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天を仰いで〜男たちのラプソディ〜  作者: 灰谷 An
第1章・幸綱興業の若い衆 編
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004:面倒ごと

 秀慶が幸綱から盃を貰って3週間が経った。

 この日は幸綱に頼まれた買い物をしに、商店街までやって来ているのである。

 幸綱は大のお菓子好きだ。

 買い物といっても色々なところの甘味を買いに来ていて、メモにはビッシリと書かれている。

 直ちに買いに行かなければ機嫌が悪くなる。



「えぇと次は角屋の大福……ん? あれは?」



 秀慶がメモを確認しながら歩いていると、目線の先に怪しい動きをしている若い男が2人いる事に気づく。

 感のようなものではあるが何か匂う。

 とりあえず声をかけてみる事にしたのだが、秀慶が近寄った瞬間、ハッとして早歩きで逃げようとした。



「ちょ おい!? マジかよ……ちょっとめんどいな」



 逃げていったので秀慶は、仕方なく猛ダッシュして男たちを追っていくのである。

 思ったよりも足が速くて撒かれそうになったが、何とかギリギリで1人を捕まえて地面に押し付ける。



「お おい! お前、誰だよ!」


「俺か? 俺は幸綱興業の若衆だよ!」


「や ヤクザ!? お 俺が何かしたってんだよ!」


「何もしてないのに、顔見た瞬間に逃げるって何かしたって事だろうがよ!」



 どうやら秀慶がヤクザだと分かって逃げたわけじゃないが、怪しい事をしていたのは話し方からして分かる。

 自分は何もしていないと主張するが、秀慶からしたら何もしていないのに逃げたのは何なのかというわけだ。



「素直に何をしてたのかを話してくれたら、そこまで悪いようにはしねぇからさ」


「そ そんなこと言われたって何もやって……」


「ここで言わないで、何か見つかったとしたら生きては帰れないと思えよ?」


「わ 分かったよ! こ これを売り捌いてたんだよ!」



 秀慶は男に今は隠していて、あとで何をしていたかが分かった場合は生きては帰れないと脅すのである。

 それを聞いた男はゾッと血の気が引くのだ。

 仕方ないと懐に隠していた白い粉の入った透明な袋を秀慶の方に、スッと投げて渡した。



「やっぱり怪しい事してたんじゃねぇか……たく」


「これで見逃してくれるんだよな?」


「おいおい! ウチのシマ内で、薬局をやってて生きて帰れると思ってたのか? ヤクザ舐めんじゃねぇよ!」



 奪った薬を秀慶は自分の懐にしまう。

 それを確認した男は、これで見逃して貰えると安堵をしているのである。

 しかし秀慶はハナから見逃すわけがない。

 そりゃあ自分のシマ内で、薬局をやっていてタダで見逃すわけが無いだろう。

 それに売り子は末端であり、この男の裏に指示役と言われるボスがいるのは確実である。



「ふ ふざけんなよ! 約束と違うだろうが!」


「そんな約束が本気で守られると思ったのか? ウチのシマで薬局やったんだから攫うのは当たり前だろ」



 男が暴れ始めたところで、秀慶は面倒な事になりそうだと思って肘で顔面を叩きつけた。

 この打撃を受けて男は気を失った。

 静かになったので秀慶は「ふぅ……」と溜息を吐いてから「よっこらしょ」と男を背負う。

 そのまま男を背負って事務所まで帰るのである。

 事務所の扉を開ける前に、このままでは挨拶できないと思って男を地面に置いて扉をノックする。

 そして事務所の入り口に立ち「失礼します!」と頭を下げ、男の足を掴んでズルズルと引きずって中に入る。



「ん? 秀慶、その男は誰だ?」


「あっ……オヤジ、これは面倒な事になりまして」


「面倒な事? ソイツを殺しちまったって事か?」


「い いえ、コイツがオヤジのシマ内で薬局を開いていたもんで捕まえて来ました」


「おぉ! やるやん。良くやったぞ、秀慶っ!」



 秀慶は幸綱に薬物を売っていた事を報告する。

 それを聞いた幸綱は立ち上がって「良くやった!」と秀慶の方を向いてニコッと笑いながら褒める。

 今度は敕晁に「連れて吐かせろ」と指示する。

 大きく「へい!」と叫んでから気を失っている男を、背負って別の部屋に数人で入っていく。



「それにしても良くやったな! 少し早いような気もするが、今日から秀慶を護衛兼組長付きとする!」


「え!? そんなに早くですか……それじゃあ兄さんたちの頭を飛び越えるようなもので失礼になるんじゃ」


「言っただろ? この世界は実力主義だ。そんな中で、俺の方が兄貴なのにと言うようなやつに見込みは無い」



 予想していたよりも遥かに、早く幸綱は秀慶を自分の護衛兼組長付きとする事を決めたのだ。

 秀慶としては兄貴分の人間が、かなり居るのに入って浅い自分が、こんな役職に就くのは間違っているのでは無いかと幸綱に進言するのである。

 しかし幸綱は、ヤクザの世界というのは実力主義が鉄の掟であり、それに文句をいう人間ならば底が知れていると言って受けるように言うのだ。



「分かりましたっ! このまま断り続ければ、オヤジに失礼になります……なので引き受けさせて貰います!」


「おぉそうかそうか。さすがは秀慶だ、こういう時に即決できるのは素晴らしい事だ!」


「オヤジっ! これからもよろしくお願いします!」



 これ以上、誘いを断ってしまったら親分である幸綱に失礼になるとして、秀慶は引き受ける事にしたのだ。

 この答えに幸綱は立ち上がるくらい興奮している。

 秀慶の心境としては、ただの若い衆から幸綱の護衛と組長付きという大役になる為グッと責任感が重くなる。


 そして秀慶が連れて来た薬物を売っている男を、敕晁たちが拷問すること2時間で男は死んだ。

 死体の処理を若い衆に任せて、敕晁は手をタオルで拭きながら幸綱たちの前にやってくる。

 仕事終わりなので、若い衆にお茶を入れさせる。



「それで敕晁、どうだったんだ? あのガキから何か引き出す事はできたのか?」


「まぁ聞き出す事はできたんですが、例の天波会のところまでは無理でしたね……」


「そうか、まぁそれは仕方ない。それで薬を売っていた人間の元締めは、どこの誰なんだ?」


「掛川に事務所がある鈴木組ってところみたいです」


「鈴木組って、あの《鈴木 業力(すずき ごうりき)》が一本独鈷でやってる組織だよな?」



 今回の薬物を売り捌いていた元締めが、同じ静岡県の掛川市に事務所を置く鈴木組だと分かった。

 この鈴木組は、どこの枝にもなっていない組織だ。



「あの脳筋な業力が、こんな回りくどいような手段を取るか? 喧嘩を売るにしたって、もっと直線的なやり方をしてくるような感じがするけどな」


「えぇ俺も同感です。あのゴリラ組長が、こんな薬局でゼニを稼ぐとは思えません……やっぱり裏で絵を描いてる人間がいるとしか思えませんね」


「やっぱりそうだよなぁ……面倒だから、今からオヤジのところに行って話をしてくるわ。留守は敕晁に任せるとして、もう組長付きとして秀慶がついて来い!」


「は はい! 分かりました!」



 鈴木組の組長は名前からして、かなりの脳筋として知られていて、こんな回りくどいやり方をするとは考えずらいと幸綱は考えているのである。

 やはりこの業力の裏、というよりも鈴木組のバックには誰かがいる可能性が高いと分かった。

 つまり幸綱たちは、この鈴木組の裏には天波会の実子である吉信がいて、その吉信が海道会にちょっかいをかけて来ていると考えているのだ。


 幸綱は、ここで考えていても仕方ないと思って、この話を幸綱の親分である義隆に伝えようと思った。

 事務所の留守を敕晁に任せるとして、今日から組長付きとなる秀慶に着いて来いというのである。

 秀慶も焦りながら「はい!」と返事をする。

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