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天を仰いで〜男たちのラプソディ〜  作者: 灰谷 An
第1章・幸綱興業の若い衆 編
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008:対処案

 海道会本家の周りには警察の機動隊員が見張る。

 そんな中で海道会の若会長である《今永 義輝(いまなが よしてる)》は役員を緊急招集する。

 その号令に元気な大幹部たちが集合する。



「これはどういう事だ? どうして俺たちが、こんな風下に立っとるんだ?」



 本部長の《安田 朝日(やすだ あさひ)》は、何がどうなっているのかとテーブルを叩き怒る。

 その叩いた拍子に置かれている湯呑みが倒れ、静かな空気の中で湯呑み置きが、カランカランッと響く。



「執行部の人間が、そんなに冷静さを失ってどうするんや? 今はなっとするか冷静に話し合うのが先決やろ」



 執行部の人間が白けている間に、若頭である《岡辺 基綱(おかべ もとつな)》は怒るのではなく、これからの作戦について冷静に考えろと指摘する。

 その発言に対して安田は、首を捻りながらチッの舌打ちをして倒した湯呑みを置き直す。



「いやいやぁ……全く困ったもんだなぁ。そりゃあ本部長もイライラするのは仕方ないわ」



 若頭と本部長の間の空気が、なんとも言えなくなったところに副会長の《石原 太原(いしはら たいげん)》が良い感じの茶々を入れて少し空気が和んだ。

 そして太原は続けて会長の義輝に話しかける。



「それにしても会長……これからどうしますか? このままなら、ウチは返しもしない腰抜けと言われても仕方ない状態になりますよ?」



 海道会の会長である義輝は、38歳と若いにも関わらず腕を組んで目を瞑り考えている姿は大親分だ。

 そして目をキッと開いて喋り始める。



「今の段階で、どこの誰が後ろにいるのかを断言するのは危険だと俺は思う……しかし何もしなければ副会長が言ったように、他団体から腰抜けと言われてもおかしくないなずだ」



 義輝はどこの誰がバックについているのかを断言して行動するのは危険だとする上で、何もしないのも他団体から腰抜けと後ろ指を刺されても仕方ない。

 その発言に対して義隆は「じゃあどうしますか?」と質問をすると、義輝はハァと溜息を吐きながら頭をポリポリと掻いて顔を下げるのである。



「そこが迷いどころなんだよなぁ。断定するのは危険だし何もしないのも腰抜けと言われる……基綱と朝日は、何か良いアイデアないのか?」


「弾きを向けた人間を数人捕まえてますんで、ソイツらに拷問をかけて組を吐かせる。その上でとりあえず、その組に返しをするってのはどうやろうか?」


「こんなに警察が張っとるのに返しなんてしたら、会長が引っ張られてまうだろうが! ワレはそれも考えられんのか?」


「さっきまでブチギレとった奴がよう言うわ! じゃあ他になんかええアイデアでもあるんか?」



 義輝は本気で悩んでおり、若頭と本部長に何か良いアイデアは無いのかと聞く。

 それに対して基綱が返しについてのアイデアを出す。

 しかしさっきまでイライラしていたはずの朝日が、基綱のアイデアを真っ向から否定する。

 するとさらに基綱が立ち上がって怒りを露わにする。

 この喧嘩に太原がテーブルを思い切り叩いて「良い加減にしろ!」と2人を叱りつける。



「お前たちが、ここで喧嘩をして状況が変わるんか?」



 この言葉に2人は「すみませんでした……」と義輝に言って頭を下げてから椅子に座り直す。

 2人が黙ったところで太原は、体をスッと義輝の方に向けて自分の考えを言うのである。



「これは枝のチンピラに返しをさせて、本家は知らぬ存ぜぬで通すしかありませんね。その枝の組長は最悪、使用者責任で札を出されますが……まぁそれは仕方ないでしょう。出てきた時に労ってやれば十分です」


「うん、その方法しか無いみたいだな……分かった、その作戦で行こう。お前たちは各事務所に戻って、返しをやるチンピラを選べ!」



 最終的に太原が考えた、枝のチンピラが捕まるのを覚悟で返しをするという事にしたのである。

 これは返しをしたチンピラも捕まって、さらには枝の組長が使用者責任で捕まるかもしれないが仕方ない。

 それが海道会本家の総意という事になった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 幸綱は義隆に呼ばれて剛隆会の事務所に訪れた。

 もちろん組長付きの秀慶も同伴であり、呼ばれた理由は今回の本家での総会の内容を伝える為である。



「という事に決まったんだ」


「ウチのどこかの若い衆に返しをさせる事ですね?」


「そういう事だ。それを決めるのも子を持つ親分にしては、とてつもなく辛い事だろうな」



 話を聞いた幸綱は、自分たちの子分の中から返しをさせる若い衆を決めるという事だと理解した。

 しかしそんな危険なところに子分を向かわせる親分からしたら、とてつもなく辛い事だろうと義隆は話す。

 その話を聞いた秀慶は無礼だと分かっているが、スッと手を挙げて「あの!」と声をかける。



「その役割を自分にやらせて貰えませんか!」


「な 何を言ってんだよ! 組長付きのお前がやる仕事じゃねぇよ。今回は一彦たちが適任者だろ!」


「いえ! これは俺が適任者だと思います。他の兄貴たちは、どうして俺が組長付きなのかと疑問を持っています……今回の事で納得して貰うんです!」



 秀慶は返しをやる鉄砲玉をさせて欲しいと、自分から名乗り出たのである。

 その発言に幸綱は反対する。

 しかし秀慶は兄貴分たちが、今回の人事に納得していないので鉄砲玉をやって納得させたいと説明した。

 どれだけ秀慶が説得しても幸綱も引き下がらない。



「幸綱っ! 本人がやりたいって言ってるんだ、やらせてやるのが親分の役目だろ?」


「し しかし……」


「オヤジっ! 頼みます!」


「むむむむ……分かった! 秀慶に頼む事にする」



 幸綱は本人がやりたいと言っているのだから、やらせてやれば良いと言って説得する。

 それでも幸綱は渋っている。

 しかし秀慶が深々と頭を下げて、必死にやらせて欲しいと頼み込むと幸綱は折れた。

 渋りながら秀慶に鉄砲玉を頼む事になった。



「それで俺は誰を狙えば良いんですか?」


「秀慶に狙って貰うのは……鈴木組の業力だ! あのクソッタレが、ワシらのシマ内で薬局なんて開きやがったんだからな!」



 秀慶は鉄砲玉になるのは決まったが、自分は誰をやれば良いのかと幸綱たちに聞くのである。

 すると義隆は鈴木組の業力と答えた。

 この業力こそが幸綱興業のシマ内で、薬物を売り捌いていた売人のケツモチだ。

 その人間を秀慶は狙う事になる。



「秀慶なら、もしも乱闘になったとしても業力にも勝てるだろ。幸綱の口から秀慶の強さを聞いてるから、ワシも期待してるんだぞ?」


「親分に期待して貰っているのは嬉しいです!」


「おう! 気張れよ……幸綱、お前がキチンとした準備をしてやれ」


「はい、秀慶には鉄砲玉をやる時まで休ませます。それまでの準備は自分たちでやるので、剛隆会での仕事に穴をあけるかもしれません」


「そんなの気にすんな! 海道会として、この返しが最重要事項だ。他の人間もいるんだし、仕事が終わるまで事務所に顔は出さないで良いぞ」



 義隆が秀慶を選んだ理由の1つに、ボディーガードとして戦闘力に目をつけたからだ。

 もしも業力と乱闘になっても秀慶ならば、業力に勝ってくれるだろうという期待があるからである。

 そして幸綱は秀慶が鉄砲玉をやる時まで、組長付きの仕事を休ませて集中させるようにすると言い、さらに剛隆会での仕事も休ませて貰うと義隆に許可を得た。

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