役職
題名はあれですが、内容は次の話との前後編になります。
「部長、ここのクランクの設置角なんですが…」
「うーん、あと0.1度寝かせた方がいい、そこには冷却液が通るはずだ」
「このシャフトの太さはどうしましょう」
「八番だな、そこはある程度太くても問題ない」
「中島飛行機の松下さんから面会願いが…」
「またか、加給器は此方にあるもので十分だ、帰ってもらえ」
「艦政本部から資料が届きました」
「じゃあ二番使って打ち込んでくれ、それとこの資料もついでに頼む」
やあ、真田だ。
今、俺はものすごく忙しい。
元々忙しかったが最近は特に。
前までは多少無理をすれば1日位は休みを取れていたのだが、ここの所それすらもままならない。
何故か、
この度正式に、
『陸海軍総合造兵研究部部長』
なる役職に着任する事になったからだ。
これは各軍への開発計画の提示、陸海軍間での装備の共同開発の調整、企業間での調整、さらに独自に装備の開発を行う新たな部門である。
これに伴い、各分野から集められた数十人の科学者、エンジニアなどが部下として加わり、陸海軍から出向してきた武官も纏め上げなければならなくなった。
よって、ここ最近は、艦艇の改修、整備計画をまとめて艦政本部に提出したり。
新型戦闘機のコンセプトがやっと決まったのでエンジン開発に拍車がかかり、雷爆撃機も機体設計がまとまって、細かい改良も同時進行で行われている。
他にも各工廠での艦艇の建造状況、新型戦車の企画書に目を通し、国策会議にオブザーバとして出席する。
……どうやら上は俺を過労死させる気らしい。
正直、今ほどパソコンに感謝しているときは無い。
手回し計算機とか手記で書類作成とか、俺には出来そうにない。
もっとも、忙しくなる前に採用していたJIS(日本工業規格)が無かったらパソコンがフル稼働しても追っ付かなかっただろう。
これのおかげで工廠では作業効率があがったそうだ、そりゃ粍単位でサイズが違う部品を使っていたら管理も大変だし場所をとる。
「部長」
こいつはさっき中島飛行機のを取り次いできた奴か?
「面会は断っとけ」
「いえ、そうではなくて」
そういうと花柄の包を渡される。
なんだ?
「美琴さんという方から頑張って下さいと言って渡されました」
「ほぅ、どれどれ」
中にはおにぎりが四つと卵焼き、おひたしが入っていた。うん、うまそうだ。
「あ!部長またですか!?」
「あのたまにくる子ですよね?」
「ってか部長何人落とせば気が済むんですか!」
「おい!うるさいぞ!これはただのお礼だ、東京見物の時のな」
なぜ俺が誑しみたいな扱いになっている?
こちらはともかく、あちらはそんなつもりないと思うんだが。
「しかも自覚なしか」
「ああ、まさに男の敵、笹島さんの言うとおりだな」
「うちの娘の和子も最近しきりに聞いてくるんだ、どうもあちらでは噂が流れているらしいね」
「「そうですかー……、って米内大臣!?」」
「どうしたんだ?仕事しろよー」
仕事はたっぷりたまってるんだ。
「やあ」
「って、米内さんどうしてこちらに!?」
「うーん、何故といわれると色々ありすぎて困るが、少々厄介事が出来た。少し来てくれないか」
厄介事?何だろうか、列強が動いたか?それともどこかの派閥がまた懲りずにクーデターでも画策してたか?
「…わかりました」