~揺蕩い~ 拘束される戦場〈前編〉
宇宙に咲く白い花。それは、青白いプラズマの残光だ。
〔アル∑〕が戦闘宙域を駆ければ、その残光が鮮やかに刻まれる。
それに引き寄せられるように、鈴燕華が操る赤い〔ミリシュミット〕通常装備とハンス・ルゥの操る〔バーカム〕電子戦装備が追撃してくる。
「よりにもよって、あの二機が――」
「音、ビーム・ライフルの残弾に気を付けて。来るっ!?」
彩子の愚痴を聞きながら、樹は緊張とともに〔アル∑〕を反転。追い縋る二機の強敵に右腕部が握るビーム・ライフルの銃口を定める。
その射線に、僚機の〔バーミリア〕通常装備が割って入ってくる。ヤッシュ・カルマゾフが操る機体だ。
「邪魔っ!」
「サポートしてくれっ」
音がターゲットサイトをマニュアル操作で外して、舌打ちする。
ヤッシュの〔バーミリア〕通常装備は手にしているロングバレル・レールガンを追い縋る二機に放ち、さらに背部のマイクロミサイルを発射する。
「雑な攻撃ねん。ハンス、EMPを」
「了解。鈴さん」
対して、燕華はむっとして、ラダーペダルを切り返した。
赤い〔ミリシュミット〕はバック転の要領でハンスの操る〔バーカム〕電子戦装備と前後を入れ替えながら、プラズマを纏った弾丸を回避。その時にはもうEMPは発動し、マイクロミサイルは次々と軌道を乱していった。
見事なまでの連携を見せて、二機は爆発していくミサイル群の下を滑り込むように飛行。
それには、樹たちも気づいて、〔アル∑〕の左腕部に実装されているカタナ二刀を展開させる。爪のように伸びたカタナは、接近戦を持ち込むだろう赤い〔ミリシュミット〕を危惧してのものだ。
「あの赤い機体、以前よりも素早くなってないかしら?」
「違う。青い機体がうまいこと動いてる」
彩子の見解は間違ってはいないが、樹のいう連携こそが、燕華とハンスの機動力を向上させて見える。
その対比に〔アル∑〕と〔バーミリア〕通常装備の連携は、互いの機能を損ない対処を遅らせている。
瞬間、下方からガトリング砲の砲火。
樹はバリアブル・バーニアの角度を変えて、〔アル∑〕は機体を捻るようにしてその射線から抜け出した。それに〔バーミリア〕通常装備が金魚のフンよろしくついてくる。
「これじゃ、身動きとりづらいわよ――――っ!? 樹、右から来るっ」
「音っ」
「わかてる」
鬱陶しくついて回る〔バーミリア〕通常装備の後方、赤い〔ミリシュミット〕が太刀を引っ提げて突進してくる。下方からはガトリング砲。〔バーカム〕電子戦装備も、〔アル∑〕の『幻覚』を警戒して、不用意に近づいてこない。
彩子はその敵の用心深さに歯噛みした。
同時に、音はビーム・ライフルで〔バーミリア〕通常装備を無理やり押しのけ、トリガーを引いた。
「うおっ! こ、殺す気か?」
ヤッシュの声にいら立ちを覚える三人だったが、ビームを軽々と避けてなおも接近してくる赤い〔ミリシュミット〕に集中する。
そこに付け入るように、ガトリング砲が〔アル∑〕を掠める。
ドドッと操縦席が揺れ、音が右脚部レールガンを使って〔バーカム〕電子戦装備を払いのけると、樹は迫ってきた赤い〔ミリシュミット〕に応戦。
〔アル∑〕が風車のように翻って、左腕部のカタナを奮った。プラズマの光が刀身に迸る。
赤い〔ミリシュミット〕はそれをわかっていたように、空いている左腕部を背中に回してもう一本の剣を抜き取った。
プラズマの反発作用が働き、一瞬のスパークとともに赤い〔ミリシュミット〕が吹き飛ばされた。
「あ、あの剣、どこかで……」
樹は一旦距離を置く赤い〔ミリシュミット〕の左腕部に注目した。
「樹、後ろに回り込まれてるわっ」
「え――――!?」
「―――――んっ」
彩子の上擦った声に樹は慌てて、スロットルレバーを引き、ラダーペダルを操作する。
その前に辛うじて、彩子と音がテールバインダーに収まっているもう一丁のビーム・ライフルで応戦し、〔バーカム〕電子戦装備の攻撃タイミングを外してくれた。
「あの機体、どれだけのギミックを持っている?」
ハンスは自機を〔アル∑〕と〔バーミリア〕通常装備を軸に旋回しつつ、ガトリング砲の残弾を確認する。まだ余裕はあるが、〔アル∑〕の射撃の範囲を考えると無暗に撃てない。
〔バーカム〕電子戦装備はガトリング砲を上げて、様子を見るようにバルカンで牽制。燕華との合流を計る。
今度は〔アル∑〕が攻撃権を得て、回避運動を取りつつマニピュレーターが保持するビーム・ライフルをノズル光が目立つ赤い〔ミリシュミット〕に向けて撃った。
「あたしに狙いをつけるか」
燕華は操縦桿とラダーペダルを巧みに操作すると、機体を翻して再度突撃を敢行。ビームを横間に捉えて、一気に距離を詰めていく。
「赤いのが来るわ」
彩子はビームの光で視界が利かなくなった通常モニタではなく、電子戦用モニタが捉えたサーモグラフィを見て言った。
「僕に任せろっ」
「また、邪魔ぁ!」
通信を傍受したのか、ヤッシュの操る〔バーミリア〕通常装備が、またも音の射撃を邪魔する。
〔バーミリア〕通常装備は〔アル∑〕の側面を守るようにして、赤い〔ミリシュミット〕に立ちはだかり、ロングバレル・レールガンを発射する。
しかし、そのあまりにも単調な照準の仕方に、赤い〔ミリシュミット〕は臆することなく弾丸を回避、または弾いて突進してくる。
「そんな独りよがりは、一人でやってな……」
燕華もヤッシュの未熟さに水を差され、すっと冷徹な声が漏れた。怒りよりもその効率の悪さと自分が僚機の足を引っ張っていることを知らない無知さに、合理的な判断が過ったのだ。
削除する必要がある、と。
それは、ハンス・ルゥも思うところであったから、〔バーカム〕電子戦装備が冷却していたガトリング砲を〔アル∑〕の左側面に狙いをつける。
「挟み撃ち――――っ。彩子、『幻覚』を」
「仕方ないわねっ」
彩子も樹の判断が、苦し紛れであることを察してコンソールパネルを弾いた。
そして、ガトリング砲と〔アル∑〕の『幻覚』が発動したのは同時だった。高圧電波の波動が周囲におよび、接近していた赤い〔ミリシュミット〕、ヤッシュの〔バーミリア〕通常装備が機能不全に陥る。
「このタイミングで動きを止めたか。苦しい判断を迫られたな、海星は」
燕華は停止したモニタを見ても特に驚く様子はなく、冷静に敵の動きを察する。ハンスの性格を考えれば、この状況で動きを止める理由はないからだ。
〔アル∑〕は、動きの止まった〔バーミリア〕通常装備を掴むと、バリアブル・バーニアのノズルをいっぱいに開いて、回避に入る。それでも、ガトリング砲の弾丸が追加装甲を掠め、体が縮み上がる。
「樹、反転」
「わかった!」
音の指示に従って、樹は左右のスロットルレバーを入れ違えるようにして押し引きし、ラダーペダルもそれに準じて踏み分ける。
〔アル∑〕がバリアブル・バーニアの角度を変えて機体を捻らせる。同時に、右脚部が〔バーカム〕電子戦装備を捉えて、レールガンを放った。
「あの状態で――っ」
ハンスは息を飲んで、咄嗟に自機を横間に回転させる。すぐ近くを過ぎて言った青白い弾丸の衝撃が、〔バーカム〕電子戦装備をふらつかせる。
「別の部隊が来てるっ! 左上、月の方っ!」
「――――っ」
樹と音はさらに宙返りする〔アル∑〕で、右腕部のビーム・ライフルを別働隊に向けて撃った。
頭が揺さぶられ、ビームの残光に三人は目を細める。
接近してきた『新人類軍』新型機〔ミリィフロップ〕二機は、即座に機体を降下させてやり過ごした。敵の動きは精錬され、数で押していた『地球平和軍』の〔AW〕部隊が次々と撃墜されていく。
その散っていく光芒を通常モニタのいたるところで確認しながら、樹はシステムダウンの状態から回復しただろうヤッシュに向けて言った。
「状況は不利でしょう? 次、邪魔したら見捨てるかね」
「あ、え? 何?」
「エネルギー、ちょと。樹、赤いのっ」
音は点滅するビーム・ライフルのエネルギー弾倉を気にしていう。
樹は顔を顰めて、最悪の状態に歯噛みする。『幻覚』の影響で機動力の下がった〔アル∑〕に、手荷物状態の〔バーミリア〕通常装備。
さらに、上から抑え込むように牽制弾を放つ〔バーカム〕電子戦装備が、自然と赤い〔ミリシュミット〕の方へ追い込んでいる。
〔アル∑〕は回復した〔バーミリア〕通常装備を手放すと、まず右腕部に保持していたビーム・ライフルを一度テールバインダーに収めた。すると、バインダー内で即座に弾倉が好感され、ほんの五秒ほどで、ビーム・ライフルは右腕部に再度戻った。
その五秒は、赤い〔ミリシュミット〕が太刀と短剣の二刀で攻め込むには十分だった。
「交換している暇があって?」
「このぉおおおおおっ!!」
樹は〔アル∑〕を翻らせて、下方から攻めてきた赤い〔ミリシュミット〕の短剣を受けた。カタナと短剣が反発作用で二機の間に、見えない力場が生まれる。
互いの操縦席ががたがたと揺れ、プラズマが迸る力場を睨んだ。
燕華はよく受け止めた、と口の端を吊り上げる。
「次の手は、どう!?」
赤い〔ミリシュミット〕が右腕部に持つ太刀で、〔アル∑〕の左胸、音のいる操縦席に突きを繰り出す。
「――ひっ」
それには、音も肝を冷やして、目に涙が浮かぶ。
「音、トリガーを!」
彩子が力場を超えてくる太刀の切っ先を睨んで、テール・バインダーのビーム・ライフルをそれに向ける。
「――――っ!」
燕華は自分に銃口が向けられているのを知って、操縦桿を一気に下げて、スラスターを切った。
瞬間、力場の反発に任せて赤い〔ミリシュミット〕が弾き飛ばされる。一拍遅れて、テール・バインダーのビーム・ライフルが狙いを絞り込んだ細いビームを発射した。
空を切るビーム光と距離を置いて態勢を立て直す赤い〔ミリシュミット〕
鈴燕華の反応速度、判断力、技術を赤い〔ミリシュミット〕は顕著に表現していた。
「あの操縦者、どれだけ目がいいわけっ!?」
「た、たすかたぁ」
「それより、なんて反応を示す機体?」
樹たちは戦々恐々して、〔アル∑〕を降り注ぐガトリング砲の雨から回避させる。
休まる時がない。一瞬でも、気を抜き、動きを単調にさせれば、赤と青の敵に撃墜させられる。
しかし、燕華もハンスも余裕を見せられたのは、ここまでだった。
「強くなったじゃないか……。っと、別の敵が来た」
「鈴さん」
赤い〔ミリシュミット〕に〔バーカム〕電子戦装備が牽制しながら、合流する。牽制の矛先は〔アル∑〕ではなく、ハイエナのように群がってきた〔バーミリア〕の軍勢だった。
弱っていると感じたのか、数でものを言わせるようにマイクロミサイルを発射する。
「ハンスか」
燕華が反応を示したころには、〔バーミリア〕電子戦装備がマイクロミサイルをかく乱、自爆させていた。
目の前にいくつもの光芒が膨れ上がり、両陣営の距離が無念のとばかり離れていく。
「よくやったじゃないか。さて、まだまだやらせてもらおうじゃないか」
「了解。サポートします」
「あぁん。素敵じゃない?」
燕華が色っぽく返すが、ハンスは爆発をなぞる様にして現れた〔バーミリア〕の小隊にガトリング砲を放っていた。
一方で樹たちは爆発を利用し、いったん赤い〔ミリシュミット〕たちから離れて、別の敵と交戦に入っていた。
「他の部隊が来てくれて助かったけど、大丈夫かな?」
彩子が小さく不安をつぶやくと、〔アル∑〕は急速旋回し、ドンッとバリアブル・バーニアを噴射して加速した。
「今は目の前の敵に集中っ」
「あ、ひゃい」
ぴしゃりという樹に、彩子は噛んだ舌を出して答える。
またいつの間にか、ヤッシュとはぐれてしまったが、その穴を埋めるように孤立していた〔バーミリア〕電子戦装備と即席のバディを組んで、戦場を駆ける。
〔リヴァイン〕はようやく、太陽光発電施設から出港し遥か先で展開されている戦闘の光を正面に捉えていた。
「本艦に接近する機影、ありません。このまま、針路を維持します」
「アームウェア部隊、約三割が撃墜されていると推測されます。なお、敵影の中にあの対艦機はありません」
それらの報告に、レミントンは険しい顔をして指先を合わせる。
宇宙服に身を包んだ艦橋クルーたちが、不安そうに作業に当たっている。
押され気味の戦況だが、〔リヴァイン〕が盾として入れば、いくらでも対処できそうだ。脅威となる対艦機〔スカイ・フィッシュ〕もないなら、なおのこと戦艦の弾幕を張って、追い払うほうがいい。
レミントンは一つ頷いて、ひざ掛けのマイクを取った。
「各員へ。これより本艦は戦闘宙域に侵入、味方の援護に入る。甲板員は損傷機の回収を迅速に願う。機関士は出力の調整に全力を注いでくれ。機銃座にいるものは、敵が接近しだい発砲を許可する」
これで艦内すべてに通達がいきわたったはずだ。
とはいえ、この〔リヴァイン〕は〔イリアーデ〕のようなビーム砲座は上下階段状に二門ずつしか搭載されていない。火力での押切るには弱い。
レミントンが次の戦術を練っている中で、艦内オペレーターから次々と各ブロックの了承が報告される。勇猛果敢に、威風堂々と艦内の兵士たちは立ち向かうことを決意している。
だからこそ、レミントン・バーグはこの戦艦に誇りを持っていた。顔を上げて、目の前に広がる閃光を見据える。
「よし、全速前進! ビーム砲の準備を急げっ!」
雄々しい声が艦橋に響くと、各オペレーターたちが引き締まった声で了解と返した。
リーン・セルムットは出遅れたことに、酷い罪悪感を感じていた。
パイロットスーツに着替え、格納庫へ向かうも情けないことに道に迷っていた。いや、彼の中に邪念があったればこそ、案内板を読み間違えて艦内を徘徊する羽目になったのだ。
「クソッ。また、ここかよ」
リーンは見覚えのある通路に出て、忌々しげに壁を殴りつける。
すでに〔リヴァイン〕は戦闘宙域に向けて、航行を始めている。このままでは、ただの役立たずで終わってしまう。
「早く、格納庫へ――」
自分の心の迷いを否定するかのように、彼は通路を進んいく。
しかし、高鳴る心臓と全身から引き出す嫌な汗は、リーンの率直な恐怖心を体現している。情けないことだ。気持ちが揺らいでいる状態で、戦えるだろうか。
十字路が目の前に見えてきた。
すると、横間から二人の男が出てきた。宇宙服を着て、一人は見知った顔だった。
「ムッサ――――っ!」
「――――っ! リーン・セルムット」
互いが名前を呼ぶのと同時に、リーンはムッサの腕の中でぐったりしている軍服の女性を見た。金髪の三つ編み。コフィン・コフィンだ。
それだけで、リーンの頭が沸騰した。体が熱を帯びて、危険だと告げる。
「テメェッ!! その人に何を――――」
「どけっ」
ムッサの影に控えていた白人男性が工具箱をまさぐって、何かを向けてきた。
リーンは床に体を落として、這いつくばるように流れる。
パァンッと乾いた音が響いて、白人男性が手にしているのが拳銃だとはっきりする。
「――――っ。どういうことだよ、おい!!」
十字路の横間に消えていく二人組を睨んで、リーンはふとコフィンのうつろな視線が自分に向けられたに気付いた。
ぐっと息の詰まる苦しみを味わって、彼は頭を振った。
体を起こして、コフィンたちが消えた通路へと追撃を開始する。十字路を曲がって、まっすぐに流れていくムッサたちを確認し、バッと体を壁に寄せて力いっぱいに手すりを伝っていく。
銃声。
咄嗟に身を縮めるが、銃弾は通路で跳弾するも狙いが甘く当たる気配はない。
「――――ッつ。本気かよ……」
リーンは呻いて、太もものホルスターからガス式の拳銃を取り出すと、壁に設置されている非常ベルを銃床で叩き割った。そして、出てきたインカムを耳につけて、追撃を再開する。
艦橋のオペレーターがすぐに出てくれた。
『どうしました?』
「艦内で、不審人物二人を発見。人質一人を取っている。これより、追撃する」
『ええ!? どういうことですか?』
「保護した奴らだ。もしかしたら、何かあるかもしれない」
『りょ、了解。こちらでもあなたの位置を確認できてます。応援を――』
「いえ、ここは一人で大丈夫です。他にいないか、探す方に回してください」
リーンは早口に言って銃を構える。それから、曲がっていった三人の影を追った。そうやって、追撃できるのは確かな殺意をもって白人男性が拳銃を撃ってきたからだ。
でなければ、かつての同僚と気の迷いの元凶である女性のことで気持ちはぐちゃぐちゃだっただろう。
艦橋のオペレーターが唸って渋った。
「陸戦部隊だって、そう多くないだろう? だったら探し出したほうがいい」
『りょ、了解。追撃をお願いします』
「すみません」
それからしばらく、オペレーターは艦橋の指示を仰いだらしく、通信が途切れた。
リーンは慎重に曲がり角で停止して、顔を少し出すと銃声とともに弾丸が近くで跳ねた。甲高い音が一瞬なった。
「リーン。昔の好だ、少し話をしよう」
ムッサの声がして、リーンは猜疑心を抱きながら、顔を少し出して通路を覗き込んだ。
そこには銃を構えた白人男性を手で制するムッサ・ムーデックの姿があった。その腕の中で、気が付いたらしいコフィンが弱々しく手足を動かしていた。
「どういうつもりだ……」
リーンの心にどんよりと思い塊が渦巻き、思考が麻痺しそうになる。オペレーターからの反応はなく、対処するなら自分一人になる。
「いいか、リーン? 俺は無益なことはしたくない。わかるな? だから、話し合いでこの場を収めたいと思ってる」
ムッサが不吉な笑みを浮かべて、ぐっとコフィンの首を締め上げた。
「――――ぐぷっ」
コフィンの顔がみるみる青ざめて、首が今にもへし折れそうだ。
リーンはしばらく身を隠していたが、覚悟を決めて通路に身を出した。
瞬間、白人男性の握る銃が火を噴いて、弾丸を発射した。その弾丸は、まっすぐにリーンの右肩を撃ち抜き、鮮血を飛び散らせた。鮮烈な痛みが、脳髄の奥底まで響く。
「ぐっ――――」
「おい。俺は、奴と話がしたいだけだ。変なマネはするな」
ムッサは白人男性の銃を取り上げて、冷徹な瞳を向けた。
リーンは右手に持っている拳銃を左手に持ち替えて、狙いを定めた。脈打つたびにくる右腕の鈍痛に息を荒げながら、ムッサの態度を窺った。
銃撃戦になれば、まず人質を取られているリーンには不利だ。悔しいが、話し合いという手段に乗るしかない。
「やはり、お前は話が分かる」
そういって、ムッサもまた取り上げた銃をリーンの額に狙いを定める。しかし、引き金は引かない。
「話なら、聞いてやろうじゃねぇか。ええっ!!」
リーンは虚勢を張って、しかし、体は壁に寄りかかるようにして銃のことを頭に入れていた。それでも、彼に気持ちの余裕はなく、いつ誤射してもおかしくなかった。
だが、人質となっているコフィンが視界にいる限り、引き金を引く意識は湧いてこないだろう。
通路に冷えた空気が漂い始めたように感じるのは、おそらくリーンの血が足りないからだ。右肩から血の玉がぽつぽつと浮かんで、壁に付着する。
「ほぉ。威勢だけはやはりいいな」
ムッサはその様子を最後の娯楽を楽しむような気持ちで見ていた。
最後の友人としての礼儀だとも、思いながら。




