第八十四話 血のついた外套
そうして、翌日の正午。行商人が戸を叩く音で目がさめる。
「俺が出ます」
「よろしくお願いいたします」
戸を開けると、そこにいたのは目つきの悪い二人組の剣士らしき男たちと恰幅の良いいかにもな商人であった。
「初めまして、私、この付近で行商を営んでおります、サカイと申します。こちらの二人は私の護衛として雇用しております獣狩りにございます」
しかし、彼の目にも俺という若造の獣狩りを蔑む心が映っていた。
「俺は【主人公】といいます」
「さて、本日は何をお求めで?」
俺が欲しいのは当面の食糧と、アントニオの血で汚れてしまったリイの外套の代えだ。
「干し肉と大きな外套はありますか?」
「ええ、干し肉ならば豊富に、外套も大きめのサイズまで幅広く」
「では、干し肉を二人で一週間分ほどと、外套は....相棒が着るものなので。リイさん、ちょっといいですか?」
俺の呼びかけにリイはヌッと顔をだす
「どうなさいましたか?」
そうして現れた全長2mほどの巨大な獣人を前に商人と獣狩りは腰を抜かす。顔こそ隠しているもののその体格は人間慣れしている。特に獣狩りの方はリイの纒う闘気に恐れ慄いている。
「彼に合うサイズのものでフード付きのものはありますか?」
「が、外套は....彼ほどの体格ともなると、申し訳ございませんが」
「では、干し肉だけお願いします。それと一つ伺いたいのですか」
「ショウオの街について何かご存知ですか?」
「ええ、私自身はあまり立ち寄りませんけども、なんでも最近、そこの有力者が殺されたとかで、遺族がその犯人に懸賞金をかけたとか、まあ、それ以上のことは知らないのですがね」
「.....物騒な話ですね」
「ええ、本当に」
「では、ありがとうございました」
サカイ一行を見送った後、俺たちは向き直る。
「......これは結構やばいですね」
「ええ、懸賞金...ですか」
「幸いなのは、あの男が街の顔役止まりだったということですね」
「ええ、この地方さえ離れてしまえば危機は去るでしょう。しかし、あの獣狩りの二人、どこかで見たことがあるような......」
「もしかして、知り合いとかですか?」
「申し訳ありませんが、そこまでは......ただ、妙な胸騒ぎがします。用心をするに越したことはないでしょう」
俺たちは胸に一抹の不安を抱えながら、念の為、荷物をまとめる。
3章からはところどころにこういったに日常回みたいなものを挟んでいければと思います