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Like A Wind  作者: 白銀
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序章 「エンジェル」

 序章 「エンジェル」


 辺りは静まり返り、虫の声すら聞こえない。生物と名のつく全ての存在の出す物音は既になく、夜の暗闇の中には不気味な空気だけが流れていた。

 だが、その中でただ一つだけ、物音を発している存在があった。人、それも男だ。

 呼吸を乱れさせ、流れる汗も拭わずに、明らかに何かに怯えた様子で走り続けている。まるで何かに追われているかのように。恐らくは、自分が住んでいるであろう街へ向かって。

 生命体の気配はその男以外には感じられず、あるとすれば男を脅かしている存在ぐらいだろう。

「――!」

 男が驚愕に目を見開いた。

 彼の目の前に、何かがいた。

 犬のような、四足歩行型の獣に近い見た目をしているが、犬ではない。大型の犬よりもまだ一回りほどは大きく、体長は成人男性ぐらいはあるだろう。無論、異様なのは大きさだけではない。目という部分は赤く、口には大きな牙が、前足には鋭利な爪を持っている。爪や牙は人間など簡単に殺傷できるものと見て間違いない。

 加えて、闇に溶け込むかのような黒い体毛は犬のそれよりも丈夫なものだ。その獣自体の生命力も半端なものではなく、銃弾を二、三発撃ち込んだぐらいでは生命活動を停止しない。

「――!」

 物音に振り返った男が、言葉を失った。

 彼の背後には、また別の獣がいた。

 人間の四倍はあるであろう、二足歩行型の獣だ。その体毛はやはり黒色で、目は赤い。筋肉が発達していると言えるのだろう、その腕は太く大きい。その巨大な体躯から繰り出される攻撃の破壊力は凄まじく、人間では到底敵わない事は明白だ。通常の銃のような兵器で倒せる相手ではない。

「――!」

 男の左右の道を塞ぐかのように、四足歩行獣が更に二体現れ、男は身体を震わせた。

 逃げ場は塞がれていた。もっとも、元々それらの獣から逃げる事が無駄な抵抗でしかない事は解っていたのだろうが。それでも逃げようとするのは、生物の本能だ。

 獣達が男に飛び掛ろうと身構えたのが、彼にも伝わっただろう。目を閉じたくても、それができない。身体を動かし、最後のあがきをしたくとも、恐怖で身体が動かない。何もできずに、男がただ死を覚悟した瞬間だった。

 目の前の四足歩行獣に上空から急降下してきた炎が命中した。凄まじいまでの熱気が周囲に拡散し、男の頬を撫で、同時にその炎が放つ明かりにその場が照らし出される。獣が吠え、身体を炎に包まれながらも男へと飛び掛ろうとするが、ぐらつきながら一歩を踏み出した所で力尽き、倒れた。肉の焦げる臭いを放ちながら、獣が朽ち果てていく。それと同時に、獣を包んでいた炎も消えていた。

 背後で発された明かりに男が振り向けば、そこには一人の青年が背を向けて立っていた。

 左右に掲げた腕には立ち上る陽炎を身に纏うかのように熱気を纏わせ、その凄まじいまでの熱気は掌に炎として集約させている。炎が照らし出す明かりの中で、青年の背中、服の下から生えているような一対の大きな翼が男の目に映っていた。純白の光を帯びた、神秘的な感覚を湧き起こさせる翼だった。

 青年が、左右の手に纏った熱気を炎へと集約させ、左右の獣へと撃ち出した。熱量が風を起こし、陽炎が視界を揺らし、周囲に熱気を振り撒く。避ける間すらなく獣に炎が命中し、急速に焼き尽くしていった。

 現実離れし過ぎた光景に、男は声を発する事ができなかった。

 目の前の巨大な二足歩行獣が青年へと腕を振り回そうと掲げた瞬間、青年がその獣へと手をかざす。その直後には何かが弾けるような音と共に、獣が振り上げた腕が千切れ飛んでいた。間を置かずに破裂音が二つ続き、獣の頭と腹が吹き飛んでいる。

 絶命した獣の巨躯が地面に音を立てて崩れ落ちる。

「……天使……」

 男は、青年を見てただそれだけ呟いた。

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