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第八十八話 三人と一頭

リイ視点すね

私の名はリイ。この世界で獣狩りという職に就く獣人です。私の心は常に人間としての理性と獣としての本能の板挟みにあります。普段は、官吏時代の丁寧な言葉遣いを心がけることでその本能を抑え込んでいます。しかし、つい先日アントニオという富豪と相対したことで、私のその理性が砂上の楼閣でしかないということを痛感させられました。普段の私であれば、彼を殺害してしまったとしても、自身の獣性への絶望しつつも「しょうがない」と諦め、さっさと別の地方へ移住していたでしょう。今まで、何度か同じ過ちを犯した際はそうしました。しかし、今回はそうはいきません。この話の鍵となるのは、【主人公】という不思議な青年です。知り合って数日しか経たない彼と私はとある盟約を結んでいました。それは「彼が故郷に帰還するために手を貸す代わりに、彼はその間、私の社会性を補う」という契約です。彼は、この契約をアントニオや盗品屋の店主との交渉で立派に履行してくださいました。しかし、私はといえば、盗品屋との交渉では不当な扱いに甘んじ、アントニオとの交渉の席では激昂し、彼を殺害してしまいました。彼と私が今、逃避行という苦難の状況にある責任の大半は私にあります。そのような状況にあっても、彼は私を決して責めず、罪を共に背負う覚悟をしてくださいました。どこか、かつての友人である袁傪を思わせる彼は、非常に強力で唯一無二の切り札を持って入るものの、この時代の獣狩りにはない「甘さ」とも言える「優しさ」を持っています。彼は、人を殺すことに強い葛藤を覚えます。しかし、彼の理想や目的を果たすためには殺人は不可欠な要素です。であれば私は、彼の理想のために彼が被るべき血さえも被ります。それが、彼の尽力に対する責任です。そして、なぜ、このように長々と思索に耽っているかというと、今の私の状況にあります。空き家にて、貴族のご令嬢であるコゼットさん一行の護衛という依頼を受けた私たちですが、現在は彼女らの馬車を使って移動しています。ここまでは私が馬を操っていましたが、コゼットさんの従者であるルーナさんという方に御者を代わっていただいております。それは、私の容姿を考慮してのことでしょう。獣人が御者を務める馬車など、賊と間違われても文句は言えません。そんな私は現在馬車の座席に揺られています。【主人公】さんとコゼットさんは休息のために仮眠をとっておられます。私は、周囲を警戒すべく仮眠は取りません。現在は、目的地と空き家の途上にある、ジョスイの街という場所へと向かっています。汝水.....奇しくも私が虎と化した地を彷彿とさせる地名。何の因果でしょうか。ただ、それを拒むことはできません。いつの日か私は自身の運命と再び対峙することになるでしょう。願わくは、それは彼が無事に故郷に帰り着いてからであるようにと、柄にもなく神へと祈りでも捧げてみましょうか。.......おや、ジョスイの街に到着したようです。何やら揉めている様子ですが、私ができることはありません。そういった問題は、私の相棒が解決してくれるでしょう。

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