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◆4

「カヤの親御さん達、もう会えなくなるんだけど大丈夫?」

「かも、じゃなくて確定事項なんだね……。別に構わないけど、あの、弟は幼いし、親の意向で仕方ない部分もあるから」

「あ、弟さんに関しては元々そのつもりだよ、だから心配しないで!」


 そういった空気ではなかったが、彼女が自分と同じ考えだったことにラッセは密かに喜ぶ。

 カヤはラッセの瞳に関する噂を聞いていても態度を変えず、同時に自分がそういった人間だと理解した上で受け入れてくれていた。

 だから自分の確認に対しても、カヤはすんなり了承したのだろう。彼女の許可が得られた以上、ラッセは容赦しなかった。


 よって早々にカヤの実父と義母は破滅した。

 学園はカヤを渡さなかった。もしこれ以上粘るなら訴えると言われ、連れ帰るのを諦めるしかなく。

 だとしても卒業まで待てばいいと思っていたところに婚姻無効の通知が届き。

 その上、カヤを差し出すことで更なる融資を受けるはずだったのに融資元が突如捕縛され、二人は焦っていた。そこでハーパライネンの系列から金を借りられるよう誘導して。

 余裕がない人間というのはもう面白いほど簡単に騙される。目先の大金に釣られた二人は法には触れないとはいえ、通常ではありえない高金利と返済期限を見逃した。

 そして十日後から始まった催促に音を上げた二人へ、回収係はラッセからの指示で、ある提案を持ちかけたのだ。


『もしお前達の息子を渡すなら、お前達の今後の処遇を考え直そう』


 それに二人は迷わず息子を差し出した。だから父親は大罪人のみが至る鉱山奴隷に、義母は最底辺の娼館へ落とされることになった。

 話が違うと喚いたらしいが、何も嘘は言ってない。当然のごとく息子を犠牲にしようとした愚か者に相応しい処遇に考え直しただけだ。

 当の借金はハーパライネンにとってはした金だ。カヤとの手切れ金の意味も込めて、二人が死ぬまで働くことを条件にその他の親類には累が及ばないようにしている。

 カヤの弟に関しては義母側の祖父に引き取られることになった。二人と同じ提案を突き付けた際に迷わず「こんな老いぼれにできることなら何でも行います、だから孫だけは助けてください」と泣いて頼んできた彼の元であれば問題ないだろう。


 正式に婚姻関係に至った後、ラッセはカヤが幼少期に訪れていた教会と図書館に「嫁が大変お世話になりました」と多額の寄付を行った。

 彼女が働いていた魔道具屋にも「貴店で働くはずだった優秀な人材を横取りする形となってしまい、誠に申し訳ございません。その代わりといってはなんですが、我が商会がご協力できることがあれば遠慮なく仰ってください」と一筆したためて。

 それに三箇所ともから丁寧な感謝の手紙が綴られてきた。

 教会からは嵐で壊れてしまっていたらしい、カヤの思い出のステンドグラスを修理できたと。

 図書館からは新しい蔵書をたくさん仕入れられた。これだけあればまた読み切るまでにしばらくかかるでしょうと。

 なお魔道具屋は知らない間にできてたハーパライネンへの貸しに怯えているようで、こっちは全くもって大丈夫なのでただカヤを幸せにして下さいと。

 カヤは家族からの愛にこそ恵まれなかったが、多くの心優しい大人が孤独な幼子だった彼女を見守っていたんだな。カヤの無自覚の善性はここが発端なのだろう。

 ……自分とは真逆だな、数多の悪意を返すことに慣れたラッセは密かにそう感じていた。

 こうして結婚式までにやりきれることは全て終わらせたラッセはこの世の春を満喫していた。ラッセは自分は世界一の幸せ者だと自負している――ある一点を除いて。


「ラッセ、無理なお願いだとはわかってる。でも、ごめん、子供は諦めてほしい」

「うん、わかった」


 カヤの両親の追い込みが佳境に入った頃だった。申し訳ないという気持ちを全面に浮かべたカヤから、その条件を突き付けられたのは。

 それにもうすぐ彼女と結婚できるのだと舞い上がっていた心が一気に冷めていくを感じながらも、ラッセは同時に当たり前かと了承を示す。

 ラッセの素直な承諾が意外だったのか。カヤは目を見張っている。そんなに驚くようなことだろうか。

 仕方ないことだ。自分は気に入っているが、この瞳が原因で多く苦しんだのも事実。自分はたまたま気に入ったし、他人の評価を受けても貫ける人間だから良かったが、そうじゃなければ今頃、悲惨なことになっていただろう。

 この瞳が子供に遺伝する可能性を考えれば、カヤの願いは何も不思議じゃない。我が子が思い悩む姿なんて、普通の親なら見たくないと思って当然だ。

 祖父の実子のように素質を一切受け継がない可能性も考慮して、元よりハーパライネン家は血縁関係にこだわらない。時期が来たら跡継ぎに相応しい者を見繕うだけ。だから問題はずなのに。

 今までは友達だったからできなかった分も夫になったなら、それを免罪符にイチャつこうと目論んでいた罰が当たったのかもしれない。

 今後も下手に彼女に触れるのはやめておこう。きっと我慢できなくなるし、彼女に嫌われたくない。いいじゃないか、自分はカヤが一緒にいてくれるだけで幸せなんだから。


 ――ああ、でもカヤとの子供、めいっぱい愛したかったな。

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