第八十二話 世界の車窓から
「......これで、方針は決まりました」
「ええ」
「ところで、【主人公】さん。仮に彼らを見つけたとして、彼らだと判断する手段はあるのですか?」
「ええ、片割れである【剣豪】の顔を見たことがあります」
「なるほど、では目的地に着くまで数日かかるようですし、しばし休息をとり英気を養いましょう」
「そうしましょう」
そうして、車窓から景色を眺める。美しい川が俺たちのすぐそばを流れている。遠くに方には手付かずの自然を象徴するかのように荒々しい山が連なっている。かつて、仲間たちと湯治をすべくセウントへと向かった旅路を思い出す。俺はここにきてやっと三百年前という遥か遠い場所に来てしまったのだと認識した、意識的に凪ぐように仕向けていた心は波風を立て始める。そんな俺を見てなのかリイはポツリと呟く
「.....国破れて山河あり」
「......?」
「これは人の営みの儚さを象徴する詩です。国が滅んでも何百年経とうとも、この山や川はこの地に残り続けます」
「.....つまり、どういうことですか?」
「三百年後などと言っても、我々がいる今と地続きなのです。道が続いている限り、辿り着けないなどということはないのです」
「リイさん........ありがとうございます」
「はて、なんのことでしょうか?.....さて、私は少し疲れてしまったので、仮眠をとらせていただきます。敵襲などがあれば遠慮されることなく起こしてください」
そう言うとリイはわざとらしく寝息を立て始める。今度は、車窓から見える景色がなんでもないように見えた。