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マシン・レコード  作者: 平田公義
第二章
11/152

~狼煙~ 発起人

 計画は順調といえた。

『サテライト』の人払い。反抗分子の排除。コロニーの陽動。

 考えようによっては回りくどいものだったが、宣伝というものは派手に行ってこそだ。


「〔リンカー〕、〔イリアーデ〕ともに『ガーデン1』への航路に乗りました」

「コロニーからの交信途絶されました。警戒態勢を解きますか?」


『サテライト』の管制室で、オペレーターたちが一人の男に指示を仰いだ。

 オペレーターたちは軍服を着て、はきはきと仕事をこなしているのだが、上官らしい男はモニターに映し出された二隻の宇宙線を見て、盛大にあくびをした。


「随分と腑抜けちまったもんだ。だから、『平和』なんて入れるべきじゃなかったんだよ、軍隊にさ」


 上官らしい男、グレッグ・F・フォンセはがっちり固めたオールバックを撫でながら、ぼやいた。

 彼は『地球平和軍』の将校だったが、官僚の犬にも等しい軍事組織のあり方に嫌気がさしていた。

 グレッグだけでなく、今管制室にいる下士官もそうだし、宇宙に島流しにされた犯罪者たちもそうだ。


 宇宙のという環境は、旧来の人類を骨抜きにするな、と思わせるのだ。


「指令、ご指示を……」


 グレッグの返答がいつまでたっても来ないことに、一人のオペレーターが不審そうに言った。

 

「ったく、そういうのをいちいち俺に聞くのがテメェの仕事か? 状況を見ろよ。まだ出港したばかりだろうが」

「はぁ……」

「電源の復旧はもう少し待て。ここだって、まだ大丈夫だろ?」


 グレッグは非常灯に照らされた管制室ないを見渡して、その機能が生きていることを確認する。

 予備電力も限定的にしてやれば、多少の時間稼ぎはできる。

 

「コロニーからの音沙汰なし。どう出るんだか…………」


 またぼやいて、グレッグは開いている席に腰を沈めた。

 やる気がでないのは、静かな幕開けに退屈しているからだ。まだ、グレッグを含めた軍人たちや、『奴隷階級(スレイブ)』たちを『地球平和軍』は反乱分子だとは認知していない。

 それが無性に、胸の疼きを促進させる。


 すると、管制室に通常宇宙服を着た人物が入ってきた。


「誰だ? まだ警戒態勢中だ」


 グレッグはどこの馬鹿が持ち場を離れたのかと思った。


 その人物はバックパックの出入り口から、まるでさなぎから蝶になるように体を出した。

 暗がりの中で、出てきた姿を目にした瞬間、命が危ないとばかりに席を立ち、慇懃に敬礼した。


「か、閣下っ! これは、とんだご無礼をっ!」

「何、わしが勝手に来たんだ。それにこの暗さでは、わかるまいて」


 閣下と呼ばれた老人は、宇宙服を手の空いているオペレーターに預けて背筋を伸ばした。

 そのしっかりした姿勢と、深い碧眼の双眸は彼の遍歴を物語っているようだ。


 この老人こそ、この『サテライト』占拠を企て、軍人と『奴隷階級(スレイブ)』を束ねて武力組織を形成した人物、モーガン・ジェムである。


「状況はどうなっとるかね?」


 モーガンはゆったりとした口調で、オペレーターたちに問いかけた。


「予定通り、職員を乗せた〔リンカー〕と我が方の〔イリアーデ〕が出港いたしました」

「そうか、そうか。『ガーデン1』も少しは危機感を持ってくれないとな」

「しかし、閣下。わざわざ、職員たちを逃がさなくとも……」

「何、ちょっとした刺激が『地球平和軍』には必要なのだよ。反対した研究員など、種火くらいの役には立ってもらいたいからの……」


 モーガンは古傷のような皺を擦りながら言う。

 

 発起人というのは冷徹なものだ、と質問したグレッグは思った。


 彼だって、宇宙開拓事業の第一人者でいいポストについている。それでも、緩やかな老後を迎えなかった。

 生涯現役もいいところ。この計画を機に、自分の積み上げてきたものを簡単に手放す気でいるのだ。

 革命家に世俗の理念が通用するはずもないのだが。


「わしらは、新しい秩序を担う先駆者だ。人が真に平和を願うのなら、今回の出来事は将来のための布石じゃよ」

「そういうお考えだからこそ、我々は閣下にお仕えするのです」


 グレッグはそう言って、しゃんと胸を張って見せた。

 

「そうか…………。頭に誤作動はないな?」

「疑っているので? 閣下がくださった制御チップですぞ?」

「そうだな。君の態度を見る限り…………、そうだな」


 モーガンは一瞬鋭い目つきで、グレッグを睨んだが、一人納得したようだ。


 この反乱に参加した人々は、脳手術を受けている。それは人の脳にマイクロチップを埋め込み、感情を抑制しようというものだ。昔にも似た脳手術があったが、それに比べれば命のリスクはない。

 

 感情の抑制とは、いかな状況でも合理的に物事を図れるようにし、利己の概念を押さえつけようというもの。理性的で、協調的に互いを認識することこそ、人は掴まなければならない意志だ。

 

 だから、モーガンは自身の人生をなげうって、人類の理想を担った兵士を集めた。


 その理想は半場実現し、あとは欲望のままに動く旧来の人類を統率するだけ。


「さて、これからが本番じゃて――――?」


 そういって、モーガンは管制室を出て行こうとする。

 が、管制室のモニターに表示された数値の異常に気が付いた。


「どうかなさいましたか?」

「B区画の1番格納庫に送電がされているようじゃが」


 モーガンは唸るようにいって、モニターの数字を指差した。


「状況っ!」


 グレッグが平静を装いながら、オペレーターに言う。

 一人のオペレーターが冷静に報告する。


「凍結された格納庫です。テスト機が一機あります」

「そこと回線を繋げられるか?」

「やってみます」


 グレッグは備え付けの受話器を取って、問題の部屋につながるのを待った。

 しかし、いくらコールしても反応がない。


「システムの誤作動か?」

「フォンセ大尉。こういうアクシデントも、うまく対応しなければな。まだまだ、感情が抑えきれておらんぞ」


 モーガンはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

 


 


 

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