


 筒状の空間は圧迫感が宇宙以上にあり、慣れない操縦者にはそのギャップが苦しい。


 一番機も手近なビルに背を預けて、周囲の熱探索。


 そこに、友軍の識別信号を持った〔ファークス〕三番機が合流する。ハイウェイの陰に隠れるようにして、歩行している。


「三番機、敵の可能性がある。気をつけろ」

「わかってますよ。発電所が動いてるんじゃ、そういう可能性もありますでしょう」


 三番機の操縦者は一度、指を鳴らして改めて操縦桿を握る。


 プレッシャーが程よくかかり、感性を尖らせる。通常(ノーマル)装備ゆえに、敵の動きをほとんど視認する必要があるも、妨害(ジャミング)のない空間なら貧相な電子装備でも多少感知することができる。


 瞬間、〔ファークス〕二番機の操縦者が全員に告げる。


「敵、急速接近! 数は————、なんだこれは!?」

「どうした?」


 一番機の操縦者が心臓を鷲掴みにされたような焦燥感を味わいながら、機体を施設の影から飛び出させる。


 横間を二番機が後退していくのが見えた。


 しかし、彼がまず目に入れたのはメイン・モニタへ殺到する機械の群れだった。行きつく暇もなく、その鋭い刃が振り下ろされる。


 一番機の腹部装甲がバターのように溶け、貫かれる。操縦者は肢体を一瞬にして溶かされ、絶命しただろう。


 二番機の操縦者は追随してくる機械の群れを見て、恐怖する。武器を取る手などなく、逃げることに全神経を集中させる。その数は、ざっと見ても十数機以上。


 その姿は小鬼、餓鬼を思わせるものだ。大きな頭とでっぷりと出た腹部、細い手足をしながら、外付けのスラスターをランドセルのように背負っているのを見ると、機械だとまだ認識できる。


「三号機! 機種不明機の襲撃を受けている! 至急援護に来てくれっ!」


 二番機操縦者はあまりの恐怖に涙と鼻水で顔を汚し、必死に後方で待機している三番機に呼びかける。返答はない。電子音だけが虚しく響くだけで、声らしいものはなかった。


 データリンクの交信を続けながらも、一番機が小鬼に蹂躙されていく様を見ることになった。


 見るに堪えられなくなり、正面に迫る小鬼機械の群れから視線を外し、操縦者は機体を反転。一気に、工業区を突っ切り脱出しようと考える。


 二番機が振り向いた先では、信じがたい光景があった。


 ハイウェイの影に隠れていた三番機が、四肢を断裂され、腹部には深々とヒートナイフが突き立てられていた。まるで野犬にでも食い散らかされたように、供給パイプが血肉のように爛れている。


「————っ!?」


 二番機はその死体を乗り越えて、工業区の鉄塔を蹴飛ばす。


 操縦者はもう何がどうなっているのかわからなかった。敵がいなくなったはずの『ローグ1』で、動いている機体。それが、刃を突き立て襲ってくる。


 こんなのは夢だ。悪い夢だと言い聞かせて、操縦桿を目いっぱい上げる。


 ドッとメイン・スラスターが噴射される。最大速度で飛行する〔ファークス〕二番機だが、突然激しいに揺れに見舞われる。


「なんだ————!?」


 操縦者が驚きの声を上げたときには、彼の体はずたずたに切り裂かれていた。


 二番機が音もなく頭上にそびえる施設へと衝突し、ピクリとも動かなくなる。


 それをやったのは、先の小鬼とは別の個体だ。ひょろ長い体格に長い手足は、通常〔AW〕の大きさに近しいものだったが、圧倒的に質量が小さく。まるで骨だけの機械。共通項としてある不釣り合いなバックパックだ。


 彼らの腕部には長槍が握られており、二番機はこれの一突きでやられたのだ。


 ざっと集まる餓鬼どもは、その屍と化した機体を物珍しそうに、細いセンサーアイと空洞のようなマルチカメラで眺める。頭部をかしげて、細いマニピュレーターでつついたりしている。


 すると、彼らは外部スピーカーから機械音を響かせて、足並みをそろえると三機の〔ファークス〕を居住区の方へ引きづり込んでいく。まるで、狩猟の獲物を持ち帰るように。


 一方で〔シーカー〕の方では〔ファークス〕三機との交信が途絶え、事態の究明を急いだ。そのためにも、港の方へ針路を向けて行こうとする。


「あの映像。一体なんですか?」


 副操縦士が二番機からのデータリンクで映し出された静止画を見て呻いた。世にも悍ましいものを、体現しているかのような機械は悍ましさがあり、醜いものだと感じられた。


 隣で青ざめる副操縦士を一瞥して、主操縦者は嫌な予感を覚える。


「ん? 何だあれは?」


 と、一瞥したときに見えた副操縦士の奥の風景。太陽を取り込むガラスの向こうの空で、何かが飛んでいる。そして、奇妙なものを撮影する。


 球体が雲の合間を飛行しているではないか。それらは、太陽側の港へと集結していく。その奇怪な形状は今までのどのデータにもなく、操縦士たちは困惑する。


 交信の途絶。奇妙な物体の飛行。そして、探索しているはずの区画へと向かっていること。


「このまま、向かうのは不味いか……」

「仲間を見捨てるんですか!?」


 副操縦士が感情的になって叫ぶ。


 確かに、まだ生存している可能性があるかもしれない。しかし、それは妨害(ジャミング)が敷かれている時になら、言えることだ。こうもはっきりとした場所で返事がないのは、もう息をしていないと考えるのが妥当。


 主操縦士は苦心しながら、自分の感情を抑えて〔シーカー〕の操縦桿を切った。


「離脱する。このことを、本部へ知らせる必要がある」


 断腸の思いをかかえながら、偵察部隊は『ローグ1』から撤退していく。追尾してくる機影はなく、あっさりと離脱することができた。


 この事実は『地球平和軍』にとって、手痛いものだった。『ガーデン1』と資源惑星のポイントから月へ攻撃を仕掛けるにしては、あまりに一直線すぎる。待ち伏せも襲撃も両陣営が単調になる。


 しかし、『ローグ1』を取り戻せば、挟み撃ちにでき戦力の分散も考えられる。今の『新人類軍』は月に戦力を集中させているために、一気に殲滅するいい機会なのだ。それを逃せば、おそらく彼らは増量し『地球平和軍』を飲み込むだろう。


 戦争の終わりを予見しているがゆえに、判断を急がねばならない。


 今はただ、奇怪な現状に対して考察が必要だと偵察部隊の二人は報告した。

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