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タイムリープ・マリッジ  作者: 夢見遥
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10年後の元妻

 俺の名前は春木悠斗。今年で25歳の平凡な会社員だ。小さなころから特に秀でているものもなく、かといって大きな欠点があるわけでもない、至って普通の人生。だが、そんな俺にもある日事件は起きた。


 いつも通り仕事を終え帰宅し、部屋の明かりをつけた。


「えっ!誰⁈」


 部屋の真ん中に女がいたのだ。腰が抜けて立てなくなっている俺を大きな黒目で見下ろしている。泥棒か、いや、ストーカーもあり得る。こんな非常時でも意外と頭は冷静だ。拍動が早くなっていく。女はニヤニヤと笑みを浮かべ、口を開いた。


「やっぱり若いわね~、そんなにびっくりしないで。名乗り遅れました、麻衣です。あなたの元妻。」


 何を言っているのだこの女は。元妻?俺は結婚すらしていない。それどころか彼女すらいない。明らかに不審者である。


「あ、あの、人違いかと。」

「そんなはずないわ、だって若いころの悠斗にそっくりだもの。」


 なぜ名前を知っている、やはりストーカーか、ここはまず警察に連絡するのが正解だな。頭の中でそう考えるが驚きと緊張で身動きが取れない。そんな俺を放って、自称元妻はリビングにあるソファに腰を下ろした。


「悠斗君、とりあえず落ち着いて、こっちへ」


 口の中は乾いてねばついている。手に握る汗をサッとズボンで拭って、女の前に立った。尻餅をついたのか尻が痛い。自分の家で何をやっているのだ、そんな思いが痛みと合わさって少しイライラし、うわずった声を出す。


「あなた一体何者ですか!け、警察呼びますから、出て行ってくださいよ!」


 女はガチャガチャとバッグの中をいじる手を止め顔をあげた。


「私の名前は春木麻衣。まあ今は旧名で丹治だけど。」


 丹治麻衣。そこで俺はピンときた。俺と同じ部署の丹治麻衣だ。たしかにロングの髪は顎下で揃えられ、多少今より大人びているが落ち着いてみると目の前にいるのは丹治麻衣である。俺の顔色が変わったのが分かったのだろう、


「そうよ、あなたと同じ部署で働いてた。10年も前の話だけどね。」

「10年前?さっきから何を言ってるのか」


 そこから丹治麻衣は俺の誕生日、家族構成、高校時代の部活動を言い当てた。確かにこの情報は彼女には話したことがない。だが、同僚や他の人に聞いた線も捨てきれない。騙されてはなるまいと、気を張っていたがここからが凄かった。俺がミライプロミス(略してミラプロ)の桃乃あいり推しであること、幼稚園の頃家族で行ったディズニーランドで迷子になったこと、尻にほくろがあることまで的中させたのだ。流石に恥ずかしくなったのでここで終わらせた。


「ほらわかったでしょ、私が元妻だってことを。」

「たしかに全部あっていますけど。でも、さっきから”元”妻って何なんですか。」

「それが今回の本題よ、これを見て頂戴。」


 そういって横に置いていたバッグの中から取り出したのはワイヤレスイヤホンだった。しぶしぶ受け取り、耳にはめる。接続音のような音が流れ、その後に続いて丹治麻衣の声が流れ出した。彼女は眉間にしわを寄せ俺を見る。不覚にもドキッとしてしまった。


「あー、2025年にはないんだっけ。目つぶって。」


 早く、と急かされ目を閉じる。驚くことに瞼の裏に画像が映し出された。脳波をコントロールしてるのよ、すぐ近くで丹治麻衣の声が聞こえる。10年後から来たというのは本当かもしれない。映っているのは写真で、いわゆるウエディングフォトというやつだ。純白のドレスを着ているのは丹治麻衣、その隣で満面の笑顔を浮かべているのが俺ということか。確かに俺だ。なんだかおかしな気分だ。


ー2025年の夏に私たちは付き合い始めるの、そこから約1年4か月の交際を経て結婚。


 瞼の裏に旅行先、俺の家、結婚式での写真が流れた。そこに映るのが俺でなければ違和感はない、どの写真もいい笑顔で幸せそうに見えた。


ーでもここからが問題よ、これらの写真はあなたと私がちゃんと付き合えた場合の話。でも実際はこうもうまくいってないのよ、次はこの写真を見て。


 今度は俺と丹治麻衣がそれぞれの家で一人寂しく食事をしている写真だった。まあ今の俺と何ら変わりはないのだが。


ーこれは私たちが付き合えなかった時の場合。今回私があなたに会いに来たのは、あなたとこの私、丹治麻衣を付き合わせるため。


 いやちょっと待て、と俺は見開いた。目の前で困り顔の丹治麻衣がため息をついている。手にはミラプロのペンライト、どこから出してきたのだと聞きたいが今はそれどころではない。


「付き合わせるって何をおかしなことを、第一彼女とは喋るような仲じゃないし、そもそもあなたは今結婚していない未来にいるんですよね?意味が解らない。」

「説明不足だったわ、ごめんなさい。でも結婚していたことは嘘じゃないの、多分だけど、、、」

「多分って、、、」


 彼女が言うには、ある日突然アルバムが届いたという。その中には俺との沢山のツーショットがあったそうだ。初めは合成写真だと疑ったようだ。だが写真を最後まで見終えると、俺と結婚し、一緒に暮らしていた記憶が頭に流れてきたというのだ。彼女はそういうわけ、と話を終えた。わかってくれるでしょとでも言わんばかりにこちらを見ている。そんなことを聞いても俺は、じゃあ、麻衣さん(現代の)と付き合って結婚しよ~!となるほど馬鹿ではない。


「話は分かりましたが、無理ですよ。そもそもなんでアルバムを見るまで記憶がないんです?記憶違いということもあるかもしれない。頭を打ったんじゃないんですか?」

「でもアルバムの最後のページにこれが」


 彼女の小さな手に握られていたのは、小粒のダイヤが付いた指輪だった。彼女の手から取り、内側を見るとY&Mと刻まれている。結婚指輪だろう。イニシャルは悠斗&麻衣ということか。


「10年後の私とあなたは結婚していないことになってる、でも全部思い出したの。あなたとまた夫婦として暮らしたいの。」


 まっすぐ俺を見つめる目は少し涙ぐんでいた。唇が震えている。対して俺は、生まれて初めてのプロポーズ?にウとエの間のような情けない声を出してしまった。そのまま黙っていると、しびれを切らしたのだろう。彼女は勢いよく立ち上がったと思えば俺に馬乗りになり、胸倉を掴んだ。


「あんた、まんざらでもないくせになに黙り込んでんのよ!桃乃あいり似なんだから悩む必要なんてないでしょ!」


 こういうわけで俺は元妻と協力して、同じ部署の丹治麻衣にアプローチすることになった。












 


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