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SPRINT 11:狙撃者は銃撃を開始する

パーセプモーションのオフィスの向かいの建物で待機している男は、狙撃支援AIからの指示の伝達を待つ。

「ターゲット、指定ルームへ移動開始」

「状況が整い次第、現地判断により狙撃を許可する」

指示を受けて行動を開始する。


男は右目をスコープに当てながら、左目の視野で、PCに映る6つの画面を捉える。

部屋の内部を映す複数の画面で動きが映し出される。

「指定ルームに、プロテクト1、ガード1、ターゲットアルファ、プロテクト2、アンノウン1が入室」

「ガード2はルーム外にて待機」

ドアが開き、社長、男性兵士、士官、民間人二名が続く。

女性兵士は確認できないが、ドアの前で警備にあたっているものと想定する。


三人の民間人のうち、社長と女性のほうは、プロテクト対象で、作戦上の最重要人物との記載があった。

もうひとりの男性は記載外のアンノウンなので、照会する必要がある。


「名簿にない民間人アンノウン1について、作戦上の重要性の確認を求める」

「アンノウン1、照会中……」音声が流れ、次のメッセージが続く。

「アンノウン1は、プロテクト2の同僚だが、作戦上の重要性はない」

『状況次第でどう扱っても構わないということだな…余計な制約が増えないのは何よりだ』


男性兵士ガード1が部屋に入るとすぐに窓まで歩き、ブラインドを閉める。

照準スコープの画像でも、ブラインドが邪魔で室内が見えなくなる。


「ブラインドは、外から中も、中から外も、見ることができなくなることで安全を保証する効果をもたらす」

「その対称性が失われると、つまり外から一方的に見えるようになれば、弱点でしかなくなる」

そう独り言をつぶやいて次の指示を出した。

「画像補完を適用」


事前に応接室に設置された三台のカメラは、それぞれが捉えた画像をネットワークを介して3Dモデル生成モジュールに送り出す。

生成された3Dモデルは、照準画像生成モジュールに渡され、これにより、スコープ内には、ブラインドがなければ本来見えているはずの室内映像が表示される。


PCの6つの画面には、室内の三カ所のカメラ画像、合成された3Dモデル、スコープ視点の画像、補正された画像がそれぞれ示されている。

男の目には、スコープ越しに透過したかのようなクリアな室内の様子が映し出されていた。


士官がソファに座り、向かいに座っている民間人に、タブレットを使って何かを説明しているのが見える。

男はゆっくりと銃身を動かす。

PCの画面では、赤いカーソルが銃身の動きに合わせて、アニメ映画のポスターの主人公から士官、男性兵士の順に、それぞれの頭部にカーソルが移動し、再び女性士官の頭部に戻って止まった。


「ターゲットアルファ、プロテクト2と共にリザーブポイントに移動を開始」

民間女性と士官が立ち上がり、窓際のキャビネットへと向かう。

その移動中、赤いカーソルはずっと士官の頭部を追尾する。

「プロテクト2がリザーブポイントから、指定オブジェクトを取り出し」

「指定オブジェクトは、ターゲット・アルファに移動」

民間女性がドロワーを開いて義手を取り出し、士官に手渡す。

この後、士官が動作確認を終え、移動用のケースに入れる前までに、この士官を仕留める。

それと同時に、可能な限りの護衛兵士を無力化すればミッションクリアだ。


士官がソファに戻り、テーブルに義手を置いて確認の準備を始めた。

「プロテクト2がターゲット・アルファへの射線を妨害」

民間人女性が邪魔になって士官の頭部が狙えない。

「ターゲット・アルファ、指定オブジェクトの動作を確認中」


男は焦りを覚えた。

このままでは、民間女性の位置のせいで射撃ができず、義手はケースに収められてしまう。

「プロテクト2への射撃許可がほしい」男は、狙撃支援AIに伝える。


狙撃支援AIから回答が来る。

「プロテクト2のステータス変更を、作戦リードに打診中」

「作戦リードよりステータス変更。動作確認後もターゲット・アルファの射線がクリアにならない場合、致命傷を避けたプロテクト2への狙撃を許可する」


狙撃支援AIからの報告が続く。

「指定オブジェクトの動作確認を完了。ターゲット・アルファへの狙撃を急げ」

何かが、社長の手から転げ落ち、民間女性の頭がわずかに下がった。

あともう少し――そうすれば撃てる。

現状ではわずか0.1ミルの誤差で、民間女性の頭部に当たってしまう危険がある。


だが、男の期待に反して頭は逆に位置を戻した。

しかも驚くべきことに、彼女はまるで見えているかのように、まっすぐにこちらを見据え、何かを叫んだ。


この女、いったい何のつもりだ?

まさか、自分が狙撃されないということを知っているのか?


照準を下げ、女の脚に照準を定めて引き金を引く。

「プロテクト2の脚部に命中。体勢崩壊。ターゲット・アルファへの射線、クリア」――支援AIが報告する。

足を撃たれて、女の状態が沈むと、士官の頭部がはっきり見える。

そのまま照準を定めて、弾丸を放つ。

「ミス。右に0.1ミル」

士官はすばやく身を伏せ、民間女性と同じ高さまで頭を下げた。

もう狙えない。


「ターゲット・アルファ、プロテクト2と交錯。指定オブジェクトからの引き離しに成功」

義手はテーブルに置かれたままだが、伏せた状態では移動用ケースに収めることはできない。

「目標の変更を推奨」


男は、まだ床に伏せていない男性兵士の頭部に照準を移し、引き金を引いた。

「ガード1の頭部に命中。転倒。動きなし」


続いて、状況確認のために顔を出した女性兵士の頭部に狙いを定めて発砲。

「ガード2の頭部に命中。転倒。動きなし」


初弾発射からここまで、約4秒。――制圧完了。


「フレンドリー1、2が移動を開始」

「指定ルーム突入まで、ターゲット・アルファの牽制アクションに移行」


士官がソファを動かして射線を遮断し、低い姿勢を保ったまま、テーブル上の義手に手を伸ばそうとしている。

男は腕を狙って発砲。弾が命中し、士官の腕が跳ねてテーブルの下へと落ちる。


「ターゲット・アルファの腕に命中。牽制に成功」


本作戦のリードである城代の別働隊が突入するまでのわずかな時間、士官の動きを封じ続ければ我々の勝ちだ。

住民からの警察への通報を受け、まもなく地元警察が現場に到着するだろう。

今なら、それまでに余裕で撤収できる。

男は、任務の成功を確信した。


#STATUS: CRISIS IN PROGRESS.

時間を少し巻き戻して、部屋に入るところから、狙撃者視点で同じシーンを見ています。

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