悪癖のおかけで、収まるところに収まりました
「サーシャ!もう、いいよ!婚約を解消しよう!
君は、僕が不貞を働いていると完全に疑っているんだろう?!いつも遠くから、僕達が二人でいると睨んできてっ!
ただ会話しているのがそんなにイヤならハッキリ言ってくれればいいのにっ!
そんな陰湿な君には愛想が尽きたよ!僕の事を心から慕ってくれてるメアリーと婚約するから、僕の有責で解消としていい。これで、文句はないだろ?!」
「…… はい。婚約解消をお受けいたしますわ…… 」
「じゃ、書類は後で届けるから。サインしてそっちで提出してくれ。僕と君はもう完全に他人だ」
「…… わかりました。今までありがとうございました…… 」
オーウェンが去って行った。
しばらく呆然としていると、掠れた特徴のある声が近くで聞こえる。
「あんなデッカい声で話してたら、近くにいた奴ら皆に聞こえるって。ここ中庭だぜ?アイツは恥を知らんのかね?」
「カセル…… いたのね……
不貞を働いてるなんて全く思ってなかったんだけど…… まあ、お互いに心が通っていない婚約だった事は確かだし。オーウェンが相手を見つけたのなら、円満な解消よ。お父様はガッカリするでしょうけど」
「事業提携の件だろ?それは大丈夫だ。ウチが支援出来るから」
「え? だって、カセルのところは婚約者のマリアンヌのところと提携が決まっているでしょ?」
「俺も昨日婚約破棄されたんだよ。真実の愛を見つけたとかで、執事の孫の子爵令息と婚約を結び直したいんだと」
「それは…… 何というかお気の毒に…?」
「いや、お前も分かってるだろ?こっちもお互い気持ちのなかった婚約だったし、全然気に病んでないってこと」
「でもマリアンヌ可愛かったじゃない?惜しいとは思わないの?」
「俺はお前の方がよっぽど可愛いと思うけど。どうだ?俺と婚約しないか?その方が事業提携もしやすいぞ」
「全く…… 昔から好きだったんだとか、嘘でも言えないのかしら? まあ、嘘はイヤだけど…… 」
「だろ? でも、昔からずっと嫌いじゃないぞ。ちゃんと女としてみてる。友達以上に発展してもいいとはずっと思ってた。これじゃダメか?」
「ううん。いいわ。私も全く同じだから。むしろ、こうなったらカセル以外はイヤかも」
「なら、決定だな。これから婚約者としてよろしく頼むよ」
「まだ正式にオーウェンとの婚約が解消されてないから早いわよ。でも、嬉しいわ。結果的に収まるところに収まったっていう感じ。カセルとならいい家庭が築けそう」
ニッコリとカセルに笑顔を向けた。
「俺もそう思うよ。だけど……オーウェンにお前の目の事、全然話してなかったんだな」
「日常生活に支障はないから。ただ遠くのものが見えないってだけだし。オーウェンの声がするけどオーウェンかなぁ〜って目を凝らしてただけなんだけど。睨まれてると思っちゃったみたいね。仕方ないわ」
私は近視で遠くのものが見えずらい。よく見ようとすると、自然と目が細まり眉間に皺が寄る。よく家族に注意されたが、オーウェンの声は特徴がないので本人なのか別人なのかつい見極めようとしてして、何度か目を凝らしていた。
悪癖だったけれど、これのおかげで彼の気持ちがハッキリわかったし、幼馴染のカセルと婚約出来そうだから、結果としては良い方に落ち着いたと思う。お父様も納得してくれるだろう。
カセルは騎士科に所属していて毎日声を出しているためか、もともと掠れ声だったのがかなり特徴のある掠れ声となっている。遠くに居ても間違える事はないだろうし、幼馴染でお互いをよく知っているから、隠し事なく素のままで接することが出来る。本当に良い家庭が築けそうだ。
「んじゃ、ひとまずサーシャの父上に経緯の説明とご挨拶に伺うとするか」
「ええ、どうぞよろしくお願いいたします、だわ」
お互い顔を見合わせて笑った。
中庭にいた3人の生徒達は、オーウェンが婚約解消を叫ぶ緊張感溢れる場面からずっとその場で成り行きをみていたが、短時間で一転して和やかな雰囲気を醸し出して去っていく二人に、小さく祝福の拍手を送ったのであった。
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