第六十九話 合理的な盟約
俺は女郎蜘蛛迷宮に入ってからのことやこれまでの経緯をかいつまんでリイへと話した。俺の力については話すことを避けたが。
リイはしばらく思案したのちにこう言った。
「まあ、そういったこともございますか」
「結構サラッと流すんですね」
「ええ、先ほども申し上げた通り、理解できないことを理解する必要はありません。実を言うと私も、あなたと同じ「異邦人」なのです。私は突然虎になった。あなたは過去の時代へと迷い込んだ。物事の結果さえわかっていれば行動や思索の種としてはそれで十分です」
リイのこの話を俺は自分でも驚くほど素直に受け入れた。俺はどこかでこれを予想していたのだろうか。
そんな俺の反応を見たリイはまた口をひらく。
「しかし、少々不気味ですね」
「何がですか?」
「あなたが見たという「悪魔のような男」です」
「私も前の世界での死に際に同じような男を見ました。まあ、姿形はただの猟師でしたがね」
「確かに....何か得体の知れない力が俺たちに働きかけているように思います」
「無理に考える必要はありません。そのような回りくどいことをしてるような者が考えもなしにこんなことをするわけがない。いずれ、何らかの形で私たちに接触してくるでしょう。その時に真意を尋ねるのです。暴力的な手段に出ることも視野に入れて」
「なるほど」
「あなたは見たところ、元の仲間の元へ帰りたい、違いますか?」
「リイさんのおっしゃる通りです」
「であれば助力致します」
「この状況をあなたが元の時代へと帰ることで振り出しに戻す。それは黒幕の最も嫌うことでしょう。なんらかの接触をしてくるでしょう」
「なんとお礼を言ったら良いか......」
「ただし、まずは目先のことです。それと戦うにしろ原因を探すにしろ、先立つものは不可欠です。私はこの見た目ですので、働き口が少なくてですね、あなたという普通の人間がいればいくらか動きやすくなるかと思います。それに、あなたも腕が立つようですしね」
「はい!!」
「契約成立ですね。それで早速、一つ頼みを聞いていただけませんか?」