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天を仰いで〜男たちのラプソディ〜  作者: 灰谷 An
第1章・幸綱興業の若い衆 編
13/14

013:ようやく

 天波会の会長が死んだ事は秀慶の耳にも入ったが、今はそんな事は関係ない感じである。

 どうしてかというと智和総本部長が目を覚ました。

 それを聞きつけた秀慶は、幸綱興業の事務所を飛び出して猛ダッシュで病院に向かうのである。

 さすがにヤクザが病院内を猛ダッシュするのはダメだと思って、死ぬ気の早歩きで病室まで行った。



「智和の兄貴っ! よ ようやく目を覚ましてくれたんですね……待ってましたよ!」


「おぉ秀慶か、俺の代わりに総本部長代行をやってくれてたんだって? 本当にありがとうな」


「そんなそんなです! 兄貴は、まだ病み上がりなんですから自分の事だけを気にして下さい!」



 秀慶は病室に入ると、ベットの近くまで駆け寄る。

 半年も眠っていたという事もあって、智和総本部長は顔がやつれていたが、何故か元気そうな顔をしている。

 その姿を見た秀慶は安心して目から涙を流す。

 17歳になったというのに恥ずかしいと秀慶が思っていると、智和はポンッと秀慶の頭を撫でる。



「そこまで秀義の年で言ってくれる人間はいないよ……さすがは出世頭と言ったところだな」


「いえ! まだ少しの間しか勉強させて貰っていませんが……それでも兄貴から教わった事がありますから!」


「そこまで言ってくれるのは本当に嬉しいよ。こんなところで、おちおち寝てなんていられないな」



 智和は秀慶の年齢で、そんな風に言える人間はいないと絶賛するのである。

 これは智和から学んだ事だと秀慶は返した。

 それを聞いて、さらに智和はハハハッと笑った。



「それはそうと秀慶に聞きたい事があるんだけどよ。ちょっと聞いても良いか?」


「はい! 何でも聞いて下さい!」


「俺を弾いた人間への返しはしたのか?」



 智和は聞きたい事があると秀慶に言うのである。

 何か聞きたい事があるのかと思いながら秀慶は、何でも聞いて下さいと言って目をキリッとさせる。

 そこで聞かれたのは、自分を弾いた人間に対して返しはしたのかと聞いたのである。

 その言葉を聞いた秀慶は「ん!?」と顔を顰める。


 少しの間が空いてから立ち上がり「す すみません!」と頭を下げて謝罪をする。

 まだ返しはできていないからだ。

 いきなり頭を下げられたので智和は、珍しくアタフタして「い 良いんだよ!」と言った。



「返しは俺の手でしたかったからさ」


「そ そういう事でしたか。でも、まだ弾きを向けた人間については分かってないんです……いま調べて回ってますが、お上の介入もあって手がかりが」


「それなら問題ないよ。それからオヤジに秀慶の方から返しについて、俺に一任して欲しいと伝えて貰える?」



 智和は幸綱に伝言を伝えて欲しいという事があると言って布団から出るのである。

 その内容は自分を弾いた人間への返しは、自分に一任して欲しいという事だった。

 それを聞いた秀慶は少しの間、言葉を失った。

 しかし直ぐに「わ 分かりました! とりあえずオヤジに伝えます……」と尻すぼみになる。



「でも! 絶対に無理だけはしないで下さいよ。兄貴は幸綱興業にとって欠かせない人なんですから」


「あぁ退院してから少しの休養を貰って、その後に返しをするよ……舐められたままじゃあ終わらないからな」



 秀慶は幸綱に伝えるは伝えるが、それでも無理はしないように念を押す。

 それを言われた智和はハハハッと笑った。

 見舞いと少しの談笑を行なえたので、秀慶は長居をしてはいけないとペコッと挨拶してから病室を後にする。


 秀慶は病院を出るまでの廊下の中で、目を覚ましてくれて良かったと泣きそうな感じになっている。

 すると廊下の向こうから敕晁若頭が歩いてくる。

 まさか若頭が個人で来ると思っていなかった秀慶は、廊下の真ん中を開けて頭を下げる。



「おぉ秀慶か。やっぱり1番最初に来たか」


「カシラやオヤジよりも先に来てしまって申し訳ありません……体が勝手に動いていて」


「そんなの気にするなよ。誰が先に来ようが、そんなの関係ないに決まってるだろ?」


「そう言って貰えるとありがたいです……」


「それじゃあ見舞いに行ってくるから」


「はい! 分かりました!」



 敕晁若頭は秀慶が、組の中で1番最初に見舞いに行くだろうと考えていたみたいだ。

 抜け駆けしたような形になったので、秀慶は深々と頭を下げて謝罪するのである。

 しかしそんな事は関係ないと笑い飛ばした許された。

 とりあえず見舞いをしてくるからと、敕晁若頭はニコッと笑って病室へと向かった。


 それを見送った秀慶は事務所に戻り、智和総本部長からの伝言を幸綱に伝えるのである。

 話を聞いた幸綱は「とりあえず分かった」と言う。

 しかし犯人が分からないんじゃあ返しも無いので、幸綱は秀慶に犯人探しを続けるように指示する。

 それは智和総本部長の話に反するのでは無いかと思ったが、親分である幸綱が言うので従うしか無い。



「それでは、とりあえず調べてきます」


「あぁ半年も調べていて出て来ないなら相当、隠れるのが上手い奴だろう。気をつけて調べるようにな」


「はい! そうします!」



 秀慶は智和総本部長の返しが上手くいくように、早く入佐を見つけ出そうと街へ出た。

 警察のように色々なところに聞き込みをする。

 もちろんバーや黒い噂のあるところに行ってだ。

 幸綱が街の人からの評判が良く、そこの総本部長代行だと名乗れば面白いほどに教えてくれる。



「あぁデイビッドって小太りの男なら見た事あるよ」


「知ってるんですか!?」


「いや、そんな詳しく知ってるってわけじゃ無いけど」



 秀慶が捜索していると、ある1人の若い男から入佐を見たという情報を掴む事ができた。

 どうやら若い男は半年前まで、とあるガールズバーでボーイとして働いていたらしく、その働いているガールズバーに入佐がやってきたという。



「そ それはどこの店ですか!」


「店なら、そこの路地を入った突き当たりのところにある店だけど?」


「あ ありがとうございます!」



 秀慶は店の場所を聞いて猛ダッシュで向かう。

 そこにいけば何かしらの情報が転がっているかもしれないと思ったからである。

 扉をガチャッと開けて店の中に入る。

 するとそこには比較的面長で切れ長の目をしており、口元には髭を蓄えた力強そうな男が立っていた。



「あ アンタは……店の人じゃないよな? それに風体からして同業者………いや、かなり役職の高い人だ」


「おぉ姿を見ただけで、そこまで見当がつくなんて見る目がある坊主じゃねぇか」


「それにしても、ここら辺じゃあ見た事ない。一体どこの誰だ?」


「ワシか? そうだなぁ、素直に話してもええけど……それじゃあ面白うにゃーよな」



 秀慶は見た目からして男が同業者であり、しかも格の高い人間であると察するのである。

 その言葉に男は、頭に響くハッハッハッという笑い声を上げながら見る目があると褒める。

 自分の名前を言っても良いが、それじゃあ面白くないと言って、男は何かを言おうとしている。



「ワシにタイマンで勝ったら教えてやるがね」


「脳筋なのかよ……最近ケンカもしてないし、その話に乗ってやっても良いが、お前に得ねぇだろ?」


「ワシにメリットがにゃーわな。それじゃあワシが勝ったら、ワシの舎弟になって貰おうじゃねぇか!」



 男とタイマンをして秀慶が勝ったら、自分の正体を明かしてやると言うのである。

 秀慶は見た目に反さず脳筋なのかと溜息を吐く。

 最近は喧嘩をしていないので乗ってやる事にした。

 しかし秀慶は、男がタイマンをやるメリットが無いだろうと言うと、男は自分が勝ったら舎弟になって貰うと言ってきたのである。

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