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天を仰いで〜男たちのラプソディ〜  作者: 灰谷 An
第1章・幸綱興業の若い衆 編
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005:ヤクザの身なり

 幸綱興業の上部団体である剛隆会の事務所に行こうとするのだが、この瞬間から組長付きとなった秀慶が車を運転するように言うのである。

 しかし普通ならば車の免許は18歳からしか取れないはずだが、秀慶は中学の時代から無免許運転をしているので運転は得意なのだ。

 そんな秀慶に幸綱は、ニンベン師に頼んで作らせた精巧に作られている運転免許証を渡している。



「オヤジ、事務所に行く前に手土産を買いにいきます? それとも真っ直ぐ行きますか?」


「その前にまずは仕立て屋だ」


「し 仕立て屋ですか? わ 分かりました」



 秀慶は運転をしながら幸綱に、剛隆会の事務所への手土産を買っていくかと質問するのである。

 この質問に幸綱は仕立て屋と答えた。

 幸綱が言うところの仕立て屋とは、高級なスーツとかを売っている店の事なのだ。

 いきなりそこを指定されたので、秀慶は困惑しながらも行き先を近くに仕立て屋にする。


 そして到着して駐車場に停めると、急いでエンジンを切って車を降りると幸綱の方の扉を開ける。

 もちろん頭をぶつけないように、上の部分に手を添えて頭を下げながら降りるのを待つのだ。

 幸綱は降りるとスーツをピシッとさせる。

 身なりが完璧なのを確認してから秀慶に「行くぞ」と言って仕立て屋の中に入っていく。

 するとそこにはヨボヨボのお爺ちゃんがいた。



「充さん、久しぶりです!」


「あらぁ松慕の親分じゃないですかぁ。会うのは久しぶりじゃないですか?」


「えぇ! 本当に久しぶりで、もういつ来たかも忘れちゃってるくらいなんですけどね」



 どうやらお爺ちゃんの名前は充というらしく、さらには幸綱と親しい関係であるというのが分かる。

 少しの談笑をしてから、お爺ちゃんはニコッと笑みを浮かべながら「今日はどうしたんですぅ?」と聞いた。

 すると幸綱はスッと秀吉の方を見るのである。



「このペーペーに、似合うスーツを用意して欲しいんですけど……いけますか?」


「ん? 見ない顔だねぇ、新人さんかい?」


「えぇ新しく入ったんですけど、今日からボディーガード兼組長付きをやってもらう事になりましてね。このジャージ姿では締まらないでしょ? なので、ここは充さんに頼もうと思ったんですよ」



 そう秀慶の格好は上下ジャージである。

 これは部屋住の若い衆が、親分に何を言われても直ぐに動けるようにジャージなのが暗黙の了解だ。

 しかしボディーガードと組長付きの仕事を得た秀慶には、この格好で動くわけにはいかない。

 こんな格好をしたままだったら、秀慶の親分である幸綱が周りから舐められてしまうのだ。



「おぉそういう事ですかい! それなら良いのを用意してやらないといけませんねぇ!」


「いやいや、そこそこので良いですよぉ」


「ちょっと座って待っといて下さいな」



 お爺ちゃんは色々と察して、良いのを用意してあげると言って店の裏に戻っていったのである。

 幸綱はお爺ちゃんの背中を見送る。

 そして店の中にある椅子に幸綱は「ふぅ〜」と言って腰を下ろして座るのである。

 もちろん秀慶は座らずに、横に立って警戒している。


 

「オヤジ、こんな高いところのスーツを買うような金は持ってませんよ?」


「そんなの俺が払うに決まってんだろ! これは子分である秀慶が、昇格したっていうお祝いなんだからな。どこの世界に、祝ってやらない親分がいるってんだ」


「オヤジ……ありがとうございます! これからは、もっと結果を残せるように頑張ります!」



 秀慶は部屋住の若い衆なので、そんなに金を持っているわけじゃない為、どうしたら良いのかと幸綱に聞く。

 すると幸綱は秀慶が昇格した祝いなので、ここは自分が払うと言ってニコッと笑うのである。

 それを見た秀慶は深々と頭を下げて感謝する。

 本当に入って日の浅い秀慶だったが、ヤクザとは何かを毎日のように幸綱から教えて貰っている。

 そしてその恩を返せるように頑張ると誓う。


 そんなやり取りをしていると、そこにお爺ちゃんが2人の前に戻ってくるのである。

 その手にはカッコイイスーツが持たれていた。

 今まではジャージだった秀慶からしたら、目の前に現れたスーツは宝石のようなものだろう。

 ジーッと秀慶が見惚れていると、お爺ちゃんは大きな声で「はっはっはっ!」と笑い始める。

 秀慶は声にビクッとする。



「気に入ったみたいだな!」


「え えぇ! とてもカッコイイです!」


「それは良かったわ。松慕の親分に久しぶりに会えたわけだし、わしからも祝いって事でタダにしてやるわい」



 秀慶が見惚れているのに気がついたお爺ちゃんは、久しぶりに幸綱に会えたしお祝いというわけだからと、このスーツはタダで良いといったのである。

 その発言に秀慶は「え!?」と驚いた上で、チラッと後ろにいる幸綱の方を見る。

 幸綱はお爺ちゃんに「いえいえ払わせて下さい」と言って、懐から財布を取り出そうとするのだ。



「ダメですって! 親分が財布を出したら引っ込めないのは知ってますからね。この代金を取らない代わりと言ってはなんだけど、これから組で出る仕立ては、ウチに任せてもらえませんかねぇ?」


「そういう事でしたかぁ。さすがは充さんですね……分かりました! 今回はお言葉に甘えてタダで貰います。そしてこれから組で出る仕立ては、全て充さんに任せる事にしますね」


「さすがは松慕の親分ですねぇ!」



 今回のお金を貰わない代わりに、これからスーツの手直しなどはお爺ちゃんに任せるという約束になった。

 幸綱は商売上手だとお爺ちゃんと握手をする。

 着替えてくるように言うので、秀慶は試着室に入ってお爺ちゃんが用意してくれたスーツに袖を通す。

 スーツを見ていたよりも着て見た方が、とてつもなくピリッとして全身がゾワゾワするのである。

 これはヤクザになったという実感が湧く。


 着替え終わった秀慶は、カーテンを開けて幸綱にスーツを着た姿を見せるのである。

 すると幸綱はパチパチと拍手をして「似合ってるぞ」という風に言ってくれたのだ。

 秀慶は頭を擦って「えへへへ」と照れている。

 こういうところは年相応に思える。



「それじゃあ準備が整ったところで、早速オヤジのところに向かうとするか」


「了解しました! 直ぐに車を回して来ますので、少々お待ちください!」



 秀慶はスーツを貰ったので、気持ちが軽くなったような感じがして車のところまで猛ダッシュする。

 そして車を運転して店の前につける。

 急いで運転席から降りると、幸綱が乗る方の扉を開けて車に乗って貰うのである。

 扉をゆっくりと閉めてから急いで運転席に回って、剛隆会の事務所に向かって出発する。


 普通に10分くらい運転したら剛隆会に到着する。

 そして今まで通りに扉を開けて幸綱を降ろすと、幸綱は秀慶に「身なりを調えろよ?」と注意する。

 そこまで乱れていないが最終チェックして。

 こういう小さなところを気にするのがヤクザであり、親分に会う時は普段よりも気にするように言われる。

 大切な事を教えて貰ったので秀慶は「分かりました」と顔に力を入れて答えるのである。

 その秀慶を見た幸綱は「よし」と笑った。

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