帝国陸軍の苦悩
今回は少し時間が飛びます。
別にぐだぐだ書くのがめんどくさいとかそういうわけではありません、絶対、絶対!
後、久しぶりですから投稿が遅くなりました、すみません。
昭和一四年六月
赤坂、統合参謀本部内陸軍部会議室は険悪な空気に包まれていた。
統合参謀本部は、ただの連絡組織的意味合いが強かった大本営に変わり、陸海軍の上位組織として昭和一三年に設立した。
統合参謀本部は、今まで連絡組織的な存在だった大本営に比して大きな権限を持ち、作戦立案、軍備計画作成、両軍の人事管理等の、陸軍省、海軍省に迫る権限を持つ。
もっとも、これは国防省が発足するまでの過渡的な処置で、発足ししだい、権限を移譲する予定である。
また、陸海軍総合造兵研究部も直轄組織として組み込まれている。
入居しているのは今年二月に完成した通称『丁』と呼ばれる庁舎で、通称は完成直前に訓練で偶然上空を飛行していた陸軍機パイロットが「丁に似てるなー」と言ったことから始まる。
丁の一の部分は右を軍令部から改変された海軍部、左を参謀本部から改変された陸軍部と割り振られており、Ⅰの部分は両者の共有施設、つまり大会議室や食堂、統合作戦室等で、果ては正面玄関がある。
現在は業務拡大によって人員が溢れ出しているため空き地にも仮庁舎を構えている。
今、その会議室では二人の将官が面会していた。
一方はまるで相撲取りのような巨漢、もう一方は痩せ形の丸眼鏡をかけた参謀タイプだ。
山下奉文少将はで机を叩き吼える。
「戦車は数を揃えなければ意味がありません!それを中隊規模での小規模運用ですと!?
冗談も大概にしていただきたい!」
陸軍部次長多田駿中将は渋り顔で答える。
「そうは言ってもね、戦車は高いのだよ?山下君」
「しかしだからといって各師団に一個中隊は無いでしょう!
これでは戦車の機動力を生かせない!せめてそれらを集めて機甲師団の編成を!」
「その案も無いことはないがね……」
「?では何故ですか?」
「そもそもシベリアや支那大陸、南方、本土は戦車の機動力を生かす場所が限られているのだよ。
それに機甲師団を作った場合、それに追従する歩兵部隊も自動車化を行わなければなるまい。そのような予算は今の陸軍にはとてもではないが無いのだよ。
私とて予算さえあれば賛成なのだ」
多田の言ってることは間違いではない、予算はクーデター時の予算圧縮によって未だ苦しいままなのだ。
二個師団を削減してもなお、切り詰めなければならないほどにだ。
戦車、航空機、小銃等の装備こそ海軍との共同開発でなんとかなっているが、金食い虫の戦車を大量発注出来るほどの余裕はない。
それをよくわかっている山下はそれ以上詰め寄ることは出来ない。
仕方無く、別の話にずらすことにした。
「では八八式野戦高射砲を転用した戦車の開発はどうなっているのですか?あれは砲を改めて作らなくていい分、普通の重戦車よりいくらかは安上がりと聞きましたが」
多田はうーんと唸りながら答える。
「装甲や砲塔はともかく、どうも足まわりがな、あと砲塔自体も問題がないわけではない」
それを聞くと山下は肩を落とした。
「そうですか……」
「うむ、車体がどうしても強度不足でな、今は砲塔の軽量化で何とか出来ないか探っている。
なんせ搭載予定のエンジンが海軍の10式戦から転用の500馬力、20tそこらなら高速を出せるかもしれないが全備重量30t近くある化け物だ、少しでも軽量化せねばな」
「砲塔を軽くするにも限度があるでしょう、装甲を削るわけにもいけませんし、何かいい考えは無いのですか?」
すると多田は周りを見渡して山下に顔を近づける。
「実はな、本当ならまだ部外秘なんだが…」
「何でしょう?」
「造兵研究部から上がってきた新型装甲を使えば強度をそのままに重量が三分の二になるそうだ」
「三分の二!?」
「し!部外秘と言っとろうに」
「す、すいません…」
山下が肩を竦めてしまう。
「性質の違ういくつかの合金を合わせることによってーどうたらこうたら言っておった」
「しかしまた造兵研究部ですか、優秀な技術者が揃ってるとは聞いたことはありますが…」
「なんでも部長が切れ者だとかで、確か海軍出身だったかな、ここ数年以内で、新しく開発された装備は全部彼が関わっているとか」
「となると、去年制式化した九八式も?」
「どうかね?使い心地は」
「うーん…あの中戦車は優秀ですよ?確か、速い、砲も長砲身57mmで高火力、装甲も重量の割には厚めで整備性も良好らしいですし。
ま、問題をあげるとしたら値段が少々高めと言うところですかね、それでも八九式の四割増でおさまっていますし」
「ふむ、まあ優秀なら問題ない、うちも四の五の言ってられんからな」
「全くです」
さっきまで険悪だったはずの会議室には重苦しい空気が流れ始めていた。
陸軍の苦悩の日々はまだまだ続く。