~コロニー落とし~ コロニー落とし阻止作戦〈後編〉
落下し続ける『ミューゲル1』に、樹たちは焦りを隠しきれなかった。
「彩子、まだなの?」
「落ちてる、落ちてるっ」
「あとちょっとだから、黙ってなさいよっ」
〔アル∑〕はじっとコロニーの外壁に踏みとどまり、彩子のクラッキングが完了するまで待ち続ける。ほとんどの機能を情報処理に向けており、ここで襲撃にでも会えば、即座に応戦できない。
しかし、『新人類軍』の艦隊の足が遅くなっていることもあってか、敵襲はない。そして、『地球平和軍』の艦隊もほとんど膠着状態になっている。
樹はその様子を知りつつも、ウィンドー表示されている予想落下時間を見ては、今にも息が止まりそうな思いだった。
「残り、あと八分——」
コロニー内部でも、残り時間を気にしながら、リーンが二機の〔バーミリア〕と戦闘を繰り広げていた。メイン・モニタが暗がりの中で動く敵機のシルエット線を映し出して、追跡する。
〔バーミリア〕通常装備の軌道を見て、リーンは静かに唇を噛んだ。
「ムッサ・ムーデックっ」
〔バーミリア〕通常装備がロングバレル・レールガンの銃口を向けた。
〔バーカム〕は即座にコロニーの内壁に足をついて、横っ飛びに凹凸の内壁に隠れる。
バッと眩いマズルフラッシュが光り、すぐ横間の遮蔽物を粉砕する。鋼の欠片が〔バーカム〕に殺到し、装甲を叩く。
リーンは白い影が落ちるメイン・モニタからも、〔バーミリア〕通常装備の位置を記憶しており、すぐにでも反撃に出たかった。
しかし、別の角度から僚機の〔バーミリア〕電子戦〕装備が発砲。また内壁を蹴って、今度は宙へと跳んだ。
「————っ」
リーンは〔バーカム〕の跳躍が思った以上に勢いがないことに気付きつつ、メイン・スラスターで姿勢を正す。敵に自分の位置を知らせることになるが、この場合、闇討ちを期待できるほど環境はよくない。
当然、〔バーカム〕は接近する熱源を探知して、リーンに警報として知らせる。
「上と————、右か?」
リーンはまず脅威となる電子戦装備を優先させる。
メイン・モニタの敵を示す矢印と先までの敵攻撃位置を推し測り、〔バーカム〕を反転させる。その両腕部に、サブマシンガンとロングバレル・レールガンを握り、かすかに光るノズルの光に向けて斉射。
「こいつは、戦い慣れているのか」
〔バーミリア〕電子戦装備の操縦者は、咄嗟に盾で迫りくる弾丸を防ぐが、両脚部が被弾。強烈な振動を味わいながら、股間から下を解除するほかなかった。
切り離された脚部が、漏電とともに推進剤を爆発。青白い光りがあたりを照らす。
「ぎりぎりで避けたか。ん? 作業が進んでんのか」
リーンは機体を素早く内壁に着地させ、歩行させる。フックによって脚部が肯定され、敵に感づかれないようになったが、脆くなったアブソーバーが膝から崩れる様な動きをさせる。
そんな中でも、結合部位を移動する影を見つけては、味方が爆破作業をしていると思いたい。
そうした動きは敵にも読まれており、ムッサがいち早く気づいた。
「爆破の準備を。だが、あの男を殺すまでは――っ」
あたりが暗くなり暗視モニタがようやく正常化されたころ、ムッサの〔バーミリア〕通常装備はロングバレル・レールガンを構えて、敵の動きを探った。今ここで飛び出せば、爆弾を設置している部隊やリーンにも気づかれてしまう。
だが、〔バーミリア〕電子戦装備は違った。
単機で攻撃を仕掛けるとなれば、電子戦装備の方が『幻覚』がある分、優勢に立てる。先の攻撃で盾が使い物にならなくなったこともあって、奇襲戦法を取るほかない。
「仕掛けるっ」
〔バーミリア〕電子戦装備の操縦者は、盾を放り捨て、バックパックのスラスターを一気に噴射する。閃光が走った。
アンバランスな機体を制御しつつ、結合部位を渡る敵爆破部隊へと突っ込んでいく。
「敵が来たっ」
「わかっている!」
結語部位の上に立つ〔ファークス〕通常装備、ガイア・キキリアが操る機体は迫りくる敵機にレールガンを発砲。
そのおざなりな照準を、敵は難なく回避して接近していく。
込み上げてくる焦燥感が、ねっとりとした空気となって肺の中にたまるのを、ガイアは感じた。
〔バーミリア〕電子戦装備は手にしているロングバレル・レールガンを構えて、すっと横間へと移動した。すぐ後方から、火器を構えた〔バーカム〕が迫ってきたからだ。
同時にそれがねらい目でもある。
「予測されていたか……」
リーンがメイン・モニタの左に正確な狙いをつける〔バーミリア〕電子戦装備に、しかし、恐れを抱くことはない。至極当然に、死という感覚を自分の中で醸造していたからだ。
それは、戦いの中で磨かれたセンスと言っていい。
「終わりだっ」
勝利を確信した〔バーミリア〕電子戦装備はトリガーを引いた。
まばゆい閃光。
ガイアたちはただ茫然とその光に目を奪われていた。もはや、邪魔立てできる瞬間ではない。
〔バーカム〕はその光に向けて、盾を向けると最大出力でプラズマの障壁を表面に宿した。
衝撃、反発の青白いスパークが飛び散る。
「————っ!」
リーンはすぐに盾を解放し、初弾を回避する。
〔バーミリア〕電子戦装備の操縦者は、『幻覚』のコードを発動しようとスイッチに指を置いた。
瞬間、〔バーカム〕はメイン・スラスターを全開にして、〔バーミリア〕電子戦装備に突進する。力任せの体当たりが、『幻覚』を発動させた敵機を吹き飛ばす。
「ぐっくぅう——」
敵操縦者は出力の低下した機体を立て直そうとするが、その前には結合部位に衝突し、背中を強く打ち付けル衝撃が走った。肺の中の空気を吐きだし、肋骨が内臓に突き刺さった錯覚が襲い掛かる。
「よくやったよっ!」
様子を見ていたムッサは機体の照準を力なく流れていく〔バーカム〕に合わせて、トリガーを引いた。
青白い弾丸が、〔バーカム〕の右腕部を吹き飛ばした。力任せに引っ張られる〔バーカム〕だが、態勢を立て直して僚機へとサブマシンガンを乱射する。
対応に遅れた〔バーミリア〕電子戦装備はその殺到する弾丸の餌食になり、結合部を巻き込む形で爆散した。
「残り一機っ」
リーンはサブマシンガンを捨てて、再度射撃を喰らえてくる方を捉えながら機体を回避させる。右右腕部を失い、残る武装はミサイルサイロとヒートナイフ、鹵獲したヒートブレードだ。
接近戦で決着をつけたいところではある。
「セルムット。大丈夫か?」
背後で爆破作業をする〔バーミリア〕を守る〔ファークス〕から通信が入る。距離があるため、多少のノイズが入るものの敵の電子戦装備を掃討して妨害効果はなくなっていた。
「ええ。問題ありません。敵機は俺が抑えます。爆破の準備を」
リーンはくらくらする頭を振って、ガイアにそう返答する。
そのころには、敵も移動をして攻撃の手は緩んでいた。緩急を起こして、油断を誘っているように感じられる。右腕部を失って、自動制御バランサーが重心を調整する。
まだまだ戦える。残っている敵が彼の予想通り、ムッサ・ムーデックならば決着をつけなければならない。
そう思った瞬間に、敵からの射撃が再開されて、〔バーカム〕は回避しつつ、その方向へと突進する。
「…………」
ガイアは飛んできた弾丸を盾で弾きながら、リーンの乗る〔バーカム〕の背後を睨み付ける。
「キキリア隊長、もう少しで終わります」
爆弾の『CB7』をセットする僚機から通信が入る。
ガイアは空返事をして、少し考える。少しでもリーン・セルムットを見返したいという野心が沸き立ち、機体を前進させる。
「俺も敵を抑える。設置できしだい、知らせろ」
「そんないきなり————っ」
僚機の狼狽する声も無視して、ガイアの〔ファークス〕通常装備は飛び出していった。ふとガイアがメイン・モニタの上を見るともう一つの部隊は着々と作業を進めていた。
敵は一機だ。余裕があると彼は確信した。
「お前が、来るのか」
ムッサはロングバレル・レールガンの弾倉を変えている時に、飛び込んできた〔バーカム〕が隻腕でヒートブレードを振るった。
「だったら、どうした!?」
リーンの気勢を体現するように、〔バーカム〕は飛び立とうとする〔バーミリア〕通常装備のロングバレル・レールガンの銃身を切り裂く。
ムッサは射撃武器をやられ、舌打ちしつつそれを〔バーカム〕へと投げつけさせる。
間合いが詰まっており、壊れたロングバレル・レールガンが〔バーカム〕の頭部に衝突。センサーアイのカバーを破壊し、首部のジョイントを損傷させる。
「クソがっ」
リーンは悪態をつきながら、〔バーカム〕を一度内壁へ着地させると跳躍させる。
「お前みたいなのは、死ぬべきなんだよ」
ムッサは叫んで、〔バーミリア〕通常装備にヒートブレードを握らせて、〔バーミリア〕を迎え撃つ。
ヒートブレード同士がぶつかり、スパークを弾けさせる。
わずかに押された〔バーミリア〕通常装備が後方へ吹き飛ぶ。
「あんたに恨みを買われるようなことは、してねぇぞっ!!」
リーンは機体を追撃させて、聞こえてくるムッサの声に叫んだ。
「紛争地上りが、普通の生活を送ろうってのが気に食わなかったんだよ」
「当ててつけかっ!?」
内壁に着地して、ヒートブレードを弾く〔バーミリア〕通常装備は、〔バーカム〕を力任せに横間へと弾き飛ばす。
鈍い音を聞きながら、リーンは〔バーカム〕の脚部を内壁に着地させ、勢いを殺す。すぐに飛び込んでくる〔バーミリア〕通常装備の斬撃を一歩下がって避ける。
がくんと膝が崩れる〔バーカム〕。
「ちぃぃいい!?」
「殺ししか能のない奴なんか、世の中にはいらないんだよぉおおおおっ!!!!」
ムッサは激しい頭痛に見舞われながら、機体にヒートブレードで切りかからせる。
〔バーカム〕は咄嗟にヒートブレードを翳して、拮抗する。
悲鳴のような干渉音が操縦席に響き、はじけるプラズマが周囲に飛び散っていく。雷撃の悲鳴。
リーンは心臓が潰されそうになりながら、操縦桿を押していく。
「あんたの言い分で、こんな戦争を起こす連中に加担するのかよ」
「変えなきゃいけないんだよ、世の中をさ」
「自分勝手なことをっ」
〔バーカム〕がメイン・スラスターを全開にして、押切り、横一閃。
〔バーミリア〕通常装備は盾でそれを防ぐと、斬撃を繰り出す。
リーンは寿命が縮む様な思いで、後方へ飛びのき回避するも、追い縋る〔バーミリア〕通常装備の斬撃をいなしていく。
「どちらがっ! 身勝手な生き方をしない人間てのは、この世の中にいないんだよ。だから、殺しをして、生きている奴がいるんだ。許されてしまうんだろ」
「俺たちがしてるのが、それだというのに。やってることの矛盾を、理解しやがれっ」
リーンはムッサの言い分など理解できず、ただ闇雲に敵として殺すことだけを考えていた。
どれだけの大義名分を掲げようと、数十億人の人を殺すコロニー落としを実行するような組織が、正しいはずがない。ただ、理想におぼれただけの亡者だ。
ムッサは怒りに顔を歪めながら、嫌らしく耐え忍ぶ〔バーカム〕に苛立つ。
戦争をして、その環境でしか生きられないような人間がひとたび生活に交じれば、普通の生活に馴染めず人を殺す。それがムッサの体験した事実であり、真実だ。
殺生を考えたとき、人は感情というものに流されない高潔な精神を持たなければならないと思うようにもなる。
二機の〔AW〕の剣劇が繰り広げられる中で、瞬間、横槍を入れるようにしてレールガンの弾丸が飛び込んでくる。
リーンとムッサはすぐさま、自機を後退させ、弾丸を避ける。着弾した弾丸が、内壁を吹き飛ばす。
「なんだ?」
「隊長!? 余計なことはしなくていいっ」
リーンの叫びが脳裏に響く中、横槍を入れた機体〔ファークス〕通常装備を操るガイアは次々とマイクロミサイルを発射する。
殺到するマイクロミサイルを〔バーミリア〕通常装備は頭部バルカンで落としていく。容易い直情的な攻撃に、ムッサの気分は一気に害される。
「邪魔をするなぁあああああっ」
「ムッサだとっ!?」
ガイアは傍受した無線で、かつての部下の声を聴き困惑した。
生きていることは知っていたが、こうして戦場で敵味方と別れれば、動揺を隠しきれなかった。かつての仲間を討つのに、躊躇いが生じてしまう。
〔ファークス〕通常装備は接近してきた〔バーミリア〕通常装備に対応しきれず、呆気なく切り捨てられてしまう。
リーンはその光景を目の当たりにしながら、機体を後退。〔ファークス〕の爆発に巻き込まれないようにした。
「昔の仲間を落とすような奴になりやがって」
「邪魔をしたからだ」
〔バーミリア〕通常装備が接近し、〔バーカム〕はその大ふりの太刀をいなしていく。
リーンの中で、ガイアが落とされたことがしこりとなって残り、自分の吐いたセリフに息苦しさを感じる。敵に回ったかつての仲間も落とせないで、コロニー落としの阻止ができるはずはない。
思考を巡らせたとき、ムッサも同じ立場なのだと理解できてしまう。
敵も味方もない。ここにあるのは、脅迫的な使命感だけだ。
「俺はもう二度とこのような過ちを繰り返させないためにも、ここで、人間は痛い目を見なければならないんだ。人類最後の戦争にするためにも」
「聖戦を気取ってんじゃねぇぞっ!!」
ムッサの頭痛がピークに達し、目の前が急に歪んで見えた。体の感覚が一気に抜け落ち、ただ私怨のこもった思考だけが回り続ける。
〔バーミリア〕通常装備の動きが急に停止し、惰性で向かってくる。
リーンはそれが好機だとすぐわかったが、一瞬の逡巡が駆け巡る。
もはやどちらが正しいではない。ムッサは仇討と称した八つ当たりで殺しにかかっている。その行為自体が、彼の嫌うものの姿ではないか。だが、かつての仲間で、今は打つべき敵だ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
リーンは焼切れてしまいそうな思考を断絶して、〔バーカム〕にヒートブレードを振るわせる。
灼熱の太刀筋を空に描き、〔バーミリア〕通常装備を一突き。
悲鳴はない。怨念も、悲嘆もなく、ムッサの乗った〔バーミリア〕通常装備は腹部を串刺しにされて沈黙する。
リーンは荒い息を繰り返し、半端な良心が精神を破たんさせようとする。裏切者を殺すくらい、以前なら何も考えずにできただろう。
それだけに、リーン・セルムットは平和の世の中に適応して、様々な物事を考えられるようになっていたのだ。だというのに、もう一度こうして戦地に戻れば、その半端な思考が邪魔をする。
殺した殺されたなど、この場では無価値でしかない。
〔バーカム〕はヒートブレードを捨て去り、骸となった〔バーミリア〕通常装備から逃げるように飛び去る。
瞬間、内部で信号弾の光が弾けて、爆破の準備が整ったのを感知する。
同時に、コロニーの内壁が揺らいで破片をまき散らし始めた。
それは、『ミューゲル1』の姿勢制御ブースターを点火したことに他ならない。
「脱出する——」
リーンはつぶやいて、爆破部隊とともに内部を脱出した。
「成功よっ」
「あとは、うまくいってることを願うまで」
「残り、あと、三分っ!」
樹たちは姿勢制御施設のある連絡柱の外殻に〔アル∑〕を固定させたまま、爆破の瞬間を待つ。
すでに『ミューゲル1』の各姿勢制御ブースターが火を噴いて、全力で地球への落下進路を変更させている。だが、それだけではもう進路を抜け出せない。
がたがたと激しく揺れる操縦席。
彩子は電子戦用モニタに映る全ブースターの出力を上げる。核融合炉が爆発寸前にまで、熱を上げていく。
「早くして————」
樹がつぶやいたとの時、さらに激しい揺れが押しかかってきた。
『ミューゲル1』の中央。左右の結合部位が次々と火の手を上げて爆破されていく。次第に脆くなった部分からひしゃげていき、盛大に折れていった。
「きゅああっ!?」
急に下へ引っ張られる震動が起き、〔アル∑〕は振り落とされないようしがみつくが、マルチ・ハープーンが衝撃に耐えきれずちぎれてしまう。
「嘘でしょうっ!?」
声を上げる彩子の目の前には、システムエラーの表示が出された電子戦用モニタ。
制御を失った『ミューゲル1』はそのまま折りたたむようにして、ぶつかろうとする。巨大な質量がぶつかり合えば、軌道を変えることは可能だ。しかし、臨界まで高められた核融合エンジンが誘爆したら、〔アル∑〕もただでは済まない。
「離れるよ! 二人とも、衝撃に備えてっ」
樹は言って、追加装甲を引き寄せ、〔アル∑〕に装着させる。
そして、パイルを収納するとその脚部で一気に外殻を蹴り上げた。高速で流れていく足場と目下にして、六基のバリアブル・バーニアを噴射する。
ぐんと襲い掛かる負荷。
接近警報が鳴り響いて、はっと三人は頭上に控える多くの破片に息を飲んだ。コロニーの破片と言えど、ゆうに数十メートルはある鉄塊だ。それが高速で、束になって迫りくる。
「避けて、見せるっ!」
「頭上に破片多数————っ!? すぐ目の前に、三十メートル以上のが」
「まかせる!」
〔アル∑〕は高速で破片を避けつつ、手にしたビーム・ライフルで巨大な鉄塊を破砕していく。爆裂する破片をかいくぐり、細かいものが何度も装甲を叩く。
だが、止まったら最後、ぶつかりあう『ミューゲル1』とともに宇宙へと吹き飛ばされてしまう。
『ミューゲル1』が半球状の本体を押しつぶしながら、大きく軌道を逸らしていく。落下進路を脱し、その勢いで地球の引力から離れていく。
「もう少しで、抜けられるわ」
彩子は肺が潰されそうな苦しさのなか、そう告げた。
樹と音は気合を入れて、降りかかる破片を次々と避けては破壊して、その群れから脱出する。
抜けた先では、敵艦隊が撤退に入り、〔リヴァイン〕と〔イリアーデ〕の砲撃を消極的に撃ち返している。〔AW〕部隊もまた帰艦しているようで、攻め入ってくる様子はない。
樹たちは息を整えながら、安全を確認して、〔アル∑〕を振り返らせる。
「コロニーが…………」
樹はつぶやきながら、地球から離れていく軌道を送る『ミューゲル1』を見送る。高速では離れていき、次第にそれが球状のものから、鉄塊の寄せ集めになっていく。
何年と手がけてきた構造物は、寂しく壊された。樹や音、『新人類軍』に所属するもののほとんどが、その姿を口惜しく思った。
目的も果たされないまま、『ミューゲル1』は宇宙を漂う。
そして、コロニー落としは阻止されたと誰もが理解する。




