第八十九話 普遍的な権力
短いっす
早朝、ルーナと誰かが言い争う声で目をさます。
「ですので!我々は怪しい者ではございません!!」
「貴族のものにしては馬車や服装がみすぼらしいではないか、貴様ら賊ではないのか?」
どうやら街の衛兵に止められているらしい。どうしたものかと思案する。コゼットに弁解してもらうという手もあるが、今のコゼットの服装はお世辞にも貴族の令嬢とは言えない。服は所々破れているし、先頭の余波で飛び散った賊の血によって汚れている。これでは、賊と間違われても文句は言えないだろう。リイと俺が出張って強引に突破する、という考えが一瞬脳裏をよぎったが論外だ。.....しょうがない、コゼットの権力に頼れないのならもう一つの権力へと頼ることにする。そうして、俺はルーナと衛兵の方へと向かい、言い争うルーナと衛兵の間に割って入る。
「私どもは決して怪しいものではございません」
「であれば、それを証明してみせよ」
「それは、現状大変難しいです。ところで、話は変わりますが先ほど落とし物を拾いまして、衛兵殿に中を検めていただきたいのですが」
と、言いながら俺は皮袋を彼へと手渡す。
「........ふむ、これは私が責任を持って預かろう。それでは貴族様御一行、ジョスイの街へようこそ」
「賄賂....ですか」
ルーナは俺を信じられないという目で見る。
「ええ」
やはり、貴族階級やそれに近い層の人間は俺たちとは根本的に異なる文化にいるらしい。俺はあえて、なんてことないといった物言いを貫く。この先も、このようなことは何度も起こるだろう。その度に、何か言われていたら時間を食う。
「では、ルーナさん、引き続きよろしくお願いいたします」
「......承知しました」
「さすがです」
リイの小声での賞賛が、かえって俺がこの時代に染まりつつあることを浮き彫りにした。