アプローチ開始?
途中にあるコンビニエンスストアでのり弁を買い、数分歩いて広場に着いた。辺りを見渡すと奥のベンチに丹治さんの姿が見える。ここまで来てなんだが俺のしていることはストーカーじみているのでは、
ソワソワしながら様子を伺っていると丹治さんが俺に気が付いたようだ。ぎこちなくこちらに手を振り、ベンチの端に寄った。俺はちょっと申し訳ない気持ちで彼女の隣に座った。
「珍しいですね、春木さんがここに来るなんて」
「あはは、前から行ってみたいなって思ってたんですよね、、、」
「へ~そうなんですね」
丹治さんすみません。会話は弾むことなく2人並んで黙々と食事を取った。海苔が千切れずベロンとめくれ、そのまま口に放り込んだ。何か話さなければ、とりあえず趣味か、無難に仕事の話か。麻衣に予め好きなものでも聞いておくんだったな。そんなことを考えているうちに口を開いたのは彼女からだった。
「あの~変なこと言ってもいいですか」
「はい?」
「信じてもらえないのは分かってるんです。でも、嘘は一つもついていないので聞いてください。えっと、、、私たち、未来では結婚してるみたいなんです。」
「はい???」
ミライ?ケッコン?思いもよらない言葉に上手く変換ができなかった。
「ごめんなさい、聞かなかったことに」
「いや、話してください!多分、僕なら理解できるかと」
彼女はセリフの意味が解らず目を丸くさせた。俺はあったこと全てを語り、そこから昼休憩が終わるギリギリまで互いにあったことを話した。
「こんにちは、東京時空警察の安藤です。丹治麻衣さんの担当をさせて頂いています。春木悠斗さんでお間違いなかったでしょうか」
「は、はい」
丹治さんのスマホの画面の中に映る細身の警察官、安藤がタブレットをいじりながら話す。彼女は昨夜帰宅すると知らない番号から電話があったそうだ。その電話相手が時空警察である安藤で、彼から俺が麻衣から受けたものとほぼ同じ説明があり、夜も遅いので一旦電話は終わったとのことだった。ちょうど俺に話しているタイミングで再び電話がかかってきたというわけだ。安藤の背後には様々な情景が流れるモニターと、サイズの異なるボタンが並んでいる。近未来的で実験ラボや宇宙船内を想起させる部屋だった。
「今回の事件の概要をお話しさせていただきますね。くれぐれも守秘義務でお願いします。」
「わかりました」
「西暦2025年1月17日、つまり昨日ですね。東京時空警察、略して時警の方から麻衣さんにお電話させて頂きました。時空犯罪の被害者である可能性が高かったからです。しかもかなり複雑な犯罪にね。間接的に悠斗さん、あなたも巻き込まれてしまっています。あなた達は本来ね、3か月後に付き合うんです。そしてそのまま結婚。これは事実で僕たちの手元にある時空調査書にも記録は残っていました。」
安藤は通帳のような手帳を開いて見せた。確かに2027年結婚と記載されている。
「この時空調査書は特殊なものでね、あなた達の遺伝情報をもとに作られているんです。なので、絶対にここに書かれていることは変わることがない、何があっても。人生は全て遺伝子に刻まれていますから。ですが、未来のあなた達は結婚していないことになっている、そして付き合った事実すら残っていない。このような事態は極めて稀なんですよ。遺伝子の情報と言っても重複したり、一部だけ抜けてしまうことはたまにあるんです。でも重要な要素は抜けないようになっている。抜けてしまっている人はそもそも早く死にますから。あなた達はそういったことはありません。」
少しホッとした、早死にはしないわけか。
「私たちも解決のためすでに2回あなた達が結婚するように裏で手をまわしました。あ、別に悪いことじゃないですよ、憲法にも健康で文化的で遺伝子通りの生活を営む権利を有するとありますし。それを守るのが私たちの使命です。」
丹治さんはなんとも言えない顔をしていた。それはそうだ、隣にいる男が未来の旦那であり、変わることがない確定事項なのだから。
「あなた達は結婚するところまで2回ともいくんですよ。だが未来に変化はない。こんなことはあり得ない。」
「あ、春木さんそろそろ仕事、、、」
「では、仕事が終わり次第連絡を」
安藤はそう告げて、電話を切ってしまった。通話履歴には何も残っていない。俺は丹治さんと仕事終わり会う約束をしてその場を後にした。