~コロニー落とし~ コロニー落とし阻止作戦〈前編〉
目の前に浮かぶ巨大構造物、『ミューゲル1』はすでに地球への降下を始めていた。渦にのまれていくボールのように、その軌道は円を描いていく。
そして、『地球平和軍』の艦隊は側面を捉えるようにして航行していた。広く展開した陣形。そのすべての砲塔が『ミューゲル1』を捉える。
「艦長。敵艦、〔イリアーデ〕一隻、〔シーカー〕十五隻を確認しました」
「妨害は敷かれているな?」
レミントンは緊張で凝り固まった艦橋のクルーたちに確認を取ると、すぐにひざ掛けの通信機を取った。
「全艦、攻撃用意! 第一波、急げ!」
「了解っ!」
オペレーターがスクランブルの信号を発信させると、艦隊すべてに警報が鳴り響く。参加者全員の心を奮い立たせ、恐怖を不安を興奮を一緒くたに混ぜ込んだ。
レミントンの乗る旗艦〔リヴァイン〕、クロッグ・ジョーリンが指揮する宇宙間重巡洋艦〔イリアーデ〕が回頭し、敵艦隊を正面に捉える。その動きに合わせて、周りを取り巻く武装した〔シーカー〕船隊も回頭。使い捨てのミサイルポッドの照準を合わせる。
開戦の梅雨払いといったところだ。
気持ちが高まり始めた〔イリアーデ〕艦橋に、観測班からの情報を得たオペレーターが叫んだ。
「敵艦隊、砲座移動確認!」
老体の艦長、クロッグは立体モニタに映る敵のマーカーを見てぐっと喉を鳴らす。数は少ない。同火力の〔イリアーデ〕一隻による攻撃でも、〔シーカー〕船体はひとたまりもないだろう。
「第一、第二発射管、アンチ・ミサイル装填。機関最大、ビーム砲、用意!」
クロッグの指示とともに、一気に加熱されるクルーたち。
それはどこの船も同じであり、敵の砲塔が向いていることに対する危機感を持っていた。
「旗艦より入電。第一波斉射、三〇秒後、アームウェア部隊の順次発艦願いたし、です」
「了解した。総員、衝撃に備えろ!」
〔リヴァイン〕と〔イリアーデ〕が一つあまた抜きんでて前に出た。周りを取り巻く船隊の盾になるためだ。撃ち漏らしたミサイルは、戦艦の電波攪乱でどうとでもなるからだ。
そして、敵艦のビーム砲塔に光が集中していくのを誰もが確認した。
緊張の一瞬を打ち破るように、レミントンが叫ぶ。
「第一波、撃てぇっ!!」
その掛け声とほぼ同時に、敵〔イリアーデ〕のビーム砲が瞬く。
『地球平和軍』の第一次斉射。
いくつものミサイル群と数条のビームが、敵艦隊に殺到する。同時に敵の攻撃も正面から向かってくる。
数キロ先の宙域で、いくつもの光が弾け、膨らんでいく。ミサイル同士の衝突、アンチ・ミサイルのデコイによって相殺されるミサイル群、ビーム砲同士の干渉で膨れ上がる閃光。
それらを掻い潜ってきた敵ミサイルと減衰したビームが『地球平和軍』艦隊に襲い掛かった。
〔イリアーデ〕の甲板で待機している〔アル∑〕はすでに発艦態勢に入っていた。両腕部にはビーム・ライフル。いつでも迎撃できる気持ちを作っていた。
「すごい光————うっ」
樹は目の前に映る光景に肝が縮み上がる。
瞬間、すぐ真横で電波攪乱によって軌道を変えたミサイルが弾ける。その破片が次々と降り注ぎ、機体に叩きつけられた。気持ちがさらに膨れ上がって、手足に頭に高速で血が回っていく。
『カタパルト、射出準備完了。艦隊の防衛は気にするな。存分に暴れて来いっ!!』
甲板乗員の叱咤激励に、三人は操縦桿を握り締めて、意識を集中させる。
狙うは『ミューゲル1』の破壊のみ。
「了解っ! 〔アル∑〕、お願いしますっ!!」
樹はコールとともに、スロットルレバーを一気に上げる。
〔アル∑〕を乗せたカタパルトが機体を押し出す。三人はその勢いでシートに押し付けられるも、離陸のタイミングは心得ていた。
カタパルトのレールから煙が吹き出し、〔アル∑〕のバリアブル・バーニア四基も一気に噴射して、青白い閃光を瞬かせた。
ドンッと機体が跳躍し、カタパルトから脚部が放り出される。
「————っ!」
すぐ目の前には、時間差を狙った敵のミサイルが迫っていた。
しかし、〔アル∑〕は六基すべてのバリアブル・バーニアを広げると、その角度を変えて、旋回して回避。すぐ後ろで、電波攪乱を受けたミサイルが爆発した。
衝撃。背中を鈍器で殴られたような衝撃が三人に走った。無呼吸状態に陥る。
それでも、生命維持装置がパイロットスーツ内の気圧を変えて、無理やり呼吸を蘇らせる。目玉が飛び出るのではないかというほどの気圧変化。肺の空気が吐き出され、さらに加わる与圧で肺が膨らんだ。
「————っかは」
「次、来るよっ」
息を吹き返してそうそう、彩子が苦しい呼吸の中で言った。
目の前には艦隊攻撃の渦が広がり、〔アル∑〕はそれを頭上に捉えている。その軌道を予測していたかのように、『新人類軍』の新型〔AW〕、〔ミリィフロップ〕の部隊が攻め込んできた。
「お前ら、後ろに下がれ」
「曹長!?」
ノイズ交じりに聞こえたのはリーンの冷え切った声だった。
彼の操る〔バーカム〕が高速で〔アル∑〕を横切り、敵部隊の懐深くへと突撃する。あまりに無謀な先手。しかし、その速度に〔ミリィフロップ〕部隊は驚いたように、照準を〔アル∑〕から離していた。
これが狙いだった。
「————っん」
音はリーンの意図を察して、すでにビーム・ライフルの照準を敵部隊に合わせる。
それでも、〔バーカム〕の動きに惑わされなかった〔ミリィフロップ〕が〔アル∑〕に向けて、レールガンを放つ。プラズマを纏った閃光が瞬いた。
同時に〔アル∑〕のビーム・ライフルもまた苛烈な閃光を吐き出していた。
「急ぎ過ぎたか……」
リーンは自機を狙う敵機にサブマシンガンの虚弱な弾丸を浴びせながら、回避運動に入る。ビーム・ライフルの閃光にまぎれて、姿をくらませる。
一方で〔アル∑〕も閃光に身を隠して頭を上げるも、バリアブル・バーニアに数発の弾丸が掠った。
「————くっ。第一、第三バーニア、損傷軽微」
「一気に突っ切る! 他の部隊はどうなってるの?」
樹は眩しい閃光の渦から、真っ暗な宇宙に切り替わる通常モニタに目が痛くなる。
「敵、どこ?」
音は通常モニタの隅から隅まで見て、つぶやいた。彼女自身、あの射撃で敵を撃ち落とせたという実感はない。回避運動を取り出していた機体で、照準が微妙にズレたのだ。もちろん、リーンのこともあって一気に殲滅できる出力を出してないのもある。
そこにリーンの〔バーカム〕の背中が移り込んだ。改めてみる機体の細部はこの作戦用につけられた追加装甲で、手足が太くなっていた。鈍重そうな印象を与える太い脚部、細長いサイロを二対腕についている。〔バーカム〕の軌道はボディガードよろしく、サブマシンガンを構えて敵の動きを見ていた。
「三〇〇メートル後方で、敵部隊と交戦している。俺たちは、『ミューゲル1』へ行くぞ」
「りょーかい」
〔アル∑〕と〔バーカム〕は艦隊の砲撃にまぎれて、『ミューゲル1』へと接近していく。敵部隊が多く見えないのは、おそらく敵陣深くで待ち構えているからだろう。
凶暴な光の瞬きをモニタに捉えながら、宇宙の静けさを全身に感じて、樹は〔アル∑〕を加速させる。
「左舷、〔シーカー〕二隻、轟沈。そのほか、損傷軽微とのことです」
「〔ミリィフロップ〕、〔スカイフィッシュ〕、発艦完了。〔ミリシュミット〕部隊が、第一防衛ラインにて敵性アームウェアと交戦中」
「わかった。敵の第二波に備えろ。機雷、散布。急げ」
『新人類軍』は、『地球平和軍』の第一波を被害予想の範疇で凌ぐと次の攻撃に対する対応に移行する。
ゲイルは敵の戦艦を沈黙させることができるとは、考えていない。戦力差は言わずもがなで、第一波の火力を目の当たりにしてその事実が嫌でもわかった。
だからこそ、彼らは『ミューゲル1』の防衛に専念する。『地球平和軍』は爆破作戦を加速する『ミューゲル1』に行う算段をしているが、確実に〔リヴァイン〕か〔イリアーデ〕あるいは両戦艦には核弾頭が積まれているはずだ。そこまで引っ張り出し、守り切れば『新人類軍』はコロニー落としを成功することができるだろう。
『新人類軍』の〔シーカー〕船体が、下部に取り付けていたミサイルポッドを切り離し、収納していたサイロを展開。そして、機雷を搭載した小型無人宇宙船を射出した。
数機の小型無人宇宙船はボックス型のもので、指定された位置に機雷を仕掛けるだけの使い捨て機体だ。しかし、かの機体には成長した人工知能が搭載されており、人の手を離れても確実に機能を果たすようになっている。
その動きに気付いた『地球平和軍』の〔AW〕部隊が無人機に攻撃を仕掛けるも、的は小さく、防衛線を張る〔ミリシュミット〕との交戦もあり、撃墜には至らない。撃ったとしても、小型無人宇宙船の奇怪なジグザグ軌道についていくことはできない。
「小型無人船、射出確認。予定ポイントにて、機雷の散布を開始しました」
「敵艦、動きあり。第二波攻撃が予想されます」
〔イリアーデ〕艦橋で、次々と飛び交う報告の数々。
それらをゲイルは聞きつつ、次の攻撃に備える。
「各船隊は、散開して陣を広くとれ。直掩部隊、動きが遅いぞ」
彼の指令の元、〔イリアーデ〕に集まっていた〔シーカー〕船体が大きく、旗艦を中心に球状を意識した陣形へと変更していく。
直掩部隊の〔AW〕はその動きに気付いていたが、それらすべてをカバーできるほどの戦力はない。同時に、火力で押す『地球平和軍』の猛攻に防衛線を下げているのもあった。
その原因となるものを、ようやっと〔イリアーデ〕の観測班は捉えて、艦橋に報告した。
「艦長。高速で接近する機影あり。数、八」
「防衛線を突破したのか?」
ゲイルが苦々しくつぶやく。
「しかし、八機だけで艦隊を潰しにかかるはずがない。各機銃座、接近する機体に気をつけろ」
妙な違和感を覚えて、ゲイルは言った。
防衛線を突破した〔アル∑〕は山のようにそびえる『ミューゲル1』を通常モニタいっぱいに捉えていた。同時に、広がりつつある敵艦隊に威圧感を感じていた。
「展開が早いっ! 彩子、時間は?」
「まだ、大丈夫よ」
彩子は樹の問いに、努めて冷静に告げた。
作戦可能時間は、限られている。『ミューゲル1』の速度が速まれば、それだけ軌道から飛び出させる確率も上がる。同時に地球に近すぎて、仮に爆破できたとしても無数の破片が地球に降り注ぐ結果となるだろう。
だからこそ、樹たち解体チームは迅速に、『ミューゲル1』に到達しなければならないのだ。
敵の〔イリアーデ〕、並びに武装した〔シーカー〕からの弾幕が降り注ぐ。
「動きを読まれた」
リーンは応戦など考えず、弾の温存を優先し回避行動をとる。
追随する四機の〔ファークス〕と二機の〔バーミリア〕も最低限の威嚇射撃で、その場を切り抜けようとしている。爆破を行う〔バーミリア〕二機の背部ラックには『CB6』の改良爆弾、『CB7』が詰まったコンテナが積まれている。仮にもそれに着弾すれば、艦隊諸共ふっとぶことになるだろう。
樹たちの操る〔アル∑〕はその巨体で大きく艦隊の下を這うようにして旋回。ビーム・ライフルで、〔シーカー〕船体の幾隻かを撃沈する。
いくつもの巨大な光芒が瞬き、距離の近かった船をも飲み込んでいった。残り八隻ほどだ。
「音、ジェネレーターが強力だからって連射できないんだからね」
「わかてる」
音は機体にビーム・ライフルのエネルギー弾倉の再装填をさせながら言った。
後続の爆破部隊、護衛部隊が弾幕に怯えたように、速度を下げて敵艦隊から離れる軌道を取り出した。
「ちょっと、何離れてんのよ!」
彩子がその様子に目を丸くしていると、接近警報が鳴り響いた。彼女は慌てて、電子戦用モニタの情報を伝える。
「正面に二機ぃ!? 〔ミリシュミット〕タイプだわっ」
「俺が注意を引く」
すると、〔アル∑〕の前で、〔バーカム〕がメイン・スラスターを噴かしてノズル光を膨れ上がらせ、敵〔AW〕へと突進していく。
陽動をサブマシンガンで牽制し、陽動をかける。その無謀な行動は敵艦隊攻撃の火中へと自機を追いこむ形となっていた。
「————っ」
音は再装填が完了したビーム・ライフルを〔アル∑〕に構えさせると、すぐにトリガーを押した。すぐにでも行動に移らなければ、リーンが危険だと判断したからだ。
ビームの光が銃口から漏れ出したときには、〔ミリシュミット〕バディは回避行動を取っていた。
それだけでよかった。
「敵機が下に回り込んだ?」
彩子は電子戦用モニタに映し出されたマーカーの動きに戦慄が走る。
敵がビームの閃光を利用して、戦火の少ない宇宙へと飛び込んでいった。ノズルの光が、流線状に見える星の光に混ざる。狙いはおそらく、爆破部隊だ。
「樹、部隊の護衛に回って」
「わかってるけど――――」
樹は嵐のごとき弾幕に、思うように〔アル∑〕を離脱させることができず、困惑していた。ビーム・ライフルの発射で居場所を特定され、艦隊の機銃の照準がより正確になっているからだ。
そこから、外へと機体を流してはいるものの、敵艦に背を向けるには抵抗があった。
音もビーム・ライフルで艦隊へと牽制をし、背後に気が回らない。
瞬間、敵艦隊へと急接近する一条の光が伸びていく。敵の機銃座の弾道がそれに集中していくところを見て、三人に心臓を鷲掴みにされたような苦しみが襲い掛かる。
「そーちょー!」
「あの人、目くらましを使うよ」
「タイミングが早いっ」
樹は〔アル∑〕を急速反転させ、爆破部隊へと向かわせる。リーンの動きの意図がわかれば、敵に背を向けることへの抵抗感がなくなって、逆に交戦中の爆破部隊への援護に集中することができた。
リーンの操る〔バーカム〕は最大出力で敵艦隊を縦断しながら、脚部の追加装甲からいくつものカプセルを放出する。一粒の大きさはサッカーボールほど。
そして、〔バーカム〕が敵旗艦である〔イリアーデ〕の横をすり抜けたころ、カプセルが次々と〔バーカム〕を追うようにして目も眩む閃光を次々と破裂させていった。
閃光弾。太陽を間近で見る様な強い光が、次々と艦隊を飲み込み。視界を奪っていく。さらに、電波攪乱によって、不自由な電子機器もまた完全に効果を持てなくなった。
リーンは視界が赤く染まるのを気持ち悪く思いながらも、〔バーカム〕を旋回させると用済みになった脚部の追加装甲を解除した。電子機器は使えない。だから、彼は自分のこれまで軌道と方位をよく思いだし、無茶苦茶な弾幕の嵐をアフターバーナーの加速で振り切る。
真っ白な宙域は照準すらままならず、誤射を恐れて弾幕も次第に弱気なものになっていく。
「————っ。曹長がやったのよね」
「眩しぃ!」
「こっちも、この隙に一気に行くよっ」
樹たちは左右の通常モニタに入り込んだ閃光に気持ちを引き締められ、爆破部隊に絡んでいた〔ミリシュミット〕バディにビーム・ライフルを発射し、散開させる。
弾幕の緩んだ今が好機。
閃光に照らされた六機の『地球平和軍』の〔AW〕は〔アル∑〕に殿を任せて、一気に『ミューゲル1』へと進行する。
「もう、電子機器が役に立たないじゃないのっ」
「文句言わない。自分の目で確かめる」
「樹、後ろ、後ろにいるっ」
音はリア・カメラの映像を見て、閃光弾の光に照らされて浮き彫りになった四つの影を見つける。先ほどの〔ミリシュミット〕バディと〔ミリィフロップ〕のバディだ。
〔アル∑〕は右脚部のレールガンで、敵を攻撃。
白亜の光をに照らされて、青白い弾丸が一条走った。〔ミリシュミット〕電子戦装備に命中。閃光弾の影響で、レールガンのマズルフラッシュを見逃したのだろう。
通常モニタにウィンドー表示された背後の爆発が一気に光の中に隠れ、残った三機も速度を緩めて後方へと流されていった。
彩子は息が止まりそうな緊張感の中で、なけなしの索敵機能を回復させながら言う。
「光りが弱くなってるわ。急いで」
高速で流れていく景色の中、星々が流星のように線を引いて後方へ流れていく中で、閃光弾の光は徐々に弱まっていた。
それは、電子機器の復活を意味している。
艦隊攻撃が活発になる。味方のビーム光が見え始めるも、やはり敵への照準が定まらず大した戦果を挙げることはかなわなかったようだ。
〔アル∑〕は先行している爆破部隊と合流し、一気に敵艦隊から遠ざかっていく。
「機体に損傷は?」
「いや、大丈夫だ。コンテナにも影響はない」
護衛を務める〔ファークス〕通常装備の操縦者、ガイアから報告を受けて、樹たちはとりあえずの安心を得る。先の交戦で何かしらの影響があっては、作戦は困難になるだろう。
そして、正面に捉えた『ミューゲル1』は、もはや通常モニタの枠を超えた大きさとなって映り込んでいる。炭素製の外殻が太陽の光を浴びて、鋼色を見せている。太陽光パネルもまた、城壁のようにそびえ行く手を阻む。
樹たちはその巨大感に声も出ない。小さな自分たちの背が、スペースコロニーという容器を前にしては蟻同然、それ以下の大きさかもしれないのだから。
「〔アル∑〕、俺たちはここで中央の爆破ポイントに向かう。いいか?」
「は、はい。ご武運を」
樹はノイズ交じりのガイアの声に返事をして、離れていく六機の〔AW〕を通常モニタの端に捉える。外殻に沿うようにして飛んでいく六つの光を見送りながら、〔アル∑〕もまた、太陽光パネルを駆け昇るようにして飛翔する。
「見えた。あれが、姿勢制御用のノズルね」
彩子が電子戦用モニタ越しに見える通常モニタに、巨大な半球状のノズルを発見する。動力には核融合反応を使っているらしいもので、見えていない反対側にも同じ動力が使われているはずだ。
音は自分も建設に携わった観点から、コロニー全体の建築がかなり進んでいることを見て取った。
「彩子、配線、わかる?」
「わかってるわよ。ちゃんと見取り図は記録してあるわ」
「でも、前と、ちょとかわてる」
「おそらく、敵がこの日のために補強をしたんだ。配線系統を弄られてなきゃいいけど」
もろもろの不安が込み上がってくる。それでも、今は連絡柱の先端にある制御施設へと辿り着かなければならない。
高速で駆け上っていく〔アル∑〕。
すると、接近警報が鳴り響き、樹たちは体を反射的に縮み込ませ、回避運動に入った。
次々と頭上から降り注ぐ青白い閃光。数メートル先を阻む爆発。間違いなく〔AW〕の装備だ。
〔アル∑〕は太陽光パネルを背中にした仰向けの状態になり、肩部二基のバリアブル・バーニアを反転収納し、機体を左右に振って射撃を回避する。
「敵の直掩部隊?」
「数は二。新型の奴よ————わぅっ」
〔アル∑〕を掠った弾丸が太陽光パネルを破壊。その破片が、機体に叩きつけられる。
「————ん」
音は高速で下へと流れていく爆炎と煙、破片を視界の中に捉えながらも、標的である〔ミリィフロップ〕バディを見逃しはしない。
巻き起こる煙を突き破るようにして、〔アル∑〕のビーム・ライフルを発射。
〔ミリィフロップ〕バディはその射撃を難なく避けてさらに接近し、〔アル∑〕の足元を追った。その位置は、普通射撃が最も困難とされる場所だ。
しかし、〔アル∑〕は足元からくる射撃を避けつつ、ビーム・ライフルと右脚部レールガンで応戦する。
「むずむず……」
音は足元に映る照準線三つをスロットルレバーとラダーペダルで操作しながら、射撃を行っている。視界は悪く、撃ちだした弾丸とビームは敵機手前に落ちて、逆に隠れ蓑を作ってしまう。
煙のカーテンを突き破って、〔ミリィフロップ〕も〔アル∑〕を捉える。
やられる。
三人は直感的に、向けられた銃口が避けきれないものだと感じた。
刹那、〔ミリィフロップ〕の頭上から小型ミサイルが飛来。的確に着弾し、撃破。二機の爆発が一気に小さくなる。
原因はなにか、と一瞬樹たちは困惑の色を見せるも、彩子がすぐに安堵の声で伝える。
「味方識別。曹長さんよ」
「おおっ」
音の感嘆の声とともに、〔アル∑〕が小さく見える敵艦隊を背にした〔バーカム〕を捉える。
〔バーカム〕は右腕部のミサイルサイロを解除し、〔アル∑〕の横についた。腕部のミサイルは強力なものではないが、射程距離が長く、貫通力のある弾頭をしようしている。遠距離火力の低い〔バーカム〕へのせめてもの配慮で装備された急造品だ。
それだけで、樹たちに安心感が戻ってくる。
「何やってたの、曹長」
樹が珍しく喜びの声を上げる。リーンが生きていたことへの安堵と危機一髪を助けられた感謝が込められていた。
「今は任務に集中しろ。艦隊から大きく離れ始めているからな」
帰ってきたのは、ノイズに交じったリーンの冷ややかな英語が聞こえた。
樹たちは彼の言うことが正しいと知りつつ、リーンらしくない声音だと思った。
「そーちょー?」
「黙ってろ。ん? 第三波が始まったみたいだ。急ぐぞ」
リーンはサブ・モニタが捉えた艦隊攻撃の壮絶な光に目を細めて言う。
〔バーカム〕も加速をかけて、太陽光パネルを上っていく。通路柱が大きな壁のように、見えるほどに接近していた。
「樹……、そーちょー、人、かわた?」
「…………それだけ、作戦に気を取られてるだけ」
「変に、気負ってなければいいんだけど」
樹のためらいがちな声と彩子の心配する声。音もまた敵がいるかもしれないという状況でありながら、気持ちが落ち込んでしまう。
それでも、彼女たちの中にある重責が〔アル∑〕を前へと進ませる。
艦隊同士の第三波攻撃が、『ミューゲル1』からではもう遠くに感じられた。
遠ざかっていく『ミューゲル1』にレミントンは、逸る気持ちを抑えて現状把握を優先する。
「敵はどうなっている?」
「敵艦隊、〔シーカー〕タイプ、二機撃破を確認。第一次アームウェア部隊、後退を開始してます」
「〔イリアーデ〕、右舷被弾との報告、損傷軽微。〔シーカー〕船隊にも、敵アームウェア部隊が——」
オペレーターが言った傍から、敵の〔AW〕、〔ミリィフロップ〕と〔スカイフィッシュ〕によって、武装した〔シーカー〕が沈められた。
驚きとともに、敵の動きが機敏になってきているのを誰もが感じた。
レミントンはひざ掛けの通信機を掴み、チャンネルを各機銃座に合わせる。
「各機銃座、敵を近づけさせるな!」
「艦長。第二次アームウェア部隊、発艦します」
「やってくれ」
『新人類軍』の〔AW〕は〔リヴァイン〕と〔イリアーデ〕の弾幕に気圧され、大きく旋回することを余儀なくされた。その間にも、両戦艦から〔AW〕が発艦していく。
艦隊の守備を任された各〔AW〕が奮戦を繰り広げる。発艦を邪魔させまいと、果敢に敵の〔ミリィフロップ〕小隊に攻めていく〔ギリガ〕の小隊。〔スカイフィッシュ〕の高速軌道に翻弄されながら、連携で追いこんでいく〔ファークス〕部隊。そして、艦隊用武器を失った〔シーカー〕は次々と収納していた予備弾倉などを危険な宙域に輸送していく。
皆が必死に敵の攻撃を食い止めるとともに、スペースコロニーが崩れる時を待つ。
先の閃光が、何よりも爆破任務についた部隊が存命している証拠だ。その光に背中を押されて、誰もが戦う意志を強めている。
その奮闘する宙域を見ていた〔イリアーデ〕艦長、クロッグ・ジョーリンは身近のオペレーターに言う。
「対艦アームウェアをこちらに引きつける、と〔リヴァイン〕に通達しろ」
「了解っ」
オペレーターは敵の対艦機〔スカイフィッシュ〕の猛威を知っており、少し上擦った声で返答する。
クロッグとて、それは同じこと。老いた心臓が嫌に早くなり、心筋梗塞でも起こしてしまいそうなほどだ。
しかし、彼らは対艦機が来ることを想定している。もちろん、絶対の保証はない。
「火器管制。対艦アームウェアへの対処をする。各機銃座に用意させろっ」
「了解。準備を急がせます」
しわがれた声を受けて、下段の火器管制士がインカムを押さえて返答。広い艦橋に緊張が走る。
敵艦のビーム光が減衰しながらも、押し寄せて防衛線を苛烈にしていった。
飛び交うビーム。まばらに突撃していくミサイル。出し惜しみをしつつ、隙を窺う根競べ。
そして『ミューゲル1』がさらに加速していき、両艦隊はそれを追いつつ、戦況を広めていく。




