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初夜に関してはそんな感じで大変なことになったが、比較的つつがなく二人の結婚生活は送られていた。
ラッセの仕事を手伝うための勉強やスキンシップや夜のあれやこれが増えたとはいえ、自分達の関係が大きく変わったとは思わない。
彼は学生の頃から変わらず自分に好意を伝えてくれて、時折「結婚しようカヤ」「もうキミの奥さんだよ」と軽口をたたき合って。あたたかな日々の中、自分の中で芽生えていた何かに少しずつカヤは向き合うようになった。
ラッセはその僅かな兆候に気付いていても、急かすようなことはせず、ただただカヤの変化を慈しんでいた。
そうして結婚から約一年ほど経ったある日、義母にラッセとのなれそめを聞かれたことをきっかけに、ようやくカヤは明確にラッセへの想いを自覚した。
カヤにとって愛の見本はラッセだ。かつてお世話になった神父様や司書さん、学園で出会った友達、先生など優しくしてくれた人はいたが、愛という一点に関してはラッセ以外のものは知らない。
だからカヤはラッセが自分に向けてくれるほどの感情を抱いていないことから恋していることをわかっていなかった。ようは彼があのテンションでくり出すものが愛だと勘違いしていたわけだ。あんな愛情表現できる奴がそんなゴロゴロいてたまるか。
けど義母は教えたのだ。愛というのは色んな形があるのだと。一緒にいるのが心地よいのも、大切だから身を引こうとするのも、相手を喜ばせたいと思うのも、全部愛なのよと。
そうして納得はしたが、でもそれ今更言っていいものなんだろうかとカヤは悩む。
ラッセは自分が彼の好意を利用しているだけで、愛されていないとわかった上で結婚してるのだ。そんな状態で告白されても迷惑なだけでは……?と。
自分の悩みがあまりにも希有で、たぶん相談されて困ることだろうなあとカヤは考え。悩みに悩んだ結果。
「ラッセ、聞きたい事があるのだけど」
「どうしたの? 俺の可愛い奥さん♡♡」
「私に好きって言われたらどう思う?」
「興奮する」
夫婦の寝室にて、後ろから抱きついて甘えてくる夫にもう直接聞いてみることにした。即答だった。
興奮、興奮かあ……なんか思ってた答えと違うなとカヤは再び悩むことになった。悪い反応ではなさそうだけども。
……つまり、また初夜の時のように大変な目に遭うのだろうか。明日のスケジュールを脳内で組み立てる、別に問題はないか。
「ラッセ、好きだよ。キミが好き。わかってなくてごめん、私ずっとキミが好きだったみたい」
初めてのことだから言い淀むかなと予想していたが、思ってたより、するりとそれは口を出た。
そして言い終えてすごくしっくりきた。ああ、そうか。私、ずっとラッセのこと、愛してたんだな。
若干気恥しさを覚えながら、カヤはついこれから起こりうるであろう彼のアクションに身構えていたのだが、鼻を啜る音が聞こえたことで脱力する。興奮するんじゃなかったのか。
「う゛っ、ぐすっ、カ゛ヤ゛~~! お゛れ゛も゛た゛い゛す゛き゛!!!」
「ラッセって案外泣き虫だね……」
「……カヤに出会ってからだよ」
ぎゅうぎゅうときつく抱きしめてくる夫。結婚前は手すら握ってこなかったのに今では随分スキンシップに遠慮がなくなってしまった。でもそのことをカヤは嬉しく思う。
どれほどそうしていただろう。ラッセの指がカヤの下腹を服越しに緩く引っかく。ちょうどカヤが施した魔法が刻まれた場所だ。
「君のお願いきいてあげられなくてごめん。でもどうしても欲しい」
そうは言ってもラッセは魔法が一切使えない。だからカヤが解かない限りはその願いが叶うことはなくて。
最悪の未来を想像すると怖くてたまらない。でもラッセがそう言い出したということは、きっと大丈夫なのだろう。彼の目が見極めたのだ。今の私ならば彼の子を愛してあげられるのだと。
「あとでラッセが子供の頃、義父様達にしてもらって嬉しかったこと教えて。私はそれすらわからないけど。だからこそ全部してあげたいんだ」
「まかせて!!」
俺、君に頼られるのすごく嬉しいんだ。
そのラッセの一言に、自分は随分無駄に悩んでしまったんだなあと思わずカヤは唇を緩めた。それはあの瞬間、ラッセに永遠の愛を確信させた微笑みと同じものだった。
カヤ視点はこれで完結、次からラッセ視点始めます。