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SPRINT 12:反撃して襲撃者を撃退する

攻撃を避けて身を伏せたソラに、マウント一等軍曹の状態の報告が伝わるのと同時に、オフィスのドアからトレース軍曹の声がした。

「中佐、何が起きていますか?」という言葉が最後まで言い終わる前に途切れた。

バイオチップからの音声が続く。

「トレース軍曹――状態異常を検知」


しかし、続く報告はマウント軍曹のものとは違った。

「――拍動に異常なし。――状態回復を確認」

ソラはほっとした。


「マウント軍曹、トレース軍曹、状況を報告」バイオチップを経由して報告を命じた。

トレース軍曹からの回答。

「頭部をかすりましたが、問題ありません」

マウント軍曹からは、応答はなかった。無念だ。


ブラインド越しの狙撃だ。

相手にはこちらが見えているということだ。

咬合シーケンスと共に「狙撃者を特定して排除。最優先」の指示を出した。


相手も、現地の警察が到着するまでが動ける時間の限界のはずだ。

それまで持ちこたえなければならない。

ソファーを動かして、射線の間にはさむ。


コリーンを見る。太ももを撃たれたらしい。

顔面が蒼白だ。

まずいな。出血がひどい。

動脈に近い場所に被弾したのかもしれない。

装備から包帯をすばやく取り出し、止血した。


敵は狙撃手だけではないはずだ、そう思った矢先だった。

トレース軍曹のいるあたりから、マシンガンによる断続的な発射音が聞こえてきた。

「現在、襲撃者2名と交戦中」というトレース軍曹から連絡が、骨伝導で伝わってくる。

「1名を無力化。少なくとも1名は残存」

トレース軍曹がいるドアに時折、弾丸が当たる音がしている。


サイレンの音が聞こえてきた。

現地の警察がほどなく到着するはずだ。

この義手の存在は彼らにも知られてはならない機密事項だ。

できるだけ早く、セキュリティケースに格納するのが最優先だ。


ソラは、テーブルの下から右腕を伸ばして、義手をつかもうとする。

途中で「ガシン」という音がして、弾丸が右腕にぶつかって跳ねた。

義手を装着している肩に衝撃が走り、思わず腕を下げる。

まずい。指の動きが少しおかしくなった。

義手なので打たれても痛くはないが、動作不良になれば作戦に支障が出る。


相手はどうやってこちらを見ているんだ?

それに応えるようにコリーンが、痛みに顔をしかめながら、天井のスプリンクラーを指さす。

そうか、そこにカメラが仕込まれているということか?


ソラは拳銃を取り出し、撃つ。

スプリンクラーの内部からカメラらしいものの残骸が落ちてくる。

コリーンは、次にエアコンの吹き出し口を指さす。



大通を挟んで向かいにあるマンションの男は、予想外の展開にいらだっていた。

ドアから顔を出した敵の女性兵士、ガード2へのヘッドショットに成功したが、仕留め損なったようだ。

被弾して転倒したが、すぐに起き上がってきた。

おかげで、回収のための別働隊が釘付けになっている。


支援AIからフレンドリー2がやられたとの報告があった。

「何をやってるんだ?」

これでリードのフレンドリー1までやられたら作戦失敗じゃないか。


継続して狙撃を試みているが、スチール製のドアに隠れていてうまくいかない。

現場での回収に手間取ると、撤収が難しくなる。

すでにサイレンが近づいており、残されている時間はわずかだ。


回収部隊が部屋に突入するまでは、牽制の銃撃を行う必要がある。

すでに、相手の士官の腕を撃ってから、数回の牽制射撃を行っている。

「城代は何をもたついているんだ?」

「いつまでも牽制をしている余裕はないんだぞ」

男はそうつぶやいた。


スコープを覗いているのと逆の目の視界に捉えているモニターのひとつに、奇妙な動きが映っているのに気付いた。

保護対象のプロテクト2である民間人の女性が腕を上げ、こちらをまっすぐに指をさしているのだ。

「何をしている…?」

そう思った瞬間、画面が真っ黒になる。


続けて、隣のモニターで、民間人女性が指さしている様子が映り、直後に画面も黒くなる。

同時に、部屋の内部を映している映像が一部グレーアウトし、死角が生じたのを確認した。

指さしをする腕を狙って、狙撃するが命中しない。

「ミス。0.2ミル左」

明らかに映像の精度が落ちてきている。


なんて女だ。どうしてカメラ位置がわかるんだ。

残っている画面に指さしが映った後に、最後の画面も黒くなり、応接室の内部は完全に見えなくなった。

割れたガラスと、一部が破損したブラインド越しに、部屋の一部が見えるだけだ。

これでは狙撃は不可能だ。撤収すべきだな、男はそう思った。


しかし、狙撃支援AIが「緊急モードで補正を再開」と告げてくる。

画面がひとつ復旧し、内部の様子が再び見えるようになる。

「牽制射撃の継続を推奨」

狙撃支援AIが伝えてくる。

だが男は、あえて、発砲を控えることにした。


士官が手をゆっくりと手を伸ばす。

男は銃撃せずに、その動きを静かに見守る。

士官は体を起こそうとしている。

頭部の一部が見えてきた。

さらに数秒待つ。

ついに、頭部全体を照準に捉えた。


「グッバイ、間抜け頭くん」そうつぶやくと、

男は、頭の真ん中に照準を合わせ、引き金を引いた。

首筋に弾丸が命中し、士官は再びソファーの陰に崩れ落ちる。


これで本当に任務完了だ―― そう思ったが、何かが引っかかるものを感じた。

そうだ、支援AIが命中の報告を上げてこない。

気付くのにかかった2秒間が、彼の命運を分けた。


視界の端に、白い何かがベランダの下側から上がってくるのを捉える。

――しまった。時間をかけすぎた。

――もう回避は間に合わない。

瞬間的に思考が流れる。


――これは、立ち入り禁止くらいじゃ済まないな。気の毒に。

それが、男の最後の思考だった。



「狙撃者を特定して排除。最優先 ――」

その命令を受けたときには、パーセプモーション社の建物の上空、高度30メートルでホバリングし、監視任務に就いていたドローンは、すでに異常を感知していた。

今回のミッション遂行のスポットである会議室の窓ガラスに生じた異常から、狙撃の可能性を推定。

さらに狙撃者のおおよその位置を特定し、指示があり次第、作戦行動に移れるように、車内で待機している僚機をスタンバイさせた。


指示を受けると、標準戦術手順に従って、2機体制での作戦行動計画を具体化する。

自機を指揮機、僚機を攻撃機と位置づけ、自身はさらに高度を上げて、狙撃者のいる建物へ向かう。

攻撃機には、敵からの探知を避けるために低空で建物へと向かうよう指示する。


指揮機は、狙撃者の位置と、その支援に使われているドローンを確認する。

2機による同時攻撃の手順を組み立て調整する。

指揮機は、敵ドローンの真上に位置取りを行う。

攻撃機が狙撃者のいる部屋の高さまで上昇を開始した直後、指揮機は下方の敵ドローンに、極めて細くしなやかなスチールのワイヤーでできた捕獲用のネットを射出する。


上空からネットをかぶせられた、狙撃支援ドローンは、ネットから延びる多数のワイヤーの一部をプロペラに巻き込んだ。

プロペラが停止し、制御を失ったドローンは落下。

地面に激突して、機能を喪失した。


その間、攻撃機は狙撃手のいる窓まで垂直に上昇し、狙撃銃とそれにぴたりと体を添える狙撃者を視認。

速度を上げて、水平に狙撃手に接近し、搭載しているプラスチック爆弾を起爆する。

爆音と共に、無数の金属片が部屋中に高速で打ち込まれた。


爆発の被害を避ける位置にいた指揮機は攻撃機が破壊した現場まで降下し、粉塵が収まるのを待つ。

散乱した機材の中に、完全に動かなくなった狙撃手の姿を確認した。

「狙撃者排除の任務を完了。元の位置に復帰し、監視任務を再開する」

そうソラに連絡する。



うなじの辺りに銃撃を受けて、再び身を伏せることになったソラは、遠くからの爆発音を聞いた。

それに続いて「狙撃者排除の任務を完了」との報告を受ける。

なぜ、この数秒間を待つことができなかったのか。

自分のうかつさを、呪った。

焦りは判断を誤らせる。

ソラは気持ちを切り替え、冷静に状況を分析した。


狙撃手が排除されたことで、行動の自由が取り戻せた。

しかし、ダメージの蓄積は大きい。

立ち上がろうとするのだが、下半身に力が入らない。

首筋の神経を痛めたのかもしれない。

後頭部を打った衝撃で、意識ももうろうとしている。


それでも、できることをやるしかない。

義手になっている両腕を使い、セキュアストレージへと這うように移動する。

通常なら一歩で届くはずの距離が、遙か遠くに感じられる。

気持ちははやるが、体がついてこない。


動くたびに腰に激痛が走り、意識が遠のきそうになる。

永遠とも思える時間をかけて、片膝を立て、右腕を伸ばして義手をつかむ。

そして、開いているスロットに差し込む ――あともう一息だ。


咬合セキュリティを伝えると、ロックボタンが点滅を始める。

あとは、そのボタンを押せば完了だ。

細かい動きが可能な左腕を伸ばす。


あと、10センチ、5センチ――ようやく点滅しているボタンに指が届きそうになった、そのとき

背後でコリーンが「止めて!」と叫んでいるのが聞こえた。

銃声とともに右のこめかみに衝撃が走り、仰向けに崩れ落ちた。

左腕はボタンを押すため宙へ向けた伸ばしたままだ。


なぜ、民間人しかいないはずのこちらの方向から……?

疑問が頭をよぎる。

続けて、同じ方向からもう一発の銃声。

バイオチップが冷静に報告する。

「トレース軍曹――状態異常を検知。――拍動停止を確認」

薄れていく意識の中で、コリーンの悲痛な声が聞こえる。

――「ソラアーッ!」



部隊は全滅。ミッションは失敗。

自分ももう長くはもたない。

この失敗が何を招くのか自分にはわからない。

おそらく厳しい時代が来るのだろうが、見届けることはできない。


部下二人には悪いことをしてしまった。

コリーンにも申し訳ないことをした。


ジェイミーは悲しむだろうな。

10歳の誕生日には戻るって、約束したのに、守れなくてごめん。

フレッド、そろそろ二人目がほしいって言っていたのに、ごめん。

ジェイミーのこと、お願いします。


厳しい時代になるけど、二人とも幸せになって。

私のこと――ときどき、思い出してくれると、いいな……


宙に伸びていた左腕が徐々に下がり、床に触れたところで動かなくなった。


#STATUS: SPRINT FAILED. UNIT ANNIHILATED.

再びソラ視点からのシーン。圧倒的に不利な状況の中、反撃を行います。しかし、想定外のことが起きてミッションはクリアできず、さらに絶望的な状況へ移っていきます。

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