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マシン・レコード  作者: 平田公義
第十三章
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~揺蕩い~ 演説

 太陽光発電施設攻防戦より数時間が経ち、全世界に向けて『新人類軍』が新たな声明を発表した。


『新人類軍』首領であるモーガン・ジャムは憐憫な瞳と疲れ果てた表情で壇上に立ち、世界へ向けてのカメラが並ぶ前に姿を現す。カメラを構える同志たちの顔を一望した彼は、その真剣な眼差しに応えるようにして深く頷いて見せた。


 そして、全世界に向けたゲリラ放送を敢行した。


「多くの人々に告げる。わしは『新人類軍』首領、モーガン・ジェムだ。突然の放送であるのは我が方の配慮のなさと謝罪の意思を伝えつとともに、それ故に早急に報告せねばならぬことがある。これは、冗談でも虚構でもない、事実として受け取ってほしい。

 本日、グリニッジ標準時〇二三〇より行われた戦闘において、我々『新人類軍』は許すまじ現状に直面した。太陽光発電施設奪還のために、攻め入ってきた『地球平和軍』は我らが同朋を大敗させ、施設を奪還して見せた。それは、戦争というルールの中にある一戦であり、これを咎めるものではない、とわしも理解している。これによって、『新人類軍』がエネルギー面において打撃を受けたことも事実であり、戦略的痛手を食わされた。

 それでも、わしらは単なる無機物な侵略者ではなく生き物である。悲しみや嘆きというものを感じないよう自らを戒める哀れな存在でもある。そんなわしらでも、同朋が囚われたとあれば、その交渉に赴き、話し合いの席を設けたいと考える。人類史においても、この交渉の場は穏便なものであり、拒否するのはもちろんその意識だと了解しよう。

 じゃが、『地球平和軍』はその交渉の死者に対して銃を向け、あまつさえも発砲してきたのだ! 

 道徳という観念を失った証明である。自らが勝利欲しさに、無差別に命を奪う。われらもまた、開戦を上げるために多くのものを死に至らしめもしたという者あらば、ここで答えよう。

 その多くの犠牲を払ったのには、『地球平和軍』の危機感の増長を呼ぶとともに、この宇宙で働く『奴隷階級(スレイブ)』と罵られた人々の恨み辛み……、それら『新人類軍』が持つ過去の決算である。

 わしらは今、『新人類』として統合政府に戦争を仕掛けている。それは今までの旧人類的なしがらみを捨てて、掲げる理想に殉じる覚悟を持ってのことだ。人間の持つ私怨を一度、わしらは断ち切りった。

 それが、統合政府にはできない革新であり、改革の一手だ!

 利己的なものではない。すべては多くの人々に還元するための、業である。贖罪である。罪を知り、悪を見れば、おのずと正すべき道は開かれるのだ。

 その道を阻むものが、統合政府である。その腐りきった政治体系は、以前の活力、情熱を失い、無能なものが軽々しくも入り込む組織へと変質してしまった。一体誰が、このようにしてしまったのか?

 他ならないかつての我々を含めて、人々である! おこがましい言葉ではあるが、この事実をどれほどの人々が胸に抱いているだろうか。抱き、苦しむのは、悲しいことだ……。

 そのような不安を抱かないために、上に立ち選ばれた者たちが集う場所こそが統合政府の議席ではなかったのか? 結果として、『地球平和軍』という特権階級を作り出し、その温床は宇宙にまで広がった。

 もはや、限界を迎えようとしている。

 じゃからこそ、ここに宣言する!

 我々『新人類軍』は地球に向けてのコロニー落としを決行する。この時より二週間の猶予を設け、現統合政府の解体と新たな統合政治組織として『新人類軍』が取り仕切ると条約を結んだならば、この戦争は終結し、コロニー落としも撤廃しよう。

 これからの未来を築くための賢明な判断を、我々は願っている」


 全世界に向けれた放送には、ノイズ交じりの〔バーミリア〕が銃口を向けて打つ瞬間の映像が同時に流れた。


 欧州。早朝のテレビに突如として現れた放送に、通勤ラッシュの人々は流し聞きしながらつぶやく。


「いい老人が戦争を語るのか」

「宇宙でのことを今度は地上に持ってくるやるっての? 冗談」

「どうせ、議席もらえなかった没落議員の言うことだろ?」

「違うよ。元代表取締役だよ。金はあるだろうに」


 欧米。深夜の歓楽街のとあるバーにいる人々は、言った。


「ただの自己陶酔じゃないか」

「老体というのは、いつだって自分本位なものさ」

「革命家気取りかよ?」

「そのつもりだって、言ってただろう」


 中東。午前中の緩やかな光が差し込む一軒家でブラウン管テレビを眺める家族は言った。


「難しいこと言ってる」

「そうだな。けど、偉い人が間違っているって言えるのはすごいな」

「少しでも、この辺にも潤いがあればね」


 アジア。お昼過ぎの緩やかな日差しの中、ショーウィンドーに並んだテレビを見る会社員たち。


「コロニー落とし? 宇宙から何か降ってくるのか?」

「どうせ、出まかせでしょう。本気とか言ってもさ」

「統合政府は何やってんだ」


 日本。午後のまだ明るい陽気が降り注ぐ種子島基地で、藍崎(あいざき)敏信としのぶたちは顔を顰めていた。


「敵はどうやら、本気かもしれんのぉ」

「にしても、自作自演にもほどがあるぜ」

「じゃけど、工業化が進む地域は肯定的になりそうじゃねぇ」

「コロニー落としが現実になれば、関係のない人々を多く巻き込むことになるがな」

「高潔な精神とか、贖罪だとか言ってごまかすじゃろうて」


 放送はもちろん、同地の病院にも流れていた。


 休憩所でそれを見ていた(いつき)の母、結喜(ゆき)・ジャンクロフォードは胸が苦しくなり、折れていない手を胸に押し付けて祈る。


皆守(みなもり)ちゃん、詩野(うたの)ちゃん、(いつき)…………」


 そして、帰還した(いつき)たちも、『ガーデン1』ドック控室でその放送を見ていた。あの回線宣言が行われたとき以上の危機感に動揺を隠しきれなかった。


「コロニー、落とし……」

「ねぇ。これが本当になったらどうなるの?」

「そんなの……」


 これまでにない被害。今までにないほどの命が、危険にさらされているのだ。


 しかも今度は軍人だけでなく、地球で暮らす多くの人たちも巻き込んで。


 戦慄する状況に、しかし、多くの人はその恐ろしさを想像することはできなかった。

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