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天を仰いで〜男たちのラプソディ〜  作者: 灰谷 An
第1章・幸綱興業の若い衆 編
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006:若き親分

 幸綱たちが事務所に近寄ると、事務所の前で警備をしている若い衆が深々と頭を下げて「幸綱兄さん、お疲れ様です!」と言うのである。

 それに幸綱は「おう!」と返した。

 そして近寄ったところで幸綱は、その若い衆に「上にオヤジはいるか?」と聞いた。

 若い衆は「はい!」と元気よく返事をした。

 居てくれて良かったと幸綱は思いながら秀慶の方を向いて「行くぞ」と言って事務所の中に入る。



「オヤジっ失礼します!」


「おぉ幸綱……と、お前のところの秀慶か! 随分とスーツで印象が変わるなぁ」


「そうなんですよ。おい、オヤジに改めて挨拶しろ」


「はい! 飯田の親分、お久しぶりです。今日からオヤジのボディーガード兼組長付きとなりました!」


「そうかそうか! そりゃあ出世だろうのぉ。ほれ、ワシからの祝い金だ!」



 この前、会った時にはジャージを着た若い衆だったので義隆は驚いているのである。

 それを受けて幸綱は秀慶に挨拶するように言うのだ。

 深々と頭を下げてから自分がボディーガードと組長付きになった事を、秀慶の口から挨拶する。

 異例の出世だと笑いながら義隆は、懐から分厚い財布を取り出して祝い金だと言って渡してくる。

 受け取って良いのかと幸綱の方をチラッと見ると、幸綱が「うん」と頷いているので「ありがたく頂戴いたします」と言って受け取った。



「それで今日はどうしたんだ? わざわざ若い衆を紹介する為だけに来たわけじゃないんだろ?」


「えぇ良い手土産を持って来ましてねぇ」


「良い土産だって? 一体どんなに美味いもんかな」


「それはそれはいい物ですよ。オヤジが、もしかしたら岡辺のカシラを追い越せるかもしれないくらいの」


「なに!? そんな滅多な事は言うもんじゃねぇぞ……だが、まぁ話は聞かせて貰おうか」



 幸綱は手土産を持って来たと冗談風に言うのだ。

 それを聞いた義隆は、どれだけ美味しい物かとニヤニヤしながら期待するのだ。

 その期待に幸綱は、本家のカシラを越せるかもしれないというので義隆は「よせよせ」と言いながらも、どんな内容なのかと気になるのである。

 若頭補佐である義隆からすれば、カシラの《岡辺 基綱(おかべ もとつな)》は補佐するべき人間でありながら、子分からしたら越えるべき人間だ。



「ワシが、カシラを越えられるっていう手土産ってのは何なんだ? 期待してるからショボい話だったら、お前をカシラの席から外してやるからなぁ」


「ははははっ! 冗談がキツいですなぁ。ですが、それでも期待して貰ってもいいかもしれませんよ」



 カシラの頭を超える事もできるという話を聞いて、面白くない話だったらカシラの席から外すと冗談を言う。

 幸綱は笑いながら冗談がキツいと返した。

 しかしそれでも期待して貰っても良いくらいの話だからと前置きをして売人についてと鈴木組について話す。

 その話を聞いた義隆は静かに真剣に話を聞いた。



「というわけなんですが、これってやはり天波会の吉信が関わっているんじゃないですかね?」


「確かに鈴木組の業力が、こんな手の込んだ事をするとは思えないな……よし! その線で調べてみようか」



 今回の話を聞いた義隆は、確かに天波会が関係していると認めた上で調べようと言うのだ。

 これで海道会として動いてくれると幸綱は確信する。

 そんな話し合いをしているところに、剛隆会の会長付きをしている若い衆が部屋に入ってくる。



「オヤジさん、山東のオジキが挨拶したいって事なんですが……どうしますか?」


「おぉ山東の兄弟か。良いぞ、直ぐに通してやれ」



 どうやら義隆に挨拶したいという人間が来たらしく、その人間は本家で義隆と同じ若頭補佐の《山東 照平(さんとう てるひら)》という男である。

 是非とも兄弟に会いたいと義隆は言って、中に通すように指示を出してから幸綱に「良いよな?」と聞く。



「照平のオジキって、俺よりも年下なのに海道会のカシラ補佐なんですよね? それって凄くないですか?」


「あぁ力量は計り知れないところがある男だ。俺としては、もしかしたら次期若頭もあると思ってる」


「そんなにですか……負けないでくださいよ」



 幸綱が言うように照平は、18歳という若さで海道会の直参というだけじゃなく若頭補佐なのだ。

 もちろん生まれが良かったというのもある。

 それは元々照平が組長を務めている2代目山東会が、先代である初代山東会の時に直参だったというのだ。

 しかし初代が急死したので、実子である照平が2代目を継いで、そのまま直参へと昇格した。


 そんな話をしていると扉がノックされる。

 義隆が「入れ」と言ったところで、扉が開かれて若い男が入ってくるのである。

 秀慶たちは直ぐに、これが照平だと分かった。

 見た目としては明らかにペコペコしている気の弱そうな人間に見えるが、見る目を持っている秀慶と幸綱からしたら腹の奥に逸物をこさえているように見える。



「お疲れ様です、義隆の兄貴……近くまで来たんで寄らせて貰ったんですけど、忙しかったですか?」


「いや、良いんだよ! コイツらはウチの若頭と、その組の組長付きの若い衆だからな。それにしても照平が、ここに来るのは珍しいな?」


「はい、なので寄らせていただきました」



 照平は秀慶たちを見てから、忙しいなら帰ると聞くが義隆が問題ないと言ってソファに座らせる。



「それで最近の山東会は、どうなんだい? 天波会に、ちょっかいをかけられてるんじゃないのか?」


「えぇ何かあるごとに因縁をつけて来て、とてもじゃないですけど大変ですね……実子の吉信も幼い頃から知ってる人間で、俺をオモチャと思ってるみたいです」



 山東会のシマは愛知県にある。

 愛知県の岡崎市から東側が山東会、豊田市から西側に天波会のシマがあるという隣り合わせの状態だ。

 そんなんだから天波会とのイザコザが、毎日のように起きていると照平は苦笑いしながら言う。



「そりゃあ早く天波会を、どうにかしなきゃダメだな」


「しかしウチとしても戦力差がありすぎて、まともに衝突したら、我々の方が不利ですからねぇ」


「そんならワシのとこの兵隊を貸してやろうか? 海道会としても問題になってるわけだし、ここは手を貸しあって上手くやっていこうや」


「それは確かにありがたい話です。しかしウチとしては一本独鈷の組織相手に、そんな事をしたら恥晒しになっちまいます……どうか静観しててもらえませんか?」


「そりゃあ別に問題ないけど、本当に困ったら言ってこいよ? いらない意地を張って死ぬのは、とてもじゃないがつまらないからな」



 義隆は手を貸してやろうかと聞いた。

 しかし照平としては、一本独鈷でやっている組に対して組織を総動員させたとなると恥になると断った。

 確かに理解できると思った義隆は、本当に困った時は恥を捨てて言ってくれと優しさを見せるのである。



「よし! 難しい話は、ここまでにして飲みにでも行くか! 今日はワシの奢りだ、ドンドン飲んで良いぞ!」



 難しい話は終わりにして、外に飲みにいこうと義隆は言ってソファから立ち上がる。

 それを聞いた幸綱は「邪魔者は帰ります」と言って立ち上がるのだが、義隆は「お前たちも来い!」と誘う。

 しかし……と渋るが照平は「是非是非」という。

 親分2人に言われてしまったら断れないので、幸綱も飲み会に参加する事になったのである。

 そのまま日を跨いでからも宴会が続いた。

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