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マシン・レコード  作者: 平田公義
第十四章
109/152

~コロニー落とし~ コロニー落とし阻止作戦〈中編〉

 心境は複雑に絡み合って、手元の作業を鈍らせようとする。


〔アル(シグマ)〕は『ミューゲル1』の末端、制御施設が構えられた外殻にいる。敵〔AW〕の反応はなく、攻撃する素振りすら見せない。


 しかし、通常モニタのに映る星の動きがめまぐるしく流れているのを見てしまえば、コロニーの速度が速くなっていると実感させられる。


(おと)、制御施設の付け根。そこに撃ちこんで」

「あい。わかた」


 (いつき)が機体を制御施設に近づけ、速度を安定させる。


 護衛をするリーンの〔バーカム〕は周囲に警戒しつつ、一足先に連絡柱の外殻へと脚部のフックを引っ掛ける。連絡柱といえど、その直径は三〇〇メートルはある筒だ。戦艦を搬入できるだけの大きさを誇っている。外殻も平らというわけではなく、ごつごつとした岩肌のような構造をしている。継ぎ合わせたユニットなり、増設された炭素版などをミルフィーユのように積み重ねた結果だろう。


「装甲を解除。マルチ・ハープーン一つで大丈夫?」

「やるしかないじゃないのよ」


 彩子(あやこ)ががなり立てる。


 (いつき)は〔アル(シグマ)〕の追加装甲を解除し、一本のマルチ・ハープーンで凧のように上げる。同時に、外殻に脚部を突いた〔アル(シグマ)〕は左脚部パイルを撃ちこんで、機体を固定する。


 尻を叩く衝撃に、三人の腰が一瞬浮き上る。


 そんな中で、(おと)は態勢を立て直す〔アル(シグマ)〕に合わせて、残るもう一本のマルチ・ハープーンを指示通り、施設と連絡柱の境に撃ちこんだ。


「ど? 彩子(あやこ)?」

「どれどれ…………、うんっ。問題なし」


 彩子(あやこ)は電子戦用モニタにクラッキング画面が表示され、小さくガッツポーズを取った。正確な狙いで、マルチ・ハープーンがケーブルの束に食い込んだようだ。


 それでも、〔アル(シグマ)〕の処理速度だけでは、瞬時に制御システムを起動することはできない。


 (いつき)(おと)もそのことを知っている。


「どれくらいかかりそう?」

「わからないわ。ざっくり見積もって、五分くらいじゃないかしら」


 彩子(あやこ)は操縦席のわきに固定していたキィボードを取り出し、コンソールの差込口と接続する。今回の作業は、とてもスロットルレバーとコンソールだけでは対応しきれない。


 カタカタと膝元に置いたキィボードを操作して、次々とシステムを呼び出しては丸裸にしていく。


「だいじょぶ、かも?」


 (おと)はバイザーを上げて、いったん水分補給をする。喉を潤す甘酸っぱい味が、体に活力を与えてくれる。パイロットスーツの下も汗でぐっしょりしている。


「このままの速度で『ミューゲル1』が落ちたら————ね」


 (いつき)は流れていく星の動きから『ミューゲル1』の速度を予測し、〔アル(シグマ)〕の計算機能で予測時間を割り出す。


 約四〇分で、『ミューゲル1』は地球に衝突する。その十五分前までに分解できなければ、コロニー落としは成功してしまう。


「悪いけど、よけいな機材を起動しないで、こっちの処理速度が落ちるみたいだから……」


 彩子(あやこ)は自分に課せられている使命に圧迫感を覚える。冷や汗が全身から吹き出してくる。彼女もバイザーを上げて、シート下の飲料パックを取り出して、口に含んだ。そのまま、ストローを咥えたまま、キィボードを指先で叩き、電子戦用モニタとを見比べる。


 (いつき)(おと)はイメージ映像に浮かぶ彼女の顔が真剣そのものなので、声をかける気すらそがれてしまう。


 すると、リーンからの通信が入る。少し鮮明になった冷ややかな声が耳を打つ。


「ここは大丈夫そうだな。俺は内部の方に回る」

「どういうこと?」


 リーンの言葉に、(いつき)が疑問の声を上げる。


 今の〔アル(シグマ)〕は制御システムを掌握するのに、ほとんどの機能を停止させている状態だ。この瞬間にも、敵の〔AW〕に攻め込まれたら、応戦するまもなく撃墜されてしまう。


 そのことを彼は知ってか知らずか、淡々と言う。


「ここは敵陣だ。伏兵を潜ませている可能性がある。ここに、敵が来ねぇのもおかしい」

「そだけど……」


 (おと)は飲み終えた飲料パックを潰して、シート下に押し込んで、周囲を見渡す。


 見えるのは相変わらずの星の流れだけ。艦隊の動きはまだ遠く、しかし、戦火の光りは徐々に近づきつつあった。


「艦隊もじきに来る。お前らは作業を続けろ。いいなっ」


 リーンが吐き捨てて、〔バーカム〕は外殻から脚部を離す。そして、〔アル(シグマ)〕に背を向けると、高速で本体の方へと飛んで行った。


 (おと)が心細そうに、その残光を見送る。


 (いつき)も遠ざかっていくリーンに不安を抱きながら、今は何もできない自分を悔しく思うばかりだ。




『ミューゲル1』の内部はガイアが思った以上に広く、そして閑散としていた。彼らが侵入したのは内部に日の光を取り込む特殊ガラス建設予定地区。コロニーをちょうど半分に線を引くようにして、ガラスの帯が敷かれるはずだったが、今は武骨な鉄骨の束によって両サイドを引っ付けている状態だ。


 内装も無機質極まりないもので、ところどころ薄い内壁も存在する。とはいえ、〔AW〕の光学センサでは輪郭は捉えられても、はっきりとした姿かたちはわからない。コロニーの中央にあるはずの第二次ミラーがないのだから。


 ガイアは僚機の〔ファークス〕電子戦(EW)装備とともに、強化爆弾『CB7』を設置する〔バーミリア〕を援護するようにして、周囲を警戒していた。


「敵影なし、か?」

「こちらでも、確認が取れません」


 ガイアは息苦しくなるのを感じながら、周囲に目を走らせ、精神をすり減らす。


 その原因は、レーダーが全く効かないこと。つまり、妨害(ジャミング)が張られている、敵がいることにほかならない。


「三つ目、セット完了。移動します」

「了解。周囲に警戒しろ」


『CB7』をセットし終えた〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備が腕部から導火線を引きながら、次の結合部位に向かおうとする。


 それに合わせて、ガイアの〔ファークス〕通常(ノーマル)装備と僚機の〔ファークス〕電子戦(EW)装備が移動する。上下を待るようにした陣形で、〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備を護衛、レールガンを構える。


「静かだ————っ!?」


 僚機の操縦者が、気づいたのはマズルフラッシュがコロニー内部の縁から輝いた瞬間だった。


 ドウッと耳を押しつぶすような音。


 ガイアが気づいた時には、すでに〔ファークス〕電子戦(EW)装備は操縦席を射ぬかれていた。的確な射撃で、操縦席だけを破壊したのだ。


「散開しろっ!」


 ガイアが〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備の操縦者に無線で叫ぶと、自機を内部へと突っ込ませる。レールガンの残光を記録した映像から狙撃主の位置を割り出す。


〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備は一旦導火線を切り離し、レールガンを構えて、同じく内部へと進んでいった。


「あいつか――っ」


 ガイアが見つけたのは、結合部位の近く凹凸の目立つ個所に身をひそめて、ロングバレル・レールガンを構えた〔バーミリア〕電子戦(EW)装備だ。その色合いは暗い内部では判別しにくいが、細部が『地球平和軍』のそれとは違うものになっている。


 瞬間、接近警報。


「————っ」


 ガイアは寸前のところで、横間からのプラズマを帯びた弾丸を避けて、一度距離を取った。


「こう暗いと難しいか……」


 おそらく、身をひそめていた〔バーミリア〕電子戦(EW)装備の僚機だろう。しかし、同じく暗がりの中に身をひそめて、獲物がぼろを出すのを待っている。


〔ファークス〕通常(ノーマル)装備が引いたのを見て、縁にいた敵機も内部へと後退。ノズルの光がぱっと光ったが、すぐに消えて姿をくらませる。


 狩人の狙撃。


 いかに自分の位置を悟られず、獲物を射ぬくか。この空間は狩人にとっては、絶好の舞台だ。同時に、獲物を見失いやすい場所でもある。


 ガイアは宇宙に直通する中央へと身をひそめて、幸いにも同じ考えに至っただろう味方の〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備と合流する。


「敵は内部から狙撃してくる。こちらも一度、内部に入って態勢を身を隠しましょう」


〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備の操縦者が言った。


 ガイアはそれを一つ返事で採用する。


「ああ。向こうもどうやら、その作戦らしいしな」


 ガイアはメイン・モニタの上、結合部位二つ挟んだ先。少し上の位置からノズルの光が三つ、内部へと侵入していくのを見た。おそらく、こちらの〔ファークス〕電子戦(EW)装備がやられたのを見つけたのだろう。


 ガイアが心臓が飛び出そうな緊張感にさいなまれていると、すぐさま別の角度からの一射が飛来。


〔ファークス〕通常(ノーマル)装備と〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備は大きく上昇、回避すると、メイン・スラスターを一瞬噴射して、あとは惰性で暗闇の中へと飛び込んでいった。


 途中、数発の弾丸が横や頭上をかすめたが、敵も高性能のセンサを有しているわけではない。


 ガイアは自機をコロニーの内壁に着地させると、位置を知らせる外灯を切る。わずかな光が敵の目印となり、攻撃のチャンスになる。


「向こうの弾道がわからない限り、こちらも手は出せないか……」


 ガイアはメイン・モニタに〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備の着地を確認して、深く息を吸い込んだ。


 このままじっとこらえているだけでも、敵はコロニー破壊を阻止できる。どうにかして、敵を討ちとる術を編み出さなければならない。


 ガイアの中に言い知れない恐怖が膨れ上がると同時に、コフィンの姿を思い浮かべていた。未練というのか、煩悩がぬぐい切れていない証拠か。どちらにしても、ここで死ぬわけにはいかないという意思が、彼のちっぽけな精神を支える。




 ムッサ・ムーデックは残存している敵五機が、このまま隠れ続けるなら、どれほど楽なのかと手持無沙汰な思考が過る。


 ムッサを含めたたった四機の〔バーミリア〕部隊は、コロニーの爆破を試みる敵を駆逐するために長い時間、内部で待機していた。


「あと、二〇分。じっとしてろよ」


 ムッサはサブ・モニタに映るタイマーを横目に見て、つぶやく。


 二〇分を過ぎれば、どうあがこうと『ミューゲル1』の地球への落下進路を変えることはできない。


 心はどこまでも静かに、暗闇の中でも取り乱すことはない。制御チップのおかげもあるが、何よりの成功への執念が彼ら〔バーミリア〕部隊を根気強く待たせるのだ。


 だが、動きはもっと早くに起きた。


 ムッサの位置から後方、六時方向から強い光を放って飛び込んできた〔AW〕があった。


「————援軍か?」


 電子音とサブ・モニタの指示表示は、あくまで敵機を捕捉したもので危険性はない。


 ムッサの〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備が内壁をしっかりと踏みしめて、方向転換する。障壁となる多重層の出っ張りに身を潜めつつ、ロングレンジ・レールガンを構える。


 呼吸を整え、次の機会を待つ。


 すると、微かなノズルの光が見えた。別の機体がすぐに狙撃に入った。


 青白い閃光が暗闇を一閃。高速の弾丸が、まっすぐに敵機へと進んだ。


 しかし、目標の機体は光を爆発させて機体を翻すと、すぐさま狙撃した機体のもとへと突進した。


「あの機体は――――」


 ムッサはその反応速度、力押しのやり方を知っていた。


 瞬間、内部を照らす爆発が一つ起きた。真っ赤な爆発と黒煙が立ち上り、一機撃墜の印を上げる。


「間違いない。リーン・セルムットだ」


 ムッサにとって、それは思わぬ好機だ。


 憎い戦争帰りの男を、確かな腕で押しつぶして見せるという野心が沸き立つ。それは頭の制御チップを活性化させて、頭痛を誘発させる。


 しかし、一度火のついた感情は付け焼刃の精神制御を諸共しない。憎い相手を殺せる機会を、そんなことで潰されてたまるかと。




「…………」


 リーンは激しい動悸に顔を顰めながら、〔バーカム〕をもう一度飛ばした。


 敵の戦術は、光で狙いをつけて落とす狙撃。ならば、機動力にものを言わせて無駄弾を吐き出させて、敵の位置を探る。


 それは半場自殺行為だ。敵の位置を把握できていないうえに、電子戦(EW)装備の『幻覚(ゴースト)』でも喰らえば、まず助からない。


〔AW〕は単機決戦で勝てるほど、よくつくられてはいない。爆破部隊も、ほとぼりが冷めるまでじっとしているつもりだろう。


 爆発の明かりがなくなり、再び暗闇が戻ってくる。〔バーカム〕の光学センサも暗視型へと移行する。人間で言うところの暗順応。


 刹那、接近警報と頭上からマズルフラッシュ。


「————くっ」


 リーンは機体を上昇させつつ、回転。体を投げ出さんとする遠心力に、意識が吹き飛びそうになる。


 頭上からの一弾が、〔バーカム〕の左肩部を剥がす。鋭い振動がリーンに襲い掛かる。


〔バーカム〕はよろけながらも、背部のメイン・スラスターで強引に上昇ををつづけ、すぐにもサブマシンガンの射程に収める。


 メイン・モニタも敵の影を捉えていた。〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備だ。


〔バーカム〕が接近したのを受けて、敵機は背部のマイクロミサイルポッドからミサイルを発射する。無数のミサイルが吐き出され、〔バーカム〕に殺到する。


「そういうことなら————っ」


 リーンは操縦桿、ラダーペダルを強引に操作する。


〔バーカム〕が頭部バルカンでミサイル群を撃ち落としながら、横へと逸れてそのまま内壁へと着地する。屈伸運動で軽減するも、関節の駆動モーターが悲鳴を上げて、アブソーバーが今にも潰れてしまいそうだ。


「どこへ行った?」


 敵の操縦者は、マイクロミサイルで撃墜できなかったとわかっていたが、肝心の〔バーカム〕の動きを見失う。爆発によって機体が自動的に光りを調節、周りが一気に真っ暗になる。


 すると、凸凹の内壁をかき分けるようにして、青い機体が飛んでくる。


「————っ」

「遅いっ!」


 リーンは〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備が盾を構えようとするのを見つけながら、〔バーカム〕にサブマシンガンを乱射させ、空いている手にヒートナイフを握らせる。


 紅蓮の爆発は、機体を艶めかしく照らす。


〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備が、乱射されたサブマシンガンの弾に身をよじらせている。そこへ、〔バーカム〕の一閃が深々と腹部を切り裂き、通過していく。


 盾で弾丸からの致命傷は避けられても、ヒートナイフの一閃は防げなかった。


〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備はそのまま力なく、宙に浮かびあがる。誘爆はなく、操縦者を殺した手ごたえがリーンにはあった。


「…………」


 そして、リーンは誘爆の危険がないとわかると機体を戻して、〔バーミリア〕通常(ノーマル)装備の亡骸を捕まえる。


 使える武装をはぎ取る。レールガン、盾、ヒートブレード、予備弾倉。盾を空いた腕部に、レールガンとヒートブレードは脚部のハードポイントに保持させる。レールガンの予備弾倉は腰部に保持した。


 プロトコルを解凍し、武器を我がものにして〔バーカム〕はゆっくりと周囲を見渡す。盾には、〔AW〕用手榴弾が装備されている。


 リーンはサブ・モニタに出力される武器の数々を確認し、ゆっくりと呼吸を整える。気持ちは冷酷に、しかし、研ぎ澄まされた感覚はずっと暗闇の中に注がれている。微かな動きも見逃さない瞳。聴覚センサが捉える妨害(ジャミング)の音に耳を傾け、手足を一度開閉させて解す。


「…………いくぞ」


 赤いセンサーアイの光が、暗闇に怪しく、獰猛な獣のように浮かび上がる。


 もうここは、狩人の狩場ではない。獣の、縄張りである。




 弾道がまっすぐに飛んでいく中、『新人類軍』の〔スカイフィッシュ〕は突貫準備を整える。狙いは戦艦、〔イリアーデ〕だ。先の戦いで、十二分の戦果を挙げた対艦機は自信に満ち満ちいるように感じられる。


 その緩やかで、渦を作るように旋回する巨大な剣の動きを、〔イリアーデ〕は正確に捉えていた。


「艦長! ソード一番、旋回軌道を開始。続いて、二番、三番旋回を開始」

「観測班より入電。すべて、距離二〇〇以内をマーク。有効範囲です」


 オペレーターが標的となる〔スカイフィッシュ〕(ソード)一番の動きを伝える。


 艦橋に緊張が走る。同時に彼らの心を揺さぶるように、艦が振動する。被弾したが、大した損傷ではない。あの戦艦奪還作戦の時に比べれば、引っ搔かれた程度だ。


 艦長であるクロッグは顔の皺をより濃くして、命令を下す。


「よし。各機銃座、ホーネット、距離五〇に設定して射出! 味方部隊に、退避命令」


 高らかに告げられた命令は即座に、各機銃座に伝達される。迅速に、誰一人としてその声を聞き漏らす者はいなかった。


 むしろ、一矢報いる機会が到来したことに高揚感が上がってくる。


〔イリアーデ〕の各機銃座から、グレネードが放出される。同時にスモーク弾が放たれた。


 赤いスモークが暗い宇宙に浮かび上がる。


「なんだ? ダミーか……」


〔スカイフィッシュ〕一番の操縦者が弾幕を張る〔イリアーデ〕からスモーク弾以外にも、何かが放出されたのを確認したが、正体はわからない。確認できただけでも、四十以上だ。デコイの可能性が高い。


 そして、スモーク弾も降参を示すものではない。味方だけが知る暗号だ。


〔ミリィフロップ〕やほかの〔スカイフィッシュ〕は、しかし特に警戒した動きは見せない。妨害(ジャミング)が張られている以上通信はできない。それでも、赤いスモークが目くらまし効果を狙ったもので、無数に放出された何かも閃光弾によるものだと仮定している。


「しかし、ここなら————」


〔スカイフィッシュ〕一番は弾幕の薄くなった正面へと突っ込む。構造はすでに頭に叩き込んである。確実に、主循環バイパスを貫く軌道だ。


 一突きの剣が、巨大戦艦に挑む。もはや、目くらましをしたところでこの突撃を怯ませることはできない。


 続いて、別の角度から二番、三番も鋭角に攻め込んでいく。どちらも〔イリアーデ〕の致命傷を狙った突き。避けきるのは、不可能だ。


 しかし、〔スカイフィッシュ〕三機に追随する〔ミリィフロップ〕数機が突然軌道を狂わせる。四肢のところどころを漏電させ、バチバチを火花を散らす。


「なんだ!? 何が起こって————っ!!!!」


〔スカイフィッシュ〕の操縦者は次の瞬間、自分を包む光ですべてを失った。


 次々と〔イリアーデ〕の周囲で爆発が起きる。そのほとんどが、〔イリアーデ〕を目と鼻の先に捉えた機体ばかりだ。


 辛うじて、影響の少なかった〔ミリィフロップ〕部隊が後退するも、断裂した人工筋肉や狂った駆動モーターであやふやな軌道を宇宙になぞらえている。


 その戦況に、〔イリアーデ〕の艦橋のオペレーターが感極まった声を上げる。


「ソード三機撃墜を確認っ! 新型機、六機を撃墜、十機あまりを損傷させることに成功!!」


 その報告には、クロッグも思わず安堵の息が出てしまった。気持ちを弛緩してはいけないとは思いつつ、懸念されていた対艦機の撃破は喜ばしいことだ。


 彼らが『ホーネット』と呼んだグレネードは、一つ一つでは大した働きはできない。複数存在することによって、はじめて真価が現れる防衛武装だ。


 個々に仕込まれたビーム発振器が荷電粒子を吐き出し、隣接する『ホーネット』同士のビーム干渉によって反発、吸引を繰り返し、一種のバリアーを構築するのだ。磁力を帯びたそのバリアーに接触した〔AW〕などの超伝導を駆動系にした機械は外部からの反発作用により、暴走、圧縮されてしまう。


 いくら宇宙線を防げる〔AW〕の装甲でも、荷電粒子を防ぎきれるものではなく、無数の蜂に襲われたがごとく内部を破壊されてしまう。その点で戦艦である〔イリアーデ〕の方が、直接的な装甲の厚みや多重性が勝っている。だから、ほとんど戦艦に被害はない。


 もちろん、無数の光芒が輝いたのを、〔リヴァイン〕は観測していた。


 艦長のレミントンは険しい顔つきで、モニタに映る戦場を見渡す。まだまだ、〔AW〕部隊が押されていることには変わりない。しかし、〔シーカー〕船隊もよく持ちこたえ、次の艦隊攻撃に備える素早い移動を見つける。


「うまく作動したか。敵艦隊の様子は、どうなってる?」

「依然として、『ミューゲル1』を背にして移動中」

「あくまで、こちらの攻撃は阻止する魂胆か……」


 いまだにビーム砲撃を続ける『新人類軍』〔イリアーデ〕と〔シーカー〕船隊。


 機雷を仕掛けられ第二波はほとんど効果がなく、第三波も同様だ。遠距離攻撃は一進一退の攻防で、気を抜けばまずやられる。


 その緊迫する中で、火器管制官が言った。


「ミサイル、残弾僅か。ビーム砲塔、部分溶解を確認」

「急造艦では、ここまでが限度か……」


〔リヴァイン〕は大きさに似合わず、かなり貧弱な武装だ。そのほとんどを輸送手段に設けてしまったのも原因だが、出力系統をむりくり増設したのが返って負担になってしまった。


 レミントンは歯噛みして、敵艦隊を睨み付ける。


 もし、機雷を敷設する装置が敵になければ、核弾頭装備の一発を撃ちこむ隙はあっただろう。最後の最後に使う兵器を腹に抱えているのは、落ち着かないものだ。


 しかし、それを使わずに勝利できようものなら、得るものは大きいとレミントンも他のクルーたちも思うところだ。


「総員、第四波攻撃、準備! ありったけの火力をぶち込む!」

「了解」


 レミントンは、これが最後の斉射であると自負して命令する。


 敵艦隊を沈められないだろう。撃墜数も少ないだろう。だとしても、彼にはこの命令のほかに出すものはないと確信する。


「コロニー阻止限界まで、あとどれくらいだ?」

「残り、十五分」


 レミントンにはそのカウントダウンがとても長く感じられた。




 地球はもう眼前に広がっている。


 青い宝石のように光る星に対して、『ミューゲル1』は死を運ぶ箱舟のようだ。質量、大きさからしても地球よりはるかに小さな建造物は、しかし、人を苦しめるのには十分すぎる大きさを有している。


 それを守るためにも、『新人類軍』は次の『地球平和軍』の斉射を防ぐ必要がある。


「敵、主砲、移動確認」

「観測班より。アームウェア部隊の三割が壊滅。〔スカイフィッシュ〕全機、撃沈を確認」

「直掩部隊、正面にてミサイル群迎撃を志願しております」


〔イリアーデ〕のオペレーターたちが次々と報告を口にして、艦長であるゲイルの指示を仰いだ。


 ゲイルは眉間に皺を寄せて、立体モニタに映る様々な状況を考察する。


 心の中に過るかすかな不安が、一筋の汗となって頬を伝う。防衛線はまだ持ちこたえられる。〔イリアーデ〕の機銃座やミサイルの残弾、ビーム砲身の溶解も範疇内。攻め入ってきた『地球平和軍』の〔AW〕部隊のほとんどが、直掩部隊によって足止めを食っている。


 対艦機〔スカイフィッシュ〕の撃墜も予想していた。いつまでも、手をこまねいているような部隊ならとっくに決着はついている。それに、前回の戦いでの経験則もあるのだ。


 ならば、不安とは何か。


「コロニーからの報告はないのか?」


 ゲイルは近くのオペレーターに確認を急がせる。


 しかし、オペレーターは落ち着いた声音で言う。


「いいえ。報告ありません」

「…………」


 胸の内を逆なでる感触が、ふっと過る。


 コロニー内には、ムッサ率いる〔バーミリア〕部隊が待機している。もちろん、敵の数機が侵入したのを確認している。だからこそ、何の音沙汰もないというのは不必要な不安を呼ぶ。


「新参者でも、同じ仲間だ。やれているはずだ……」


 ゲイルはツンと痺れるような頭痛を覚えつつ、正面に展開する戦場に思考を巡らせる。


「火器管制。人工知能搭載ミサイル(AIM)の準備だ。アームウェア部隊は下げさせろ。無理をして、戦力を削るわけにはいかない」

「了解」

「わかりました。信号弾、あげます」


 インカム越しから、下段の火器管制の応答が聞こえる。同時に、すぐ近くのオペレーターから報告が聞こえた。


〔イリアーデ〕正面の発射管に、成長した人工知能(AI)を搭載したミサイルが詰め込まれる。数は四本。人工知能(AI)の成長に合わせて、ミサイルも小さな姿勢制御装置が備わっている。まっすぐに標的ぶつかるだけではない。弾幕を張られれば、回避運動を取る。標的が無理なら、別の標的に狙いを変える。


 ものを考えられるだけの力が、そのミサイルにはあるのだ。


〔イリアーデ〕から上がった数色の信号弾を受けて、迎撃に出ようとしている直掩部隊を呼び戻す。その動きを、『地球平和軍』の〔AW〕部隊は好機と見て攻め込んだ。


 準備完了のランプが、艦長席のサブ・モニタに点灯する。


「よし。一番から四番発射管、発射っ」


 ゲイルの号令とともに、〔イリアーデ〕から四本の大型ミサイルが発射される。


 奇しくもそれは、『地球平和軍』も第四波斉射とほぼ同時だった。


『地球平和軍』の艦隊からまばゆい光が瞬いた。ビームの光が、ミサイルの群れが襲い掛かってくる。


「総員、対ショック姿勢!」


 オペレーターの一人が、艦内、艦隊へと伝達する。


 ミサイル群が機雷原に飛び込み、次々と爆発、誘爆していく。無数の火の玉が上がる。それを突き破って、ビームが飛来。煌びやかに輝きながら減衰し、艦隊へと襲い掛かる。


〔イリアーデ〕全体が激震する。装甲を溶かし、居合わせたクルーたちを蒸発させていく。〔シーカー〕船隊も武装砲座をやられて、切り離す船もあれば、沈められる船もあった。


 しかし、それは好機と見ていた『地球平和軍』の〔AW〕部隊をも巻き込む斉射となり、巻き添えになる〔AW〕もあった。


 ゲイルはしっかりとシートにつかまりながら、揺れる視界の中で光が徐々に弱まっていくのを見取った。


「敵の斉射が、止むぞ」


 その言葉はすぐにも現れ、ぱたりとビームの奔流が止んだ。減少ではなく、はっきりと止んだのだ。


「敵の砲座を叩いたようだな」


 ゲイルには、人工知能搭載ミサイル(AIM)が戦果を挙げたものと疑わなかった。




 飛来してきた四つのミサイルは、見事に〔イリアーデ〕のビーム砲座を破壊し、〔リヴァイン〕の第一甲板を破壊していた。


 その四本を誰一人として落とすことができなかったのは、ひとえに予想外の攻撃だったのだ。斉射の陰に隠れ、熱量を多数感知していたために発見が遅れた。


 レミントンは崩れた姿勢を直して言う。


「状況、どうなってる!?」

「第一甲板、損壊。〔イリアーデ〕もかなりの打撃を受けました」


 オペレーターもデスクにしがみつくようにして、報告を読み上げていく。


 直掩の〔AW〕部隊も、戦艦二隻の損傷に気を許して、敵〔AW〕部隊の侵攻を容易にしてしまう。先ほど対艦機を打ち破り、流れが一気に傾いたものと思い込んでいただけに、この奇襲は痛烈だ。


 レミントンは今だ小出しに攻撃してくる敵艦隊に、怒りをあらわにしながら〔リヴァイン〕の状態を耳にする。


「艦内にて、負傷者多数! 残弾、二〇パーセントを切りました!」

「〔イリアーデ〕より入電。主砲、沈黙。残弾、三七パーセント、です」

「敵陣に攻め込んでいたアームウェア部隊の数が急激に減少? 誤射、との推測が……」


 一気に敵のペースに戻されていく。


 先の斉射に残弾のほとんどをつぎ込み、もはや攻撃を仕掛けるだけの火力は残されていない。できることと言えば、即時撤退。このまま長引けば、確実に敵〔AW〕部隊に抑え込まれてしまう。


 レミントンはぐっと奥歯を噛みしめる。悔しさがこみ上げてくるなかでも、一筋の希望はある。


 だからこそ、彼は艦内放送のスイッチを押した。


「本艦は、これより十分間、敵の攻撃に耐える。爆破部隊の帰還を待つためだ。総員、覚悟してほしい。だが、それ以上は作戦失敗とみなし撤退する!」


 これには、クルーたちの反応は複雑なものだった。


 コロニー落としを阻止してこそ、真の勝利。だからこそ、彼らがするべきはもう待つことしかなく、爆破部隊の成功を信じることのみ。


 しかし、敵艦隊での閃光が弾けてから二〇分あまり何の動きがなく、誰の心にも一抹の不安があった。


 帰りを信じて戦う。同時に、地球を見捨てる覚悟も必要になる。


 だからこそ、誰もがこの場を逃げ出すことを考えなかった。これまでの戦いで散っていった戦友たちのこと。地球にいる知人、友人、恋人、家族のこと。


 ここで戦う誰もが、今巨大なものを背負っていると実感していた。


「…………」


 レミントンはそうした冷徹な判断を下しつつも、爆破部隊の成功を心のうちに祈る。


 誰もが心のうちに祈る。


 それが、この作戦に参加する軍人たちの支えとなって、向かってくる敵〔AW〕部隊へと銃を、その剣を突き立てる。

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